【個人向け】セルフメディケーション税制やiDeCo、退職所得の優遇が見直しに【令和3年度税制改正】

令和3年度の税制改正では、法人のみならず個人(個人事業主や会社員など)に影響する部分でもいくつかの改正が行われます。
医療費控除の特例であるセルフメディケーション税制やiDeCoなど自助を促す改正のほか、勤続年数が短い者への退職所得の優遇の見直しなどが行われます。国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等が非課税になるなど子育て世帯の支援なども見逃せません。特に自助を促す改正は多くの人が関係する内容です。よく内容を理解しておきましょう。
なお、令和3年度の法人向け税制改正についてはこちらをご確認ください。
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目次
- 2021年(令和3年)分の所得税確定申告より、セルフメディケーション税制が適用となる薬の範囲が見直され、確定申告での添付書類が簡素化される
- 2021年から国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等が非課税になる
- 2022年には、iDeCoの加入可能年齢の拡大や企業版DCに加入している人の加入要件の緩和、勤続年数が5年以下の従業員についての退職所得の優遇がなくなる
医療費控除の特例「セルフメディケーション税制」の見直し
2017年(平成29年)分の所得税確定申告から医療費控除の特例として導入されたセルフメディケーション税制。ドラッグストアなどで市販の医薬品を購入した場合に、その購入金額に応じて所得控除が受けられる制度です。通常の医療費控除と選択制で適用が受けられます。対象期間は5年間の期限があり、2021年(令和3年)12月31日で期限を迎えます。
通常の医療費控除では、基本的には10万円を超える医療費を支出しないと適用が受けられませんが、セルフメディケーション税制では12,000円を超えれば適用を受けられます。上限は88,000円です。セルフメディケーション税制は市販薬のみ対象という制限がありますが、適用可能となる額が低く、対象年の健康診断などの要件を満たせばよいので、通常の医療費控除に該当しなくてもセルフメディケーション税制を使えるということがあります。
適用期限の5年延長
このセルフメディケーション税制について、2021年(令和3年)12月31日までの適用期間が、2022年(令和4年)1月1日から2026年(令和8年)12月31日まで、5年間延長されることになりました。
さらに、2021年(令和3年)分の所得税の確定申告書を2022年(令和4年)1月1日以降に提出する場合に適用される改正が行われました。適用期間の延長にあたり、対象医薬品の見直しと確定申告における手続きの簡素化がなされます。改正内容と適用時期は、以下の通りです。それぞれ適用される時期が異なるので注意が必要です。
対象となるスイッチOTC医薬品の範囲の見直し(2022年分から)
スイッチOTC医薬品とは、処方箋が必要な医療用から、処方箋がなくても窓口で購入できる(Over The Counter)医薬品に転用(スイッチ)された医薬品のことです。この中で対象となる医薬品が、2022年(令和4年)1月1日から見直しで施行されます。なお、税制対象マークラベルなどの変更や税制対象マークの付いた店頭在庫が切り替わるまで、一定期間の経過措置も行われる見込みです。
まず、「療養の給付に要する費用の適正化の効果が低いと認められるもの」がセルフメディケーション税制の適用対象から外されます。簡単にいえば、健康保険などの公的医療保険制度の利用を減らすことにあまり寄与しない薬を適用対象から外すということです。
また、新たに指導医薬品となったものやスイッチOTC医薬品以外の一般用医薬品のうち、「療養の給付に要する費用の適正化の効果が著しく高いと認められるもの」が適用対象に加わります。要は、これまでセルフメディケーション税制の対象でなかった薬のうち、公的医療保険制度の利用を減らすことに効果がある薬を新たに適用対象に加えるということです。
確定申告をする側としては、セルフメディケーション税制の適用対象が変わるというくらいで考えておけばよいでしょう。毎年12月に対象の医薬品の確認をすることを忘れずに。
この場合、遡って確定申告をする場合には注意が必要です。所得税の確定申告では、還付申告の場合、過去5年の確定申告を行えます。例えば2021年(令和3年)中であれば、2016年(平成28年)~2020年(令和2年)分の還付申告が可能です。過去にセルフメディケーション税制を適用できたのに確定申告し忘れた場合などにも当時に遡って確定申告書を提出して還付を受けられるのです。
ただし、この場合は対象となる医薬品は当時の制度のものとなります。当時の医薬品のレシートなどを見ればわかると思いますが、遡って確定申告する場合には注意しておきましょう。
確定申告書の添付書類の見直し(2021年分から)
セルフメディケーション税制を受けるためには、医薬品の購入のほかに、予防接種や健康診断の受診といった健康増進や疾病予防のための取り組みを行う必要があります。2020年分までの所得税の確定申告ではこうした取り組みを行ったことを証明する書類(健康診断の結果通知表や予防接種の領収書など)の添付が必要でした。
しかし、税制改正により2022年(令和4年)1月1日以後に提出する2021年(令和3年)分の所得税の確定申告書から、取り組みを行ったことの証明書類の添付が不要となります。その代わり、取り組みの内容について所得税の確定申告書に記入する形になります。
このこと自体は、セルフメディケーション税制の適用を受けやすくするための改正といえます。ただし、健康増進や疾病予防のための取り組みが必要という要件自体がなくなるわけではありません。
なお、遡って2020年分以前分をセルフメディケーション税制の適用で還付申告を行う際には、取り組みを行ったことを証明する書類(健康診断の結果通知表や予防接種の領収書など)の添付が必要です。
証明書類は確定申告期限等から5年間の保存は必要
また、所得税の確定申告書への添付は不要となりますが、証明書類は5年間保存し、税務署から提示を求められたら提示できるようにしましょう。実際に提示が求められることはほとんどないと考えられますが、セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、実際に取り組みを行うとともに、書類はしっかりと保存しておきましょう。
iDeCoの見直し(2022年分4月施行 順次)
2022年(令和4年)分の話になりますが、個人型確定拠出年金(iDeCo)について、いくつかの大きな改正が実施されます。
iDeCoへの加入可能年齢の拡大
まずは加入可能年齢が拡大されます。2022年(令和4年)5月1日以降に適用です。
これまでは60歳未満が加入の対象でしたが、65歳まで拡大されます。この加入年齢の拡大の対象となるのは、国民年金の第2号被保険者(会社員など厚生年金保険に加入している人)や、自営業や専業主婦などで国民年金に任意加入している人(国民年金の受給要件を満たさないなどの理由で60歳以降も国民年金に加入している人)です。要は65歳以降も国民年金の被保険者となっている人が対象となります。
60歳を超えても働く人が増加している動きに合わせて、老後の備えとしての役割をもつiDeCoについても加入可能年齢を拡大して、退職後の資金作りを後押しする改正となります。
ただし、公的年金を65歳前に繰り上げ支給受けている場合には、改正後であってもiDeCoには加入できません。注意してください。
DC(企業型確定拠出年金)加入者のiDeCoへの加入要件の緩和
もうひとつ大きな改正は、企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入している人についての、iDeCoへの加入要件の緩和です。この改正は、2022年10月以降に適用されます。
企業型DCとは、勤めている会社の退職金制度として、会社が主体となって導入する確定拠出年金制度です。従業員の退職金のための積み立てなので、掛金の拠出も会社の負担により行います。個人として加入して掛金も個人が負担するiDeCoと区別しておきましょう。
これまでは企業型DCの加入者がiDeCoに加入するには労使間の合意が必要でした。しかし、この改正以降は、労使間の合意がなくてもiDeCoに加入することができるようになります。
企業型DCに加入しながら、iDeCoに加入する場合には、掛金の合計額が以下の表の金額以下である必要があります。例えば、企業型DCに加入していて満額の55,000円を会社が拠出している場合には、すでに➂の金額に達しているので、改正後であってもiDeCoへの加入はできないということになります。
さらに、退職金の計算方法があらかじめ定められた退職金規定などで確定しているDB(確定給付型)にも加入している場合には、掛金上限自体が低いので、改正後もより加入のハードルは高いかもしれません。
企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入している人がiDeCoに加入する場合 | 企業型DCとDB(確定給付型)に加入している人がiDeCoに加入する場合 | |
企業型DCの事業主掛金(①) | 55,000円 | 27,500円 |
iDeCoの掛金(②) | 20,000円 | 12,000円 |
①+②=③ | 55,000円 | 27,500円 |
DB(確定給付型)とは、退職金の計算方法があらかじめ定められた退職金規定などで確定している退職金です。拠出額が確定していて、その後の運用で退職金が変動する確定拠出型(DC)と区別されます。
また、企業型DCについて、従業員本人が会社から拠出している掛金に上乗せして拠出するマッチング拠出を行っている場合には、その上さらにiDeCoにも加入するということはできません。
iDeCoの受給開始年齢の引き上げ
iDeCoについて行われる改正のもうひとつが受給開始年齢の引き上げです。この改正は2022年(令和4年)4月1日から施行されます。
もともとは60歳から70歳までの間でiDeCoの老齢給付金の受給開始時期を選択することができましたが、この改正によって60歳から75歳の間に受給開始時期が拡大されました。現役で働く期間が長くなっている中で、老齢給付金の受給年齢についても、給与との兼ね合いでより選択肢を広げた形となりました。
iDeCoは老後の備えという側面とともに、現役時代にはその掛金全額が所得控除の対象になるため、所得税や住民税の納税額を減らすこともできる制度です。よりiDeCoに加入しやすくすることで、老後の備えを自ら作り出す自助を促す改正といえます。
国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置(2021年分から)
個人がベビーシッターや認可外保育園を利用した場合、利用の必要性など一定の要件を満たせば、国や自治体から保育料や利用料について助成金を受け取ることができます。こうした助成金について、これまでは雑所得として所得税の確定申告が必要でした。
しかし、こうした課税が足枷となって子育て世代のベビーシッター利用の抑制につながるなどの問題が指摘されていました。
そこで、2021年(令和3年)分からは、より子育てがしやすい環境を作り出すため、こうした助成金については、非課税の扱いとなりました。
退職所得の見直し(2022年分から)
雇用の流動化に伴い、プロジェクト単位など短期間だけ雇用するということも珍しくなくなりました。そのような雇用形態の従業員の所得税や個人住民税の負担を抑えるために、月給を減らして、その分退職金を上乗せするという手法がとられることがあります。
退職所得は以下の式で計算されます。
退職所得の金額=(退職所得の額面-退職所得控除額)×1/2
退職所得控除額
勤続年数20年以下:40万円×勤続年数と80万円のいずれか多い額
勤続年数20年超:70万円×(勤続年数-20年)+800万円
※1年未満は切り上げ
さらに退職所得はほかの所得と合算しない分離課税となりますので、所得税の課税上、優遇されているため、受け取る側としては給与よりも退職金で受け取ったほうが課税は低くなります。
この優遇を利用して、特に短期での雇用予定の人に対して「同じ金額を支払うなら退職金で支払うから税金上お得です」という触れ込みで人材をスカウトすることが問題視されていました。
こうしたことを防止するために、2022年(令和4年)以降は、勤続年数が5年以下の従業員については、(退職所得の額面-退職所得控除額)のうち、300万円を超える部分については、1/2を乗じないという改正が行われます。
例えば、勤続年数4年で1,000万円の退職金を受け取る場合は、以下のようになります。
(改正前)
退職所得の金額=(1,000万円-160万円)×1/2=420万円
(改正後)
退職所得の金額=300万円×1/2+(1,000万円-160万円-300万円)=690万円

この改正により、短期の予定で雇用する人への退職金については、300万円がひとつの目安になると考えられます。
photo:Getty Images