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弁護士に聞く!働き方改革関連法の改正で中小企業がおさえるべきポイントとは?

いよいよ2019年4月1日から働き方改革関連法が順次施行されました。今回の改革では、大企業のみならず、中小企業も対象になるため、中小企業経営者も、今までのように、「うちは大手と違うから」では済まなくなるでしょう。

でも、働き方改革関連法の内容を見ると、内容もさまざま。大手企業と中小企業とでは施行時期も異なることもあったり、業務によっては除外されたりなどと複雑で、「何からどう手を付けたらいいのかわからない」という中小企業経営者の方もいるでしょう。

そこで今回は、働き方改革関連法について、中小企業やスモールビジネス事業者は、どのような知識を得る必要があるのか?対応するには、どんなことに注意したらいいのか?労働法に詳しいすもも法律事務所の弁護士・洲桃麻由子先生に解説をしていただきます。

  • 働き方改革関連法で押さえるべきポイントは9つ
  • 違反した場合は罰金など刑事罰の対象になることも
  • 労働環境を改善することで、業務の効率化や発展が促進され、会社の利益に

働き方改革関連法 9つの内容を押さえよう

――働き方改革関連法が4月から施行されました。大企業、中小企業では施行時期が異なるものもあるようですね。まず、法律上の大企業、中小企業の定義について教えてください。

本テーマに関しては、法律上、大企業と中小企業は「資本金の額または出資額、常時使用する労働者(従業員)の数」で区別されます。そして、いずれか一方の条件を満たしていれば、中小企業に該当します(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律附則第3条参照)。

その基準は業種ごとに異なり、主な業種ごとには、以下のようになります。

●小売業の場合

資本金の額または出資の総額:5,000万円以下
常時使用する労働者の数:50人以下

●サービス業の場合

資本金の額または出資の総額:5,000万円以下
常時使用する労働者の数:100人以下

●卸売業の場合

資本金の額または出資の総額:1億円以下
常時使用する労働者の数:100人以下

●上記以外の場合

資本金の額または出資の総額:3億円以下
常時使用する労働者の数:300人以下

個人事業主や医療法人など資本金や出資総額の概念が当てはまらない場合は、労働者数のみで判断されます。

また「常時使用する労働者」については、正社員だけでなく、パート社員(従業員)も含まれます。常時使用する労働者の数を減らしたいからといってパートさんの人数をカウントしないのは、違法になってしまうので要注意です。ただし、一時的な臨時雇いの者であれば、含まなくても大丈夫です。

――まずは、自社が大企業か中小企業か、知っておくことも大切ですね。それでは本題の働き方改革関連法について。その内容は幅広く、正しく理解している方は多くはないかもしれません。

働き方改革関連法で今までと何がどのように変わったのか? 何に注意するべきなのでしょうか?

それでは働き方改革関連法の、9つの改正項目を確認していきましょう。

労働基準法の改正

①時間外労働の上限規制(大企業:2019年4月~、中小企業:2020年4月~)

今回の改正の大きな柱のひとつとされているのが、この「時間外労働の上限規制」です。日本の悪しき伝統と言われていた長時間労働を法律によって罰則付きで規制しようというものです。

【改正前】
今回の労働基準法改正前から、法律上の時間外労働の上限規制は存在してしました。この労働時間の上限を法定労働時間、法定休日と言います。

●法定労働時間:原則1日8時間、1週40時間以内
●法定休日:原則少なくとも週1日

法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や、法定休日に労働させる場合は、まず労働基準法36条に基づく労使協定が必要でした。これがよく聞かれる「36(サブロク)協定」です。

36協定では時間外労働を行う業務の種類や、時間外労働の時間の上限を定め、それを所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要でした。この原則は今回の法律の改正によっても変わりません。

ただ、改正前は、この36協定で定める時間外労働については、厚生労働大臣の告示で条件の基準が示されるにとどまり、上限を超えた場合の罰則などはありませんでした。また、時間外労働の上限の基準が定められていたものの、特別条項付きの36協定を締結すれば、限度時間を超える時間まで時間外労働をさせることも可能でした。

【改正後】
時間外労働の上限が法律で定められた

●上限内容は月45時間、年360時間

ただし、臨時的な特別な事情があって、労使が合意する場合はこの上限以上の労働をさせることができます。これは特別条項といわれますが、その場合でも一定の基準を守らなければいけません。

  • 1年の時間外労働が720時間以内であるということ
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満であるということ
  • 時間外労働と休日労働の合計について、2ヵ月~3ヵ月~4ヵ月~5ヵ月~6ヵ月平均で、すべて1月あたり80時間以内であること(例えばある月に100時間労働をさせたら、次の月は60時間以内までの労働にしなければならない。100時間+60時間/2ヵ月=80時間)
  • 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、1年あたり6ヵ月が限度となる

【違反に対しての罰則】この規定に違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となる

法律によって具体的に時間外労働の上限の時間が定められ、罰則が設けられた点が大きな改正点ですね。

②年次有給休暇の年5日時季指定付与(全企業:2019年4月~)

すべての企業において、年次5日の有給休暇を確実に労働者に取得させることが使用者である企業の義務となり、罰則の対象にもなります。「すべての企業」が対象ということは、大企業のみならず、すでに中小企業も対象になっているため、注意が必要です。

【改正前】
労働者である従業員が、

  • 雇い入れの日から6ヵ月以上継続して雇われている
  • 全労働日の8割以上出社・出勤している

という要件を2条件満たしている場合には、年次有給休暇を取得する権利を有します。期間は原則として1年につき10日以上。

ただし、この年休による取得日数については、使用者に義務はありませんでした。

【改正後】
使用者が労働者の有給休暇取得時期を指定する
使用者は労働者ごとに年次有給休暇を付与した日から1年以内に、5日について、取得時期を指定して年次有給休暇を取得させなければいけません。対象となる労働者は法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に限られますが、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

また、使用者が時季指定を行う前に、すでに労働者が年次有給休暇を5日以上取得済みである場合には、使用者が時季指定をすることはできないので注意しましょう。

また、使用者が時季指定した日が到来する前に労働者が自身の請求により年次有給休暇を取得し、休暇日数が5日に達した場合には、労働者が自ら5日の年次有給休暇を取得しているので、使用者は労働基準法違反にはなりません。この場合において、当初使用者が行った時季指定は、使用者と労働者との間に特段の取決めがない限り、無効とはならないとされています(平成31年4月付厚生労働省労働基準局「改正労働基準法に関するQ&A」3-8)。

取得時期については労働者の意見を聴取する
また労働者に対して使用者が時期を指定するにあたり、まず、使用者は労働者の意見を聴取しなければなりません。労働者のほうも希望がありますので、それを聞いたうえで時期を決めましょうということですね。もちろん、単に意見を聴取するだけではなく、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、使用者は聴取した意見を尊重しなければなりません。

なぜこのような内容が盛り込まれたかというと、日本は労働者のほうから休暇の取得を言い出しにくい風潮があるということです。そのため、使用者側から、労働者の意見を聞いた上で、「あなたはこの日に年休を取りなさい」と指定したほうが労働者は休みやすい、ということですね。

就業規則への規定、年次有給休暇管理簿の作成や保管が義務に
休暇については以前より就業規則に絶対的に記載しなければならない事項(労働基準法第89条)ですので、今回の改正により、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合には、時季指定の対象となる労働者の範囲および時季指定の方法等について、就業規則に記載する必要があります。
さらに、年次有給休暇の時季、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)も作成し、当該年休を与えた期間中および当該期間の満了後3年間保存しなければいけません。

【違反に対しての罰則】この規定に違反し、対象となる従業員に有給休暇の指定をしないと、30万円以下の罰金の対象となる(労働基準法第39条第7項、第120条)

この罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われますので、例えば違反の対象となる労働者の数が1人の場合は最高30万円、2人の場合は最高60万円の罰金……が科されるおそれがあるということです。
使用者が5日分の年次有給休暇の時季指定をしただけでは足りず、実際に基準日から1年以内に労働者が年次有給休暇を5日取得していなければ、法違反として取り扱われることになると考えられます(平成31年4月付厚生労働省労働基準局「改正労働基準法に関するQ&A」3-20)。

また、注意が必要なのは、パートタイム労働者でも、労働時間が長ければ、年間有給休暇を10日間与えなければならない対象者(つまり今回の改正による年5日の時季指定義務の対象者)に該当するということです。
例えば、所定労働日数が週4日(1年間の所定労働日数が169日~216日)の人でも、継続勤務年数が3年6ヵ月以上であれば10日の年次有給休暇の付与対象者に該当します。所定労働日数が週3日(1年間の所定労働日数が121日~168日)で、継続勤務年数が5年6ヵ月以上の労働者についても同様です。

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③フレックスタイム制の清算期間が最長3ヵ月に(全企業:2019年4月~)

フレックスタイム制とは、一定の期間について定められた労働時間の範囲内で、労働者が自ら日々の始業・終業時間を決めることができる制度です。

【改正前】
フレックスタイムを導入した場合は、1日8時間、週40時間を超える労働をしたとしても直ちには時間外労働とはならず、1ヵ月という清算期間を通じて、週平均40時間を超える時間が時間外労働となっていました。

清算期間が1ヵ月と短かったので、フレックスタイム制といっても、月をまたいでのフレキシブルな働き方はできませんでした。

【改正後】
清算期間が1ヵ月から3ヵ月に延長
清算期間が延びたことによって、例えば、6月は株主総会の準備があって非常に忙しいので労働時間を長くする。でも8月は、事業の閑散期で、子どもの夏休み期間でもあるため、働く時間を短くして、子どもと一緒に過ごす時間を長めにする、といった働き方ができるようになります。

1ヵ月ごとの労働時間は週平均50時間まで
清算期間が伸びたといっても無制限に働かせることができる訳ではありません。フレックスタイム制を導入していても、①清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えないこと、②1ヵ月ごとの労働時間は週平均50時間を超えないことが条件。いずれかを超えた時間は時間外労働としてカウントされます。

清算期間が1ヵ月を超えると手続きが必要
そして、清算期間が1ヵ月以下の場合は、届出は不要ですが、清算期間が1ヵ月を超える場合、労使協定を所轄の労働基準監督署長に届けることが必要となります。届け出を怠ると30万円以下の罰金が科せられます。

④高度プロフェッショナル制度の創設(全企業:2019年4月~)

労働基準法には労働者を守るための規定がされているのですが、この制度では、一定条件の下、一部の規定の適用がされません。しかし、当然ですが「働かせ放題」になってはならないということで、下記のようにかなり厳格な要件が定められています。

高度の専門的な知識を有し、職務の範囲が明確で、一定の年収要件を満たす労働者」を対象として、労使委員会の決議、および、労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置、健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講じることにより、労働基準法に定めた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しないという制度です。

ポイントを絞って読み解いてみると、

  • 対象業種は、金融ディーラー、ファンドマネージャー、アナリスト、コンサルタント(顧客の事業の運営に関する重要事項に関するもの)、研究開発職などに限定
  • 一般的な年収要件は一般賃金の3倍。当面のところは1千75万円以上
  • 労働者本人が自署して同意書に捺印しなければならない
  • 年間104日、月4日以上の休暇を取らせなければならない
  • 労働者の勤務の状況をタイムカードやパソコンのログ状況などで客観的に管理し、長時間働いていると判明した場合、会社側から該当の労働者に健康診断を受けさせなければならない

対象業種から見ても、当面は一般的な中小企業は対象にはならないかもしれません。しかし今後、対象の業種が拡大されたり、対象となる年収も下がっていく可能性もあるので、注意深く見守って行く必要はあるでしょう。

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⑤中小企業への割増賃金率の猶予措置の廃止(大企業:2010年~適用済、中小企業:2023年4月~)

1ヵ月に60時間を超える時間外労働を行わせた場合には、その部分について50%以上の割増賃金を支払わなければならないという制度。そうすることによって、長時間の時間外労働を抑制するという狙いがありました。2010年4月1日から、すでに大企業では導入されていました。

2023年4月から中小企業でも適用
今まで中小企業に関しては、「中小企業の経営状態が苦しくなっては困るから、待ってあげましょう」ということで、例外的に猶予されていました。しかし2023年4月からはもう「待ったなし」の状況です。
もともと、上記猶予措置も文字どおり「猶予」であって、猶予期間中に、労働者に時間外労働をさせなくても、会社としてやっていけるような体制を整えて下さいという趣旨だったのです。今後は、中小企業においても、業務処理体制の見直し、新規雇入れ、省力化投資等の工夫によって、できる限り労働者に時間外労働をさせなくて済む方法を真剣に考える必要があります。

労働時間等設定改善法

⑥勤務間インターバル制度(全企業:2019年4月~)

インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までに一定の時間以上の休憩期間=インターバル時間を確保する仕組みを言います。改正前は特段法律上は定めはありませんでしたが、大企業を中心として、改正前から自発的に導入していた企業もありました。

例えば、ある会社でインターバル時間が11時間と定められている場合。夜12時に仕事が終わりましたが、会社の一般的な出社時刻は朝9時とすると、夜12時から朝9時までの間には9時間しかありません。しかし、インターバル時間を11時間あけなければならないので、午前11時に出社しました。そのような場合でも、9時から11時までの2時間を出社して就業した時間とみなす、賃金も減らさない、という制度です。

【改正後】
勤務間のインターバル制度を導入することが事業主の努力義務に
ここで気になるのが、罰則ではなく、「努力義務」とは何かということでしょう。事業者が「努力していますよ」と言えば、何も対策をしていなくても通ってしまうのではないか? と思うかもしれません。

しかし万が一、長時間労働による過労死や社外での事故が起きてしまった場合、インターバル制度の導入に努めなければならないといわれているのにまったく何もしていない、ということであれば、会社の労働法に関するコンプライアンスがなっていない=努力義務を怠っているとみなされ、裁判などでは、会社側に不利な判断が下される要素になってしまいます。

他方、今はインターバル制度を設定していなくても、制度設定をするための動きとして

例)

  • どのようなインターバル制度を望むのか? 労働者と会社側で話し合う機会を持った
  • 他社の例を参考にインターバル制度を試用した

など、正式な導入に向けて具体的に動きを進めているということであれば、「努力義務」を果たしていると認められる可能性はると考えられます。

労働安全衛生法

⑦労働時間の客観的把握(全企業:2019年4月~)

労働者の健康管理の観点から、すべての人の労働時間を客観的に把握することが義務化されました。

【改正前】
従来も従業員の労働時間を適正に把握すること、という通達がありましたが、その目的は、割増賃金を適正に支払うため、というものでした。また、その通達では裁量労働制(専門型・企画型)の適用者、管理監督者は通達の対象外でした。

【改正後】
労働時間を把握する適用者の拡大
対象労働者の健康の確保、という観点から、裁量労働制が適用される人、管理監督者も含めて、すべての人の労働時間を適正に把握することが法律で義務付けられます

労働時間の把握は、タイムカード、パソコンのログイン・ログアウトなど、客観的な方法でなければならず、記録は3年間保存する必要もあります。

⑧産業医・産業保健機能の強化(全企業:2019年4月~)

産業医の権限を強化
もともと産業医は、労働者の健康の確保をするために必要がある場合は、事業者に対して勧告をすることができました。しかしこれまでは、「労働者に対して適切な休暇を取らせる必要がある」と産業医から勧告があったにも関わらず、会社が忙しい時期だから是正できない、本人が望んで働いている、といった言い訳をして、何も対処しないという例が見られました。

しかし今回の労働安全衛生法の改正によって、産業医の権限が強化されました。例えば、労働者の業務の状況を産業医が適切に把握し、判断できることができるように、事業者は産業医に必要な情報を提供しなければならないことになりました。

パートタイム労働法・労働契約法・労働者派遣法

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⑨同一労働同一賃金の原則(大企業:2020年4月1日〜、中小企業:2021年4月〜)

同じ会社のなかでも正規(無期のフルタイム)雇用者と、非正規雇用者(パート・契約社員・契約社員等)の両者の賃金体系の違いが2倍程度に拡大しており、「同じ仕事をしているのに、これだけ賃金が違うのはおかしいのでは?」という指摘が以前からされていました。

それに対して会社側は、「将来性、期待性が異なる」という抽象的な理由で賃金格差を設けるのは適法と言っていました。

しかし欧米では、同じ仕事をしているのであれば、当然賃金は同じであるべきであり、以前から同一労働・同一賃金の原則を法律上取り入れるようになりました。正社員と非正規社員の不合理な待遇差は法律上禁止され、事業者は、非正規社員から正社員との待遇差の内容や理由について説明を求められた場合には、説明する義務を負います。

難しいと感じたら、専門家の力を借りたり、助成金制度を利用することも

――全部で9項目。かなり大きな改正があったということがよくわかりました。まだ何も準備していなかった! という経営者は今後まず何から手を付ければいいのでしょうか?

まず事業者は、働き方改革関連法の定める具体的な改正内容について、正しく理解しなければなりません。そのためにも厚生労働省では中小企業向けのパンフレット等を制作、配布していますし、無料相談窓口も設けています。

さらに、働き方改革に関する制度を導入するために、中小企業対象に各種助成金制度も設けられているので、活用してもいいでしょう。

自分だけでは自信がない、把握しきれないという場合、専門的な知識を持っている法務・人事の人材を雇用するという方法も。または、外部コンサルティングのようなかたちで、社会保険労務士や弁護士に自社の就業規則や社内体制に不備がないかをチェックしてもらうという方法もあります。

「刑事罰が科される」「裁判で訴えられる」とは?

――今回の改革では、実際に守らなければ、逮捕される、刑事罰が科されるという項目もあります。経営者のなかには「大変な時代だ……」と感じる方もいるかもしれません。

よほど悪質な事例でもない限り、突然刑事罰を科されることは普通はありません。大抵はまず所轄の労働基準監督署から指導を受けます。その指導を受けて速やかに対処し、是正報告を受ければ、刑事事件にまで発展することは回避できることが多いと考えられます。

しかし、そもそも是正しようという意識がない経営者の場合は別問題です。人を雇っている以上、この法律が何のためにあるのか? 経営者は肝に命じないといけませんね。

――今後は、事業主が労働者に訴えられるリスクも増えそうでしょうか?

通常は、労働者もいきなり裁判で訴えたりはせず、まずは弁護士に相談して、任意の交渉を行うということが多いかと思います。

例えば、労働者にサービス残業をさせていて、割増賃金の増額率を守っていなかった場合。任意の交渉段階で割増賃金を請求されたところですぐに適切に対処すれば、裁判にならずに済むでしょう。。もちろん、一番大切なのは、法定の割増賃金をきちんと支払うような体制を整えておくことです。

そこを通り越して訴訟提起された場合ですが、日本の民事訴訟では適法に答弁しないとまず原告の請求が通る=被告が負ける仕組みとなっています。専門的知識を踏まえた適切な防御活動を行うために、訴訟の代理人を弁護士に依頼することが多いでしょうから、そうなれば当然、弁護士費用も発生します。

さらに、万が一訴訟問題にまで発展した場合、その会社がブラック企業であるという噂が流れて、優秀な人材が集まらなくなる、取引先の信用を失う、といった可能性もあります。最近は「ブラック企業と取引しないのが、コンプライアンス上の義務です」といっているような会社も増えていますからね。

そういった意味でも、労働基準法をはじめとした各種の関係法令をしっかり守り、初めから労働者との間で労務問題を極力起こさない体制を整えることが肝要です。
また、労働者から労務問題に関して何らかの請求を受けた場合には、法律に照らして労働者の請求に理由があるのか否かをきちんと精査し、理由があるようなら速やかに適切な対応を取ることが大切です。そのような体制を整えておくことが、結局は事業主自身の利益にも繋がります。

――『スモビバ!』の読者のなかには、働き方改革はしたいけど、そんな余裕はない、と悩んでいる事業者もいるかもしれません。そんな人たちに、どうしたらよりよい職場環境を作れるのか? アドバイスをお願いします。

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今回、働き方改革改正法が実施された目的には、中小企業の労働環境が改善され、ワークライフバランスのとりやすい働き方が実施されれば、より良い人材が集まり、会社全体の生産性が上がる好循環が生まれるという観点も含まれています。

事業者にとって複雑で理解しにくいところは専門家の力を借りることもできますし、無料相談窓口や各種助成金制度も活用できます。

そのため、罰則が科されるから仕方なくやるというのではなくて、「自分の会社、そして自分の会社のために働いてくれる労働者がよりハッピーになるために、環境を変えるチャンス」」「自分の会社の労働者の満足度が上がることで、業務の効率化や発展が促進され、会社の利益に繋がる」というように、ポジティブに考えてみてはいかがでしょうか?

――本日はどうもありがとうございました。

撮影:塙薫子

洲桃麻由子すもも・まゆこ

弁護士・ニューヨーク州弁護士。2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP2級)の資格も有する。
すもも法律事務所(東京都中央区) 代表弁護士。日本弁護士連合会民事司法改革総合推進本部幹事(執筆時現在)。大手渉外法律事務所で研鑽を積み、2015年に新たに現事務所を開設。
民事・商事・労働・家事・刑事事件など幅広い分野で、法律を武器として理不尽と闘い、依頼者の利益を最大限に実現化することを使命としている。英語対応可。
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