心療内科医Dr.ゆうすけに聞いた「フリーランスはメンタル強くなきゃダメですか?」
コロナ禍で世の中が大きく変化するなか、一度きりの人生、好きなことを仕事にしたい、組織に縛られずフリーランスとして生きていきたいと考えた人もいるかもしれません。
でもフリーランスになれば、「仕事は続くのか?」「お金が継続的に入ってくるのか?」という心配は避けられず、「不安に一人で立ち向かえるの?」「私、メンタルそんなに強くないし、大丈夫かな?」と考えてしまう人もいるでしょう。
そこで今回は、ライフワークとしてメンタルヘルスの発信活動に取り組む、「Dr.ゆうすけ」こと、鈴木裕介院長にインタビュー。フリーランスが不安に陥らないためのメンタルマネジメント方法を教えていただきました。
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目次
コロナ時代の不安との付き合い方
――コロナ禍では、感染への恐れや人と会えないストレス、先の見えない経済的な不安でメンタルが弱っている人が増えているようです。先生から見て、今の状況はいかがでしょうか?
Dr.ゆうすけ:
コロナ禍はとても大きなストレスイベントであり、誰もが心の調子を崩してもおかしいことではないと思います。なので、相談に来られる方にも、自分を責めなくてもいいと伝えています。
――逆にステイホームが快適だったという方もいますが、これはどういった違いなのでしょうか?
Dr.ゆうすけ:
必要なコミュニケーションの質と量は、個々人でまったく違ってきます。僕は基本的に「陽キャ」で、必要なコミュニケーションの量も質もけっこう多い方だと自覚しているので、それが全然満たされないのはしんどかったです。その逆で、今まで外で気を遣うコミュニケーションをすることが多かった人が、ステイホームで気を遣わなくてもよくなり、心のエネルギーが回復した例もあると思います。
――今やコミュニケーションといえばSNSは外せません。でも、誰かと繋がりたい、何となく不安だからと、SNSばかり見ているとメンタルの状態が悪化するということはありませんか?
Dr.ゆうすけ:
メンタルが落ちている状態のときは、ネガティブなメッセージに影響されやすくなります。総合診療の名医である國松淳和先生は「情報が多いほど、不安になりやすい」こと、そして「不安という感情の伝播力のすさまじさ」を強調されていました。Twitterやテレビなどから流れてくるコロナ関連の情報ばかりを受け取っていれば、不安が増大するのは至極当然のことだと思います。不安になりやすい人は、まずは取りいれる情報を選択し、量を制限することが重要だと思います。また、人との繋がりの感覚も、不特定多数に広く求めるよりは、SNSを使う場合でもDM(ダイレクトメッセージ)やLINEなどで、比較的気の合う人や信頼できる人と1対1の雑談のようなコミュニケーションを強化したほうが得やすいでしょう。そういう人が見当たらない場合は、例えばオンラインカウンセリングのような、安心して他者に心情を吐露できるサービスを利用するのもいいと思います。
――先生は診察の際、薬ではなく、コンテンツを処方されることもあるそうですね。
Dr.ゆうすけ:
患者さんが自分の病状をよく知るための本を紹介することもありますし、純粋に患者さんが好きそうなゲームや本、音楽を処方することもあります。
――それはなぜでしょうか?
Dr.ゆうすけ:
激務でメンタルの調子を崩して、休職されている方の多くは、他人の期待に応えるのは上手でも、自分のケアがとても苦手だったりします。とくに、子どもの頃から周囲の大人のニーズに答え続けざるをえない環境にいた人は、ずっと他人の要求に応え続けてきて高い評価や安心を得てきたため、外部からの要求に応え続けていないと居心地が悪いのです。そのため、心身が限界をむかえて休職しているのに、「社会の役割を果たせていない」「誰のためにもなっていない」と罪悪感にさいなまれる、自責の念に駆られて「英語の資格取得のため、これを機に勉強を頑張ります」などと言い出すことが多いんです。
そんな方には、「自分ニーズ」と「他人ニーズ」を分け、自分ニーズにフォーカスしてくださいと伝えています。自分のニーズをちゃんと満たしながら、他人のニーズを満たすというようにバランスを取らないと、短期的には良い成果が出せても、長期的には無理をしすぎて身を崩してしまう。だから、自分の喜ばせ方というものにも、注目しないといけない。
――他人の評価ではなく、自分の楽しみを大切にするということですね。そういう方にはどんなもの処方されるんですか?
Dr.ゆうすけ:
患者さんから好評をいただくのは、料理エッセイ本「cook」(坂口恭平/晶文社)ですね。料理って基本的に他人のために作るという意識がありますが、この本は誰かに喜ばれるのではなく、自分ニーズで、自分のために作ることがテーマになっています。この「自分ニーズ」の感覚を拡張させてあげないと、一旦治って復職しても、また「他人ニーズ」のために頑張りすぎて、同じことを繰り返してしまいます。
――ほかにどんなコンテンツ処方をされたことがありますか?
Dr.ゆうすけ:
音楽ですね。クラシック音楽をよく勧めています。クラシック音楽が自律神経のはたらきを調整し、メンタルヘルスに好影響を与えることはよく知られています。友人が贈ってくれたCDに入っていた、バッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番 プレリュード」という曲が気に入っていて、よく紹介しています。「マチネの終わりに」(平野啓一郎/毎日新聞出版)という小説で紹介されていたのですが、バッハの音楽はドイツの人口が半分くらいになってしまうほど悲惨な三十年戦争のあとに生まれた音楽だそうで、当時の教会で大切な人を戦争で失った人の心を癒すという社会的な役割を担っていたそうです。喪失の気持ちや悲しみに優しく寄り添ってくれます。
あと、僕が一番好きな曲の一つに、フラワーカンパニーズという日本のロックバンドの「深夜高速」という曲があるんです。「生きていてよかった 生きていてよかった 生きていてよかった そんな夜を探してる」というサビの歌詞が最高にいいんですよね。絶望的な局面にこそすごく響く、とても優しくて深い曲だと思います。
また、「ちひろさん」(安田弘之/秋田書店)や「ダルちゃん」(はるな檸檬/小学館)は、繊細な人の「痛み」の描写が素晴らしい漫画で、待合室に置いています。最近だと、竹内絢香先生の「がんばらなくても死なない」が人気で、よく患者さんが手にとっていますね。
ゲーム好きには「デス・ストランディング」( PS4のソフトで障害を避けながら世界中の人と荷物の配達を楽しめる人気のゲーム)をよくすすめています。これは、患者さんから教えてもらったのですが、その方が「『つながり』がテーマのゲームで、コロナが蔓延している今の時代だからこそ、より楽しめました」と言っていたので興味を持って、僕もすっかりハマってしまいました。
――楽しいと思えるコンテンツと触れ合うこともメンタルマネジメントのひとつなんですね。
これからフリーランスになる人へ
――今、会社員をしていて、テレワークを経験したことで、今後フリーランスとして羽ばたきたいと考えた人もいるかもしれません。そんな方々にアドバイスをお願いします。
Dr.ゆうすけ:
新しいことに挑戦するのはいいと思います。ただ、好きなことで起業したいという方は少し心構えが必要です。
例えば、自分にとって文章を書くことが癒しだった人がライターになる場合、これからはクライアントにお金をもらってクライアントのために書く文章になるので、文章が直される、値踏みされるということもあるでしょう。そうすると文章を書くことが自分にとっての純粋な癒しでなくなるかもしれません。
また、フリーランスになると、自分の周りの人間関係も大きく変わってしまいます。仕事仲間はお金だったり、労働だったりと、価値の交換が前提となるので、仕事と切り離された場所に自分にとって安心できる居場所を意識的に確保して欲しいですね。趣味の仲間、飲み屋の仲間、スナックのママ、占い師さんでもいいと思います。
――利害関係のないところで、愚痴や悩みを聞いてもらえる場所があったほうがいい、と。
Dr.ゆうすけ:
はい。しかし、悩みが深刻な場合は日常的な人間関係の外で吐き出すのが無難です。いきなりシリアスな相談をされるとお友達は驚いてしまうかもしれませんし。
そんなときは心療内科でカウンセリングを受けてみるのもいいと思います。初めて心療内科にかかる人は抵抗があるかもしれませんが、心配な場合は僕の著書を読んでいただいて(笑)、期待値調整をしてから来ていただければ、と思います。
撮影:塙薫子