算定基礎届とは?書き方や作成時の注意点を解説

2022/06/15更新

この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

法人や従業員を常時5人以上雇用している個人事業主(※一定の事業は除く)は、原則として社会保険に加入しなくてはいけません。社会保険に加入している会社や事業所は、年に1回行われる社会保険料の見直し手続きのため、日本年金機構に「算定基礎届」を毎年提出します。

ここでは、算定基礎届を提出する意味と提出にあたってのルールのほか、注意したいケースについてご紹介します。

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「算定基礎届」は、社会保険の手続きのために企業が毎年提出する届出のこと

健康保険、厚生年金保険といった社会保険の保険料は、会社・事業所と従業員が分担して支払います。このうち、従業員が負担する金額は、一定期間内に従業員が受け取った報酬の平均額から導かれる「標準報酬月額」によって決まります。

この標準報酬月額が、従業員が実際に受け取った報酬額とかけ離れたものとならないように、事業主は毎年1回、実際に支給した報酬額にもとづいて標準報酬月額を見直し、届け出ることになっています。この手続きを「定時決定」といい、その際に提出する届出を「算定基礎届(正式には、被保険者報酬月額算定基礎届)」というのです。

引用
日本年金機構「健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額算定基礎届/70歳以上被用者 算定基礎届新規タブで開く」より

社会保険料の計算に使う標準報酬月額

標準報酬月額とは、社会保険料を計算する際に使う報酬月額のことです。原則として定時決定により決まった報酬月額を「標準報酬月額保険料額表」に当てはめることで求められます。

標準報酬月額保険料額表とは、報酬の平均額を健康保険・介護保険では1~50の等級、厚生年金保険では1~32の等級に区分けし、それぞれのケースで標準報酬月額や保険料がいくらになるかを割り振った一覧表です。

例えば、報酬の平均額が21万円以上23万円未満の場合は、健康保険・介護保険だと18等級、厚生年金保険だと15等級に該当し、標準報酬月額は22万円になります。

算定基礎届と月額変更届の違い

標準報酬月額の見直しは、毎年7月に、4~6月の平均報酬月額にもとづいた算定基礎届を提出して手続きを行うのが基本です。これを定時決定と言います。しかし、年の途中で報酬額が大きく変わったなどして、標準報酬月額が実際の報酬とかけ離れてしまったようなケースでは、その時点で届出が必要になります。

このように、定時決定を待たずに標準報酬月額の変更を届け出る場合は、算定基礎届ではなく「月額変更届」(「月変(げっぺん)とも呼ばれます」)を提出します。この手続きは、「随時改定」と呼ばれます。

下記の3つの条件すべてを満たす場合、月額変更届の提出が必要になります。

月額変更届の提出が必要となる条件

  • 昇給または降給などにより固定的賃金に変動があった
  • 変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当などの非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた
  • 3か月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である

算定基礎届のルール

算定基礎届の提出は、社会保険の被保険者となっている従業員が1人でもいるなら、毎年必ず行わなければならない大事な手続きです。対象者がいるにもかかわらず事業主が算定基礎届を提出しなかった場合、または虚偽の届出をした場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金を科せられることがあります。また、事業所が立入検査を受ける可能性もあります。

算定基礎届は、毎年4~6月分の報酬月額の平均から標準報酬月額を求め、届出書に記入して7月10日までに提出するのが原則です。届け出た内容は、その年の9月から翌年8月分の保険料額の計算に適用されます。

算定基礎届の提出対象になる人

定時決定の対象になり、算定基礎届の提出が必要となるのは、7月1日の時点で社会保険の被保険者となっているすべての従業員および70歳以上の被用者についてです。

休職中や育児休業中、介護休業中の方を含め、被保険者または70歳以上の被用者全員が対象となります。

算定基礎届の提出対象にならない人

下記の項目にあてはまる方は、算定基礎届の提出の対象とはなりません。したがって、その方の分の届出は不要です。

6月1日以降に被保険者となった人

6月1日以降に被保険者となった方は、被保険者としての資格を取得した際に翌年8月までの標準報酬月額が決まっているので、提出は不要となります。

6月30日以前に退職した人

9月以降の標準報酬月額を届ける必要がないので、提出不要です。

7月に月額変更届を提出する必要がある人

給与が大きく変動し、4~6月に支払われた平均報酬額に対応する標準報酬月額と現在の標準報酬月額の間に、標準報酬月額保険料額表の区分にして2等級以上の差がある場合は、7月に月額変更届を出す必要があります。この場合は、定時改定の対象にはなりません。

算定基礎届における報酬の対象となるもの・ならないもの

算定基礎届を記入するには、対象一人ひとりについて4~6月に支払われた平均報酬月額を計算する作業が必要になります。

平均報酬月額を算出するもととなる「報酬」は、従業員の労働の対価として支払ったものに限られます。基本給や残業手当などの諸手当は名称にかかわらず含まれます。金銭(通貨)で支払ったものだけでなく、通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも報酬に含まれますので、もれがないようにしましょう。

しかし、祝い金や見舞金、出張旅費など、臨時に支払いを行うものや年3回以下で支給される賞与などは対象外になります。

報酬に含まれるもの

  • 基本給(日給、週給、月給など)
  • 各種手当(家族手当、住宅手当、役職手当、資格手当、通勤手当など)
  • 支給回数が年4回以上の賞与
  • 現物支給したもの(通勤定期券、回数券、社宅、食事代、タクシー券、自社製品、など)

報酬に含まれないもの

  • 見舞金、祝い金、災害見舞金
  • 出張旅費、交際費など
  • 支給回数が年3回以下の賞与
  • 退職手当

標準報酬月額の算出方法

標準報酬月額を算出する手順は下記のとおりです。標準報酬月額保険料額表は、都道府県別で分かれており毎年更新されていますので、事業所のある都道府県の当該年のものを用意してください。

1.4~6月の各月の支払基礎日数を調べ、支払った報酬の月額平均を計算する

支払基礎日数とは、報酬を支払う対象となった日数のことです。月給制(欠勤控除なし)の場合はカレンダー上の日数が該当します。月給制(欠勤控除あり)の場合は、就業規則などで定められた所定の労働日数から欠勤日数を引いた日数、日給制・時間給制の場合は、出勤日数が支払基礎日数です。

フルタイムで働く方の場合、報酬の月額平均を計算する際、支払基礎日数が17日未満の月は対象外となります。

例えば、4~6月の報酬月額がそれぞれ24万円、28万円、26万円だったとします。4~6月の支払基礎日数がそれぞれ17日以上であれば、平均報酬月額は(24万円+28万円+26万円)÷3=26万円です。一方、4月の支払基礎日数が17日未満で、5~6月の支払基礎日数は17日以上だったとすれば、この場合の平均報酬月額は5月分と6月分のみで計算され、(28万円+26万円)÷2=27万円となります。

2.算出した平均報酬月額を標準報酬月額保険料額表と突き合わせて、標準報酬月額を明らかにする

算出した平均報酬月額と標準報酬月額保険料額表を突き合わせることで、各人の等級と標準報酬月額が明らかになります。

標準報酬月額の算出において注意したいケース

標準報酬月額の算出方法は先にご紹介したとおりですが、ケースによっては別の処理が必要となることもあります。例えば、下記のような場合です。

給与を翌月支払いしている場合

算定基礎届は、原則的に4、5、6月に支払われた給与を報酬月額とします。しかし、給与計算の締切日と支払日の関係によって支払基礎日数が異なります。

つまり、実務では月をまたいで給与の支払いが行われるケースもあります。月給制(欠勤控除なし)の場合の支払基礎日数は、締め日までの日数で数えられます。例えば、以下のケース25日締め、当月末日払い、末日締め翌月10日払いでは、いずれも支払基礎日数は31日です。

引用
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック新規タブで開く」より

4~6月に残業が集中する場合

毎年4~6月が繁忙期でこの時期の残業が多い場合、残業代を含めた金額で平均報酬月額を計算すると、標準報酬月額が高くなる可能性があります。

このような場合は、「4~6月の平均報酬月額から求めた標準報酬月額」と「前年の7月から当年の6月までに支給した報酬の月平均額から算出した標準報酬月額」を比較して、標準報酬月額保険料額表で2等級以上の差がある場合は、「前年の7月から当年の6月までに支給した報酬の月平均額から算出した標準報酬月額」を選べるようになっています。

このように、年間平均で標準報酬月額を算定することを「保険者算定」といいます。保険者算定を希望する場合は、別途申立書と被保険者の同意書の提出が必要です。

4~6月の3か月とも報酬の支払いがない場合

従業員の病欠などによって4~6月の3か月とも報酬の支払いがない場合は、前年の標準報酬月額や入社時に決められた標準報酬月額といった、直近で使われていた標準報酬月額をそのまま適用します。

4~6月の3か月とも支払基礎日数が17日未満の場合

フルタイムで働いている従業員で、4~6月の3か月とも支払基礎日数が17日未満の場合も、直近で使われていた標準報酬月額をそのまま適用します。

対象が短時間労働者の場合

短時間労働者とは、1週間の勤務時間と1か月の勤務日数がフルタイムで働く従業員の4分の3未満で、下記の条件をすべて満たす方のことです。

短時間労働者とみなされる条件

  • 1週間の所定労働時間が20時間(残業時間を除く)以上である
  • 1年以上の雇用見込みがある
  • 月の給料が8万8,000円(残業手当、通勤手当、ボーナスなどを除く)以上である
  • 学生(夜間、通信、定時制を除く)でない
  • 特定適用事業所、任意特定適用事業所などで働いている

特定適用事業所とは、被保険者数が常時500人を超える適用事業所(社会保険の適用を受ける事業所)を指します。任意特定適用事業所とは、厚生年金保険の被保険者数500人以下の企業に属する適用事業所で、「短時間労働者」が社会保険に加入することについての労使合意を行った事業所のことです。2016年10月に、短時間労働者に対する厚生年金保険・健康保険の適用拡大が行われ、短時間労働者も厚生年金保険・健康保険の適用対象となりました。

なお、2022年10月1日より、特定適用事業所の要件が「被保険者数が常時500人を超える適用事業所」から「被保険者数が常時100人を超える適用事業所」に変更されます。また、短時間労働者の要件も、「1年以上の雇用見込みがある」から「2か月超の雇用見込みがある」に変更されます。

短時間労働者の標準報酬月額は、支払基礎日数が11日以上ある月が算定対象となります。例えば、4月が10日、5月が12日、6月が11日なら、5月と6月に支払った報酬を足して2で割った金額が平均報酬月額となり、これを標準報酬月額保険料額表にあてはめることで標準報酬月額を求めます。

対象が短時間就労者(パートタイマー)の場合

1週間の勤務時間及び1か月の勤務日数がいずれも、フルタイムで働く方の4分の3以上ある従業員は短時間就労者(パートタイマー)となり、社会保険の加入が必須となります。

短時間就労者の場合、標準報酬月額のもととなる平均報酬月額は下記のようになります。

4~6月のうち支払基礎日数が17日以上の月が1か月以上ある場合

支払基礎日数が17日以上の月の平均報酬月額をもとに、標準報酬月額を求めます。

4~6月の支払基礎日数がすべて17日未満の場合で、うち1か月以上の支払基礎日数が15日以上ある場合

支払基礎日数が15日以上の月の平均報酬月額をもとに、標準報酬月額を求めます。

4~6月の支払基礎日数がすべて15日未満の場合

直近で使われていた標準報酬月額をそのまま適用します。

4~6月の間のいずれかに休業手当を支給した場合

4~6月の間のいずれかに休業手当を支給した場合は、7月1日時点で支給が終了していれば、4~6月のうち手当を支給しなかった月のみの平均報酬月額をもとに、標準報酬月額を求めます。7月1日時点でまだ支給している場合、休業手当を支給した月を含めて計算し、実際の報酬との乖離が大きいようなら月額変更届を提出します。

算定基礎届の記入例

対象者の支払基礎日数や平均報酬月額が確認できたら、届出用紙に記入していきます。用紙1枚につき、被保険者5人まで記入することが可能です。

ここからは、算定基礎届の記入例をいくつかご紹介しましょう。

記入例1:3か月とも支払基礎日数が17日以上の場合

引用
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック新規タブで開く」より

4~6月の3か月とも支払基礎日数が17日以上の場合、3か月分の平均で報酬月額を計算して記入します。なお、1円未満は切り捨てになります。

記入例2:支払基礎日数が17日未満の月があった場合

引用
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック新規タブで開く」より

4~6月のうち、支払基礎日数が17日未満の月があった場合、表には3か月分の金額を記入しますが、合計額欄には支払基礎日数が17日未満だった月を除いた2か月分の合計を、平均額欄には2か月分の平均を記入します。

記入例3:短時間労働者の場合

引用
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック新規タブで開く」より

短時間労働者の場合、4~6月のうち支払基礎日数が11日以上ある月のみが、平均報酬月額の計算対象となります。

記入例4:短時間就労者(パートタイマー)の場合

引用
日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック新規タブで開く」より

短時間就労者(パートタイマー)で、4~6月のうち支払基礎日数が17日以上の月がある場合は、支払基礎日数が17日以上の月のみが平均報酬月額の計算対象となります。

また、4~6月の支払基礎日数がすべて17日未満で、うち1か月以上の支払基礎日数が15日以上ある場合、支払基礎日数が15日以上の月のみが、平均報酬月額の計算対象となります。

算定基礎届の提出先や期限、提出方法

算定基礎届の提出方法と提出先は下記のとおりです。提出期間は10日間と短いので、しっかり準備しておきましょう。

算定基礎届の提出に関する情報

提出期間 7月1日~7月10日(休日に重なる場合は、翌平日)
提出先 日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所
書類の入手方法 毎年6月ごろに送られてくるほか、日本年金機構のWebサイトからもダウンロード可能
提出方法

下の4つのうちいずれかの方法で行う

  • 送付された算定基礎届に同封されている返信用封筒で管轄の年金事務所へ郵送する
  • 管轄の年金事務所窓口に直接提出する
  • 電子媒体(CD・DVD)に記録して郵送する
  • e-Gov新規タブで開くやAPIソフトを使って電子申請を行う

電子申請の義務化の方向へ

2020年(令和2年)4月から、資本金等の額が1億円を超える特定の法人などは、電子申請の義務化が始まっています。これは、政府全体で行政手続きに要する事業者の作業時間やコストを削減するため、電子申請の利用促進をはかっているためです。電子申請の流れは、今後も対象が広がっていくと思われます。

算定基礎届の作成は電子化がおすすめ

算定基礎届の作成と提出は、社会保険料額の決定に欠かせない非常に重要な手続きで、期限も大変短い期間に間違いなく行う必要があります。

一人ひとりのデータを調べる膨大な手間を省き、効率良く進めるには、算定基礎届の作成を電子化し、人事・給与データを活用して自動で作成できる体制にしておくのがおすすめです。「弥生給与」や「やよいの給与計算」なら、月々の給与計算業務だけでなく、給与情報から集計して、算定基礎届の作成がかんたんにできるので、ぜひご活用ください。

photo:PIXTA

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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
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