脱サラして開業するときの手続きまとめ

サラリーマンを辞めて、開業する――。人生でそんな一大決心をすることもあるかもしれません。いつから、どんなビジネスで、どんなふうに収益を上げるのか。それも、もちろん大切なことですが、まず健康保険や年金などの手続きを行わなければなりません。
抜けがないように、まとめたので確認しておきましょう。
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目次
健康保険の手続き
会社を退職したら、まずは健康保険をどうするのかを考えなければいけません。次の2つから選ぶことになります。
①国民健康保険
②健康保険(任意継続)
国民健康保険は、他の保険制度に属さない人すべてを対象にするもので、主に自営業者・農業・退職者などが加入しています。加入者が病気や出産、あるいは死亡したときなどに、医療費や葬祭費用などが支給される制度です。健康保険と基本的なところは同じですね。
国民健康保険に加入する場合は、退職した日から14日以内に、離職票・退職証明書・資格喪失連絡票など会社を退職したことがわかるものを持って、住んでいるところの市区町村役場に行き、国民健康保険の窓口で手続きをしましょう。
もうひとつの「健康保険(任意継続)」は、民間企業で働く人が加入する健康保険に、退職後も継続して加入するというものです。いくつか条件があります。
- 退職前に社会保険に加入しており、資格喪失の日の前日までに継続して2カ月以上の被保険者期間があること
- 資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に手続きすること
加入期間は2年間です。ただし、1日でも滞納した場合や、就職して社会保険に加入した場合、もしくは、満75歳を迎えた場合は、脱退することになります。
健康保険の任意継続を選ぶ場合は、退職後、自分が入っていた健康保険組合(政府管掌の場合は、協会けんぽの各都道府県支部)に「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を提出しましょう。
どちらが得になるかはケースバイケースですが、国民健康保険の場合は「扶養」という概念がないため、家族それぞれが国保の被保険者となるので、基本的に別々に保険税がかかり、世帯主がその納税義務を負うことになります。家族の生活にも影響することなので、しっかりと調べて、判断しましょう。
年金の手続き
日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の人は「国民年金(基礎年金)」に加入しなければなりません。国民年金には、次の3つのタイプがあります。
- 第1号被保険者(学生、無職、自営業者)
- 第2号被保険者(会社員や公務員)
- 第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者が対象)
脱サラすると、「第2号被保険者」から「第1号被保険者」に変更することになります。退職日の翌日から14日以内に、年金手帳と認印を持参して市区町村の役場に行き、国民保険の係で「種別変更届」を提出します。後日、国民年金の納付書が送られてくることになります。
配偶者がいる場合は、扶養家族も第1号被保険者となり、手続きが必要になります。忘れないようにしましょう。
雇用保険の手続き
雇用保険は、労働者の失業を防止し、再就職の促進を図るための制度です。失業したときにもらえる「基本手当」をはじめ、職業能力アップを希望する人を支援する「教育訓練給付」、育児や介護で休業したときに給付される「育児休業給付」や「介護休業給付」などもあります。
会社員の場合、基本的にみな、雇用保険に加入していますが、退職後は、雇用保険から外れます。上記の給付などは一切受けられなくなるので、特に手続きは必要ありません。
また、退職して独立した場合、失業手当はもらえません。失業手当は「就職の意思があるものの、就職先が見つからない人」が受給できる手当てだからです。
ただし、厚生労働省の通達によって、「求職活動中に創業の準備・検討をする場合」も、失業手当の給付対象となることになりました。失業手当の給付は最長で1年間で、起業の準備と並行して、ハローワークなどで求職活動を行うという条件付きです。
小規模企業共済
退職して起業に踏み切った人は、退職金を有効活用することでしょう。しかし、独立してからについては、仕事を辞めても当然、退職金はありません。
そんな不安定な個人事業主の退職後の生活をサポートするのが、「小規模企業共済」です。毎月掛けた金額は、廃業時に共済金として受け取ることになります。そのとき、一括で受け取る場合には「退職所得」として、分割で受け取る場合には公的年金等の「雑所得」として扱われます。
しかも、毎月の掛け金は1,000円から7万円まで選択することができ、全額所得控除となります。節税効果が高いことも「小規模企業共済」の大きなメリットです。検討してみる価値はあるでしょう。
- 【参考記事】
- 個人事業主の節税対策の切り札「小規模企業共済」とは?
国民年金基金
前述したように、国民年金には、3つのタイプがあり、そのうちの「第2号被保険者」は会社員が対象で、「国民年金(基礎年金)」の上乗せ部分として「厚生年金」にも加入していることになります。つまり、第2号被保険者の場合は、厚生年金と国民年金のダブル年金に加入していることになるのです。
しかし、「第1号被保険者」には、その上乗せ部分はなくなります。何もしなければ「国民年金(基礎年金)」だけになり、将来に帰ってくる金額はとても少なくなってしまいます。会社員時代と同じ感覚でいると、あとで困ることにもなりかねません。
そこで、個人を対象にした「国民年金基金」で、厚生年金がなくなった分の上乗せを行うケースが、多く見られます。
国民年金基金は、国民年金に上乗せをするための制度です。強制ではないので加入は任意です。生命保険のように年齢が若いうちに加入した方が月々の掛金は安くて済みます。口数加入が多いほど、将来もらえる年金額が増え、また掛金は月額最大6万8000円(年額最大81万6000円)まで利用できます。全額がその年度の所得から控除されるので、節税効果も高いと言えるでしょう。
そのほか、公的年金に代わるものとしてつくられた「確定拠出型(退職年金)制(度)」を活用する方法もあります。
自由を手に入れるということは、もはや組織は何もしてくれないということ。自分の今の生活や、自分の将来は自分の手で守る必要があります。自分が選んだ道で、好きな仕事を続けるためにも、以上の手続きはきちんと行い、事業に専念できる環境を作りましょう。
photo:Getty Images