「好きなことで起業」vs「好きなことでは起業しない」結局どっちがいいの?起業のプロに聞く!

2023/12/04更新

この記事の執筆者阿部桃子

好きなことで起業する――そんな夢を叶えられたら素敵ですね。しかしその一方で、「好きなことでは起業しない方がいい」「好きなこと=趣味は趣味のままが幸せ」といった声も聞かれます。

一体どちらが正解なのでしょうか?

起業コンサルタント®として多くの起業家の相談を受け、10年連続面談相談者数全国1位、『相談件数No.1のプロが教える 失敗しない起業 55の法則新規タブで開く』等多数のビジネス系の著書を持つ、V-Spirits代表の中野裕哲先生に伺いました。

中野 裕哲(なかの ひろあき)

起業コンサルタント®、税理士、特定社労士、行政書士、CFP®。起業コンサルV-Spiritsグループ代表(税理士法人・社会保険労務士法人・行政書士法人・株式会社V-Spirits/V-Spirits会計コンシェル・給与コンシェル・FPマネーコンシェル・経営戦略研究所株式会社)。
株式会社ハンズオン 代表取締役。
年間約300件の起業相談を無料で受託し、起業家をまるごと支援。起業支援サイト「DREAM GATE新規タブで開く」で10年連続相談数日本一。著書・監修書に『一日も早く起業したい人がやっておくべきこと・知っておくべきこと』(明日香出版社)、『ネコ先生がやさしく教える 起業のやり方』(アスカビジネス)がある。
Webサイト:V-Spirits新規タブで開く

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起業で大事なのは「3つの輪」+お金のこと

今日は「好きなことで起業」vs「好きなことでは起業しない」、どっちがいいか?というテーマで中野先生にお話をお聞きします。最初にズバリ、中野先生はどちらが良いかと思われますか?

中野裕哲先生(以下、中野):僕は個人的に、できることなら好きなことで起業した方が良いとは思いますね。趣味の延長のようなかたちで好きなことをして成功できれば、それ以上幸せなことはないでしょう。

とはいえ、もちろんそれは簡単なことではありません。まず前提として、僕が起業の相談を受けたときに、ビジネスとして成功するか否かの指標として必ずチェックしている「3つの輪」というものがあります。

「3つの輪」、ですか。

中野:はい。最初にその事業が「①自分が好きなこと(したいこと)」であるか。次に「②自分ができること」であるか。これは単にできるというより、「自分が際立ってできること=得意なこと」であるか、が大事です。そして「③社会のニーズ」を満たしているか。この3つの輪が重なっている中心の領域で起業すると、成功する確率が高まります。

その上で、その事業は「④お金になるか、ならないか」を見ます。ビジネスにするのであれば、いくら社会のニーズがあったとしてもお客さんがお金を払ってくれなければ、赤字を垂れ流すだけですからね。

中野先生が提唱する、起業で考えるべき「3つの輪」

でも、好きなことで起業しよう!と突っ走っていると、③の社会のニーズを把握したり、④の事業の収益性について考えるのはなかなか難しい気もするのですが……。

中野:その通りです。好きなことで起業しようとして失敗する人の典型例として、「お金にならないこと」「ニーズのないこと」で起業してしまう場合が多いです。

例えば、サッカーが好きなのでチーム内で集合場所などの連絡を取り合ったり、スケジュールや試合結果などを共有するサッカープレイヤー専用のアプリを作ってビジネスにしようと意気込む人がいたとします。

しかしよく考えると、それってFacebookで済むのでは?と思いませんか。サッカー好きのためのマッチングアプリにはいくらでも代替手段があり、お金を払ってまで欲しいサービスではなかった。

「好きなことで起業する」と言っても、3つの輪の中心で行わなければ失敗に終わる可能性が高くなってしまいます。

好きなことで起業した成功例 独創的なケーキ屋さん

自分の大好きなことをビジネスにできたら最高ですが、やはり難しいことなのですね……。好きなことで起業するのは諦めた方が良いでしょうか。

中野:いえ、諦めるにはまだ早いですよ。少し事例をお話ししましょう。

僕のクライアントで、大好きなことで夢を叶えた方がいます。その方はケーキづくりが大好きだから、ケーキ屋さんを開業したいと僕のところに相談に来たんです。子どもの頃からケーキ作りが大好きで、小学生のときはほぼ毎日ケーキを焼いて、大人になってからもケーキ屋さんで修業を積んできたような方でした。

ケーキ屋さん! たしかに好きなことで起業したいという例ですね。

中野:ただ、世の中にケーキ屋さんはたくさんありますし、チェーン店を持つ大手もあります。だから何か強みがなければ、ケーキ屋さんをビジネスとして成り立たせることはできませんよね。

しかしその方が最初に僕のところに相談に来たとき、試作したケーキの写真を100個以上も見せてくれたんです。そして、それがすごく精巧なつくりなんですね。彼の場合、何でもケーキにできちゃうんですよ。だからオーダーメイドにも対応できるケーキ屋さんをやりたいと言うんです。

例えば、「有名キャラクターのケーキを作って欲しい」という依頼があったとします。普通はオーダーメイトのケーキって、丸いケーキにイラストを印刷したチョコレートを載せたものが多いのですが、彼は顔だけでなく、キャラクターの特徴的な部分などのパーツすべてを立体的に表現したケーキを作れるんです。

彼の持ってきた写真には、そのような独創的なケーキがたくさんありました。僕はそれを見て「絶対上手くいく!」と確信できました。先ほどの3つの輪の中心のビジネスであり、消費者もお金を払ってくれるはずです。

もちろん手間もかかるし、本人は大変だとは思います。しかし、そこは「好き」という情熱でやっているから、「大変」とか「苦労している」とかは全然感じないみたいです。

好きなことで起業するとそういう良さがありますよね。彼はその後自分のお店をオープンして、成功したのでしょうか。

中野:お金儲けで成功しているかといえば、それは違うかもしれません。とにかく売上を上げて東証一部に上場するほどのケーキ屋さんを作りたいなら、もっとシンプルな工程のケーキを大量生産して、冷凍して通販で送ったほうがいいですからね。

でも、彼は自分の店をオープンして、やりたい方法で作りたいケーキを作って、一定の利益を上げて、なによりも彼自身が毎日楽しんでいます。その人にとっては、それが「成功」と考えていいのではないでしょうか。

好きなこと以外で起業した成功例 メンズ脱毛サロン、バナナジュース屋……世の流れを読んだ起業

逆に、好きなことで起業したわけではないけれど、成功した特徴的な例はありますか?

中野:たくさんありますよ。現在メンズ脱毛サロンを10店舗以上経営している方の例をお話しましょう。

彼は5年ほど前に相談に来て、メンズ脱毛サロンを始めたいと言いました。当時はメンズ脱毛という概念自体が世の中にほとんどなかった状況です。なので、日本政策金融公庫にお金を借りにいっても、「こんなの商売になるんですか?」と言われ、相手にしてもらえませんでした。

そこで彼は、知り合いや道行く人たちに片っ端から、「メンズ脱毛があったらいきますか?」「いくらならやりますか?」とアンケートをとったそうです。その結果、多くの人が脱毛肯定派であることが分かった。男性の場合、ニーズがあるのはひげ脱毛です。毎日剃るのは面倒ですからね。

それで本人も自信を持ってアンケート結果を提出して日本政策金融公庫さんを説得し、融資を受けることができました。そして5年経ちメンズ脱毛が当たり前の文化になって彼は今、複数店舗を経営しています。

彼の場合、特に脱毛が「好き」という訳ではなかったそうです。ただ、妹さんが女性向けの脱毛サロンにお勤めしていて、ふと、「なぜ男性にはないんだろう?」とビジネスアイデアがひらめいたようです。

冷静に世の中の流れを読むことができたんですね。

中野:あるいはこんな例もあります。現在バナナジュース屋さんを何店舗も展開して売上を上げている方がいます。その方はコロナ禍や緊急事態宣言で飲食店が営業できない間、店舗を持て余しているのをじっと観察して、「お店が空いている時間にテイクアウトのバナナジュースを売りませんか?」と営業したそうです。それがうまくいき、バナナジュースを流行させました。

アンテナを張って、世の中の流れを見て、ビジネスに繋げた訳です。ちなみに、その方も特にバナナジュースが好きではないようです(笑)。

なるほど(笑)。好きなことで起業しなくても、成功している例はたくさんあるのですね。

中野:自分の好きなこと起点で起業を考えない場合、ビジネス目線から起業を考えることになるので、冷静にニーズやトレンドを読む必要があります。メンズ脱毛とバナナジュースの例はその精度とタイミングが良かったと言えます。

もうひとつ、先ほどの3つの輪の①では「好きなこと(したいこと)」という説明をしました。この「したいこと」について、私は「使命感」と言い換えられると思います。例えば日本の産業の発展に役立つようなものを発明するとか、今までの人生で培ったスキルを生かして人を助けるなど……。

自分の使命として行うことも「好きなこと(したいこと)」に入ってくると考えれば、必ずしも「好きなこと=趣味の延長」だけで考えなくても良いかもしれません。

「好きなことで起業する/しない」それぞれに良いところ、悪いところがある

好きなことで起業するメリットは何だと思われますか?

中野:「何か儲かることないかな?」と考えて起業した方と比べて、好きなことで起業した人は、やりたいことの芯があるわけです。なので、どんな苦労があっても途中で折れないことが多いですね。さらには、周囲にも、お客さんに対しても、楽しそうな雰囲気が伝わるので、商売臭が出ないことも利点でしょう。

それから、起業の際には日本政策金融公庫でお金を借りるケースもあるのですが、融資を申し込む際、必ず聞かれることがあります。まずはその職種の実績。例えばラーメン屋を始めたかったら、ラーメン屋で修行した経験は当然評価されます。

でもさらに、「なぜこのビジネスを始めたいのですか?」という質問もされます。そこで好きなことに対する情熱が語れれば、応援したい(=融資してあげたい)と思ってもらえるのです。逆にフワッとした感じで「ビジネスチャンスだから何となく」と言っても、印象は良くないですね。

融資を受ける際も有利になるのですね。

中野:あとは、ストーリーマーケティング面でのメリットもあります。起業をする際、自分のプロフィールを作成すると思いますが、そこに生い立ちや経歴などのストーリーや思いを詰め込みます。それを読んだ方に共感してもらって、お客さんになってもらうことが大切です。

例えば僕の場合、バイク屋の長男として育ちました。でも、家の会社経営が傾いて、一家離散の寸前に。何とか家族を助けたくて、勉強をして、いろいろな仕事も経験しました。

たまたまその時代に、テレビ番組「マネーの虎」を見ていて、今後日本でも起業ブームが来ると思いまして。でも当時世の中を見渡しても、起業をサポートする人なんて誰もいなかったのです。おそらくこれは商売になるし、自分のやりたい仕事はこれしかないと思い、「起業コンサルタント®」で商標登録して今に至るという訳です。

このストーリーを見て、「そうか、ご実家の大変な状況のために苦労されているから、親身になって考えてくれるだろうな」と思ってもらえるかも(笑)。あとはやはり、自分がお客さんだったら、好きで仕事をしている人を選びたいと思いますよね。

  • マネーの虎:2001~2004年まで放送されたテレビ番組。若手起業家が事業計画をプレゼンテーションし、大物実業家に可能性があると認められれば出資してもらえた。

逆に、好きなことで起業するデメリットを教えてください。

中野:やはりお金にならない場合が多いという点ですね。先ほどのケーキ屋さんを立ち上げた方の例では、自分の好きなことがうまくニーズに合いましたが、そうではない場合も多いでしょう。

また、ハンドメイドの分野や、音楽やスポーツ等で起業する際は注意が必要かもしれません。例えばこれも僕のクライアントで、洋服が好きで、唯一無二のどこにも売っていない服を自分で作って売っている方がいます。彼女はモデルとしても活動しているためファンもたくさんついており、ファストファッションとの差別化にも成功している。

やはりその方はデザインの才能が誰よりも飛びぬけているし、こだわりも努力も半端ないんです。個人でその領域に達するのは、なかなかハードルが高いかもしれませんね。

では、好きなこと以外で起業するメリットとデメリットは何でしょうか。

中野:メリットとしては先ほどの例のように、冷静に社会のニーズやトレンドを見極められることでしょう。ただしこれも注意が必要です。例えば、今僕のところに相談に来た人が「タピオカ屋さんを始めたい」と言ったら、よほどの差別化要因がない限りいったん止めますね(笑)。メンズ脱毛サロンについても同じことが言えます。既にビジネスとして流行り出してしまったら、後から始めるのは相当大変になってきます。

一方、デメリットとしては、「好きなことである」あるいは「このビジネスは自分の使命である」という思いが強く持てないと、何か事業でうまくいかないことがあったときに心が折れやすいという点が挙げられます。単に「ビジネスチャンスだから」という理由で始めただけだと、融資も受けられない可能性も高いです。そこは「好きで始める起業」の方が強い点ですね。

なるほど……。どちらにも一長一短があると見えてきました。

「3つの輪」の中心で起業すれば、好きでもそうじゃなくても大丈夫!

最後に総括をお願いします。ここまでのお話だと、好きなことで起業しても、特に好きではないことで起業しても、どちらでもOKという気もしますね。

中野:そうですね!起業において重要なのは、冒頭でもお話しした「3つの輪」だと私は考えています。「好きなこと」という点に関しては、自分の趣味の延長でも3つの輪の中心でビジネスができるならOKです。それが難しいようであれば、「自分がこのビジネスをやるべきだという使命感」を強く持てるテーマで挑戦するのも全然アリでしょう。

「でも、好きなことで起業して成功する才能があるかどうかなんて、やってみなきゃわからない!!」と思う方もいるかもしれません。そんなときには、まずは副業から始めてみてはいかがでしょうか? 実際やってみたほうがニーズも分かりますし、軌道に乗ったら本格的に起業するというパターンもいいと思いますよ。

撮影:塙薫子

この記事の執筆者阿部桃子

早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。

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