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3D-CG・VRの”民主化”めざして――株式会社AMATELUS JAPANインタビュー

2017年3月22日、「Microsoft Innovation Award2017」(以下、MID2017)のファイナルピッチが執り行われました。これは、短時間で自社の製品・サービスを紹介するピッチイベント。スポンサー賞の1つである「弥生賞」を株式会社AMATELUS JAPANが受賞しました。

今では誰もが当たり前のように動画投稿をできる世の中になりましたが、その世界と同様、3D-CGやVRを“誰もが使える”という状態にして世に広めたい――そんな「映像系テクノロジーの民主化」という思いのもと、同社は360度動画撮影・再生が可能な世界初のプラットフォーム「SwipeVideo」を開発したといいます。この独自サービスによって実現したい未来とは? 同社・下城伸也CEO(写真・左)、そしてMID2017に登壇した松田光秀CTO(写真・右)の両名にお話を伺いました。

3D-CGやVRを誰でも取り扱う未来に向けて

――結果として、お二人が出会われ、AMATELUS JAPANからSwipeVideoを世に広めていくこととなります。SwipeVideoは、いわば動画配信の “民主化”をかなえるもの――。なぜその着想に至ったのか、開発者としての思いを聞かせていただけますか。

松田 ならば……まずはこちらをご覧いただけますでしょうか。

初音ミクが踊っている映像を、ユーザーがブラウザ上のマウス操作で好きなようにアングルを変えられる

【参考記事】
Gigazine:MMDモデルを3DCGでウェブ上に公開し閲覧者がアングルを動かしまくれるJavaScriptライブラリ「jThree」

松田 これは「jThree」(ジェイスリー)という、オープンソースのJavaScriptライブラリです。難しいことを抜きにしていうと、初音ミクが踊っている映像を、ユーザーがブラウザ上のマウス操作で好きなようにアングルを変えられる、というものです。

――SwipeVideoとどことなく発想が似ていますね。

松田 そうですね。通信制高校でプログラミングを勉強していくなかで、3D-CGをブラウザ上で描画するのが次のトレンドになるであろうことは感じていました。そこから私の起業家人生がスタートするのですが、一方で私はひとつの課題を感じていたんです。

エンジニアとして3D-CGのようなコンテンツをウェブ上につくろうと考えた場合、行列・ベクトル・三角関数、あとはプログラミング言語のひとつである「C言語」—-これくらいは使えないと難しい。実はこれが大問題で、その障壁があるから、どこを見ても3D-CGなんて流行っていない……。VRなんかにしてもそうですが、いかんせんゲームとかの領域でしか広まっていないのが実状でした。 私はそうした問題を解決すべく、誰でも3D-CGを使えるようになるライブラリをつくりたいと考えました。

――それが「jThree」だった?

松田 はい。YouTubeの次は3D-CGを誰でも投稿できるような時代が来るだろうと、「jThree」を統合するプラットフォーム「jThird」を開発し、アメリカでの資金調達をめざして法人化しました。サービス自体はすでに停止していますが、そのときから僕の根本には、学歴差はあれど「誰でも世界は変えられる!」ということを証明したい思いがあります。その後もアメリカに法人自体は残しているし、結果として下城と出会い、それらの思いを継いでいくAMATELUS JAPANを日本国内で創業しましたから、そういう意味では結果オーライですね(笑)。

――アメリカでのご経験から得たものは?

松田 英語は大事、ということですかね。今もピッチイベントなどでは英語でプレゼンをしますが、翻訳アプリとかいろいろ便利なツールはあるけれど、最終的には自分の言葉でできないといけないです。逆に言えば、英語さえ習得すれば、アメリカのエンジニアに勝てないことはないと思います。シリコンバレーといっても、案外、僕らと技術的にかけ離れた存在ではないですし、ピッチコンテストとかで見るエンジニアは、日本でよく出会う方々とそんなに変わりはありません。ただ圧倒的に「空気」が違うのは確か。各人のハングリーさというべきか、「世界を変えるんだ」という空気は確実に漂っていましたから。

――もう一度改めてうかがいます。松田さんがめざす「世界」とは?

松田  ただただ、世界中が歓喜するプログラムを作りたい、という気持ちです。いくらウェブのカルチャーが「オープンだ、オープンだ」と言っても、実際には学歴差別みたいなものがある。中卒の私の根本には、そのことに対する憤りのようなものがあり(笑)、高校を出た人じゃないと使えないAPIが主流になっていることにはいささか疑問がありました。これから世界中が3D-CGやVRに染まっていくであろう未来を考えるならば、必ずそこを乗り越えないといけない。3D-CGやVRが誰にでも取り扱いできるようになる――それがSwipeVideoよりもっと先に見据えている未来なんです。

指輪の3D-CGのモデリングデータを作成するWebサービス「Encode Ring」のシミュレータ

松田さんはこれまで、指輪の3D-CGのモデリングデータを作成するWebサービス「Encode Ring」のシミュレータも開発。「いつもありがとう、愛してるよ」なんて声を吹き込めば、その声の波形をかたどった指輪のデザインがブラウザ上でシミュレーションできる

これまでの起業経験から見えた「会社」のあり方

――Microsoft Innovation Award2017への出場後、周囲の反応はいかがでしたか?

下城 私たちはこれから、SwipeVideoという新技術を通じ、2020年の東京オリンピックも見据えながら、日本の素晴らしさを世界にアピールしていきたいと考えています。BtoBビジネスを横展開させていきながら、スポーツ関係の市場はぜひとも取りにいきたいです。ほかにもSwipeVideoコンテンツを量産できるソフトウェアの提供を開始したり、これを「地域おこしに使いたい」なんてお話もいただいています。MID2017を含め、ピッチイベントに出場するたび、そうしたお話をいただくようになったことはうれしいことです。

下城さん

株式会社AMATELUS JAPAN 下城伸也CEO

松田 MID2017で実際に登壇した立場からいうと、正直なところ、優勝とオーディエンス賞をダブル受賞することが目標でしたから、それが果たせなかったショックが本当に大きく……。実をいうと「弥生賞か……」なんて最初は思っていました。今考えると本当に失礼な話なのですが(笑)。

しかしいろいろなビジネスの引き合いがあるなか、弥生賞を受賞できたことの効果は常々感じています。下城が申し上げた通り、SwipeVideoをさまざまな領域で展開できればこの上ないと思います。

――今、日本国内では御社のようなスタートアップがどんどん立ち上がっています。しかし「起業しやすくなった」といわれる一方で、大企業やスタートアップが有機的に結びつき、かつ、共存共栄していく、いわゆる日本式エコシステムの構築が日本の課題です。それを踏まえ、これまでの起業経験を通じ、お二人はこれからの「会社」あるいは「起業」のあり方をどのような視点でとらえているのでしょうか?

下城 日本で「0から1を生み出す」成功者を継続的に輩出させることができるかどうか――それはもしかしたら30年とか50年とか先のことかもしれません。いまだ事業計画書の体裁ばかりを整えお金をひっぱってくることが先決になっているスタートアップも多いかもしれない。

アメリカの投資家、ピーター・ティールは、「0→1」の実現に必要なのは「隠れた真実の存在を信じ、見つけられるかどうか」と表現しています。絶対に成功しないといわれていることでも、隠れた真実を見つけ、それにチャレンジし続けられれば、やがて「0→1」に行き着く――そんな成功者をつくる文化というか空気というか、そうしたことが今日本にも必要なのではないか、と思います。

松田さんと下城さん

松田 おおむね下城が申し上げたことと同じです。あえて、付け加えるならば……表面的なことだけを見れば、起業すること自体は今、それほどハードルが高くない。少しの資金があれば、書類を法務局に出すだけで誰でも社長になれます。

一方で、私は事業をしていくことの「意識」が大事だと思います。「会社」はビジネスをすることを目的に人が集まった組織にすぎず、そのベースには「ビジネス」が不可欠です。では「ビジネス」とは何なのか――それは、モノやサービスのやりとりによってお金や人が動くことであり、人のニーズを満たすことが根っこにあるはず。もしもそれがおざなりになったり、その意識が薄れたりしているならば、きっと事業はその先々でうまくいかないでしょう。

結局、突き詰めて考えれば、「会社」の存在意義とは実にシンプルなんだと思います。「人がほしいと思うものをつくる」「それが人の困りゴトを解決している」「それをベースにお金をいただく」ということ――もしそれをしなくてもよくなったのなら、それは「会社じゃない何か」として新たに誕生しているはずです。私たちも「会社」を自ら名乗っていく以上は、代々続いてきた「人が本当にほしいと思うものをつくる」ということを、常に意識しなければいけないと心がけています。

――本日は貴重なお話、ありがとうございました。

取材・撮影場所 協力:クロスオフィス渋谷

下城伸也 しもじょう・しんや

下城伸也

AMATELUS JAPAN株式会社CEO。2005年、株式会社BLUEGATE設立時に取締役として参画し、株式会社エアーエイジ代表取締役を経て、株式会社GENOVAと合併時に常務取締役に就任。多くのwebコンサルタントをまとめながら、自らも数多くの成功事例を手がけwebコンサルタントとして活躍。大手メーカーのセミナー講師や大学での臨時講師などを経て、松田光秀との出会いをきっかけにAMATELUS JAPAN株式会社を設立。シンギュラリティに向かう未来において「人間らしさ」を残すべく、同社CTO松田が開発するSolufa,SwipeVideoの事業展開を開始。 

松田光秀 まつだ・みつひで
松田光秀

AMATELUS JAPAN株式会社CTO。今から4年前の23歳で定時制高校に再入学したタイミングでプログラミングを始める。2016年にウェブプロモーションのためのWeb3Dオープンソースライブラリ「Solufa(ソルファ)」を独学で開発。Solufaを駆使した受託開発を行う過程で「被写体に注目させたい」という企業のニーズが360動画では解決できていないことに気付きSwipeVideoを同年の秋から開発着手。

AMATELUS JAPAN株式会社HP

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