法定福利費とは?福利厚生費との違いや計算のやり方、建設業界での扱いも解説
監修者 : 田中卓也(田中卓也税理士事務所)
法定福利費は、従業員を雇用している事業主が負担しなければならない費用です。福利厚生費と似ていますが、費用負担が義務か、任意かという大きな違いがあります。また、特に建設業界では、見積書に法定福利費の内訳を記載しなければなりません。
ここでは、法定福利費の種類や計算方法、建設業界において法定福利費を含めた見積書を作成する方法などについて解説します。
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目次
法定福利費は、事業者に義務付けられている保険料のこと
法定福利費は、従業員を雇っている事業者に負担が義務付けられている保険料などのことです。法定福利費は福利厚生費の一種ですが、事業者が任意で負担するかどうかを決めることはできません。必ず負担しなければならないと法律や法令で定められています。
福利厚生費との違い
法定福利費と福利厚生費には、事業主の負担が義務付けられているか否かという違いがあります。
福利厚生費とは、事業主が従業員のために支出する給与以外のお金のことです。例えば、通勤手当や健康診断費用、社宅の提供、残業時の食事代などが該当します。
仕訳をする際には、それぞれ「法定福利費」「福利厚生費」と分けて記帳します。法定福利費は事業主に義務付けられているもの、福利厚生費は事業主が任意で提供しているものです。
法定福利費の対象となる保険等の種類
法定福利費は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)や労働保険(雇用保険、労災)などが含まれます。
法定福利費は、全額事業主負担の労災保険をのぞき、事業主負担と従業員負担分があります。従業員負担分は、給料支払い時などに天引きして、事業主負担分と従業員負担分をまとめて支払います。事業主負担分は、法定福利費として経費に計上できます。
法定福利費には、全部で6つの種類があります。それぞれの特徴についてご説明します。
厚生年金保険
厚生年金保険は、従業員の老後に備えるための保険です。フルタイムの会社員、または下記の要件を満たす短時間労働者が加入します。
【厚生年金保険の加入対象となる労働者】
- 1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数がフルタイム従業員の4分の3以上の従業員
上記に加え、下記の要件をすべて満たすパート、アルバイト従業員も厚生年金保険に加入する必要があります。
【厚生年金保険の加入対象となる短時間労働者】
- 常時500人以上を超える事業所(2022年10月からは100人を超える事業所)で働いている
- 1週間あたりの所定労働時間が20時間以上
- 1年以上継続して雇用される見込みである(2022年10月からは2か月を超えて雇用される見込みである)
- 月々の給与が8万8,000円以上(通勤手当や精皆勤手当、残業の割増賃金等を除く)
- 学生以外
厚生年金保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担します。
健康保険
健康保険は、従業員の病気やケガに備えるための保険です。病院にかかった際などの医療費負担を軽減できる他、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金や、医療費が高額になった際の高額療養費制度などもあります。
健康保険の加入者は、原則として厚生年金保険加入者と同一です。健康保険料は、事業主と従業員が半分ずつ負担します。
介護保険
介護保険は、健康保険に加入している従業員のうち、40歳以上の方が加入する保険です。主に、老後を迎えた方の介護を支えるためにあります。
ただし、40歳から64歳の方でも、初老期痴呆や脳血管疾患等の老化による病気が原因で要支援・要介護状態になった場合は、介護サービスにかかる費用の一部を受給できます。
雇用保険
雇用保険は、従業員の失業などに備えるための保険です。「失業手当」とも呼ばれる基本手当の他、再就職手当や教育訓練給付などの給付が受けられます。加入対象者は、1週間に20時間以上働き、31日以上継続して雇用される見込みの従業員です。
雇用保険料は、事業主と従業員で事業の種類ごとで負担割合に応じた割合を負担します。
労災保険
労災保険は、従業員が仕事に起因する病気やケガをした際に、療養費などを受け取れる保険です。すべての従業員が対象の保険で、雇用保険と合わせて「労働保険」とも呼ばれます。
労災保険料は事業主が全額を負担します。
子ども・子育て拠出金
子ども・子育て拠出金は、子育て支援のために必要な財源確保のために設けられた拠出金です。従業員が加入したり、保険料を負担したりする必要はありません。厚生年金保険の被保険者である従業員を雇用している事業主が、拠出金の全額を負担します。
法定福利費はどうやって計算する?
法定福利費は、種類によって計算方法が異なります。事業主が負担する法定福利費と、従業員負担分の社会保険料の計算方法をまとめました。
なお、主に中小企業が加入する「協会けんぽ」と、大企業単体あるいは同業種の企業などが集まって独自に設立する「組合健保」がありますが、ここでは協会けんぽの料率でご説明します。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、賃金額の平均から算出する「標準報酬月額」の18.3%で、従業員と事業主が9.15%ずつ負担します。標準報酬月額は金額によって、1等級から32等級までに分けられています。
この標準報酬月額は、厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料の計算をする際に利用する数字です。毎年4月、5月、6月の3か月の賃金を平均して、区分に当てはめることで求めます。これを「定時決定」と呼びます。
ただし、昇給や減給などで固定的な賃金の変動があり、標準報酬月額の等級が2等級以上変わった場合は「随時改定」を行って標準報酬月額の見直しをしなければいけません。法定福利費や、従業員から徴収する社会保険料に関わりますから、随時改定や定時決定を正しく行いましょう。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、標準報酬月額に健康保険組合が定めた料率を掛けて求めます。従業員と事業主の負担割合は折半です。
一例として、協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入している東京の企業の従業員の場合、2022年4月納付分からの保険料率は、介護保険第2号被保険者に該当しない場合9.81%、介護保険第2号被保険者に該当する場合11.45%です。これを従業員と事業主が半額ずつ支払います。
なお、介護保険は65歳以上の方を第1号被保険者とし、40歳から64歳までの医療保険加入者を第2号被保険者としていますので、給与所得者で「介護保険第2号被保険者かどうか」といった場合、40歳以降か、39歳以下かで判断すればいいでしょう。
なお、協会けんぽでは事業所の所在地によって保険料率が変わりますが、企業独自の健康保険組合や、同業種が集まって作っている健康保険組合では、それぞれ独自に保険料率を設定しています。常に事業所の所在地が保険料率に関係するとは限りません。加入している健康保険組合の規定に従って、保険料の徴収と法定福利費の納付を行いましょう。
介護保険料の計算方法
介護保険料は、標準報酬月額に健康保険組合が定めた料率を掛けて算出します。従業員と事業主が折半して負担します。
一例として、協会けんぽに加入している東京の企業の2022年度の介護保険料率は、1.64%です。これを従業員と事業主が半額ずつ負担します。
上記ですでにご説明したように、介護保険第2号被保険者に該当しない場合9.81%、これに介護保険料率1.64%を加算すると、ちょうど介護保険第2号被保険者に該当する場合、11.45%になることがわかるでしょう。
雇用保険料の計算方法
雇用保険料の保険料率は、事業内容によって異なります。事業主と従業員が双方負担しますが、負担割合は事業主の方が大きくなっています。
■2022年度の雇用保険料率(2022年10月1日~2023年3月31日)
- 【参考】
- 厚生労働省「令和4年度雇用保険料率のご案内」
労災保険料の計算方法
労災保険料の保険料率は事業内容に応じて細かく定められていて、賃金総額の0.3~8.8%です。
従業員負担分はなく、全額を法定福利費として事業主が負担します。なお、労災保険料と雇用保険料は、まとめて1年分を納付します。保険料も、年間の賃金に保険料率を掛けて求めるため、月々の給与計算時に算出する必要はありません。
子ども・子育て拠出金の計算方法
子ども・子育て拠出金は、全額を事業主が負担します。従業員負担はありません。計算方法は、各従業員の標準報酬月額または標準賞与額の0.36%の金額です。
毎月の給与や賞与の際に徴収する厚生年金保険料とまとめて、事業主負担分を納付します。
法定福利費の仕訳方法
企業が法定福利費を従業員の給与から徴収した際や支払った際は、帳簿に仕訳をしなくてはなりません。法定福利費の仕訳方法をご紹介します。
ただし、ここでは給与の支払いや法定福利費を納付したとき設例を簡略化するために、普通預金から支払ったものとします。
従業員の給与から法定福利費を天引きしたとき
給与25万円の従業員から4万円の法定福利費を徴収した場合、給与額25万円のうち、21万円を普通預金から従業員に支払い、4万円の社会保険料を預かっていることになります。
社会保険料の天引きは、あくまでも従業員から預かって代わりに払うわけですから、「預り金」扱いとなります。仕訳の例は下記のとおりです。
【仕訳例:給与25万円の従業員から4万円の法定福利費を徴収した場合】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
給与手当等 | 250,000円 | 普通預金 | 210,000円 |
預り金 | 40,000円 |
法定福利費を納付したとき
事業主負担分の社会保険料と従業員から預かった社会保険料を納付した際の仕訳の例は、下記のとおりです。事業主負担分の法定福利費と、従業員から預かった社会保険料は、まとめて普通預金から支出します。
【仕訳例:事業主負担分の社会保険料と従業員から預かった社会保険料を納付する場合】
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
法定福利費 | 40,000円 | 普通預金 | 80,000円 |
預り金 | 40,000円 |
なお、雇用保険料と労災保険料は、年間の賃金が確定してから1年分をまとめて納付します。事前に見込み額を納めておいて、差額を清算する「年度更新」を行いましょう。見込み額を納付する際の従業員負担分相当額は「立替金」、事業主負担分相当額は「前払費用」で計上します。
建設業界における法定福利費と見積書の作り方
建設業界では、下請け企業がクライアントに対して事業主負担分の社会保険料を請求するように、社会保険未加入対策推進協議会が呼び掛けています。国土交通省が「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」を公開していますから、見積書を作成する際の参考にしましょう。
見積書に記載する福利厚生費は、厚生年金保険、健康保険、介護保険、雇用保険、子ども・子育て拠出金の事業主負担分についてで、従業員負担分については計上しません。見積書の具体的な作成手順は下記のとおりです。
1.労務費を算出する
計上する福利厚生費を求めるためには、まず、工事ごとにかかる労務費を算出しなければいけません。労務費とは人件費に含まれるもののひとつで、製造に直接かかわる人に対する給与や賞与のことをいいます。労務費の算出方法は複数あります。
例えば、ある作業の歩掛(その作業に必要な労働力を数値化したもの)が0.5人工だとすると、この作業を100か所行う場合の人工は0.5×100=50人工です。1人の平均日額が2万円だとすると、労務費は2万円×50人工=100万円です。
また、ある作業について必要な人工が何人で、平均日額がいくらなのかをもとに労務費を算出することもできます。作業Aに10人工必要で平均日額が1万5,000円なら、労務費は15万円です。
2.法定福利費の算出する
法定福利費は、一般的に労務費を賃金とみなして算出します。厚生年金保険、健康保険、介護保、雇用保険険、子ども・子育て拠出金、それぞれの保険料の事業主負担割合を労務費に掛けて、法定福利費を算出します。
3.法定福利費を見積書へ記載する
計算した法定福利費と、計算根拠を見積書に記載します。見積書には、材料費や労務費、経費を記載した後に、別途欄を設けて法定福利費を明示します。なお、通常の労務費には法定福利費を含めないため、「労務費(法定福利費を除く)」と記載しておきましょう。
法定福利費の表には「法定福利費事業主負担額」などと、該当の法定福利費が事業主負担分であることを明記します。そのうえで、各保険料の対象となる労務費の金額、事業主負担割合、法定福利費の金額を記載し、最後に合計額を明記します。
その後、工事代金と法定福利費を合計して「小計」に記入し、全額に消費税を掛けます。このとき、法定福利費に対しても消費税がかかる点に注意が必要です。
この点について通常、給与や賞与、自社従業員等のために支払う法定福利費については、消費税法上不課税取引とされています。しかしながら、下請け企業がクライアントに対して「見積書を作成する」という行為を、クライアント側から見た場合、外注費、つまり「事業者が事業として行う取引」に該当するため、消費税法上、課税取引となるのです。ですから、法定福利費を含む全額が消費税の対象となります。
この場合の法定福利費は、実際にはクライアント側が年金事務所等に対して直接納付するわけではないので、「法定福利費相当額」と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
法定福利費の計算を正しく行うにはシステムを活用しよう
法定福利費の計算や納付、従業員からの社会保険料の徴収は、間違いのないように行わなければいけません。一つひとつ手計算をしているとミスの元ですから、システムの導入を検討しましょう。
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photo:PIXTA