「司法書士」とは?どんなことが頼めるの?【登記業務の専門家】

税理士、社会保険労務士、弁護士など、ビジネスをするうえでいろいろな「士業」と呼ばれる専門家と関わることがあります。そんななか、司法書士という資格は特にイメージがわきづらいという方も多いのではないでしょうか。
今回は、登記関係の業務をメインとする司法書士の仕事について、特に起業家や法人設立を考えている人、そして個人事業主や中小企業経営者がビジネスを行っていくうえでどのような仕事を依頼や相談ができるのかということを中心に解説します。
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目次
- POINT
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- 司法書士の仕事のメインは「登記関係の業務」である
- 会社関係の登記は、種類がさまざまであり、どの範囲を司法書士に依頼するかということは会社次第である
- 合併など会社の組織再編時や、日々の法律関係の顧問業務を司法書士に依頼することも可能
司法書士は登記の専門家
司法書士の仕事は、他の士業に負けず劣らず多岐にわたります。司法書士の主な仕事としては、以下の業務が挙げられます。
- 登記手続き業務(不動産登記や会社の登記など)
- 供託手続き業務
- 裁判所などへの提出書類の作成(相続放棄や遺言関係など)
- 簡易裁判所での訴訟・調停・和解等の代理
- 企業法務コンサルティング
- 成年後見事務、帰化申請など
このような幅広い業務のなかでも、特に取り扱いの件数が多く、司法書士の仕事の中核を担っているのが、1. の登記関係の仕事です。
登記申請には、大きく分けて「不動産登記」と、「会社関係の登記」があります。
不動産登記は、土地や建物の登記上の名義を変更したり、抵当権などの権利を登記したりする手続きです。不動産売買の事業を営んでいる事業者であれば、不動産関係の登記で司法書士とやり取りすることも日常茶飯事です。
ただ、そうでなければ、不動産登記で司法書士と関わることは数えるくらいしかないでしょう。例えば自宅やオフィスを購入するといった一大イベントのときや、事業のために金融機関から借り入れを行う際に、事業主個人の自宅を担保にして抵当権や根抵当権の設定登記を申請する場合などです。
これに対して、会社関係の登記についてはもっと経営者に密接です。会社を経営していれば、何度か司法書士のお世話になることがあるでしょう。司法書士業界では、不動産登記のほうが仕事のシェアとしては大きいのですが、ことビジネスの現場においては、会社関係の登記のほうで関わることが多いでしょう。
会社登記にはさまざまな種類がある
ひと口に会社の登記といっても、場面場面に応じてさまざまな種類の登記があります。ここでは、主に中小企業においてよく発生する登記を中心に見てみましょう。
①代表者の住所変更登記
会社の代表者(株式会社であれば代表取締役、合同会社であれば代表社員)の住所は登記されています。代表者の住所が変わった場合、住民票の移動だけでなく、会社の登記の変更も必要です。
②株式会社の役員の任期満了による登記
株式会社であれば、必ず役員の任期があります。代表取締役1名のみで他に従業員がいないような会社であっても、任期は存在します。
任期が満了すれば、引き続きそのポジションで続けてもらう(重任といいます)か、任期満了により退任してもらうかということを決めたうえで、登記をする必要があります。任期は1年から10年と幅があり、多くの場合は任期について定款に記載があります。
③役員の就任や退任の登記
任期満了に限らず、途中で新たに取締役を迎え入れたり、既存の取締役が退任したりといったこともあります。このような場合には、都度役員の変更の登記を行います。
④社名や事業目的の変更
今の社名(登記上は「商号」といいます)を変更する場合や、事業目的を追加したり削除したりする場合にも登記が必要です。
⑤本店所在地の移転
オフィスを引っ越ししたり、新たにバーチャルオフィスを借りたりして、そこを登記上の本店所在地とする場合には、本店移転の登記が必要です。
⑥資本金の変更
新たに投資家から出資を受ける場合や、自分で新たにお金を会社に出資金を投入する場合などには、資本金の増額、いわゆる増資の登記が必要です。
逆に資本金を減額させる登記、いわゆる減資の場合にも登記が必要ですが、減資の登記はそれなりの規模の会社が、税金対策などのために行うケースが多く、よほどのことがない限り減資を行うような機会のない小規模な企業においては、あまり気にしなくてもいい話です。
ちなみに、新たな出資を伴わず、今自分が持っている株式を誰かに譲るというように、株主の構成が変わるだけであれば登記は必要ありません。
このように、会社の登記の変更は要所要所で発生します。ここに挙げた6つの例はあくまで一例で、このほかにもさまざまな会社関係の登記が存在します。
特に株式会社の場合は、役員に任期がありますので、その満了の都度登記が必要となります。任期は最長でも10年なので、10年に一度は登記を行う必要があるということです。
上記の①~⑥は、筆者の独断ではありますが、その登記の手間や検討事項を考慮して、並べたものです(数字が大きいほど、登記の手間がかかり、検討事項の多い法的な手続きです)。
社長の住所が変わった場合は、自ら法務局に赴いて登記申請を行うけれども、社名の変更などについては、司法書士に依頼する……といったやり方をしている会社もあります。
あるいは書類の作成の時間や、法務局とのやり取りに手間を掛けたくないため、すべて司法書士にお任せという会社もあります。どのレベルで司法書士と付き合っていくかということも会社次第です。
会社設立の登記も司法書士の仕事
会社関係の登記には、既存の登記の変更のほかにも、会社を設立するための登記もあります。会社を設立する際の設立登記の申請や、定款の作成も司法書士の仕事です。特に登記申請については、司法書士の独占業務となっています。
会社設立の登記だけを見れば司法書士の仕事なのですが、会社設立にあたっては、資本金や本店所在地、役員構成など決めておかなければならないことがたくさんあります。資本金は、消費税や法人住民税など税金に関係することがありますし、創業にあたって金融機関からの借り入れを行う場合には、資本金の金額や役員、特に代表取締役の過去の経歴が大きく影響します。
また、消費税は基本的に2事業年度前の売上高が1,000万円を超えている場合に納税義務が発生しますが、創業1〜2年目については、期首の資本金の額が1,000万円以上の場合にはその年度から消費税がかかります。このようなことを考慮せずに、会社設立時の資本金を1,000万円以上で設定した結果、1年目から消費税がかかってしまったということもあり得ます。
筆者のように税理士と司法書士の両方の資格を有しているような場合はさておき、できる限り事前に税理士などの専門家に相談したり、税理士などの専門家と連携しているような司法書士にお願いすることをオススメします。
また個人事業主の場合は、経営していくうえで司法書士と関わるということは基本的にありません。しかし、個人事業主のなかには、事業の拡大や税務対策、取引先との関係などの事情から、法人成り(法人化)の手続きを行う場合もあるでしょう。
この場合には、会社設立の手続きが必要となりますので、司法書士の出番となります。法人化をする際には、顧問税理士のアドバイスを得ながら進めることが一般的です。法人化のための会社設立手続きを行う司法書士についても、顧問税理士からの紹介ということが多いです。もしそうしたつてがない場合にも、設立の内容について顧問税理士に確認するといったことを行いましょう。
企業法務のコンサルティングも司法書士の重要な業務
最近では事業承継も盛んに話題に上ることがあり、企業の合併や買収(M&A)という言葉が、中小企業にとって遠い話ではなくなってきました。こうした企業の合併などには、会計、税務、法律などが複雑に絡み合うため、複数の専門家がタッグを組んで行います。
司法書士も、会社合併の登記申請はもちろんのこと、案件によっては、どのようなプロセスで合併までに至るのかというスケジューリングや、合併契約書の作成など、さまざまな点で合併をサポートします。
このようなケースだけでなく、日々の企業法務の相談について手掛けている司法書士もいます。法律顧問といえば弁護士の業務というイメージですが、契約書のチェックや、適正な株主総会の開催手続きなど、企業の法務部的な業務を担っている司法書士もいます。
このような企業法務を手掛けることができる司法書士は現状それほど多くはありませんが、司法書士は弁護士に比べて、どちらかといえば実務寄りなので、契約書の書き方など細かい法律相談が多い場合には、司法書士に法律顧問を依頼するのもよいかもしれません。
弁護士と司法書士の違いは? 登記申請は弁護士でもできるが……
司法書士は、その業務からわかるように、ヒトやカネを扱う税理士や社会保険労務士という資格よりも、弁護士や行政書士といった法律関係の業務を扱う資格に近いといえます。そのため、仕事を依頼する場合にも、弁護士や行政書士との業務の境目が重要です。
まず弁護士との関係です。このような書き方をすると身もふたもありませんが、司法書士の仕事は、そのほとんどについて弁護士がやることは問題ありません。裁判所などへの書類提出はまさに弁護士の本業ですし、登記申請についても、弁護士が依頼を受けて申請することは制度上問題ありません。
しかし、弁護士の業務はどんな資格よりも広範囲です。制度上認められているからといって、登記業務を中心に手掛けている弁護士はそれほどいません。そのもっとも大きな理由は実務経験です。
裁判の手続きと登記の手続きはまったく異なるものです。登記に関しては、弁護士に比べて、日ごろから登記申請を手掛けている司法書士の方が実務能力が高いのは当然です。依頼する側としても、登記に関しては司法書士に依頼するほうが安心でしょう。
もう一つは、費用と時間の問題です。弁護士と司法書士に同じ登記業務を依頼しても、ほとんどは司法書士のほうが安い金額で設定していることが多いことや、弁護士自身も裁判など多くの業務を抱えているなかで、あえて登記業務まで行うということをしないパターンが多いためです。
行政書士と司法書士の違いは? 登記申請書の作成は司法書士の独占業務
次に行政書士との関係です。司法書士にとっては、弁護士との関係よりも、行政書士との関係のほうがより複雑です。名前も似ていますので、混同している人が多いのも事実ですが、その仕事は大きく異なります。
まず、登記申請書の作成は司法書士の独占業務であり、行政書士にはできません。
例えば、会社の変更登記の申請には、そのほとんどについて株主総会議事録の作成が必要です。ここまでは行政書士が行っても問題ありません。しかし、登記申請が司法書士の独占業務となっている以上、その後の法務局への登記申請書の作成まで行政書士が行ってしまうことは法律上認められません。
同じことが会社設立においてもいえます。会社を設立する場合、定款を作成する必要があります。この定款の作成について、行政書士が行うことはまったく問題ありません。しかし、その後の会社設立のための登記申請書の作成までを行政書士が行うことは認められていません。
このような職域の問題はいつまでたっても残るものですが、依頼する側としては、どこからどこまで行政書士で、どこからが司法書士の業務なのかといったことに気を払うのも面倒でしょうから、登記が絡む手続きについて代理の依頼をするのであれば、最初から司法書士に頼んでおくのがよいでしょう。
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