「データサイエンス」と無縁な人はいなくなる?(株)データビークル 代表取締役・統計家 西内啓氏 取締役・山崎将良氏インタビュー

2018年4月16日、東京・品川の大崎ブライトコアホールで、企業や団体のテクノロジーによるイノベーションを表彰するコンテスト「Microsoft Innovation Award2018」(MIA2018)のファイナルピッチが開催されました。応募条件は「マイクロソフトのテクノロジーを活用していること」「製品またはプロトタイプが完成し、デモが可能なこと」。企業・団体・個人が応募し、審査基準となる「イノベーション(独自性、新規性)「社会的価値」「インパクト(産業・社会)」「技術的難易度」を競い合いました。
毎年MIAに協賛している弥生株式会社から贈られる「弥生賞」を今回、受賞したのは、株式会社データビークルが開発したデータサイエンス支援ツール「Data Diver」(データダイバー)。製品の開発者であり、同社の代表取締役、また「統計家」としてベストセラー書籍『統計学が最高の学問である』(ダイヤモンド社)も出版された西内啓氏(写真・右)と、同社 取締役・山崎将良氏(写真・左)、データサイエンスの未来について語っていただきました。
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データ分析に求められるのは自分じゃ見つけられない”気づき”
── 株式会社データビークルとはどのような会社なのでしょうか?
山崎氏:当社は、長年ITビジネスに携わってきた代表取締役CEOであり経営責任者兼営業責任者を務める油野達也と、統計家で代表取締役CPO兼製品責任者である西内啓が共同代表を務める会社です。2014年に設立されました。
株式会社データビークル 取締役・山崎将良氏
── 主な事業内容は?
山崎氏:事業の大きな柱は西内が得意とする統計学を駆使したデータ分析ツール「Data Diver」(後述)、データ変換を支援する「Data Ferry」等の製品開発・サービス提供で、これらのツール導入に伴う、ビックデータの取得・解析・分析に関する人材育成事業なども行っています。「すべてのビジネスシーンにデータサイエンスを」享受することが大きなミッションです。
── 社員は何名くらいいらっしゃるのですか?
山崎氏:油野、西内、そして執行責任者を務める私を含めた3名と、それ以外にツール開発やカスタマーサポートおよびお客様支援などを担当する社員が計5名働いています。
── データビークル社は、MIA2018に参加し、見事、弥生賞を受賞しました。こちらに応募されたきっかけは何だったのでしょう?
山崎氏:Data Diverの開発にあたり、私たちは以前からクラウドサービス「Microsoft Azure」を使わせていただいていました。そのご縁からMicrosoft社の方にMIA2018への応募を薦めていただきました。
── MIA2018で発表された「Data Diver」(データダイバー)とはどんなサービスなのか、あらためてご紹介いただけますか。
山崎氏:ではここからは、製品開発者である西内から説明させていただきます。
西内氏:はい、よろしくお願いします。先ほどの山崎からのご紹介にあった通り「Data Diver」は統計学を駆使したデータ分析ツールです。実際にご使用いただければわかりますが、基本的にユーザーはプルダウンのメニューから業務課題を選んでいくだけ。ユーザーの側にデータサイエンスやプログラミングにまつわる高度なスキル・経験がなくても、その企業にあるビッグデータが分析可能になります。経営者や新規事業担当者の「次の一手」へとつなげる分析結果を導き出すツールです。
── 具体的にはどのような利用シーンがあるのでしょう?
西内氏:例えばスーパーマーケットには「いつ、どれだけ、いくらで売れたのか」がわかる「POS」というデータが貯まっていますよね? さらにポイントカードサービスなどを導入している店舗ならば「誰が購入したものか」まで紐付けできる「ID-POS」といわれるデータもあります。
仮にその店舗のオーナーが「うちの店舗にとっての優良顧客を見つけたい」と考えていたとしましょう。弊社のツール「Data Diver」ならPOSやID-POS等のデータを分析し、「いついつ、こういう商品を購入されるお客さんが優良顧客になりそう」といった優良顧客をすぐに見つけられます。
── そのような「データ分析」の既存ツールや手段はなかったのですか?
西内氏:膨大なデータを分析・可視化(レポーティング)をする「BIツール(ビジネス・インテリジェンスツール)」と呼ばれるツールがあります。しかし既存のBIツールの多くはアウトプット(レポート)から見るべきポイントを見つけるのが困難、というのが正直なところ。ユーザーは「ならば」と外部のコンサルタントなどを入れて、プロの立場からレポート作成をしてもらおうとするのですが、たいがい業務経験のない外部の分析者だと実際の打ち手にはつながらないような簡素なレポートが出てきてがっかり……ということが往々にしてあります。既存のデータ分析の方法ではその内容に納得がいかないということが多かったようです。
── そのくらい「データ分析」は難しいものなのでしょうか?
西内氏:データ分析に求められるのは「自分ではあまり考えたことがなかったけれど、ここが大事だったんだ!」という”気づき”をユーザーの側に与えることです。しかしそのためには膨大なデータをもとに、分析者がひとつひとつ仮説を立てながら、あらゆるパターンにデータを「加工」して、かつ、全パターンのなかから取捨選択しながら整備する「変数選択」をしなければいけません。既存の方法ではこの加工と変数選択に対応できていない。しかしData Diverでは、これまで私が培ってきた分析メソッドにより、最適な分析結果を導き出します。
株式会社データビークル 代表取締役 西内啓氏
「ひとやま越えた」データ分析の課題を解決
── そもそも西内さんがData Diverを開発するに至ったきっかけは?
西内氏:2010年くらいから、私は個人の「統計家」として企業から「データ分析をしたい」といったご相談を受ける機会に恵まれていました。その時期からすでに「ビックデータに着手しなければ」という声はビジネス界隈の至るところで挙がっていて、企業にとっては大きな関心事でした。
しかし先ほどお話ししたように、多くの企業が高価なBIツールを導入したり外部コンサルタントを招いたりしても、うまくいっていない。「お金をかけてもこの程度のレポートしか出てこない」「いまさらこんなことがわかってもしょうがないのに……」といった落胆の声も同時に感じるようになりました。私はこれを「ひとやま越えた」という表現しています。
── 既存のデータ分析も行き着くところまで来てしまった、と。
西内氏:そうして会社設立以前からいろいろな企業のデータ分析をお手伝いしていると、皆さん本当に同じことで困っていたし、その困りごとの8割くらいに共通する部分が見えてきた。それを解決するツールとして開発したのがData Diverでした。
── MIA2018当日、ピッチの後には貴社のブースにも多くの人が集まっていたようですね。受賞にともなう周囲の反応で印象的なものがあれば教えてください。
西内氏:新規事業の担当者のようなお立場の方も多くブースに来られていましたね。
山崎氏:こうしてきちんと表彰していただくのは今回が初めてでしたから、私たちのこと、あるいはData Diverという製品のことを知らない人も多くいたなか、それを知っていただくよい機会になったと思います。弊社のブースに多くの人が集まっていただいたことはとてもうれしい反応でした。