減価償却とは?計算方法や仕訳方法、確定申告書の作成方法を解説
監修者 : 田中卓也(田中卓也税理士事務所)

「減価償却(げんかしょうきゃく)」や「減価償却資産」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。減価償却は、企業だけでなく個人事業主もすることがありますから、どのようなものなのか知っておきましょう。
ここでは、減価償却の意味や減価償却資産とはなにか?固定資産を購入した際の会計処理の方法の他、減価償却資産があるときの確定申告書の作成方法などについて解説します。
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※2022年(令和4年)度の雇用保険は、2段階更新です。詳細は、「【2022年度の雇用保険は2段階更新!】労働保険とは?制度と年度更新について解説」を参照ください。
目次
減価償却とは、使用することで価値が減少する固定資産を耐用年数に応じて経費にすること
減価償却とは、事業主が事業で使用する固定資産をそれぞれの資産の「耐用年数」に応じて「取得価額」を分割して経費計上する会計処理の方法です。使用することや時間が経過することで価値が減少する固定資産のことを「減価償却資産」といいます。
なお、耐用年数は、法律上、減価償却資産を費用配分できる年数(会計上の資産価値、つまり帳簿価額が0になるまでの年数)のこと。減価償却資産の耐用年数は、税法上品目別に細かく定められています。
例えば、40万円で接客用の応接セットを買ったとしましょう。応接セットの耐用年数は8年(接客業を除く)です。このような場合に、「40万円を購入した年に全額経費として計上するのではなく、毎年5万円ずつ、8年間経費計上する」というのが、減価償却の考え方になります。
そして、原則として、取得価額は減価償却資産を購入した代金とその資産を事業用として使用するために直接かかった費用を含むことができます。運送費や購入手数料、関税などその資産の購入のために要した費用などです。
固定資産とは?
固定資産とは、事業主が長期的に保有する資産や、1年以上継続的に使用する、もしくは長期間保有して現金化・費用化する資産のことです。具体的には、建物や機械設備、車、パソコンなどが該当します。また、ソフトウェアや特許権や営業権といった権利のように形のない固定資産もあります。これを、無形固定資産と呼びます。
なお、企業が保有する資産には、固定資産の他に流動資産があります。流動資産とは、固定資産とは反対に、1年以内の短期に利用する資産や現金化が可能な資産のことです。具体的には、売掛金や現金、商品在庫などが該当します。
減価償却ができる固定資産
減価償却ができる固定資産は、業務で利用するために購入し、使用や時間の経過とともに資産価値が減少していく物が該当します。
なお、固定資産であっても、取得価額が10万円未満の物は減価償却せず、消耗品費として全額を一括費用計上します。
なお、取得価額が10万円未満であるかどうかの判定ですが、税抜経理方式を適用している場合は、消費税等抜きの価額を取得価額、税込経理方式を適用している場合は、消費税等込みの価額を取得価額として判定します。
例えば、税抜金額が98,000円のパソコンを取得した場合、税込金額は107,800円となるため、10万円未満であるかどうかの判定は税抜経理方式を適用している場合と税込経理方式を適用している場合とで分かれるということです。
【減価償却できる固定資産の例】
- 建物
- 車
- エアコン
- 看板
- 10万円以上のパソコンなどの備品
- 工場設備
- 厨房機器
- ソフトウェア
- 特許権
- 営業権
- 商標権 など
ほかには、牛や馬などの家畜や果物の樹木などの生物も資産として減価償却を行います。生物の場合、対象の生物がその成熟の年齢や樹齢に達した月(成熟の年齢もしくは樹齢に達した後に取得したものは、取得した月)から減価償却を行うことができます。
例えば、乳牛を仔牛の段階で取得した場合、乳牛として事業に使用する年齢になったら減価償却を行います。

なお、事業で使用するまでにかかった育成費用は経費で計上します。ミカンやリンゴ、ぶどうなどの果樹も同様に果実を収穫して、事業用として使用できるまでにかかった金額を育成費用として計上します。成熟した時点で、それまでの育成費の合計額を「乳牛」や「ぶどう樹」として減価償却資産へ振り替えるのです。
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固定資産の耐用年数
購入した資産の耐用年数がわからないと、減価償却費の計算ができません。それぞれの減価償却資産の耐用年数は、品目ごとに細かく定められているので、国税庁のWebサイトなどを確認の上、計算を行いましょう。
ここでは、耐用年数の一例を紹介します。
【法定耐用年数の例】
- 事務所(木造):24年
- 事務所(鉄骨鉄筋コンクリート):50年
- パソコン:4年
- 事務机、椅子、キャビネット(金属製):15年
- 事務机、椅子、キャビネット(金属製以外):8年
- 冷暖房機器(建物付属設備以外):6年
- 看板、ネオンサイン:3年
- 普通自動車:6年
※国税庁:No.2100 減価償却のあらまし
減価償却ができない固定資産
固定資産であっても、業務に使っていない資産や、時間を経ても価値が減少しない資産については、減価償却をすることができません。
【減価償却できない固定資産の例】
- 土地
- 借地権
- 骨董品
- 現在事業に使っていない設備 など
同じ不動産でも、建物は経年により劣化しますが、土地や借地権は劣化することがありません。また、歴史的な価値のある骨董品などは、経年によって価値が下がるとは考えにくいでしょう。このような固定資産は、減価償却の対象外です。
また、以前事業に使っていた設備でも、現在は使っていないのであれば、減価償却資産には該当しなくなります。
中小企業者・個人事業主が利用できる減価償却の特例
中小企業や個人事業主は、減価償却の特例を利用することができます。中小企業や個人事業主が利用できる2つの特例制度の内容を知り、経営に役立てましょう。
一括償却資産
一括償却資産とは、10万円以上20万円未満の固定資産を購入した際に、3年間で3分の1ずつ経費算入できる制度のことです。この制度を利用する場合は、耐用年数にかかわらず、3年間で均等に経費計上することができます。したがって、月数按分をする必要もないかわりに、除却の事実が生じた場合であっても引き続き3年間で均等に経費計上するということになります。
一括償却資産にするか、一般的な方法で計上するかは、事業主が任意で選択することが可能です。有利だと思われる方法で申告しましょう。
なお、一括償却資産の利用は事業の規模に関係なく、どの事業主でも可能です。
少額減価償却資産の特例
少額減価償却資産の特例は、10万円以上30万円未満の固定資産を購入した際、一括で経費計上できる制度です。下記の条件に当てはまる中小企業や個人事業主が利用できます(年間300万円以内)。
【少額減価償却資産の特例を利用できる事業主】
- 青色申告をしている
- 常時雇用する従業員が1,000人以下(2020年4月1日以後に取得などする場合は500人以下。連結法人を除く)
- 資本金または出資金が1億円以下(大規模法人が株主である場合など一部を除く)
青色申告をしている個人事業主や、従業員が数十人規模の中小企業などであれば、ほぼ対象になると考えていいでしょう。
このような事業主が10万円以上30万円未満の固定資産を購入した場合、購入した固定資産は「減価償却資産」に該当します。10万円未満の資産を購入した場合のように、「消耗品費」などで処理をすることはできません。なお、購入した固定資産の額は、同時に使うすべての器具を合算して算出します。
例えば、一度に利用するために「ディスプレイとキーボードと外付けHDDとパソコンを買った」という場合、すべてをセットとして考えます。この合計額が30万円を超えてしまうと、少額減価償却資産の特例が使えなくなってしまうので気をつけてください。
なお、令和4年度の税制改正では、即時償却や一括償却資産に該当する資産から「貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供した資産」は、対象外となり、通常の減価償却により損金算入することとなります。主要な事業として行われるものを除くため、リース業やレンタル業の事業者が保有する固定資産については、貸付けを行っても少額減価償却資産の特例で減価償却をすることができます。
なお、令和4年税制改正により令和4年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合とされていたものより2年間期限が延長されましたが、2年間の時限立法であるため、「更新されるかどうか」に注意する必要があります。
減価償却の会計処理方法
減価償却の会計処理をする際には、仕訳方法と計算方法を選択する必要があります。ここでは、それぞれの方法について説明します。
仕訳方法
減価償却資産を購入した際の仕訳方法には、「直接法」または「間接法」があります。例として、パソコン(法定耐用年数4年)を32万円で購入した場合について見ていきましょう。
【パソコンを32万円で購入した場合の例】
- 取得原価:32万円
- 法定耐用年数:4年
- 1年間の減価償却費:8万円
直接法
直接法は、減価償却費について、直接固定資産の額から差し引いていく方法です。今現在の固定資産の価値がどのくらいなのか、わかりやすいという特徴があります。
直接法では、決算時に当年の減価償却費として計上する金額を、下記のように仕訳します。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
減価償却費 | 80,000 | 固定資産 | 80,000 |
間接法
間接法では、減価償却の額を固定資産から減じるのではなく、減価償却累計額として計上します。減価償却の累計額がわかりやすい方法です。
間接法で仕訳をする場合は、下記のようになります。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
減価償却費 | 80,000 | 減価償却累計額 | 80,000 |
なお、直接法と間接法、どちらで仕訳をしたとしても、納める税金の金額は変わりません。
計算方法
減価償却をする際は、決算時に減価償却額の計算を行うのが通常です。なお、金額を12分割して、月次で計上することも可能です。計算方法は、「定額法」と「定率法」の2種類があります。
定額法
定額法とは、毎年同額の減価償却費を計上する方法です。
定額法の減価償却費=取得価額×定額法の償却率
償却率は、省令によって定められています。なお、定額法で減価償却をする場合、最後に「固定資産がまだ残っている」ということを示すために、1円を残します。そのため、最後の年のみ、他の年よりも減価償却額が1円少なくなります。
例)15万円のカメラを購入した場合 ※個人事業主が20××年1月に購入

定率法
定率法とは、毎年一定割合ずつ減価償却費を計上する方法です。
定率法の減価償却費=(取得価額-前年までの減価償却累計額)×定率法の償却率
定率法では、基本的に年々減価償却額が減少していきますが、償却額が償却補償額を下回った年以降は、毎年同額が計上されます。その際の計算方法は、「償却保証額を下回った年の期首の未償却残高×改定償却率」です。
なお、個人事業主は、原則としてすべての減価償却費を定額法で償却します。ただし、車両、工具器具備品、機械装置の場合は、減価償却資産の償却方法を変更しようとする年の3月15日までに税務署へ届出をすることで定率法も選択可能です。
一方、法人は車両、工具器具備品、機械装置を定率法で償却するのが原則ですが、事業年度開始の日の前日までに償却方法を変更しようとする理由などを記載した「減価償却資産の償却方法の変更承認申請書」を所轄税務署長に提出した上で定額法も選択可能です。それ以外の減価償却費は、法人も定額法で償却します。
なお、個人事業主の場合には減価償却は強制適用、法人の場合には任意適用です。そもそも法人税に規定してあるのは「減価償却限度額」なのでその範囲内であれば減価償却をするか、しないかは任意となります。ただし、金融機関から融資を受けたいというのであれば、減価償却をきちんと行った上で「黒字決算」にすることが望ましいでしょう。
ケース別・減価償却の方法
減価償却の方法について、期の途中で取得して業務使用を開始したり、新品ではなく中古品を購入した場合など、計算の方法について迷うこともあります。
続いては、特に個人事業主が減価償却の方法について迷いがちな、3つのケースについて解説します。
中古資産を購入した場合
事業用に中古の資産を取得した場合、その資産の耐用年数は法定耐用年数ではなく、事業用に使用開始した以後の使用可能期間を見積もった年数とすることができますにします。
また、中古の資産の場合、「1.法定耐用年数の全部を経過した資産」なのか「2.法定耐用年数の一部を経過した資産」なのかで計算方法が異なります。
- 法定耐用年数の全部を経過した資産
その法定耐用年数の20パーセントに相当する年数で計算する。 - 法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20パーセントに相当する年数を加えた年数で計算する。
また、中古の固定資産は、取得価額によって処理方法が変わるので注意が必要です。例えば、中古の資産を業務に使用するために修理をしたり、改造をすることもあるでしょう。それにより、同じものを新品で取得した場合の価額の50%相当額を超える場合は、新品と同様の耐用年数とみなされます。
一方、新品取得価額の50%以下のときは、以下のように耐用年数を算出します。中古車を取得した場合の例で説明します。
【購入した中古車の取得価額が新車の50%以下だった場合の耐用年数】
中古車の耐用年数=(法定耐用年数-初度登録後の経過年数)+(経過年数×20%)
例えば、初年登録から5年経っており、価格が新車の50%以下の中古車を購入したときの耐用年数(普通車・新車の場合の耐用年数6年)は下記のとおりです。
(6年-5年)+(5年×20%)=2年
中古の固定資産は、新品に比べ耐用年数が短いので、早く費用にすることができます。節税になるといわれているのはこのためです。
なお、1年未満の端数が出る場合は、端数を切り捨てます。また、計算式で出た数値が2年に満たない場合は、耐用年数は2年となります。
また、中古の固定資産の耐用年数の算定は、その資産を事業用に使用開始した事業年度に算出します。そのため、その事業年度に耐用年数の算定をしなかったときは、その後の事業年度では耐用年数の算定をすることはできません。
期の途中で減価償却資産を購入した場合
期の途中で減価償却資産を購入した場合は、購入した月から減価償却費の計算を行います。通常の減価償却計算で求めた一年間の減価償却費のうち、業務の用に供した月分だけ計上しましょう。
例えば、個人事業主の場合で取得価額に償却率を掛けた金額が一年間の減価償却費が3万円、購入が10月の場合、初年度の減価償却費は下記のようになります。
例)15万円のカメラを購入した場合 ※個人事業主が20××年10月に購入

事業とプライベート両方で利用する場合
車やパソコン、スマートフォンなど、事業とプライベート両方で利用する固定資産を購入したときは、事業に使う分だけを経費として計上します。これを、家事案分といいます。
例えば、取得価額に償却率を掛けた金額が3万円、事業とプライベート半々で利用している場合、減価償却費は下記のようになります。
3万円×50%=1万5,000円
減価償却がある場合の確定申告書の作成方法
減価償却資産があるときは、青色申告決算書3枚目の「減価償却費の計算」に計算式を記入する必要があります。

具体的な書き方は、計算方法や取得時期などによって異なります。また、2007年の税制改革で減価償却の計算方法が変わり、定額法は「旧定額法」、定率法は「旧定率法」と名称が変更となりました。
2007年3月31日以前に取得した減価償却資産については旧定額法、旧定率法で計算されます。ここでは、2007年4月1日以降に取得した減価償却資産を定額法で償却する場合の書き方について解説します。
減価償却資産の名称等
購入した減価償却資産の種類などを記入します。
面積又は数量
減価償却資産の面積や数量を記入します。
取得年月
減価償却資産を取得した年と月を記入します。
(イ)取得価額
該当の償却資産の購入金額を記入します。
(ロ)償却の基礎になる金額
取得価額と同じ額を記入します。
償却方法
「定額法」と記入します。
耐用年数
該当の減価償却資産の耐用年数を調べて記入します。
(ハ)償却率又は改定償却率
該当の減価償却資産の償却率を調べて記入します。
(ニ)本年中の償却期間
今年の償却期間を記入します。前年以前に購入した場合は12月、今年購入した場合は、購入した月以降の月数を記入します。
(ホ)本年分の普通償却費
(ロ)×(ハ)×(二)の計算結果を記入します。
(ヘ)割増(特別)償却費
特別償却の適用などを受ける場合に記入します。該当しなければ、「‐」などを記入します。
(ト)本年分の償却費合計
(ホ)+(ヘ)の金額を記入します。
(チ)事業専用割合
家事按分がある場合は、事業に利用している分を記入します。すべて事業用の場合は100です。
(リ)本年分の必要経費算入額
(ト)×(チ)の金額を記入します。
(ヌ)未償却残高(期末残高)
今年購入した資産は(イ)-(ト)、前年以前に購入した資産は、前年末の未償却残高(取得価額-前年末までの減価償却費の累積額)-(ト)を記入します。
摘要
取得資産が中古の場合に「中古」と記入するなど、上記の他に記入すべき事項を書き入れます。
減価償却資産を購入したときは計上方法に注意しよう
減価償却資産を購入した場合は、経費計上にあたって減価償却を行わなければいけません。通常の経理処理とは方法が異なるため、間違いのないように慎重に書類作成を進めましょう。
「やよいの青色申告 オンライン」なら、10万円以上のものを購入すると固定資産の登録の案内が表示されます。固定資産の登録を行うと自動で減価償却の計算が行うことができます。確定申告手続きにかかる手間を削減できますので、ぜひご活用ください。
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