年末調整はアルバイトやパートにも必要?条件や書類の書き方を税理士が解説

年末が近づいてくると、保険会社からの控除証明書などが従業員の手もとに届きはじめますね。人を雇っている場合は、給与の源泉徴収だけでなく、所得税の精算をする年末調整も義務づけられています。ところで、アルバイトやパートで扶養の範囲内で働いている人も年末調整は必要なのでしょうか?
今回は給与担当者・雇用主のための年末調整の仕方について解説します。
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目次
- アルバイトやパートでも、年末調整をする必要がある人なのかどうかを判断する必要がある
- いくつかアルバイト・パートを掛け持ちしている場合は?
- アルバイト・パートの年末調整書類、どのように書いてもらったらいい?
そもそも年末調整って? アルバイト・パートは対象者になるの?
法人や個人事業主が給与を支払う場合には、その支払う給与から所得税と復興特別所得税を源泉徴収(給与から差し引いて預かること)して、税務署に納める義務があります(※以下、源泉徴収した所得税と復興特別所得税のことを「源泉徴収税額」と言います)。
この毎回の源泉徴収税額は、源泉徴収税額表によって税額が算出されますが、この税額は「給与を年換算して所得税を計算するとだいたいこのくらいだから、月額だといくらだ」という概算の金額になっています。そのため、年間の給与総額で所得税を計算した金額と、年間の源泉徴収税額とは一致しません。
そこで、給与支払者は給与の「年間総額」で正しい所得税を計算し、年間の源泉徴収税額との差額を精算する必要があります。このことを「年末調整」と言います。この年末調整を行うことにより、給与所得についての所得税の計算と納税は完結しますから、働き先が1ヵ所で、副業もなく、医療費控除やワンストップ特例をしなかった場合のふるさと納税のような寄附金控除など確定申告しないと受けられないものがない限りは、その従業員は確定申告をする必要が無くなるのです。
さて、人を雇う場合には、正社員やアルバイト・パートなど、さまざまな形態があります。給与を支払う以上は雇用形態を問わず源泉徴収の対象となりますから、アルバイトやパートであっても当然、年末調整をする必要がある人なのかどうかを判断しなければなりません。
アルバイト・パートで年末調整の対象になる従業員とは
年末調整の計算をするためには、大前提として従業員が会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(※以下「扶養控除等申告書」)を提出していることが必要です。扶養控除等申告書は源泉徴収税額の算定に必要なデータを記載するもので、この提出がなければ正しい所得税の計算ができません。
そのうえで、以下のどれかに該当する人が年末調整の対象となります。
- 1年を通じて勤務している人
- 年の中途で就職し、年末まで勤務している人
- 年の中途で退職した人のうち、次の人
① 死亡により退職した人
② 著しい心身の障害のため退職した人で、その退職の時期からみて、本年中に再就職が出来ないと見込まれる人
③ 12月中に支給期の到来する給与の支払いを受けた後に退職した人
④ いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下である人(退職後、本年中に他の勤務先等から給与の支払いを受けると見込まれる場合を除きます) - 年の中途で、海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった人(非居住者とは、国内に住所も1年以上の居所も有しない人をいいます)
アルバイト・パートで年末調整の対象にならない従業員とは
年末調整の対象にならない人は、次のどれかに該当する人です。
- 年末調整の対象となる人の条件に合う人のうち、本年中の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人
- 年末調整の対象となる人の条件に合う人のうち、災害により被害を受けて、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」の規定により、本年分の給与に対する源泉所得税及び復興特別所得税の徴収猶予または還付を受けた人
- 2ヵ所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人や、年末調整を行う時までに扶養控除等申告書を提出していない人(月額表または日額表の乙欄適用者)
- 年の中途で退職した人で、上記年末調整の対象となる人の条件(3)に該当しない人
- 非居住者
- 継続して同一の雇用主に雇用されないいわゆる日雇労働者など(日額表の丙欄適用者)
いくつかアルバイトの掛け持ちをしている場合はどうすればいい?
同時に2ヵ所以上で給与の支払いを受ける場合には、どこがメインの働き先なのかを本人に判断してもらう必要があります。というのも、先ほどの扶養控除等申告書は同時に2ヵ所以上に提出しないものだからです。
源泉徴収税額表では、甲欄・乙欄の区分があり、扶養控除等申告書の提出があれば甲欄、なければ乙欄で源泉徴収税額を計算します。
年末調整は、転職などで前の職場の給与データを引き継ぐ場合を除き、2ヵ所以上で働いていても扶養控除等申告書を提出するメインの職場の給与だけで計算をしますから、基本的には本人が確定申告ですべての給与を合算して源泉徴収税額の精算をしなければなりません。
なお、扶養控除等申告書を提出しない乙欄の場合は、甲欄よりも高い源泉徴収税額となり、年末調整の対象になりません。給与支払者は、従業員から扶養控除等申告書の提出を受けるにあたっては、その旨をお知らせして本人の判断を仰ぐ必要があります。
また、先にふれましたが、前のアルバイトを辞めてから入ってきたような場合には、年末調整に前職のデータを加算しますので、年末調整を行うときまでに前のアルバイト先の源泉徴収票の提出もお願いしておきましょう。
パート・アルバイトの年末調整書類にはどんなものがある?
年末調整を行うためには、従業員からさまざまなデータを集める必要があります。所得税の計算ではいろいろな控除が用意されていますが、その適用にあたっては本人の申告によらないとわからないことが多いので、控除を受けるための各種申告書の様式が提供されています。
申告書 | 受けられる控除 | 提出する人 |
---|---|---|
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除、 障害者控除、 寡婦控除、ひとり親控除、 勤労学生控除 |
年末調整を受けるすべての人 |
給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除 | 基礎控除、 配偶者(特別)控除、 所得金額調整控除 |
年末調整において、基礎控除、配偶者(特別)控除、及び所得金額調整控除を受ける人 |
給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料控除、 地震保険料控除、 社会保険料控除(給与から控除されていないもの)、 小規模企業共済等掛金控除(給与から控除されていないもの) |
左記の控除を受ける人 |
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 | (特定増改築等)住宅借入金等特別控除 | 左記の控除を受ける人 |
- 【参考】
- 国税庁:給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の入手先
- 国税庁:給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書の入手先
- 国税庁:給与所得者の保険料控除申告書の入手先
- 国税庁:年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除関係書類
その年分(扶養控除等申告書は翌年分)の様式は9月末ごろから税務署で提供されます。
年末調整に必要となる保険会社の各種控除証明書などは10月くらいから本人へ送付され始めますので、従業員が無くさないように早めにお知らせをして、様式も配布しておくのがよいでしょう。
また、これらの書類には記入する箇所がたくさんありますので、何を書いたらよいのかわからないという方が多くいらっしゃいます。 以下で、アルバイトやパートで扶養の範囲内で働いている人に絞って、具体的にどこまで記入したらよいのか、書き方を見ていきましょう。
「扶養控除等申告書」の書き方
扶養控除等申告書の様式は、扶養控除のほか障害者控除や勤労学生控除など、本人やその扶養親族の状況に応じて受けられる控除のデータを記載するものになっています。
国税庁ではつぎのようなチェックポイントを紹介しています。
- 【参考】
- 国税庁:令和3年分 年末調整チェック表
このうち、扶養の範囲内で働いている人は最低限本人の住所や生年月日などの基礎データを記載すれば足ります。

なお、申告書の「あなたの個人番号」の部分には、従業員のマイナンバーを記入してもらいます。また、すでに従業員からマイナンバーを取得していて、会社と従業員の合意があれば、扶養控除等(異動)申告書へのマイナンバー記載を省略できます。
申告書の余白部分に「マイナンバーについては給与支払者に提供済みのマイナンバー(個人番号)と相違ない」旨を記載し、従業員と会社の双方で確認が取れればOKです。
なお、共働きの場合は扶養親族をどちらの扶養にするかで税額が変わるときもあります。
「基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除申告書」の書き方
「給与所得者の基礎控除申告書・給与所得者の配偶者控除等申告書・所得金額調整控除申告書」の様式は、2020年(令和2年分)から採用された様式です。

国税庁ではつぎのようなチェックポイントを紹介しています。
- 【参考】
- 国税庁:令和3年分 年末調整チェック表
年末調整において基礎控除の適用を受ける人は、基礎控除申告書を提出する必要があります。
基礎控除の控除額は、申告書に記入する本人の合計所得金額(見積額)に応じて変わりますが、扶養の範囲内で働いている人は48万円となります。
基礎控除申告書には、本人の合計所得金額を計算した上で記入します。申告書の記入する時期は一般的にその年の収入が確定する前ですので、収入金額・所得金額は見積額を計算して記入します。複数の勤務先から給与を受けている場合は、それらの合計額を給与所得の収入金額に記入します。収入金額を申告書裏面の表と照合し、給与所得の所得金額を算出して記入します。そして、合計所得金額の見積額から判定・区分I・基礎控除の額を求めて記入します。
【基礎控除申告書の記入例】

配偶者控除もしくは配偶者特別控除の適用を受ける人は、配偶者控除等申告書を提出する必要があります。配偶者控除の控除額は、申告書に記入する本人の合計所得金額(見積額)に応じて異なります。配偶者特別控除の控除額は、申告書に記入する本人および配偶者の合計所得金額(見積額)に応じて異なります。このうち、扶養の範囲内で働いている人は、基本的には扶養される側として配偶者控除等は受けませんから、記入・提出は不要となります。

所得金額調整控除を受けるには、所得金額調整控除申告書の提出が必要です。しかし、所得金額調整控除を受けられるのは、年末調整の対象となる給与収入の額が850万円を超える人のうち、一定要件を満たす人になります。よって、扶養の範囲内で働いている人は所得金額調整控除を受けませんから、記入・提出は不要となります。
「保険料控除申告書」の書き方
「給与所得者の保険料控除申告書」(以下、「保険料控除申告書」といいます)の様式は、生命保険料や自分で支払っている社会保険料などについての控除を受けられる場合に、保険料の支払先や種類、支払額などのデータを記載するものになっています。
国税庁ではつぎのようなチェックポイントを紹介しています。
- 【参考】
- 国税庁:令和3年分 年末調整チェック表
このうち、扶養の範囲内で働いている人は、生命保険料控除などの有無にかかわらず税額はゼロとなりますので、記載がなくても大丈夫です。扶養の範囲を超えそうな方は、念のため対象になるものがあれば記入しておきましょう。
アルバイト・パートの年末調整をしないとどうなる?
アルバイト・パートの人数が多いからと年末調整をしなかったらどうなるのでしょうか。
年末調整は給与支払者の義務ですから、年末調整の対象となる人については必ず行わなければなりません。扶養の範囲内で本人の税額も出ない年収103万円以下に収入をおさえるアルバイト・パートの方については年末調整が不要と誤解している給与支払者がいらっしゃるようです。たとえ年収103万円以下であっても、年末調整の計算をした結果所得税がゼロだったということで、源泉徴収票を作成してアルバイト・パートの人に交付しなければいけません。
また、月々の給与が大きく変動する人などは、場合によっては年末調整によって源泉徴収税額の徴収不足が生じることもあります。毎月の源泉徴収もそうですが、年末調整で徴収税額があるのにもかかわらず納付しなかった場合には罰則規定があり、最大で10年以下の懲役や200万円以下の罰金が科せられます。もちろん、これらは裁判によるものなので、よほど大口、悪質なものが対象ですが……。少なくとも税務署からの指導などを受け、加算税の対象になりますのでご注意ください。
なお、年末調整のやり直しは翌年1月末までは可能ですが、それを過ぎてもできなかった場合は本人が確定申告をして源泉徴収税額の精算をしなければなりません。
還付金の支払いの方法は?

年末調整の結果、年間の所得税と復興特別所得税の税額よりも源泉徴収税額の方が多かった場合は、「毎月の源泉徴収を預かり過ぎた」ということで、差額を本人へ還付することになります。
なお、本年最後に支払う給与に対する源泉徴収税額は、つぎのどちらの方法で計算しても構いません。
- 源泉徴収税額表からの算出を省略して、年末調整による過不足の精算だけを行う方法
- いつもどおりに源泉徴収税額表から算出して一旦源泉徴収税額を預かったうえで、年末調整による過不足の精算を行う方法
どちらの方法によっても年間の税額は変わらないのですが、②の方法によると見かけの還付金が増えるので、気持ち的に従業員に喜ばれることが多いです。
また、年末調整による過不足の精算は、すでに税務署に納めた源泉徴収税額を税務署に代わって精算していますので、年明け1月10日(半年に一度まとめて納める納期の特例を適用しているときは1月20日)に納める源泉徴収税額から年末調整での過不足を差し引きして納めるようになります。源泉徴収税額よりも還付金の方が多く、マイナスになってしまう場合はマイナス分を次回納付時に繰り越します。
このとき、納付額がゼロになってしまうので、納付書は銀行などの窓口では取り扱えません。納付額ゼロの納付書は「源泉徴収高計算書」として税務署に提出します。
もっと年末調整業務をラクにしたい!
さて、年末調整では、その税額の計算のために従業員に書いてもらう書類や提出してもらう書類が様々あります。年末調整業務をもっとラクにするためには、書類の回収などの手間を省くことと、計算にかかる手間を省くことの両方が必要です。
書類回収などの手間を省く
アルバイトやパートのうち、年収103万円以下のいわゆる扶養の範囲内で働かれる方については、扶養控除等申告書を提出することで自動的に税額はゼロ円になります。これらの方については扶養控除等申告書に本人のデータの記載があれば足りますので、その旨をお知らせすれば書類の量を減らすことができます。
なお、「扶養の範囲内」という言葉は所得税、社会保険などで上限が違いますので注意しましょう。また、「税金のかからない範囲内」というときはお住まいの地域によって差がありますが、東京都の場合で年収100万円以下となります(扶養親族などがいない場合)。
計算にかかる手間を省く
アルバイトやパートで、税額がゼロになる方であっても、年間の給与総額を集計したりする手間はかかりますので、「弥生給与」など、従業員の人数が多くなるほど給与や年末調整の計算ができるソフトを利用することをお勧めします。
集計や税額の計算が自動でできることに加えて、書類収集や控除データ入力などの進捗を管理することもできるので便利です。
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