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【令和3年度税制改正】事業で「ハンコ不要」になった場面と脱ハンコの注意点

監修者 : 宮原 裕一(税理士)

ビジネスのさまざまなシーンにおいて必要とされていた「ハンコ」(印鑑)ですが、令和3年度税制改正で、2021年(令和3年)4月1日以降、税務関係書類の押印が廃止されました。政府全体での行政手続の押印義務見直しを踏まえた動きです。

この記事では、実際にどんなシーンでのハンコが不要になったのかについてご説明します。なお、「担保提供関係書類」や「物納手続関係書類」、相続税及び贈与税に関する書類では、押印が必要なことがあるためご注意ください。この記事で解説するのは、事業に関する内容のみとなります。

  • 確定申告や開業届、年末調整でハンコが不要に
  • 取引先や自社内で提出する領収証や請求書のハンコは、それぞれに要確認
  • 商業登記の申請にはハンコが必要。オンライン申請なら印鑑提出は任意

ハンコがいらなくなった具体的なシーン

ハンコが不要になった手続きは、以下のようなものです。もともと押印が必要な手続きはそれほど多くはありませんでしたが、今後はほとんど不要であると言ってもいいでしょう。

1.確定申告

所得税や消費税の確定申告における申告書に必要だった押印が、2021年4月1日以降は不要となります。2021年4月1日より前に2020年分の確定申告書を提出した場合でも、押印がなくとも改めて押印を求めないこととされています。

電子申告(e-Tax)の場合はマイナンバーカードなどを利用した電子証明書が必要ですが、例外的に電子署名を利用しないID・パスワード方式というものも用意されています。

なお、納税に関係する振替依頼書やダイレクト納付利用届出書については、金融機関届出印(銀行印)を押印しますが、個人については2021年1月から金融機関の外部サイトで利用者認証を行うことにより、オンラインで提出することが可能になりました。

2.開業届

新たに事業を開始した際や、逆に廃業した際に行う手続きである「個人事業の開業届出・廃業届出書」の提出でも、これまで必要であった印鑑が不要となりました。

なお、現在は開業届の提出に関しても、e-Taxを使ってインターネットで行うことが可能です。e-Taxを利用した開業届の提出方法は、こちらの記事を参考にしてみてください。

3.年末調整

従業員のいる企業や事業者が行う年末調整の関連書類でも、押印が不要になったものがあります。まず、従業員から提出をしてもらう「給与所得者の扶養控除等申告書」の押印は不要です。

なお、年末調整については、電子化の取り組みが進んでいます。すでに平成30年度税制改正により、2020年(令和2年)分の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書等については、勤務先へ電子データにより提供できるよう手当されています。今後も年末調整手続の電子化に向けた施策が順次実施されます。

4.契約

企業間や企業と従業員間など、契約の際に交わされる様々な書類にはハンコを押すことが一般的です。しかし実は、必ず文書に押印しなければならないということはないのです(法律で規定されている場合を除く)。

そもそも、口頭のやり取りだけでも契約は成立します。取り交わした契約を書面にするのは、証拠を残すためです。書類に押印するのは、内容に合意した証としてわかりやすいから、というだけです。

昨今では、契約書を交わすかたちとして電子署名や電子契約が多く使われるようになってきています。リモートワークを推進する動きも加速しており、今後、電子契約はより一般的になるでしょう。

「脱ハンコ」の注意点は?

今後、世間は「脱ハンコ」社会となるわけですが、この制度が定着するまでしばらく気をつけなければならないこともあります。

荷物の受け取りには?

より身近なハンコの登場シーンとしては、運送会社からの荷物の受け取りがあります。これについてはどうなるのでしょうか?

国土交通省が公開している運送業における規則をまとめた「運送約款(うんそうやっかん)」においては、荷物の受け取りに伴う押印を義務としていません。つまり、「もともと必要とはいえなかった」ということになります。運送会社がトラブルを減らすために行っていたものと言えるでしょう。

現在はほとんどの運送会社が押印の省略を可としており、荷物受け取りの際はサインでOKの場合も多くなっています。また、コロナ禍での非対面受け取りの需要から、宅配ボックスや置き配などといった方法も増えています。

領収証や請求書の印鑑については取引先や自社内の規定確認を

領収証や請求書の印鑑は、もともと不要とされています。多くの場合は慣習であったり、改ざんや不正などの防止・抑制のため、企業によっては必要とされてきました。いままでそれぞれの会社の規定に基づくルールであったからには、今後の方針についても社内のルールに寄るところが大きくなります。

領収証のハンコがないことで経費として認められず、従業員の負担するようなことになれば意味がありません。「いままでハンコが必要だった書類」については、社内のルールをしっかり尋ねておくようにしましょう。また、経営者や経理担当部署は、この機会に印の必要な書類についてルールの確認と見直しをしてみるのもよいでしょう。

商業登記の申請にはハンコが必要

登記の申請を書面で行う場合は、従来どおり申請書に「登記所に提出している印鑑」を押印する必要があります。ただし、令和3年度税制改正とは別に商業登記規則改正により、商業・法人登記の申請を「インターネット上」で行う場合に限っては、登記所への印鑑の提出が任意になっています。

なお、オンラインによる印鑑の提出及び廃止の届出は、オンラインによる登記の申請と同時に行う場合にのみ可能です。印鑑の提出及び廃止の届出のみをオンラインで単独で行うことはできませんので、注意が必要です。

契約書や領収書の印紙には消印が必要

行政手続の上で脱ハンコが進むなかでも、印紙税の消印は廃止されていません。消印とは、印紙を貼った後に印紙とその文書にまたがるようにハンコやサインを入れることをいいます。これは、印紙の再使用を防止する趣旨で規定されているものです。

領収書を発行するときに、発行者の部分にハンコは要りませんが、収入印紙が必要な場合には印紙への消印を忘れないようにしましょう。

その他、今後もハンコが必要な手続き

脱ハンコの流れがあるなか、厳格な本人確認が必要であったり押印に法的根拠があるものなどについては、今後も引き続き書面による申請・届出などで押印が必要な手続きがありますので、注意しましょう。

  • 不動産登記の申請
  • 法人登記の申請
  • 銀行への届け出
  • 自動車の新規登録

その他、相続関係でも印鑑は必要です。事業継承などで相続手続きが必要となる場合には、十分確認してください。

「脱ハンコ」は電子化への第一歩

ハンコは「形式的なもの」とは言いつつ、やはり「偽造」などの犯罪に対する一定の予防効果があったと言えます。今後は別の手段に切り替わるものも含めて徐々になくなっていくわけですから、事業に関係する書類を扱う上では注意が必要です。疑われないだけのきちんとした対策が必要であると考えましょう。また、受け取る側としても、十分なチェックをすることも重要です。

脱ハンコは今後の電子化に向けて、大きな一歩を踏み出したものと言えます。手続きの方法が変わることは避けられません。しっかりと情報を仕入れて対応することで、ご自身の業務の効率化を図りましょう。

photo:Getty Images

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