融資には事業計画書だけじゃダメ?金融機関が嫌がる貸借対照表のアノ数字

コワーキングスペースとカフェを兼ねたお店を運営しているゆうちゃん。新米経営者である彼女は、融資や資金調達、経営のあれこれに詳しい公認会計士・税理士のオオノ先生からこれまで経営者が知っておきたい融資や資金繰りの考え方について教えてもらってきました。
今回は、これまで作ってきた事業計画書や損益計算書、貸借対照表をもとに、融資をしてくれる金融機関と上手に付き合っていくにはどうしたらいいか、実践的な見地か解説してもらいました。
[おすすめ]法人の会計業務をかんたんに!無料で使える「弥生会計 オンライン」
目次
2020年3月現在、新型コロナウイルス感染症の影響で中小企業・小規模事業者を対象に、経済産業省等が各種相談窓口を設置しています。資金繰り等支援として様々な施策も講じられております。併せてご確認ください。
【参考】新型コロナウイルスに関する中小企業・小規模事業者支援について(弥生株式会社)
- POINT
-
- 事業計画書を作っておくことで、金融機関からのさまざまな融資が受けやすくなる
- 金融機関が融資の判断をする際、事業計画書や損益計算書以外に「貸借対照表」の数字も重視している
- 貸借対照表に「役員貸付金」や「仮払金」などの経理処理がされていることを金融機関は嫌がる
事業計画書や資金繰り表まで作れるようになって、金融機関に融資を申し込もう
オオノ先生:
さてさてゆうちゃんにはこれまで経営者が会社をやりくりしていく上で知っておいてほしいことをいろいろお教えしてきましたね。特に金融機関と付き合っていくうえで「事業計画書」の作成が大事なこと、それををつくるためには「損益計算書」が必要だということも。
ゆうちゃん:
うん。お店が将来成長していくイメージを持つためにも、作ってみて本当に役に立ったよ。
オオノ先生:
それから前回は……。
ゆうちゃん:
日々のやり繰りが大事なスモールビジネスの経営者なら知っておきたい、資金繰り表の作成についても教わったよね!
オオノ先生:
そうです! 資金繰りについての勉強の集大成が、この「資金繰り表の作成」です。
ゆうちゃん:
資金繰りの大切さを実感してから、気がつけば自分で資金繰り表を作るところまで来ちゃったんただから、ホントにびっくりだよ。
オオノ先生:
ホントに頑張りましたね。ここまでできたら、いよいよ「金融機関への融資の申し込み」の段階となりますが、その前に金融機関が重視するポイントについてお話しますね。
【融資と審査】経営者が「金融機関と上手に付き合う」ために知っておきたいこと
ゆうちゃん:
えっ!?事業計画書を作って、金融機関に渡すだけじゃだめなの?
オオノ先生:
もちろん、事業計画書は重要です。しかし、金融機関が行う事業性評価融資は、事業計画書だけを融資可否の審査材料とするのではありません。それと同じくらいに、現在の会社の状況も重視されます。
ゆうちゃん:
現在の会社の状況……。例えばどんなこと?
オオノ先生:
もちろん、現在の利益水準などの、損益計算書の数字も重要ですが、意外と見落としがちな指標が、「貸借対照表」の数字です。まずは、貸借対照表の「資産」の部。ここに「役員貸付金」のような社長個人に対する債権が載っていることを、金融機関はとても嫌がります。
【貸借対照表・サンプル】
ゆうちゃん:
「役員貸付金」ってことは、会社から社長にお金を貸しているってこと?
オオノ先生:
そうです。通常、会社からお金が出ていけば、それは会社の経費ですから、販売費および一般管理費などで処理されるはずです。社長の報酬についても役員報酬で計上されるはずです。
ゆうちゃん:
そっか、会社から社長にお金を渡したなら、それは役員報酬だよね。
オオノ先生:
それにも関わらず、役員貸付金で処理しているということは、社長にお金をわたしているけども経費性がない、ということです。おそらく、社長のプライベートな買い物などに使われているんでしょう。しかも、こういうお金はたいてい返ってきません。
ゆうちゃん:
たしかにね。でも、こういう会社多そう。
オオノ先生:
はい。とても多いです。しかし、返ってこないお金は債権としては不良債権ですし、そもそも会社と個人の区別がしっかりつけられていないということで、融資の審査の際に金融機関は厳しく見ます。
ゆうちゃん:
たしかに、会社に貸したお金が社長のプライベートな支出に使われている可能性があるなら、金融機関の側からしたらそれは嫌だよね。
オオノ先生:
はい。もちろん役員貸付金があるから即NGというわけではありませんが、少なくとも融資の際に経営者保証を外すのは少し難しくなると思います。
ゆうちゃん:
経営者保証っていうのは、「経営者の連帯保証」のことだったよね。
オオノ先生:
はい。経営者保証を外す建て付けとしては、会社と社長はあくまで別個の人格ということなのに、社長が会社を私物化しているような場合にまで経営者保証を外すことはできない、ということですね。
ゆうちゃん:
それはそうだよね。他には注意すべきことってある?
オオノ先生:
同様に、貸借対照表の「仮払金」も、金融機関の審査の際の心象を考えるとやめたほうが良いでしょう。「仮払い」ということは、実際には何に使ったかわからない、ということですから、会社の内部統制に不備があるということを示している勘定科目です。
ゆうちゃん:
たしかにね。
オオノ先生:
現在の状況、というと、損益計算書の営業利益や経常利益が黒字かどうかということばかりに目が行きがちですが、金融機関から融資を受けるにあたっては、実は貸借対照表もそれと同じくらいに重要ということです。ここでちょっとまとめてみましょうか。
- 損益計算書の数字だけでなく、貸借対照表の数字も金融機関は重視している
- 貸借対照表の「資産」の部に「役員貸付金」などの社長個人に対する債権が載っているとを、金融機関は嫌がる
- 貸借対照表で「仮払金」での経理処理はしいない方がいい
ゆうちゃん:
いやー、それにしてもセンセーからはいろいろと実践的な知識を教えてもらったよね。これでウチも資金繰りに困らず、自社ビジネスを成長できそうだよ。よーし、これでさっそく金融機関に融資を相談をしてくるねー!
オオノ先生:
それは良かったです。また疑問があればいつでも相談に来てくださいね。
撮影:塙薫子