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「データサイエンス」と無縁な人はいなくなる?(株)データビークル 代表取締役・統計家 西内啓氏 取締役・山崎将良氏インタビュー

2018年4月16日、東京・品川の大崎ブライトコアホールで、企業や団体のテクノロジーによるイノベーションを表彰するコンテスト「Microsoft Innovation Award2018」(MIA2018)のファイナルピッチが開催されました。応募条件は「マイクロソフトのテクノロジーを活用していること」「製品またはプロトタイプが完成し、デモが可能なこと」。企業・団体・個人が応募し、審査基準となる「イノベーション(独自性、新規性)「社会的価値」「インパクト(産業・社会)」「技術的難易度」を競い合いました。

毎年MIAに協賛している弥生株式会社から贈られる「弥生賞」を今回、受賞したのは、株式会社データビークルが開発したデータサイエンス支援ツール「Data Diver」(データダイバー)。製品の開発者であり、同社の代表取締役、また「統計家」としてベストセラー書籍『統計学が最高の学問である』(ダイヤモンド社)も出版された西内啓氏(写真・右)と、同社 取締役・山崎将良氏(写真・左)、データサイエンスの未来について語っていただきました。

東大医学部生が「統計学」にのめり込むに至った理由

東大医学部生が「統計学」にのめり込むに至った理由

── 西内さんご自身はソフトウェア開発のほか、ベストセラーである著書『統計学が最高の学問である』を発表されるなどしています。高校卒業後、東京大学医学部へ進まれていますが、統計学と医学とは縁遠い印象があります。どういう経緯から統計学の道へ?

西内氏:東京大学は前期課程2年間を教養学部で過ごしながら、文理問わずさまざまな科目を受けますよね。私はもともと高校時代まで理系科目のほうが得意だったこともあり、大学1〜2年のときは生物学などを勉強していたんですよ。当時は遺伝子や脳の研究が盛んだった時代でもあり、かなり勉強したと自負しています。

でも、次第に「遺伝子や脳の分野ってたいしたことがわかっていないな……」なんて、19歳くらいの生意気盛りの学生が感じてしまったわけですね(笑)。すると心理学、社会科学、経済学とか、別の学問に目移りするようになりました。

正直、心理学には高校のときまでのイメージでどこかあやしさを感じる学問でしかなかったのですが、ちゃんと勉強してみるとそうではなかった。誰かが勝手に言い出した概念とか理論ではなく、そこにはきちんとした裏付けがあり、その裏付けこそが統計学でした。そうして3年次からの進学選択にあたり、医学部のなかでも統計学を教えてくれる先生のもとへ……。こうして生物統計学を専攻するに至りました。

── 東大医学部の健康科学看護学科(現・健康総合科学学科)時代のことですよね。同学科は、人間の健康に関わる諸問題を科学的な見地から解明・解決していくことを教育・研究目標に置いています。

西内氏:きっと多くの方は「医学の世界でどうやって統計学が使われるの?」なんて疑問に思われるかもしれませんが、例えば病気のリスクを正確に見積るようになるには統計学が必要です。こういう統計があるから「塩分の摂取は控えたほうがいい」「たばこがからだに悪い」「運動をしたほうが健康にいい」とか……。でもそうした事柄を統計学から導いたとしても、どれも現代人にはわかりきっていること。正直「もういいかな……」という側面もあると個人的には感じていました。

そうして私の興味・関心はリスクの度合いを正確に見積もることより「この人はどうしたら塩分を取らなくなるのか」「どうしたらたばこを止めるのか」といった問いに向いていきました。これこそが「行動科学」や「コミュニケーション科学」と言われる領域です。なので、修士までは生物統計学、その後の博士課程からは「医療コミュニケーション学」専攻というのが私の経歴。博士課程後には、大学の助教に着任するなどしていました。

── 研究者の道から、なぜ起業家に?

西内氏:いくら大学で研究成果を出してもそれらを社会で役立ててもらうのは容易ではありませんでした。そこにある種の限界を感じていたタイミングで、データサイエンスの世界が注目されるようになってきたんです。当時からみんな「ビッグデータ、ビッグデータ」といいながらも、結局最終的なアウトプットは「円グラフで見える化」だったり(笑)。ナイチンゲールが「鶏のとさか」と呼ばれるデータの見える化によって世界に大きなインパクトを示したのなんて今から150年くらい前の話ですよ。

── もう円グラフで示しただけでは、人の行動までは変えられる時代じゃない?

西内氏:そうですね。ちょうど自分の専門の一つであった行動科学というのはビジネスとも相性が良いものでした。例えば会社で従業員の行動をよく変えたいとするならそれは「マネジメント」だし、お客さんや市場を変えたいとするならそれは「マーケティング」ですよね。どちらもビジネスにすでに根付いた考え方です。

データサイエンスに統計学を活用しながら、人の行動を変えてみたい—-。それが、最終的にデータサイエンスの世界に踏み込むことになったモチベーションであり、Data Diver開発の源泉でもあります。

東大医学部生が「統計学」にのめり込むに至った理由

クラウド会計にデータ分析エンジンが乗っかれば……

── 『スモビバ!』の読者には、スモールビジネス経営者や個人事業主の方が多いのですが、おそらく民間企業以上にデータサイエンスというものが「縁遠い存在」と感じてしまうと思います。ビジネス全般において、事業にまつわるデータ活用はどこまで進んでいくのでしょうか?

西内氏:全体的にはその価値を活かしきれていないというのが日本の現状だと思います。しかしこれからどんどん広がっていくことは確実でしょう。データを分析したりデータを整備したりするコストは間違いなく下がっていきますし、「データ分析を行えば数%でも売上に貢献できる」という確証が得られれば、企業にとっての費用対効果も高まる。

ただデータサイエンスが普及していくときに「ボトルネック」になるものがあるとすれば、ツール以上に、データそのもののほうです。とりわけスモールビジネスや小規模事業だと、そもそも「データをきれいにする」っていう概念がないじゃないですか?

── 確定申告に向けて帳簿データをつけるだけで精一杯です……。

山崎氏:たしかに一般的な会計データは「分析」のためにつくられたデータではありませんからね。

── やはり分析のためのデータとなると、まったく別物ですか?

西内氏:データは「業務のためのデータ」と「分析のためのデータ」に分かれると考えていただいてよいと思います。業務のためのデータとは会計・人事にまつわるようなデータであり、スモールビジネスにとっての会計データの大きな役目は、つつがなく税務署に必要書類を出すことです。最低限「何をいつ購入したのか」「何がいつ売れたのか」ということだけがわかればよかったわけで、たとえデータのどこかが抜け落ちた不完全なものでも、税務署の人や会計担当者が「これ、抜け落ちていますよ」と気づけばなんとかなった。

これをこのまま「分析のためのデータ」に使うことはできず、キレイなデータにするためには手間やコストがかかります。だからこそData Diverのようなソフトウェアを開発したのです。

── でも会計データが分析できて、そこから事業に役立つ「次の一手」が見つけられるとしたら素晴らしいですね。

西内氏:そうですね。会計業務の領域にもデータ分析が入ってくることは十分に起こりえるでしょう。仮に取引先が数十件、プラス見込み顧客が数十件くらいあったとしたら、最終的に売上につながった数件とつながらなかった残り数件のどこが違うのか、その違いから次なる顧客を分析することは可能です。

クラウド会計にデータ分析エンジンが乗っかれば......

西内氏:今回、縁あってMIA2018の弥生賞をいただきましたが、弥生でも展開しているようなクラウド会計も、その1つといえるかもしれません。クラウドで会計業務を一元化できるようなプラットフォームに、我々のエンジンをそこに乗っけることができたなら、ふだんの取引先のなかから勝ちパターンをデータ分析で見つけられるとか、事業の可能性を拡げられるだとか……。スモールビジネスとか事業の規模を問わず、10年以内には実現するんじゃないかなんて思っています。

── 本日はどうもありがとうございました。

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撮影:塙 薫子、授賞式写真提供:弥生株式会社

西内啓にしうち・ひろむ

株式会社データビークル代表取締役・最高製品責任者。東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かしたデータ分析ツールの開発とコンサルティングに従事する。
著書に累計49万部を突破した『統計学が最強の学問である』シリーズ(ダイヤモンド社)のほか、『1億人のための統計解析』(日経BP社)などがある。 

山崎将良やまざき・まさよし

株式会社データビークル取締役COO、徳島大学総合科学部卒。商社系SIerに入社、国内大手通信事業者向けプロジェクト、シリコンバレー研修員などを経験。
その後国産パッケージベンダーにてプロダクトマネージャー、海外法人代表などを経て、株式会社データビークルへ入社。自身の経験を活かし自社開発プロダクトの製品管理、その他経営企画などに従事する。

株式会社データビークル

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