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年収850万円超の会社員は増税!?賃上げ減税など中小企業経営者・給与担当が知っておきたい改正点【平成30年度税制改正】

平成30年度税制改正のポイントのひとつとして「年収850万円超の会社員は増税」というニュースが話題になりました。該当社員からの問い合わせが増えることが予想され、会社としては制度を理解し、対応することが求められます。また、源泉徴収事務の電子化が進むこと、中小企業者等向け所得拡大促進税制の改組など、会社が支払う給与等や源泉徴収事務をめぐる環境に注目すべき変化があります。

POINT
  • 年収850万円超の会社員は原則、増税に
  • 法定調書の書面提出、条件が厳しくなる
  • 賃上げや人材育成等を行なう中小企業を後押し

年収850万円超の会社員は原則、増税に

平成30年度の税制改正で注目を集めたポイントのひとつに「年収850万円を超える会社員は原則として増税」が挙げられます。2020年分の所得税、2021年度分の住民税から適用予定ですが、こうしたキャッチーな言葉や数字が広まった結果、源泉徴収票をしっかりと確認する方や、年末調整時に「年末調整で戻ってくるお金がどのくらい減りますか?」といった質問が人事・給与担当部署に対して増えることも予想されます。

会社としては、制度をきちんと理解し、こうした従業員からの質問に回答する準備をすることが大切です。

今回の改正の結果、従業員の方にお渡しする源泉徴収票のどの部分がどのように変わるのか、注目すべき点は源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」(A)と「所得控除の合計額」(B)の部分です。会社員の源泉徴収税額(年税額)は、(A)から(B)を引いた課税所得金額に対して一定の税率をかけて、税額控除項目(いわゆる住宅ローン控除など)を差し引いて計算します。

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まず、(A)の給与所得控除後の金額とは、給与等の支払金額(いわゆる「給料の額面金額」)から、「給与所得控除」をマイナスした金額になります。

「給与所得控除」とは、一定の式に基づいて計算するものですが、この一定の式について改正があった、というのが今回の改正のポイントです。

これまで、給与所得控除額は、給与等の支払金額に応じて一定割合が定められており、給与等の支払金額が1,000万円を超える場合は一律220万円とされていました。改正により、給与所得控除額自体が一律10万円下がるとともに、給与等の支払金額が850万円を超える場合は一律195万円となります。その結果、(A)の金額が増えるため、「年収850万円超は原則増税」といわれるのです。

給与所得控除額の改正

給与所得の源泉徴収票の支払金額(年収) 現行~2019年分まで 2020年分以降
162.5万円以下 収入金額×40%
※65万円に満たない場合には65万円
55万円
162.5万円超 180万円以下 収入金額×40%-10万円
180万円超 360万円以下 収入金額×30%+18万円 収入金額×30%+8万円
360万円超 660万円以下 収入金額×20%+54万円 収入金額×20%+44万円
660万円超 850万円以下 収入金額×10%+120万円 収入金額×10%+110万円
850万円超 1,000万円以下 一律195万円(上限)
1,000万円超 一律220万円(上限)

ちなみに、「原則増税」といわれる理由は、子育てや介護に対して配慮する観点から、22歳以下の扶養親族が同一生計内にいる方や特別障害者控除の対象となる扶養親族等が同一生計内にいる方については、負担増が生じないよう調整されるためです。

具体的には、給与等の収入金額が850万円を超える居住者で、特別障害者控除の対象となる扶養親族または22歳以下の扶養親族を有する方については、

(給与等の収入金額(上限1,000万円)-850万円)

相当額を給与所得の金額から控除する、という所得金額調整控除が適用されます。

しかし、給与所得控除額自体が一律で10万円下がるのに、なぜ「年収850万円超」の方だけ増税といわれるのでしょうか?

その答えが、(B)の「所得控除の合計額」の部分に隠されています。
「所得控除の合計額」とは、各個人の状況に応じて受けることができるさまざまな所得控除の合計額をいいます。たとえば、配偶者控除や扶養控除などの家族の状況に応じた控除や、生命保険料控除や地震保険料控除など特定の支出に応じた控除、給与等から天引きされた社会保険料等の金額、さらに、特に要件はなく一律に控除される基礎控除などが合計されます。

今回の改正では、基礎控除が10万円引き上げられ、原則として48万円になります(※1)。

そのため、年収850万円以下の人であれば、(A)の「給与所得控除後の金額」が10万円あがり、(B)の「所得控除の合計額」も10万円あがるため、差し引きで影響はゼロになりますが、年収が850万円を超える人は、(A)の金額が10万円を超えてあがるのに対して(B)の金額が10万円しかあがらないため、課税所得が増えて増税になる、というしくみです。

(※1)今回の改正による基礎控除額の引き上げについて、合計所得金額が2,400万円を超える個人については、その合計所得金額に応じて控除額が逓減(ていげん)し、合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用がなくなります。

どのくらい税金が上がるの? 速算方法

では実際に「どのくらい税金が上がるのか」をイメージしていただくために、アバウトに計算する方法をご紹介いたします。

大雑把な速算になりますが、増税額は、(A)の上がった金額(10万円以上)から(B)の上がった金額(10万円)を差し引いた金額に、所得税は課税所得金額に対する税率を、住民税は所得割の税率10%をかけた金額となります(※2)。

所得税の速算表

課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円

たとえば、よく言われる「年収1,000万円の人は4.5万円の増税」の具体的な速算方法は、

(A)のあがった金額(220万円-195万円=25万円)と、(B)の上がった金額(10万円)の差額(25万円-10万円=15万円)に対して、所得税が15万円×20%=3万円、住民税が15万円×10%=1.5万円の合計で4.5万円の増税

……という計算になります。

実際の年末調整では、各従業員の年収等も変化することが多いため、一概にこの金額ということはできませんが、どの部分がどのように変わるのかを把握しておくと、従業員から質問があったときに回答しやすくなります。

なお、年末調整の際に従業員に記載してもらう各種申告書は、平成29年分以降、書式が変わっています。特に、会社の給与等の他に副業による収入がある方については、記載に注意するよう呼びかけてください。

(※2)年収や、基礎控除を除く各種控除等の金額が前年と同じだった場合の速算方法です。

法定調書100枚以上の法人は紙ベースの提出ができなくなる

給与所得等の源泉徴収票(地方税の場合は給与支払報告書)や、個人への支払に対して発行した支払調書などの法定調書は、その法定調書の種類別に、基準年(その年の前々年)に提出すべきであった枚数が一定枚数以上だった場合、書面によらず、インターネットを利用したe-Tax(地方税の場合はeLTAX)を使用して送信する方法または光ディスク等(CD、DVD、FD、MOのこと。USBメモリ等は含まれません)を使用して提出する方法のいずれかの方法により提出しなければならない、とされています。

現在、基準年に提出すべき法定調書の枚数が1,000枚以上だと紙ベースでの提出ができないとされていますが、この枚数の基準が大幅に引き下げられ、2021年1月1日以後に提出すべき支払調書等については、基準年に提出すべき法定調書の枚数が100枚以上だと紙ベースの提出ができなくなることになります(地方税もこれに準じます)。

しかも、2021年1月1日以後に提出すべき支払調書等(2020年分の支払調書等)の基準年は今年(2018年)になりますので、2018年分の支払調書等の枚数確認はとても重要です。

法定調書をe-Taxにより提出する場合には、事前に所轄の税務署に対して「電子申告・納税等開始届出書」を提出し、利用者識別番号を取得する必要があります。

届出書の提出はインターネット上で行なうことができますが、利用者識別番号の取得には1ヵ月程度の時間がかかりますので、手続きは早めに行なっておいたほうがよいでしょう。

eLTAXの場合でも、インターネット上から利用届出を行なうことが必要となります。

光ディスク等により提出する場合には、法定調書を一定のデータ形式(CSV形式:カンマ区切りデータ)により作成します。

また、法定調書を提出しようとする日の2ヵ月前までに「支払調書等の光ディスク等による提出承認申請書(兼)支払調書等の本店等一括提出に係る承認申請書」を、提出義務者の所轄の税務署へ提出することも必要となります。

平成32年(2020年)10月1日以後に提出する生命保険料控除、地震保険料控除、住宅ローン控除にかかる年末調整手続きについて、控除証明書等の書面による提出にかえて電磁的方法により提出することができる……とされるなど、税務手続きの電子化は今後ますます進むことが予想されます。

特に、法定調書の提出に関する改正は、中小規模の法人でも影響を受けやすいため、自社が該当するかどうか、該当する場合はその準備をいつから始めるたらいいのか、早い段階から検討する必要があります。

中小企業者等向け所得拡大促進税制が改組

青色申告書を提出している中小企業者等(法人または個人事業主)が、一定の要件を満たした場合、雇用者給与等支給増加額の一定割合を法人税(または所得税)から控除できる所得拡大促進税制が改組された点も、給与等を支払う会社にとって見逃せない改正ポイントです。

改正後の制度では、平均給与が前年度比1.5%以上増加していることが要件となり、前年度からの給与等の支給総額の増加額に対して15%の税額控除、人材育成や経営力向上に向けて一定の取り組みを行なっている場合は税額控除率が25%(いずれの場合も控除税額は当期の法人税額(または所得税額)の20%が上限)となります。

適用期間は平成30年(2018年)4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度(個人事業主は平成31年(2019年)から平成33年(2021年)までの各年)ですが、設立事業年度は適用できません。

なお、25%の税額控除を受けるための要件は次の2つです。

  1. 平均給与等支給額が前事業年度から2.5%以上増加していること。
  2. 次のいずれかの要件を満たしていること
  • 教育訓練費の額の増加割合が、前事業年度から10%以上
  • その事業年度内に中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、その経営力向上計画に従って経営力向上が確実に行なわれた証明がされている

【参考記事】
メリット盛りだくさん! 「経営力向上計画」って何?

現行制度と比べると、基準年度(平成24年度)からの給与総額等の増加要件がなくなってシンプルな制度となったこと、さらに税額控除率の上乗せ要件が加わったことがポイントとなります。賃上げや人材育成に積極的な企業に対して、減税メリットを付与して後押しする制度といえるでしょう。

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photo:Getty Images

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