結局誰に何を頼めるの?行政書士、司法書士、弁護士、税理士に社労士に中小企業診断士……士業に任せられる仕事

事業を進めるにあたり、必ず「困りごと」は発生します。たとえば、行政の提出する書類の作成や確定申告等漸近関係の悩みなど。自己解決できればベストですが、やはり専門家の手を借りるのが最もスムーズに解決できるものです。
「でも、世の中には専門家が多すぎて、どの悩みを誰に相談するのが一番最適なのかがわからない!」なんて悩んだこともあると思います。
この記事では、行政書士、司法書士、弁護士など、「士業」と呼ばれる職業について、「どんな困りごとが発生したらどの士業に頼るべきか」という視点でご案内します。
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目次
行政書士:官公庁に提出する書類作成の相談
国や地方公共団体の役所、いわゆる「官公庁」に提出する書類の作成は、行政書士に依頼することができます。行政書士が作成できる書類の種類は非常に多く、内容は許可や認可に関係することです。よく知られる「営業許可」の書類も行政書士の担当分野です。
許可・認可関係の書類は複雑なものが多く、完成させるのにも労力がかかります。自分で作成することも可能ですが、不備があれば繰り返し訂正しての提出が必要になり、何度も役所に出向かなければなりません。事業に差し支えるほどの時間がかかるようなことを避けるためにも、行政書士に頼ることをおすすめします。
行政書士に相談できること
行政書士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 官公庁などに提出する書類の作成や、作成した書類の提出
- 官公庁などに提出する書類作成に関する相談
- 法律関係書類の作成(契約書や相続関係の書類など)
「官公庁関係の書類はなんでも対応」ではないので注意が必要
気をつけなければならないのは、行政に関する書類のすべてを行政書士が対応できる(あるいは得意としている)わけではないという点です。それぞれに「独占業務」というものがあり、たとえば、有料職業紹介事業、人材派遣業の許可申請、訪問看護の指定申請などについては、社会保険労務士の独占業務です。
また、「不可能ではないが他の士業に任せたほうがよい」というものもあります。特許出願などは特許事務所のほうがおすすめです。
とはいえ、誤って他の士業の独占業務を行政書士に依頼したとしても、そのまま行政書士が対応してしまうということはありません。事前に問い合わせれば問題ないでしょう。複数の士業資格を持つ士業者であったり、あるいは複数の種類の士業者が所属している事務所であったりすれば、きちんと対応してくれるはずです。
行政書士への依頼、費用は3万円~20万円程度
費用は依頼する業務によって大きな違いがあり、行政事務所によっても異なります。法律などで規制されていないため一律ではありません。依頼する前に複数の行政事務所の料金表を確認する、見積もりを依頼するなどして、できるだけ費用を抑えるようにしましょう。
司法書士:会社設立・不動産登記などの手続きをしたい場合に相談
司法書士の業務をわかりやすく考えるために行政書士と比較してみましょう。行政書士は「官公庁などに提出する書類」、つまり行政に関わる分野の書類作成を行う士業ですが、司法書士は「司法」に関する書類を作成する士業です。
行政書士はビジネスに関わる側面が大きい一方で、司法書士は相続や不動産登記など生活に関わる側面が大きいと考えましょう。一部にはどちらの士業でも可能な業務があります。
司法書士に相談できること
司法書士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 登記手続き業務(不動産登記や会社の登記など)
- 供託手続き業務
- 裁判所などへの提出書類の作成(相続放棄や遺言関係など)
- 簡易裁判所での訴訟・調停・和解等の代理
- 企業法務コンサルティング
- 成年後見事務、国籍取得の申請など
司法書士の活躍の幅は広い
司法書士の業務は、登記関係の書類作成や手続きです。ですが、その他に成年後見業務、簡易裁判所での代理業務や裁判事務、供託手続き、遺言書作成・相続アドバイスなど、法律に関する高い専門知識があるからこその業務も含むようになりました。
しかしなかには「相談はできるが手続きはできない」ということもあるため、基本的にはご自身の「目的」から士業事務所を探すのがベストです。そのようにして見つけた士業事務所には、必要な士業者が揃っています。「会社設立に強い」「相続問題を得意とする」など事務所の特徴から選ぶようにしましょう。
司法書士への依頼、費用は数千円~15万円程度
司法書士への報酬はかつて存在した「報酬規定」の廃止により完全に自由化され、事務所によって異なります。相場としては、簡単な手続きであれば数千円から、難易度が高い手続きであれば最高で15万円程度です。見積もりや事前の確認を怠らないようにしましょう。
弁護士:取引先や従業員とのトラブル、法律関連で問題が生じた場合に相談
弁護士の業務は、あらゆる種類のトラブルを法律によって解決に導くことです。法律との関わりが深い点では司法書士と同じですが、「トラブルが起きたときの問題解決」や「トラブルを未然に防ぐためのルールづくり」など、多くの場合は「その人の権利や利益が損なわれるかもしれないという危険性」への対策です。
弁護士に相談できること
弁護士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 民事事件に関する業務、民事事件の代理人
- 刑事事件に関する業務、刑事裁判の弁護人
- 法律相談、法律に関わるトラブルのサポート
- 契約書の作成、契約内容に法的問題がないかの確認
- 企業や地方公共団体の法律面での顧問
ビジネスにおいて弁護士に相談したほうがいいケースは?
ビジネスを進める上において発生するトラブルには、次のようなものがあります。
- 取引先との契約トラブル
- 労使間、従業員間におけるトラブル、賃金に関するトラブル
- 上記以外の契約違反、契約の内容が不完全あるいは契約書がなかったことによるトラブル
- 顧客からのクレーム、支払いトラブル
- 誹謗中傷や悪意ある口コミへの対応
- 情報漏洩
- 商標権や著作権など、知的財産に関するトラブル
このようなトラブルは初期対応が非常に重要です。どう対応すればよいかわからない場合には、問題が大きくなる前に弁護士に相談しましょう。無料相談なども活用できます。
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弁護士への依頼、費用は相談内容による
弁護士に支払う料金は、依頼内容や解決までにかかる時間などによって大きく異なります。まずは無料相談などを利用するか、見積もりを取るようにしましょう。「相談料」としては1時間で1万円前後の場合が多いようです。
いわゆる「顧問弁護士」としての業務を依頼する場合には、1ヶ月あたり3万円~5万円となりますが、顧問としての範囲を超えての業務が発生した場合には追加料金が必要です。

税理士:税金関係や記帳代行の悩みを相談
税関係のほか、会計に関する業務も依頼できるのが税理士です。「税務代行」「税務署類の作成」「税務相談」については税理士の独占業務であり、他の士業が行うことはできません。
税理士に相談できること
税理士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 税務代行(依頼人に代わって確定申告などの税申告を行う)
- 税務署類の作成
- 税務相談
- 経理・財務に関連する業務(記帳代行など)
- 税務コンサルティング
- 法律の専門家としての行政や司法の支援
税理士と会計士の違いは?
税理士と似た士業に「会計士」があります。詳しくは次の章でご説明しますが、会計士の主な業務は「監査」であり、会計のチェックです。大企業でない限り監査は必要ありませんので(任意で行う場合はあります)、個人事業主や中小企業が関わるのは税理士となります。
税理士への依頼、年間売上によって異なるが個人の場合は月額1万円程度から
税理士に依頼した場合の費用は、年間売上によって異なります。年間売上1,000万円以下の個人事業主であれば、年間契約で月額1万円程度が相場です。
税理士や税理士事務所、税理士センターなどによりサービスの内容は異なります。事務所への訪問があるプラン、領収書を送って確定申告だけを依頼するプランなど、必要と思われるものをしっかり選ぶようにしましょう。
売上自体が少ない場合は依頼するメリットが少ない場合もあります。
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会計士:融資や資金調達、経営に関する悩みを相談
税理士の説明でも触れたように、会計士の業務は監査となります。
監査が義務付けられているのは「資本金が5億円以上」あるいは「負債金額が200億円以上」の企業、「有価証券報告書を提出する上場企業」であり、基本的には大企業だけに行われるものと考えればいいでしょう(法定監査)。法定監査については「監査法人」が行います。
なお、義務化されていない会社であっても監査を受けることはできます(任意監査)。
会計士に相談できること
会計士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 財務諸表監査
- 内部統制監査
- コンサルティング(MAS)
- IFRS(国際財務報告基準)関連業務
会計士への「税務関係の依頼」は税理士と同等と考えて問題なし
会計士が行う監査の費用については、依頼する会計事務所や会計士への相談や見積りが必要です。
なお、公認会計士(国家資格のある会計士)は税理士資格を持つことができるため、多くの公認会計士は税理士と同じ業務を行っています。その場合の報酬は、税理士へ支払う報酬と同等です。やはり会計事務所によって料金設定は異なるため、よく確認するようにしてください。
社会保険労務士:社会保険や労働保険の手続き代行、助成金の申請代行などの相談
社会保険労務士は、社会保険や労務関係の業務を行う士業です。従業員を雇い、社会保険や労働保険についての手続きが発生する際や、雇用に関しての疑問や問題が発生した際など、労務に関する知識をもって対応してくれる専門家と言えるでしょう。
社会保険労務士に相談できること
社会保険労務士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 従業員の入退社などについて、年金事務所や労働基準監督署、ハローワークなどの各機関に提出する書類の作成や提出
- 就業規則や労使協定(事業主と従業員が取り交わす決まりごとのようなもの)の作成
- 採用時や退職時などに発生する諸問題についての助言や、労働管理などについてのコンサルティング
- 年金に関する相談や受給手続き
社会保険労務士への依頼は必ず事前確認や見積りを
社会保険労務士への報酬は、従業員数や業務内容、細かい部分を言えば作成を依頼する書類(申請書、証明書、変更届など)の種類によって大きく変わります。もちろん、社会労務士事務所によっても料金設定は異なりますので、事前に確認するようにしましょう。
可能であれば見積りを取ってください。事務所にもよりますが、「相談だけ」「書類作成のみ」「やりとりはメールのみ」など、費用を抑えられるプランが用意されていることもあります。
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中小企業診断士:販売促進や人材募集に関する悩みを相談
中小企業診断士は経営状況を診断し、課題を見つけ出した上でアドバイスを行います。経営分野では唯一の国家資格です(中小企業支援法」第11条に基づく)。
中小企業診断士に相談できること
中小企業診断士が対応できる主な業務は、以下の通りです。
- 企業の経営状況診断
- 診断に基づく助言
- 経営コンサルティングに関する講演、執筆など
中小企業診断士への依頼、費用は1日あたり10万円から
コンサルティング業であるため、料金体系は「定額報酬型」「成功報酬型」「時間単位報酬型」などがあります。
定額報酬型はプロジェクト単位、成功報酬型はどの状態をゴールとするかなどによって金額が変わります。
時間単位報酬については1日あたり10万円からが相場となりますが、「診断」と「助言(指導)」が別メニューである場合もあるため、詳細を確認してから依頼しましょう。
まとめ
これから事業を立ち上げる方は、さまざまなトラブルについての想定をしていると思います。この記事でご紹介したような相談先については、常に頭に入れておきましょう。
どの士業に相談したらいいのかわからない場合は、困りごとの内容と「士業」などのキーワードで検索すれば問題ありません。強い味方がいることを知っていれば、なにかあったときにもより冷静な判断ができるはずです。
起業時の困りごとやトラブルについては、以下の記事も参考にしてください。
photo:Getty Images