地元・福島の生産農家の可能性を掘り起こしたい―GNS 廣田拓也氏 インタビュー

福島県二本松市に拠点を置く食品事業社・株式会社GNS。同社の常務取締役・廣田拓也さんは、2017年2月12日、東北大学百周年記念会館(川内萩ホール)で行われた起業家によるプレゼンイベント「SENDAI for Startups! 2017」に福島県代表として出場。弥生賞、グロービス賞、そして会場から投票を募って決めるプラチナ共感賞(最優秀賞)のトリプル受賞を果たしました。福島県の生産農家をサポートするため、廣田さんは事業家以外にもさまざまな顔を持ち合わせます。そんな廣田さんに今の思いをうかがいました。
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実家の倉庫で見つけた搾油機がきっかけに
――まずは「SENDAI for Startups! 2017」での弥生賞、グロービス賞、プラチナ共感賞の受賞、おめでとうございます。廣田さんはもともと福島県二本松市のご出身なんですよね?
はい。二本松市にある有限会社木羽屋(こばや)製粉というお蕎麦専門の製粉会社に生まれ、地元の高校を卒業後、大学進学とともに上京。そのまま東京の企業に就職しています。
――地元へのUターンのきっかけは?
木羽屋製粉の創業は130年以上前にまでさかのぼり、私の父親である廣田育三で4代目。一番上の兄が家業を継いでいく予定です。そんな廣田家の次男(以下、兄)がGNSの代表である廣田裕介なのですが、その兄と私が実家の倉庫で祖父(木羽屋製粉3代目、廣田七右衛門氏)が昔使っていたという精麦機を見つけたのが大きなきっかけとなりました。祖父の代より前は蕎麦粉以外にもいろいろな穀物委託加工業を請け負っていたようです。
これをきっかけにして、兄と2人で耕作放棄地を活用した中山間地域の再生産ビジネスモデルが構築できるのではないか、と考えました。すなわち地元の耕作放棄地で荏胡麻の種を蒔き、それを収穫・搾油してから販売する――。そうして2005年にGNSの前身である株式会社グローバルナチュラルサイエンスを兄が設立することとなり、当時東京にいた私は兄を手伝うために地元にUターンしています。
――その後、穀物加工事業としては、2007年に自社ブランド第1号「たなつもの」を立ち上げています。
「たなつもの」は「種のもの」、つまり種由来という意味です。現在は荏胡麻油のほか、全国の生産農家から胡麻油、菜種油なんかも仕入れ、搾油・販売しています。
「たなつもの」の立ち上げ以降は、しだいに会社の業績も右肩上がりになりました。しかし、ちょうど事業が軌道に乗り始めたとき、2011年3月11日を迎えたのです……。
3.11で大打撃、しかし新しい商品開発でV字回復
――東日本大震災、そして原発事故に端を発した風評被害……。実際、事業的にはどれだけのダメージがありましたか?
それまで積み上げてきた事業モデルがいっきに崩壊しました。最初の2年くらいはそれでも既存事業の枠組みのなかで商品を売ることを考えていたのですが、しだいに売上が減り、仕事が減り……増えたのは生産者からの相談でした。なかも相談案件として多かったのは果樹農家・野菜農家からの相談です。しかし当時は穀物加工が主事業でしたから、既存の事業ドメインでは対応することができませんでした。
そうしたなか「生産者の再生産を支援する」という当社の企業理念であり、かつ、最大のミッションに沿うならば、我々はこの地で何ができるのか考えました。そこで生まれたのが「たなつもの」に続く、第二、第三のブランドでした。
――新ブランドは2015年の立ち上げですね。
はい。現在まで「たなつもの」に「TANATASUMONO Dining」「七右エ門」「福島拓景」を加えた4ブランドを展開しています。
なかでも「TANATASUMONO Dining」のなかで人気商品となっているのが、この「自家製サングリアの素」です。瓶のなかには国産の低温乾燥ドライフルーツ、てん菜糖、シナモン、クローブ、国産レモングラスなどが入っています。ここにワインやジュースを入れてから冷蔵庫で冷やし、炭酸水などで割ればとてもおいしく召し上がっていただけると思います。こうした新ブランドとなる商品開発により、売上のV字回復を果たせました。
――勝算はどんなところにあったと思いますか?
「SENDAI for Startups! 2017」のプレゼンでもお話しましたが、今世の中では「モノそのものの価値だけで売るのではなく、モノのまわりにある”コト”を価値に変える」ということが重要視されています。
この自家製サングリアにしても、同じ「TANATASUMONO Dining」の「ドライベジの自家製ピクルス」にしても、ご購入いただいてからすぐに召し上がっていただくことはできません。おいしく召し上がっていただくまでには2〜3日の時間が必要です。それでもご購入いただけるのはなぜなのか――。それは、せわしなく時間が過ぎていく今の時代のなかで「ライフスタイルのなかに余白をつくる」という価値が認められているからだと思います。
――その方針にたどり着くまでに、どんなことがあったのでしょうか。
大きな要因は、2012年から出店した東京都内のファーマーズマーケットや青空市場での体験です。3年間で200回以上出店させていただきました。
最初のうちは商品を売るのもなかなか難しい状態だったのですが、そこで知り合った方々からFacebookなどを通じてたくさんのコメントを寄せていただきました。当社商品のファンという以上に、私自身の思いに期待を寄せてくれたファンだったと思います。私が紹介する品物だったら、ぜひ買いたい――そんなお客様が増えていきました。
それまでの当社にとって最大のカスタマーは「問屋」だったのですが、このときの経験が「コンシューマー」にフォーカスする良いきっかけになったと思います。彼らは消費者ではなく「共感者」。我々が商品やサービスを展開するときというのは、まずは共感者とつながり、そこに向かって何ができるのかを考える――。新ブランドの立ち上げもそんな気持ちがベースにあり、それは福島という土地に限らず、仮に北海道や九州にいても同じだったはずです。