月額変更届とは?書き方や提出方法、随時改定・定時決定との違いを解説

2022/08/30更新

この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

給与において、基本給や手当、通勤費といった固定的賃金が変わった従業員がいるときは「月額変更届」の提出が必要になる可能性があります。通称「げっぺん」とも呼ばれる月額変更届によって、定時決定を待たずに従業員の社会保険料を変更します。

ここでは、月額変更届を提出するタイミングや、それに関わる随時改定と定時決定の違い、算定基礎届との違いのほか、月額変更届の作成方法や提出方法、注意点などについてご説明します。

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月額変更届とは標準報酬月額を変更するための届出書のこと

月額変更届とは、標準報酬月額を変更するために、年金事務所に提出する届出書類のことです。標準報酬月額とは、厚生年金保険料や健康保険料を決めるベースとなるもので、3か月間の給与の平均から算出する「標準報酬」を、1等級から32等級(年金)、または1等級から50等級(健康保険)に分けた際に該当する金額を指します。

標準報酬月額は、保険料額表の「月額」欄を見ることでわかります。

令和4年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表度保険料額表(東京)

引用:全国健康保険協会「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)新規タブで開く」より

なお、標準報酬月額の変更には、月額変更届の提出によって行う「随時改定」と、算定基礎届の提出によって行う「定時決定」の2種類の方法があります。

随時改定:臨時で行う標準報酬月額の見直し

随時改定とは、固定的賃金の変動があった際に、臨時的に行われる標準報酬月額の見直しです。なぜ必要かというと年の途中に報酬額が大幅に変動すると、実際の給与額と標準報酬月額の間に乖離が生じます。そのため、定時決定を待たずに従業員の給与から適正な社会保険料を控除できるように見直すのです。

定時決定:毎年行われる標準報酬月額見直し

定時決定とは、毎年1回行われる標準報酬月額の見直しのことです。原則的に4、5、6月に支払う3か月の給与平均をもとに標準報酬月額が決まり、9月から新しい保険料が適用されます。

なお、定時決定は、原則として7月1日に在籍するすべての従業員(役員を含みます。以下同じです)が対象となります(6月1日以降に入社した従業員や7月以降随時改定を行う従業員を除く)。

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月額変更届の提出が必要なケース

定時改定の時期以外に賃金などの変動があった場合、随時改定をする必要があります。その際に、月額変更届の提出が必要なのは、下記の3つの条件をすべて満たす従業員がいる場合です。

固定的賃金の変動があった

固定的賃金とは、固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものをいいますが、その変動には、次のような場合が考えられます。

  • 昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
  • 給与体系の変更(日給から月給への変更等)
  • 日給や時間給の基礎単価(日当、単価)の変更
  • 請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
  • 住宅手当、役付手当等の固定的な手当の追加、通勤交通費など支給額の変更

例えば、転勤をして手当がつくようになった場合や、反対に転勤から戻ってきて手当が減った場合、引っ越して交通費が上がった場合なども該当します。

変動月から3か月以内の報酬平均額と現在の標準報酬月額の差が2等級以上

固定的賃金の変動があった月から3か月以内の、残業代等を含んだ給与支給額の平均と、現在の標準報酬月額を比較しましょう。保険料額表上で2等級以上の差がある場合は、随時改定が必要です。

ただし、固定的賃金が上がった場合は等級も上げる、下がった場合は等級も下げる必要があります。ですが、基本給を含む固定的賃金は上がったが、残業手当などの非固定的賃金が下がったために、標準報酬月額は下がったというような場合は、随時改定の対象にはなりません。逆に固定的賃金が下がったが、残業手当などの非固定的賃金が上がったために、標準報酬月額も上がったというような場合も、随時改定の対象にはなりません。

なお、従業員が同意している場合に限り、固定的賃金の変動があった月から3か月以内の給与支給額の平均ではなく、年間平均を用いて随時改定を行うこともできます。とある時期に残業が集中するようなケースでは、その3か月の平均が必ずしもその従業員の平均的な給与を表しているとは言えません。そのため、特例的に固定的賃金に変動があって随時改定を行うべき場合に年間平均を用いた随時改定が認められています。

年間平均を用いた随時改定の要件と、年間平均額から算出する標準報酬月額の求め方は、下記のとおりです。

固定的賃金の年間平均を用いて随時改定を行うための要件

  • 変動月から3か月以内の平均から算出した標準報酬月額と、年間平均額から算出した標準報酬月額に2等級以上の差があり、なおかつその差が毎年発生すると見込まれる
  • 現在の標準報酬月額と年間平均額から算出した標準報酬月額に1等級以上の差がある
年間平均額から算出する標準報酬月額の求め方
標準報酬月額=固定的賃金の変動があった月以降3か月の固定的賃金の月平均額(残業代等を含まない)+固定的賃金の変動があった月の前9か月と、固定的賃金の変動があった月の後3か月の非固定的賃金(残業代など)の月平均額

変動月以降の3か月の給与支払基礎日数が17日以上

給与支払基礎日数とは、給与の支払対象となる出勤日のことです。月給制の企業であれば、該当の給与計算期間の暦日数が該当します。

ただし、欠勤した場合に欠勤日数分給与が引かれる企業は、欠勤日数を控除します。

随時改定の流れ

基本給や手当、通勤交通費といった固定的賃金に変動があった従業員がいたら、随時改定が必要です。下記のような流れで随時改定が必要かどうかを確認して、必要な手続きをとりましょう。

1.随時改定の要件を確認

まずは、固定的賃金の変動があった従業員が随時改定の対象となるかどうかの判定が必要です。固定的賃金の変動から3か月後に、賃金が上がった後の報酬平均額と現在の報酬平均額を比較して、2等級以上の違いがあるかどうか確認します。

確認を忘れないように、固定的賃金の変動があった時点で、3か月後のスケジュールに入れておくことをおすすめします。

2.月額変更届の作成

随時改定の対象となることがわかったら、すみやかに月額変更届を作成します。明確な期限の定めはありませんが、新しい保険料は給与が変更してから4か月目の給与からの適用です。社会保険料の支払いは、当月分翌月払いです。

例えば、7、8、9月の3か月の変動をもとに随時改定を行う場合、社会保険料の変更は10月分からになります。しかし、実際に改定後の社会保険料が反映されるのは11月の支払い分からとなります。

手続きの状況にかかわらず、給与の天引きは上記の改定に合わせて反映させます。そのため手続きが遅れると、給与天引きと社会保険料の支払額に不整合が生じます。給与天引きの金額と社会保険料の支払額に差が出ないように、できるだけ早く手続きを行います。

3.標準報酬月額の変更を反映

固定的賃金の変動から4か月後の給与から、標準報酬月額の変更を反映させます。ただし、社会保険料の支払い月と給与天引きの月を合わせている場合には5か月目の給与からの改定となります。上記のように、社会保険料の支払いは当月分を翌月払いとなるためです。

自社の社会保険料の給与天引きが、社会保険料の改定月と対応させているのか、社会保険料の支払月と対応させているのかをしっかりと確認しておきましょう。厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料がそれまでとは変わりますから、給与計算時に必ず確認しましょう。

月額変更届の作成方法

月額変更届には、事業所の情報と随時改定を行う従業員の情報を記入します。特に、事業所整理番号や被保険者整理番号は忘れてしまいがちな部分ですから、忘れずに書き入れます。

また、月額変更届には、固定的賃金の変動があった月から3か月の給与と支払い基礎日数を書き入れる必要があります。賃金台帳などを確認し、正確に記入することが重要です。

月額変更届の提出方法

月額変更届は、電子申請、郵送、持ち込みの3つの方法で提出できます。都合の良い方法を選びましょう。それぞれの提出方法についてご説明します。

電子申請

月額変更届の提出は、「e-Gov」または「届書作成プログラム」を利用して、電子申請することもできます。

なお、資本金等の額が1億円を超える法人や相互会社、投資法人、特定目的会社については、月額変更届の電子申請が義務付けられています。

参考
e-Govポータル:e-Gov電子申請新規タブで開く
日本年金機構:電子申請(届書作成プログラム)新規タブで開く

郵送

地域ごとに設置された事務センターに、月額変更届を郵送する方法もあります。なお、事務センターでは持ち込み提出は受け付けていません。各地域の事務センターの一覧は、日本年金機構のWebサイトで確認できます。

参考
日本年金機構:全国の事務センター一覧(健康保険・厚生年金保険の適用に関する届書等を郵送される場合)新規タブで開く

持ち込み

持ち込事業所を管轄している年金事務所へ月額変更届を持ち込むことができます。管轄の年金事務所は日本年金機構のWebサイトから確認可能です。

参考
日本年金機構:全国の相談・手続き窓口新規タブで開く

随時改定と定時決定時期が被った場合

随時改定と定時決定のタイミングが被ってしまったときは、タイミングに応じて対応が変わります。6月までに随時改定が行われたときと、7月以降の随時改定のとき、それぞれのケースについてご説明します。

6月までに随時改定を行った従業員

3月に固定的賃金の変動があった従業員など、6月までに随時改定を行った場合は、当年8月まで該当の標準報酬月額が適用されます。その後、9月からは定時決定によって決まった新たな標準報酬月額が適用となります。

7月以降に随時改定を行った従業員

7月以降に随時改定を行った従業員は、翌年8月まで該当の標準報酬月額が適用になります。

随時改定による標準報酬月額の適用例
4月に固定的賃金が上がり、4、5、6月の給与の平均が随時改定の条件を満たす場合は、随時改定を行う必要があります。この場合、7月から翌年8月まで随時改定による標準報酬月額が適用されます(期間中に再度随時改定が行われた場合を除く)。

なお、通常は4、5、6月で定時決定を行い9月から新しい標準報酬月額が適用されますが、4月に随時改定をした従業員の定時決定は行いません。そのため、9月に保険料が変わることもありません。

月額変更届の手続きをしなかった場合のペナルティ

月額変更届の手続きをせず、その結果未納の保険料が発生すると、最大で過去2年分までさかのぼって保険料を徴収される可能性があります。

また、正当な理由なく月額変更届の書類提出をしなかった場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられることがあります。

月額変更届の手続きは、忘れないようにしましょう。

固定的賃金に変更があったら、随時改定に該当するかチェックしよう

月額変更届の提出が必要かどうかは、それぞれの企業の担当者が判断しなければいけません。年金事務所から案内が来るわけではありませんから、忘れないようにしてください。

固定的賃金の変更があった際は、必ず3か月後に状況を確認し、必要に応じた手続きをとりましょう。

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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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