チャレンジする中小企業を制度面でサポート 平成29年度税制改正 〜法人編〜

平成29年度税制改正では、中小企業の負担感を減らしながら税制面で有利な制度が導入されました。今回の改正で、個人消費や設備投資を下支えする施策や、期限付きで行われてきた中小企業に対する税制上の優遇措置の延長などが盛り込まれました。
2017年4月以降どう変わるのか? ポイントをご紹介いたします。
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2022年(令和4年)分の所得税の確定申告の申告期間は、2023年(令和5年)2月16日(木)~3月15日(水)です。最新版の確定申告の変更点は「2023年(2022年分)確定申告の変更点! 個人事業主と副業で注目すべきポイントとは?」を参考にしてみてください!
目次
- POINT
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- 所得拡大税制の拡充で賃上げしやすく
- 「攻めの投資」を支援する税制措置に
- 中小企業に「オトク」な税制措置の延長など
所得拡大税制、中小企業はさらに使いやすく
これまでも、企業等に対する賃上げ支援を税制面で支えてきた「所得拡大税制」が、さらに拡充します。
現行の支援措置は、平成24年度からの給与増加額の10%が税額控除されるというものですが、今回の改正ではこれに加え、前年度比2%以上賃上げした中小企業は、最大でその増加額の22%の税額控除を受けることができることになりました。賃上げするならばぜひ利用を検討してみたい制度です。
※図1:中小企業の所得拡大税制(平成29年度税制改正)
【出典】中小企業庁:中小企業・小規模事業者関係の平成29年度税制改正のポイント
この制度は、青色申告書を提出している法人、個人事業主が対象となります。法人は平成29年4月1日以降開始の事業年度から、個人事業主は平成30年分からの適用となります。
制度の適用要件は次のとおりです。
(1)給与等支給額(※1)の総額が、平成24年度(基準事業年度※2)と比べて一定割合以上増加していること(平成29年度の場合、基準年度より3%以上増加していること)
(2)給与等支給額の総額が前事業年度以上であること
(3)①平均給与等支給額(※3)が、前事業年度を上回ること(2%未満)
…平成24年度の給与等支給額の総額からの増加額の10%が税額控除
②平均給与等支給額(※3)が、前事業年度を上回ること(2%以上)
…前年度からの増加額について、税額控除額を12%上乗せ(22%)
(※1)ざっくり言うと、その事業年度内の国内雇用者(役員等は対象外になります)に対する給与等の支給額をいいます(ただし、出向者の給与などで、出向元から支払われた給与等の金額は除きます)。
(※2)平成25年4月1日以降に新規設立した会社で基準事業年度が存在しない場合は、平成25年4月1日以後に開始する最も古い事業年度(当該事業年度に給与等の支給がない場合は、国内雇用者に対して給与等を支給する最初の事業年度)の給与等支給額の0.7に相当する金額が基準雇用者等給与等支給額となります。
(※3)雇用者1人あたりの月平均給与額です。原則として、継続雇用者(適用を受けようとする事業年度および前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者)に対する給与等の支給額や雇用者数を用いて計算します。
これまで賃上げは見合わせていたけれど、今回の措置を受けて賃上げに踏み切ってみようかな?という企業の方も、適用要件を(1)から1つずつ、順番に確認し、3つの要件を満たしていれば特例を使うことができます。
中小企業経営強化税制の創設
中小企業が、生産性の向上、ITの活用、省エネルギー化の推進など、経営力向上に資する投資を積極的に行えるよう、中小企業の生産性向上のための固定資産税の特例対象設備を一部地域で拡充するほか、これまでの中小企業投資促進税制の上乗せ措置(即時償却等)を改組し、「中小企業経営強化税制」を創設しました。
これにより、固定資産の特例や、今回改組されたこれまでの中小企業投資促進税制の上乗せ措置(即時償却等)を受けるためには、中小企業等経営強化法の認定を受けることが必要になります。
「中小企業等経営強化法」では、国が基本方針に基づき、事業分野ごとに「経営力向上」の方法等を示した事業分野別の指針を策定。
中小企業者は、事業分野指針に従って「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受けることができます。この認定を受けた事業者(認定事業者)は、優遇税制や金融支援等の措置が受けられます。
申請なんて面倒くさい……と思われるかもしれませんが、申請書類は実質2枚程度(添付書類もありますが)です。また、商工会議所等や金融機関、士業等の専門家などが、申請をサポートしますので、認定事業者のメリットをよく考えた上で認定を受けるのもひとつの手段かもしれませんね。
※図2:中小・小規模事業者の「攻めの投資」を支援する税制措置
【出典】中小企業庁:平成29年度税制改正の概要について(中小企業・小規模事業者関係)
平成29年度の税制改正では、「固定資産税の特例」(原則として、資本金1億円以下の中小企業が、計画認定に基づき、平成30年度末までに、生産性を高める一定の設備を新規取得した場合、固定資産税の課税標準を3年間、1/2に軽減する措置)の対象に、商店、飲食店、サービス業等で利用される一定の器具備品、建物附属設備が追加されます。
これにより、現在は機械装置に限られていた対象設備に、冷蔵陳列棚、業務用冷蔵庫、介護用ロボットスーツ、空調設備、エレベーターなどが加わります。
なお、追加設備については、対象となる地域や業種が限定されていますのでご注意ください。
また、改組・新設された「中小企業経営強化税制」は、中小企業等経営強化法の計画認定に基づく設備投資で、生産性向上等に資する一定の設備を新品で購入した場合、即時償却又は7%税額控除(資本金3千万円以下若しくは個人事業主は10%)の選択適用ができるものです。
従来の機械装置に加えて、器具備品や建物附属設備も対象設備となったため、サービス業も含めた幅広い中小企業の生産性の向上に資する措置になっています。
中小企業投資促進税制等の適用期限延長
中小企業投資促進税制は、中小企業における生産性向上を図るため、一定の設備投資を行った場合に税額控除(7%)又は特別償却(30%)の適用を認める措置で、今回の税制改正で適用期限が平成30年度末までに延長されました。
一定の指定業種に該当する中小企業者等(資本金額1億円以下の法人、農業組合等)または従業員数1,000人以下の個人事業主)が対象者となり、機械装置、測定工具及び検査工具、一定のソフトウェア、車両総重量305トン以上の貨物自動車、内航船舶が対象設備となります(対象設備には1台あたりの金額下限など、一定の制限があります)。
中小企業にオトクな制度の期限延長など
中小企業に有利な税制で、延長が決まったものや、現時点でも使える主なものは、次のようなポイントです。
(1)中小企業者等の法人税率の特例
現在、期末の資本金等の額が1億円以下である一定の法人について、年800万円以下の所得金額に対する15%の軽減税率が適用されていますが、この制度は引き続き適用されることになります。
(2)中小企業等の貸倒引当金の特例の延長
資本金1億円以下の中小企業等については、貸倒引当金の繰入限度額の計算は、貸倒実績率によらずに法定繰入率によることができることとされていますが、事業組合等が損金算入することのできる貸倒引当金の繰入限度額の割り増しを認める特例措置について、割増率を12%から10%に引き下げた上で、適用期限が2年延長となりました。
(3)中小企業者の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
青色申告法人である中小企業者で、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人が30万円未満の減価償却資産を取得した場合、当該減価償却資産の合計額300万円を限度として、全額損金算入(即時償却)することを認める措置については、平成30年3月末までに取得した資産まで適用されます。
意外かもしれませんが、現時点で期限付きの特例となりますのでご注意ください。
【参考】国税庁:中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
(4)中小法人の交際費課税の特例
中小法人(期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下である等の一定の法人)が支出した交際費について、定額控除限度額(800万円)までの損金不算入を認める制度については、平成30年3月31日までに開始する事業年度まで適用されます。
こちらも、現時点では期限付きの特例ですのでご注意ください。
数で言えば、日本の企業の大多数を占める中小企業が元気になることは、日本の景気にも大きな影響を及ぼすはずです。
今回の税制改正では、座して待つのではなく、チャレンジする中小企業を制度面で支えるという面がより強く出ているように思いました。
一歩前に進みたい中小企業の皆さんには、制度をうまく利用していただきたいですし、専門家としてお手伝いしていきたいと思っています!
【参考】中小企業庁:平成29年度税制改正に関する中小企業向けパンフレット
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