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従業員の入社・退社のときに必要な手続き【社労士が解説!】

転職が当たり前になった今、従業員の入退社手続きは年間を通して発生します。入社や退社にあたっては、社会保険や税金など多方面の手続きが必要になり、人によって必要となる手続きもさまざまです。どのような手続きが必要になるのかということをまとめておけば、いざというときにも慌てなくて済みます。今回は、入社時や退社時に必要となる手続きをまとめました。

POINT
  • 入社時には、まずは健康保険証の発行を素早く行うために、健康保険・厚生年金保険の加入手続きを行うのがよい
  • 退職時には、離職票の発行の要否を退職者に確認するなどして、事務作業の軽減を図るとよい
  • 入社時、退社時ともに、社会保険・雇用保険・税金などの届出は漏れなく行うために、社内でリスト化しておく

入社時の手続き

労働条件の明示

従業員を雇用する場合は、雇用形態を問わず、労働基準法で定められた事項、いわゆる労働条件を明示する必要があります。具体的に明示する事項は、労働基準法に列挙されています。中でも重要項目は書面に明示して、従業員に渡す必要があります。

  • 無期契約か有期契約かといった労働契約の期間に関すること
  • 就業の場所や従業すべき業務に関すること
  • 始業及び終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇など労働時間に関すること
  • 給料の計算や支払いの方法や支払日に関すること
  • 退職手続きに関すること

明示する書面は、雇用契約書だったり、労働条件通知書という名称だったりと、会社によってさまざまです。書類のタイトルや書式は会社の自由ですが、上記の事項については、正社員だろうとアルバイトであろうと、必ず書面で明示しなければいけません。

社会保険の資格取得手続き

健康保険・厚生年金保険の手続き

従業員を雇ったら、まず行いたいのが健康保険と厚生年金保険への加入手続きです。従業員の中には本人や家族の保険証を必要としている人もいますので、雇ったらまずは健康保険・厚生年金保険への加入手続きをとって、できる限り早く本人に保険証が渡せるようにしましょう。

フルタイムの人は必ず加入する必要がありますが、パートの場合は、基本的に1週の所定労働時間と1月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の場合に加入義務があります。(従業員数501人以上の大きな会社は別途基準あり)

わかりにくいと思いますが、フルタイムは週40時間、パートであれば週30時間以上働くようなら社会保険への加入義務があるといったくらいでとらえておけばよいでしょう。

手続きは「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」という書類を、雇用してから5日以内に提出することになっています。

とはいっても、この期間を過ぎたからといって、手続きが行えないというわけではありません。万が一、必要な情報がそろわず手続きが遅れてしまった場合には、本人に保険証の交付が遅れる旨を伝えたうえで、可能な限り早く書類を提出しましょう。

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※「日本年金機構「従業員を採用したとき」関連書類」から引用。
※2019年3月時点の書式です。
 

書類の提出先は、以前は各年金事務所でしたが、今では郵送で手続きを行う場合は、事務センターというところに業務が集約されています。

管轄の年金事務所の窓口に書類を持参することもできますが、窓口では時間がかかりますので、郵送での手続きをオススメします。

以前は社会保険手続きといえば基礎年金番号が必要でしたが、2018年3月からはマイナンバーを書類に記載すれば、基礎年金番号は記載不要となりました。マイナンバーを記載すればご本人の住所が記載不要になるなど、書類作成も楽になります。

雇用保険の手続き

健康保険・厚生年金保険への加入手続きが終わったら、次は雇用保険への加入手続きです。

雇用保険も健康保険・厚生年金保険と同様に、フルタイムの従業員は加入義務があります。パートの場合は、1週間の所定労働時間が20時間以上ある場合に加入義務があります。健康保険・厚生年金保険に比べて短くなっています。ただし、学生については、勤務時間にかかわらず基本的に加入義務はありません。

手続きは「雇用保険被保険者資格取得届」という書類を、雇った月の翌月10日までに提出することになっています。

雇用保険についても、提出期限に間に合わなかったからといって、従業員が雇用保険に加入できないというわけではありません。

ただし、あまり遅くなると添付書類が増えるなど手続きが複雑になりますので、期限内に提出するように心がけましょう。

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※「e-Gov(イーガブ)電子政府の総合窓口 雇用保険被保険者資格取得届(平成28年1月以降手続き)」参照。
※2019年3月時点の書式です。
 

雇用保険の加入書類には、入社する従業員の雇用保険被保険者番号を記入する欄があります。転職者など雇用保険に加入したことがあれば、雇用保険被保険者証という書類などに記載されていますが、あまり利用する機会がないためか、従業員によっては不明なこともあります。

そんなときは、雇用保険被保険者番号は空欄にして、その代わり備考欄に前職の会社名や所在地を記載しておきましょう。ハローワークで職歴を検索して、番号を調べてくれます。

また、雇用保険への加入には、本人のマイナンバーが必須です。雇用保険被保険者番号はわからなくても手続きできますが、マイナンバーだけは必ず確認するようにしておきましょう。

所得税の手続き

所得税については、入社時に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を書いてもらいましょう。「扶養控除申告書」と呼ばれることが多いかもしれません。

ただし副業のアルバイトなど、別の会社で給与の支払いを受けている従業員については、提出不要です。扶養控除申告書は、初回の給与の支払いを受ける日の前日までに提出することになっていますが、入社時に提出してもらえばよいでしょう。

また、転職者の場合は、自社で年末調整を行う際に、前職で退職時に受け取った源泉徴収票が必要となります。ただ、あまり早く預かりすぎると、自社で年末まで保管しておく手間などもありますので、年末調整のときまでは本人に持っておいてもらうほうがよいかもしれません。

住民税の手続き

住民税は、個人納付、いわゆる普通徴収になっている人については、給与天引き、いわゆる特別徴収への切り替えができますし、転職者については前職からの給与天引きの引き継ぎが可能です。

手続きについては、その従業員の住民票所在地の自治体に「給与所得者異動届出書」を入社月の翌月10日までに提出します。

この給与所得者異動届出書は、次の2つのことを自治体に知らせるための書類です。

  • その年度について自社に給与天引きに切り替える
  • 翌年度について自社で給与天引きをする

ただし、入社時期が1~5月の場合、その年の住民税については原則的に給与天引きにはできないことに注意が必要です。

住民税の納付年度は、毎年6月~翌年5月(給与天引きの場合は毎月、個人納付の場合は、6月、8月、11月、翌年1月の計4回)です。

個人納付の場合の最終納期限が1月であることと釣り合いをとるため、転職者の場合、1月以降に前職を退職する場合には、最後の給与やボーナスから一括して残額を徴収するというルールになっているからです。この場合の給与所得者異動届出書は、上記の(2)の役割だけを果たします。

入社時、従業員から提出してもらう書類

マイナンバーが確認できる書類
(本人であることを確認するために、写真付身分証明書もつけてもらうこと)
(1)写真付個人番号カード(マイナンバーカード)
(2)個人番号通知カード+写真付身分証明書
(3)マイナンバー入住民票+写真付身分証明書
のいずれか
雇用保険被保険者番号が確認できる書類 (1)雇用保険被保険者証
(2)前職の雇用保険資格喪失確認通知書(または離職票)
のいずれか
扶養控除申告書 副業の場合は不要
給与振込先口座が確認できる書類

(給与を口座振込で行う場合)
通帳コピーなど
本人の現住所が確認できる書類 住民票コピーや運転免許証コピーなど
前職の源泉徴収票 管理上、年末調整のときに提出してもらうほうが望ましい
前職での住民税の異動届出書 前職からの給与天引きを引き継ぐ場合に必要

年金手帳については、健康保険・厚生年金保険の加入手続きは個人番号で行うことができるため、必ずしも預かる必要はありません。

このほかにも、会社の方針に合わせて、誓約書や身元保証書を提出させることもあります。

退職時の手続き

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健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続き

従業員が退職したら、まずは健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続きをとりましょう。退職時に退職者の健康保険証(被扶養者がいれば被扶養者の健康保険証も)を忘れずに回収しましょう。

手続きは「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」という書類を、退職してから5日以内に提出することになっています。提出先は、入社時と同じく、各地の事務センターに郵送(もしくは年金事務所窓口に提出)です。その際に、回収した保険証を同封しましょう。

もし資格喪失届の提出が遅れてしまったら、退職者の社会保険料も含めた納付書が送られてくることがあります。この場合は、いったんその金額で納付した後に、次回の納付のときに、納めすぎた保険料を相殺した保険料を納付することで精算することになります。

また、保険料の給与天引きにも注意しましょう。健康保険・厚生年金保険は、資格喪失月の前月分まで納付する必要があります。資格喪失の日は、退職日の翌日となります。

例えば1月31日退職の場合は、資格喪失日は2月1日となります。この場合、資格喪失月は2月なので、その前月である1月分までの社会保険料を納付することになります。社会保険料の納期限は翌月末日なので、1月分の社会保険料は2月末日が納期限となります。

2月支給分の給与から2月納付分(つまり1月分)の社会保険料を天引きしている会社は、末日退職の場合は、最後の給与からも社会保険料の天引きが必要となります。

ちなみに、例えば1月15日など月中退職の場合は、資格喪失日は1月16日となりますので、社会保険料の納付も前月の12月分までとなります。

雇用保険の手続き

雇用保険については、退職の翌日から10日以内に、「雇用保険被保険者資格喪失届」という書類を提出します。

また、退職者の希望があれば「離職証明書(離職票)」の交付義務もあります。離職票は退職後にハローワークの給付の受給を受けるためなどに使います。ただし、離職票は記載事項も多く、作成には時間を要します。退職者には離職票の交付希望の有無を確認するなどして、事務作業の軽減を図るのも大切です。

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※「社員が定年退職する場合、会社がやるべき手続きとスケジュール」より転載。
※2018年12月18日時点の書式です。
 

源泉所得税・年末調整の手続き

会社は、退職者に対して、その年1月1日から退職までに支払った給与の金額などを記載した源泉徴収票を交付する義務があります。最後の給与明細と合わせて渡すことが一般的です。

退職者に渡す源泉徴収票は、その後転職先に提出したり、確定申告に使用したりします。ただし、退職後に紛失してしまう退職者もそれなりにいます。再交付の申し出があれば応じる必要がありますが、紛失しないように退職者には念押ししておきましょう。

また、これに関連して、年末調整については、12月31日に在籍している人について行うため、基本的には退職者について行うことはありません。

ただし、以下に該当する場合には、その年中に他社に就職して給与の支払いを受ける見込みがないため、年末でなくても退職時に年末調整を行います。

  • 12月に給与の支払いを受けた後に退職した人
  • 著しい心身の障害のために退職した人(再就職できないことが明確なケース)
  • 死亡した人

住民税の手続き

住民税の給与天引きを行っている場合には、自治体に退職したことを知らせる手続きも必要です。退職して給与天引きを止めても、そのことを自治体に伝えなければ、住民税の課税を止めることができません。

手続きについては、入社時と同じくその従業員の給与天引きをしている自治体に「給与所得者異動届出書」を退職月の翌月10日までに提出します。記入例は下記のリンクを参考にしてみてください。

ただし、イレギュラーなケースとして、引っ越しなどで、退職日に給与天引きしている自治体と、翌年度、つまり次の6月からの住民税の課税をする自治体が異なることがあります。この場合には、2か所に提出する必要があります。

また、入社手続きのところでも書いた通りで、退職日が1月以降になる場合には、最後に支払う給与やボーナスから住民税の残額を一括して天引きする必要があることにも注意しましょう。

退職金からの控除計算

退職に伴って退職金を支払う場合には、金額によって所得税や住民税の退職金からの天引きも必要となります。天引き額の計算はやや複雑なので、国税庁のホームページを参考にしたり、税理士に聞いたりして天引き額をするのがよいでしょう。天引きした所得税や住民税は、原則として退職金を支払った月の翌月10日までに、税務署や各自治体に納付します。

もし、給与天引きをしていない人に退職金を支払った場合など、普段住民税を納付していない自治体に納付しなければならない場合には、自治体から納付書と取り寄せるなどする必要がありますので、自治体の住民税課に詳しい納付方法を問い合わせましょう。

また、退職金を支払った場合、退職者に、退職所得の源泉徴収票を渡す必要があります。給与所得の源泉徴収票とは様式が異なりますので注意しましょう。具体的な記載方法は、国税庁のホームページなどで確認するとよいでしょう。

退社時、従業員から提出してもらう書類

保険証 本人や、被扶養者がいれば被扶養者の分も回収
退職届 転職など自己都合での退職の場合に必要

上記のほかにも、会社の備品など本人に貸与しているものがあれば忘れずに回収しましょう。

入社、退社ともに、手続きが複数あり、抜け漏れを防ぐためにも、順序立てて行えるように、必要書類のリストを作ったり、届出の順序を決めたりしておくのが重要です。

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