財務諸表とは?種類と財務三表の読み方、分析方法
監修者 : 田中卓也(田中卓也税理士事務所)

自社の経営状況や活動を数字で客観的に示した計算書が、財務諸表です。財務諸表は、金融商品取引法によって、事業報告のために作成しなければならないと定められています。また、会社法によって株主総会への提出・提供が義務付けられているほか、10年間の保管が義務つけられている大切な書類です。
なお、財務諸表は「諸表」とあるように、ひとつではなく、複数の計算書が該当します。本記事では、特に重要な財務三表を中心に、作成する理由や読み解き方について見ていきましょう。
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目次
財務諸表とは?
財務諸表とは、ある会計期間における企業の経営成績や財政状態などをまとめた計算書のことです。企業は、決算の際に財務諸表を管轄の税務署に提出しなければいけません。なお、一般的に「決算書」と呼ばれている書類は、この財務諸表のことを指しています。
財務諸表は、企業と利害関係がある相手(株主や融資を受けている借入先、新たに取引を希望する取引先など)に、企業の経営成績や財政状態を開示するために活用されます。また、企業側も、財務諸表を分析することで自社の状況を客観的に把握できますから、経営方針の策定などに役立つでしょう。
財務諸表の種類
財務諸表には、以下のような種類があります。具体的にどれを作成するのかは、企業の規模によって異なります。
- 損益計算書(P/L)
- 貸借対照表(B/S)
- キャッシュ・フロー計算書(C/F)
- 株主資本等変動計算書(S/S)
なお、財務諸表の中で、特に重要な「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュ・フロー計算書」の3つの計算書を、財務三表(ざいむさんひょう)と呼びます。
このうち、損益計算書と貸借対照表(※)は、青色申告をしている個人事業主とすべての法人が作成しなければいけない書類です。一方、キャッシュ・フロー計算書は、大企業に作成が義務付けられています。
(※)貸借対照表は、個人事業主が青色申告の最大65万円もしくは最大55万円の青色申告特別控除を受ける場合の要件です。最大10万円の青色申告特別控除の場合は不要です。
損益計算書(P/L)とは?
損益計算書は、収益・費用・利益が記載されているものです。英語の「Profit and Loss Statement」を略して「P/L」とも呼ばれます。つまり、企業の利益がどの程度で、どのような理由で利益を上げているのかを示すものです。ある会計期間(通常1年)の合計額を記します。
企業だけでなく、事業所得のある個人事業主も、所得税の確定申告の際に作成・提出が必要です。
損益計算書に書かれていること
損益計算書は、法人の場合、「経常損益の部」「特別損益の部」「その他」の3つのブロックに分けて記載します。
個人事業主が所得税の確定申告で活用する場合、青色申告事業者であれば青色申告決算書、白色申告事業者であれば収支内訳書を作成することになります。それぞれ一般用・農業所得用・不動産所得用にわかれるので納税者個々人の事情に応じて活用する様式が異なってきます。
経常損益の部
経常損益の部は、「営業損益の部」と「営業外損益の部」に分けられます。
営業損益の部には、「売上高」と「売上原価」「販売費および一般管理費」「営業利益」が記載されます。売上高から売上原価を引くことで「売上総利益(粗利)」がわかり、売上総利益から販売費および一般管理費を差し引くことで「営業利益(本業の営業活動で稼いだ額)」がわかります。
営業外損益の部には、「営業外収益」と「営業外費用」を記載します。これらは、通常の営業活動以外の項目、つまり「営業外収益」には受取利息や受取配当金、為替差益や雑収入など、「営業外費用」には支払利息や支払割引料、為替差損などを記載します。また、「営業利益」に「営業外収益」を加算し、「営業外費用」を減算して「経常利益」を記載します。
特別損益の部
特別損益の部には、臨時的な損益について記載します。固定資産や投資有価証券の売却といった「特別利益」と、投資有価証券の売却による損失といった「特別損失」を記載します。
その他
損益計算書の最後には、「経常利益」に「特別利益」を加算、「特別損失」を減算し「税引前当期利益」を算定しますと。その後「税引前当期利益」から法人税や住民税といった税金を差し引いた「当期利益」について記載します。
損益計算書からわかること
損益計算書を見れば、自社が赤字かどうか、一目でわかります。さらに、営業損益の部、営業外損益の部、特別損益の部、それぞれについて見ていくことで、何によって利益を上げているのかを知ることもできるでしょう。
例えば、営業損益の部が黒字であれば、本業で十分な利益を上げられているということになります。一方、当期利益はプラスだが営業損益の部がマイナスという場合、本業以外の部分で資金を補っているだけで、本業で稼げていないということです。
このような状況を把握することは、今後の経営方針の策定に役立ちます。一方で、損益計算書を見ても「今、自社がどのくらいお金を持っているのか」「自社の余力はどのくらいなのか」といったことはわかりません。
貸借対照表(B/S)とは?
貸借対照表は、あるタイミング(基本的に決算日)に企業が保有している資産と負債の状態、あるいはそのバランスを示す計算書です。貸借対照表は英語で「Balance Sheet」といいます。そこから、バランスシートと呼ばれたりするため、略して「B/S」とも呼ばれます。
貸借対照表は、すべての企業が作成しなければならないほか、個人事業主でも、青色申告で最大65万円の特別控除(もしくは55万円の特別控除)を受ける場合は、作成が義務付けられています。
貸借対照表に書かれていること
貸借対照表は、3つのブロックで構成されています。左側に「資産」、右側に「負債」と「純資産」が書かれていて、左側と右側の合計額は必ず一致します。
また、基本的にどのブロックも、流動性が高いもの、つまり資産であれば現金として回収できる頻度が高いもの、負債であれば現金が流出する頻度が高いものから記載するのが基本的なルールです。
資産
資産は、「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3ブロックに分けられます。
流動資産とは、現金や預金、受取手形、売掛金、有価証券、棚卸資産など、流動性が高く短期間で現金化が可能な資産のこと。固定資産とは、建物や土地、車、設備、ソフトウェアなど、現金化が難しいものを指します。
そして、繰延資産は、開業費のように1年以上にわたって効果を得られる費用を資産計上して、少しずつ償却していく際に利用されます。実際に企業が保有していて現金化できる資産というわけではなく、将来一定期間にわたって費用化していくものということで会計上、資産に分類されます。
負債
負債は、「流動負債」と「固定負債」に分けられます。
流動負債は、支払手形や買掛金、短期借入金のような短期的に支払う予定の負債、固定負債は、長期借入金のような1年以上後に支払う負債のことです。
純資産
純資産には、資本金や資本剰余金、利益剰余金など、返済する必要のない出資と利益の蓄積お金を記載します。
貸借対照表からわかること
貸借対照表を見ることで、企業がどのように資金調達をしているのか(他社から借りているのか、自己資本が多いのか)や、資産をどのように事業に活用しているのかがわかります。
例えば、流動資産の多い企業は、現金化しやすい資産を多く持っているということになります。反対に、流動負債が流動資産を上回っている場合、資金繰りが厳しくなる可能性が高いと考えられるでしょう。
ただし、貸借対照表はあくまでもある特定の時点での状況ですから、年間の資金の動きや現金の流れなどはわかりません。
キャッシュ・フロー計算書(C/F)とは?
キャッシュ・フロー計算書には、一定期間の現金の増減とその理由が書かれています。英語で「Cash Flow Statement」略して「C/F」とも呼ばれます。損益計算書や貸借対照表とは異なり、英語の通り、あくまでも現金の流れについて書かれているため、帳簿上の数字ではなく現実に即した資金繰りの状況がわかります。
なお、キャッシュ・フロー計算書の作成が義務付けられているのは、大企業のみですが、中小企業や個人事業主でもキャッシュ・フロー計算書を作成して、資金の流れを把握することは重要です。
キャッシュ・フロー計算書に書かれていること
キャッシュ・フロー計算書は、企業の現金の動きを「営業活動によるキャッシュ・フロー」「投資活動によるキャッシュ・フロー」「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3つに分けて記載します。
営業活動によるキャッシュ・フロー
税引前当期純利益と減価償却費、売上債権・棚卸資産・仕入債務等の増減、法人税などの支払い額をそれぞれ記載し、合計額を算出します。
投資活動によるキャッシュ・フロー
固定資産や有価証券の購入や売却といった、投資活動によるお金の動きと増減の合計額を記します。
財務活動によるキャッシュ・フロー
借入金の増加や返済によるお金の動きと、増減の合計を記します。
キャッシュ・フロー計算書からわかること
キャッシュ・フロー計算書を見ると、営業活動、投資活動、財務活動それぞれによって、現金がどのように変化したのかがわかります。
損益計算書でも営業利益や当期純利益などを見ることができますが、こちらは売上を立てた時点で計上されるため、実際の現金の動きとは乖離がある可能性があるでしょう。
キャッシュ・フロー計算書を見ることで、企業のお金の動きに問題がないか、キャッシュがショートして黒字倒産といった事態に陥るリスクがないかといったことがわかります。
ただし、キャッシュ・フロー計算書ではあくまでもキャッシュの増減を見るものですから、今現在企業が保有している現金の額などはわかりません。
財務三表からわかること
財務三表を組み合わせて読み取り、分析を行うことで、その企業の総合的な経営状態がわかります。財務三表の代表的な5つの分析手法について紹介します。
収益性の分析
収益性の分析とは、企業がどのくらい収益を上げる力を持っているか調べる手法です。主に、損益計算書(一部、貸借対照表)の数字から計算できる比率を使います。収益性の分析に使われることの多い指標には、下記のようなものが挙げられます。
これらの指標は、どれも高いほど収益性が高く、効率の良い経営が行えているといえるでしょう。
売上高営業利益率
売上高営業利益率を求める計算式は、「営業利益÷売上高×100」です。営業利益が全体の売上の何%を占めているかがわかります。
総資本利益率
総資本利益率は、「当期純利益÷総資産×100」で求めます。総資産に対し、どの程度の利益を上げられているかを示す指標です。なお、総資産は貸借対照表に記載されています。
売上高総利益率
売上高総利益率は、「売上高総利益÷売上高×100」で求めます。いわゆる「粗利」がどの程度かがわかる指標です。
安全性の分析
安全性の分析とは、企業が有する支払い能力がどの程度あるかを分析する手法です。貸借対照表の数字をもとに、下記のような指標を用いて分析を行います。
どの比率も、高いほど企業の安全性が高く、支払い不能に陥る危険性が低いと言えるでしょう。
流動比率
流動比率は、「流動資産÷流動負債×100」で求められます。企業が抱える負債に対する資産の割合を示す比率で、100%を超えていれば、現在の負債分を支払う能力があるということになります。
なお、経済産業省の調査によると、主要産業の一企業当たり資産、負債の内訳および純資産から見る流動比率の平均は139.6%です。
※経済産業省:「2021年経済産業省企業活動基本調査(2020年度実績)」
当座比率
当座比率は「当座資産÷流動負債×100」で求めることが可能です。上記の流動比率には棚卸資産が含まれることから、実際には支払いに使えない物まで含んだ比率が出てしまいます。その企業の、より正確な支払い能力は、当座比率を見ることでわかります。
なお、貸借対照表に「当座資産」という項目はありません。特に換金性が高く、すぐに使えるものをピックアップして算出します。具体的には、現金、預金、売掛金等が該当します。
自己資本比率
自己資本比率は「自己資本÷総資本×100」で求めます。総資本のうち、返済の必要がない資本がどの程度あるのかがわかります。
効率性の分析
企業がどのくらい効率良く利益を上げられているかを見るために、効率性の分析が行われます。効率性の分析には、損益計算書と貸借対照表の数字を活用します。
総資産回転率
総資産回転率の計算式は「売上高÷総資産×100」です。売上高は損益計算書、総資産は貸借対照表に書かれています。総資産回転率は、総資産がどれだけ効率的に売上を生み出したかという効率性を表す指標で、この値が大きいと効率性が良いと評価されます。
売上債権回転期間
売上債権回転期間は、「売上債権÷(売上高÷12)」で求めることが可能です。売上債権は貸借対照表、売上高は損益計算書に記載されています。
売上債権回転期間からは、売上債権をどのくらいの期間で回収できるかがわかります。この期間が短いほど、売上を早期に現金化できるため、効率の良い資金繰りができていると考えられるのです。ただし、売上債権回転期間は、業界や企業規模によっても変動します。
在庫回転期間
在庫回転期間は「棚卸資産÷売上原価÷12)」で計算できます。在庫回転期間は、在庫がどのくらいの期間で売れているかを示す数字です。期間が短いほど、効率良く在庫をさばけていることになります。
棚卸資産は貸借対照表、売上原価は損益計算書に書かれていますが、棚卸資産の在庫の変動が大きい業態は当然季節変動が生じますので、できれば商品の種類ごとに毎月、あるいは四半期ごとにみていくほうがいいでしょう。
生産性の分析
生産性の分析とは、企業の持っている経営資源をどの程度活かせているかを計るためのものです。ここでは例として、従業員の生産性に関する指標を2つご紹介します。
労働生産性
ここでいう労働生産性とは付加価値労働生産性のことを指します。付加価値労働生産性は「付加価値÷従業員数」で求めることが可能です。労働生産性を見ることで、1人あたりの従業員がどのくらいの付加価値を生み出したかがわかります。
なお、「付加価値」とは、売上の額から材料費や外注費などを除いた金額のことです。また、経常利益に人件費や賃借料、租税公課、金融費用(支払い利息など、資金調達に必要な費用のこと)を足すことでも求められます。
配労働分配率
労働分配率の計算式は「人件費÷付加価値×100」です。生み出された付加価値が、従業員にどのくらい還元されているのかがわかります。
労働分配率は、低いほど人件費を抑えて付加価値を生み出せているといえますが、従業員への適切な還元も必要です。低いほど良い、高いほど良いというものではありません。自社にとって適切なバランスであることが大切です。
成長性の分析
成長性の分析は、企業が長期的に成長していけるかどうかを計るための分析手法です。単年の結果を見るのではなく、売上高や経常利益、従業員数などの推移で分析を行います。
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