従業員の社会保険料計算、給与天引きのタイミング。入社・退職時の注意点は?社労士が徹底解説

2019/04/15更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

毎月の従業員の給与から天引きする社会保険料。特に入社や退社のタイミングでは、どのように天引きすればよいのか判断に迷うこともあるでしょう。今回は社会保険料の給与天引きについて、計算方法や考え方を、給与の締め日、支払日の事例とともに、社労士が徹底解説します。

POINT

  • 社会保険料は、健康保険料+厚生年金保険料と、雇用保険で別個に考える
  • 健康保険料・厚生年金保険料については、基本的に月末に加入者であれば、その月の社会保険料がかかる
  • 健康保険・厚生年金保険については、基本的に退職日の翌日が資格喪失日である

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社会保険料の種類と徴収のルール

従業員の給与から天引きする社会保険料は、大きく分けて、次の3種類があります。

  • 1.
    健康保険料
  • 2.
    厚生年金保険料
  • 3.
    雇用保険料

このほかにも従業員が関係する社会保険として労災保険もあります。ただし、労災保険料については100%会社負担であるため、従業員からの給与天引きはありません。そのため、今回は給与天引きが関係する上記の3つの制度に絞って説明していきます。

健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料すべて、毎月の給与や、年数回の賞与の支払いの度に天引きするという点は同じです。

一方で天引きする金額の決定は、健康保険料・厚生年金保険料と雇用保険料で大きく異なります。

健康保険料・厚生年金保険料は一般的には社会保険料と呼ばれていますので、以下でも健康保険料・厚生年金保険料=社会保険料として、雇用保険料と区別することにします。

社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)

まず、社会保険料は、標準報酬月額といって、毎年4月から6月の給与額面の平均(新入社員の場合は基本的に初任給の給与額面(時給や日給の場合は、入社前月に時給や日給で給与を受け取った従業員の平均額))をベースに計算します。

こうして計算された金額を報酬月額といいます。標準報酬月額は、報酬月額を、あらかじめ決められた等級に当てはめて決定します。標準報酬月額や、標準報酬月額ごとの毎月給与天引きすべき社会保険料の金額は、全国健康保険協会が用意している以下のサイトから確認できます。

参考
全国健康保険協会「都道府県毎の保険料額表」新規タブで開く

4月から6月に残業代が多くなると社会保険料が上がるというのは標準報酬月額の決め方に由来します。ちなみに、4月から6月に支払うべき残業代やその他の手当をまとめて7月に支払うといったことは、そもそも労基法違反になりますし、標準報酬月額は支払いが遅れた分も計算に入れなければならないということに注意しましょう。

社会保険料は、会社と従業員が50%ずつ負担します。納付する金額は、標準報酬月額をベースに日本年金機構から通知されます。会社が計算するわけではありません。

会社で各従業員の標準報酬月額を正確に把握しておけば、日本年金機構が計算する金額をずれることはありません。従業員から給与天引きした保険料に、ほぼ同額を上乗せして納付することになります。ほぼ同額と書いたのは、社会保険料の納付の際に、会社のみ「子ども・子育て拠出金」を合わせて納付する必要があるためです。

つまり、会社が納付する金額は、次のようになります。

従業員から給与天引きした額

給与天引きと同額の会社負担額

会社が負担する子ども・子育て拠出金額

単純に給与天引き額を2倍した金額よりもやや多くなるのは、子ども・子育て拠出金が加算されているためです。

雇用保険料

一方、雇用保険料は毎月の給与額面をベースに計算します。毎月給与額面が変動する場合には、その金額に決められた保険料率を乗じて、給与天引き額を計算します。これに対して、社会保険料は標準報酬月額をベースに毎月の給与天引き額を計算するため、とある月の残業代が多くなったとしても給与天引きする社会保険料がその月に大きくなるということはありません。

雇用保険料率は、毎年4月に改訂されます。毎年の雇用保険料率は、以下の厚生労働省のサイトから確認できます。

参考
厚生労働省「雇用保険料率について」新規タブで開く

雇用保険料は労災保険料とともに、毎年4月1日から翌3月31日に発生した給与の金額を集計して決められた保険料率を乗じることで1年間の保険料を計算し、6月1日から7月10日の間に1年分の保険料金額を納付します。雇用保険料の給与天引きは毎月行いますが、その納付は基本的に年に1回ということになります。

標準報酬月額や、雇用保険料の計算の基礎となる給与には、通勤手当をはじめ○○手当など、給与明細に乗せる金額が基本的にはすべて含まれます。ただし、福利厚生の一環として支給するような○○金(結婚祝い金や出産祝い金、弔慰金など)は給与と合わせて支給したとしても、含みません。

給与の締め日、支払日と社会保険料の対応

次にいつから社会保険料を天引きするのかということを見ていきましょう。給与の締日や支払日、社会保険料の納付日など、いろいろな日が絡み、どのように天引きしていけばよいのかということに迷うこともありますが、それぞれの日の関係を理解すれば、どのようなケースでも迷うことがなくなります。

社会保険料

社会保険料の発生するタイミング

社会保険料は、翌月末日が支払期限となります。たとえば、1月分の社会保険料の納付期限は2月末ということになります。翌月末日が休日の場合、納期限は後ろ倒しになりますが、話を単純にするために、以下ではすべて翌月末日納付ということにします。

社会保険料については、いつからいつまで社会保険料がかかるのかということを理解しましょう。重要なポイントは、「月末に加入者であれば、その月の社会保険料がかかる」ということです。

社会保険料の資格喪失日

社会保険の加入日は、入社日(途中で雇用形態の変更などで加入することとなった場合は、その日)ということで分かりやすいのですが、資格喪失日は少々分かりにくいです。

資格喪失日は基本的に退職日の翌日です。退職日当日もその会社の健康保険証が使えるようにしてあるということです。退職日にそのまま他社に雇用されるような場合(例えば、午前中に退職して午後から別会社で勤務を始めるような場合)には退職日に資格喪失となりますが、ほとんどは退職日の翌日となります。

例えば1月31日に退職する場合は、2月1日が資格喪失日となります。この場合、1月31日時点ではまだ加入者であるため、「月末に加入者であれば、その月の社会保険料がかかる」というルールに従って、1月分の保険料、つまり2月末に納付すべき保険料までかかるということになります。

一方1月30日に退職する場合は、1月31日が資格喪失日となります。この場合は、1月31日にはすでに資格喪失して加入者でなくなっているため、1月の社会保険料はかからず、12月分、つまり1月末に納付すべき社会保険料が最後となります。

では、入社した月に退職することになってしまった場合はどうでしょうか?このケースは多少ややこしいです。このケースだけ、ほかの会社で月末に加入者でない人については、保険料の徴収が必要となります。

例えば、1月10日に入社して、1月29日に退職した場合、資格喪失日は1月30日となります。この場合、他社に再就職してその会社で1月31日時点において加入している場合を除いて、例外的に社会保険料の天引きが必要となります。

そうはいっても、すぐに退職してしまった人がそのまま他社に再就職するかどうかということを確認することはなかなか難しいかもしれません。

本来徴収すべきでなかった社会保険料を天引きして、納付までしてしまった場合には、後日年金事務所から還付が行われます。(実際の現場では、同月入退社は、2,3日で来なくなるような人であることも多く、社会保険の加入手続きを取る間さえなく、同月入退社で頭を悩ませるようなことすらないことも多いかもしれませんが)。

同月入退社の例外はありますが、基本的には月末ルールと、社会保険の資格喪失日がいつになるのかという2つのポイントを押さえておけば、さまざまなケースに対応できます。

ちなみに、社会保険料には日割りという考え方がありません。末日に加入していれば、何日に資格取得しても、納付額は丸1か月分ということになることに注意しましょう。場合によっては、給与は日割りでも社会保険料は1か月分天引きということで、手取り額に大きく影響することもあります。そういった場合には、あらかじめ従業員に伝えておくなどして理解してもらうようにしておくとよいでしょう。

社会保険料の給与天引き

次に社会保険料の給与天引きについてです。給与天引きには2パターンの考え方があります。

パターン1 給与の支給日と納付日を合わせる方法

例えば、2月支給分の給与から2月末納付分、つまり1月分の社会保険料を天引きするという考え方です。この場合、何月分の給与かということは気にせず、単純に給与支払日と納付日を対応させます。

パターン2 給与の発生月と社会保険料を対応させる方法

例えば、15日締め当月25日払いの給与の場合、1月分の給与は、1月25日に支払います。一方2月末に1月分の社会保険料を納付します。この場合、1月分の給与から1月分の社会保険料を天引きして、2月末に納付という流れになります。同じ月内に給与の締日と支払日がある会社では、給与天引きする月と、社会保険料の納付月が1カ月ずれるということになります。

実務上は、ケース1で対応している会社が多いように思います。納付日と給与支払日の対応だけ考えればよいので、分かりやすいからでしょう。

雇用保険料

雇用保険料は毎月給与から天引きしますが、その納付は、年に1回、1年分の給与を集計して決められた保険料率を乗じて保険料を計算します。

この集計する給与には、入退社の日によって給与を日割りしたような場合には、日割りした金額そのままで集計すればよいので、給与天引きする金額も、日割りした金額をベースに計算すればよいということになります。

社会保険のように対応関係などは気にせず、とにかく支給する給与から給与天引きしていけばよいので、社会保険に比べて分かりやすいと思います。

さまざまなケースにおける社会保険料の天引き事例

具体的に日付を設定して社会保険料の天引きのケースを見ていくことで理解を深めましょう。雇用保険料については、いずれのケースも単純に決められた保険料率で天引きするだけですので、社会保険料についてのみ見ていきます。いずれも同一月に入退社はしないものとします。

ケース1 15日締め、当月25日支給、社会保険料の天引きパターン1(給与の支給日と納付日を合わせる)のケース

入社時の取り扱い

入社月の末日は必ずその会社に在籍していますので、入社月から社会保険料が発生します。ただし、入社月の社会保険料の納付は翌月に行われます。そのため、15日締め当月25日支給の場合、入社月の翌月の支払われる給与から天引き開始となります。入社月に支払う給与については、給与天引きは行いません。

退職時の取り扱い

退職日が月末の場合、退職月の社会保険料もかかります(納付は翌月末)。この場合、退職者の給与の最後の給与の支払いは、16日から退職日までの分を翌月25日に支払いますので、最後の給与からも天引きを行います。

退職日が月末以外の場合、退職月の社会保険料はかかりません。退職が1日から15日の間であれば、退職月に支払う給与で最後です。また、退職月の前月分(=退職月末日に納付する分)まで社会保険料の納付がありますので、最後の給与から1か月分天引きすることになります。

退職が16日以降の場合は、最後の給与支払は翌月となります。しかし、翌月にはこの退職者の社会保険料はかかりませんので、給与天引きする必要もありません。

ケース2 月末締め、当月25日支給、社会保険料の天引きパターン1(給与の支給日と納付日を合わせる)のケース

入社時の取り扱い

ケース1と同様に、入社月から給与を支払うことがあっても、給与天引きは入社の翌月からとなります。

退職時の取り扱い

退職が月末以外の場合には、ケース1と同じく退職月の社会保険料はかかりませんので、最後の給与から1か月分天引きすれば問題ありません。ただし、月末退職になった場合は注意が必要です。当月25日支給のため、最後の給与は退職月に支払われますが、この退職者にかかる社会保険料の納付は、給与の支払いがない翌月末まで続きます。そのため、最後の給与から、2か月分の社会保険料を給与天引きすることで最後の納付に対応させる形となります。

ケース3 20日締め、当月28日支給、社会保険料の天引きパターン1(給与の支給日と納付日を合わせる)のケース

入社時の取り扱い

締日と支払日がケース1とずれていますが、考え方は同じです。入社月に支払う給与からは給与天引きは行わず、翌月支払い分の給与から天引き開始となります。

退職時の取り扱い

退職についても、ケース1と同様に、月末退職であれば、21日から退職日までの給与を翌月28日に支払う際に、1か月分の社会保険料を天引きします。

月末退職でない場合、1日から20日の間に退職すれば、最後の給与は退職月に支給する分となります。この場合、最後の給与から1カ月分天引きすれば大丈夫です。21日以降に退職した場合、最後の給与は翌月28日となりますが、この場合月末退職でないため、翌月末にこの退職者の社会保険料は納付しません。そのため、最後の給与から社会保険料の天引も行う必要はありません。

ケース4 20日締め、翌月28日支給、社会保険料の天引きパターン2(給与の発生月と社会保険料を対応させる方法)のケース

入社時取り扱い

入社月の社会保険料は翌月末に納付します。一方入社月の給与は、入社日が1日から20日であれば翌月、入社日が21日から末日であれば、翌々月ということになります。1日から20日入社であれば、その月の給与が翌月28日支給となり、その月の社会保険料は翌月末納付となります。そのため、初回の給与から1か月分天引きすることになります。入社日が21日から末日の場合、社会保険料の納付は翌月末となる一方、最初の給与は翌々月となります。そのため、最初の給与から2か月分を給与天引きすることで帳尻を合わせます。

退職時の取り扱い

退職日が月末の場合は、最後の給与は翌々月の28日になりますが、社会保険は翌月末納付で最後です。この場合、最後の社会保険料と対応するのは、退職月の翌月支給分の給与のため、最後の給与からの天引きは不要です。

月末退職以外の場合、退職日が1日から20日の間の場合退職月の社会保険料はかかりませんので、翌月28日に支払う最後の給与から給与天引きは不要です。退職日が21日以降の場合、最後の給与は翌々月28日となりますが、これも社会保険料は、退職月まででストップしますので、給与天引きは不要となります。

退職月に賞与を支給した場合

最後に、退職月に賞与を支給した場合を見てみましょう。賞与については、支給した月にその者の給与分の社会保険料を納める必要があるかどうかで判断します。

月末退職であれば、その月の給与分の社会保険料がかかるため、退職月に支給する賞与にも社会保険料がかかります。

一方、月末退職でない場合、給与分の社会保険料は発生しないため、賞与についても社会保険料は発生しないということになります。

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この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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