フリーランスや個人事業主が知っておきたい「著作権」「肖像権」についての基礎知識【弁護士が解説!】

フリーランスや個人事業主で、カメラマンやデザイナー、ライターなどクリエイティブ系の仕事をしていれば、なにかと関わってくる著作物の扱い。
「コピペはダメ」「勝手に写真などを二次使用してはダメ」など、なんとなくわかっているつもりでも、著作権、肖像権についてちゃんとした知識がある人は少ないかもしれません。
そこで今回は、著作権・肖像権を侵害されない、自分もしないためには、どんなことに気をつけたらいいのか? すもも法律事務所の弁護士・洲桃麻由子先生に解説をしていただきます。
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- POINT
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- 肖像権の侵害になるかならないかの判断基準は主に4つ
- 成果物の納品に際しては、著作権を譲渡するのかなど具体的な内容、範囲を契約の段階できちんと決めておこう
- 法的紛争が発生した場合は弁護士に相談しよう
著作権とは? 肖像権とは?ちゃんと説明できますか?
――まずは著作権、肖像権とはそもそもどんなものなのでしょうか? 教えて下さい。
著作権、肖像権ともに、コピーしてはいけない、勝手にインターネット上にアップしてはいけないという点では共通しています。ただ、保護となる対象は全く違います。まずは基礎から学んで行きましょう。
著作権
対象となるのは、著作物です。著作物とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸・学術・美術、または音楽の範囲に属するもの。クリエイトしたもの、作り上げたものが対象となりますが、何でも著作物になるわけではなく、「思想または感情を」「創作的に」表現したものでなければならないということです。
原稿、イラスト、写真などは基本的に著作物の対象となることが多いと考えられます。しかし、例えば写真について、正面から撮った証明写真のような、誰が撮影しても同じになるようなものであれば、著作権の保護対象となるのは難しいかもしれません。構図や向き、採光などを写真家さんの裁量で撮影した写真であれば、著作権が成立する可能性が高いですね。
また、身近な例で基本的に著作権の保護対象とならないものとして、レシピがあります。レシピは料理の作り方、手順であって、思想または感情を創作的に表現したものではないからです。
ただし、もし、レシピの作り方を物語調に紹介していれば、「物語」として(言語の著作物として)著作権の保護を受け得るかもしれません。でも、通常のおいしい料理の作り方ということであれば、著作権の保護対象にはならないのです。
また、デザインについては、何のデザインかということが著作物性の判断にとって重要な問題です。実用品のデザインは、例外的な場合を除き、基本的には著作権ではなく意匠権による保護対象となるからです。
肖像権
自己の容姿、姿態をみだりに利用されない権利です。
この肖像権にはふたつの側面があり、
①プライバシー権としての権利……自己の容姿を無断で撮影されたり、撮影された写真を勝手に公表されない権利のことです。これは人格権に即した権利です。
②パブリシティ権としての権利……著名人の肖像や氏名の持つ顧客吸引力から生ずる経済的な権利です。
まず、以上の基本を押さえておきましょう。
肖像権を侵害しない&されないためには?
――著作権も、肖像権も、「侵害される」という言葉を耳にします。それはどういった状況のことをいうのでしょうか?
例えば、「ある人の顔写真が勝手に使われている!」という場合は、どの権利が侵害されていると言えると思いますか?
「ある人」が有名な俳優Aさんである場合……ある会社が自社商品の売り上げを上げたいからと、俳優Aさんの顔写真を契約もしていないのに勝手に使って、俳優さんの顧客吸引力を利用したという場合。
この場合は、肖像権におけるプライバシー権よりも俳優Aさんのパブリシティ権の問題になります。
俳優さんは自分自身の容貌を、どこの会社のどの商品に利用させるか等を選ぶ権利があり、許諾によって対価を得ている訳ですから、俳優さんの顔写真を勝手に使うということは、俳優さんの経済的利益を侵害する行為といえます。
ある人が一般人の場合……俳優さんのように、パブリシティ権のような顧客吸引力はありませんので、通常問題となるのは、肖像権におけるプライバシー権となります。
一般の人が勝手に容貌を撮影されて、公表されてしまうということは、その人のプライバシーを侵害する行為です。写真を公開した人に対して公開をやめるように差し止め請求をしたり、損害賠償請求をしたりすることができます。
――では、カメラマンが道路で撮影をしていて、たまたま歩いている一般の方の顔が写真に映りこんでしまった場合、肖像権を侵害したことになりますか?
あり得ますが、たまたま映りこんでしまって風景の一部に溶け込んでいる場合は、プライバシー権の侵害にならない可能性が高いですね。
――風景の一部ですか……。ほかに判断基準はありますか?
裁判例を総合すると、肖像権の侵害になるかならないかの判断基準は主として4つあります。
①被写体を特定できるかどうか?
よく見ればその人とわかるけれども、風景の一部で、通常その人だということは特定できないという場合。肖像権の侵害の可能性は低くなります。
②被写体本人の許可をもらっているか?
イベントやセミナーなどで、「本日は、○○に使用するため、写真撮影させていただきます。前方で写真を撮りますので、写りたくない方は後方に移動してください」とアナウンスしたり、あらかじめ書面で告知したりした場合。その上で、あえて前方に残っているのなら、同意していると評価できると考えられます。
③場所柄撮影されることが予測できるか?
イベントの性質上、写真を撮られることが一般的に予測できるかどうか。例えばコスプレイベントなどであれば、一般の人でも写真を撮られることが前提となるでしょう。
さらに公道にいるときなど、一般的に誰にでも見られるような状況で風景写真に写り込んだ場合も、撮影されることが前提とまでは言われませんが、ある程度撮影されることも予測できるということですね。
④写真を拡散性の高い場所に公開しているか?
勝手に自分が写った写真が公開された場合、より多くの人に見られることで精神的苦痛の程度が増すのが普通ですので、SNSなどの拡散性の高い不特定多数の人に閲覧されるような場所に公開された場合は、肖像権侵害が認められる方向に働く要素となります。
ただし最近では、トラブルを避けるため、写真を掲載したり、映像を公開したりする際には顔から誰かを特定されないような加工をすることが多くなっています。
――肖像権に関しては、以前はもっと「ゆるかった」という気もします。最近では規制がどんどん厳しくなっているのでしょうか?
デジタル写真の登場によって、比較的小さな画像でもきれいに拡大することが技術的に容易になりました。さらに、インターネットの普及により、一度インターネットに公開情報として掲載されると、元の画像が削除されてもどんどん転載されて、拡散してしまうようにもなりました。このように、プライバシー権が侵害される可能性が増えてきました。こうした状況に対応できるようにしようという動きだと考えられるでしょう。