あらためて知っておきたい「残業手当」の基礎知識

給与明細のなかに記載されている残業手当。これにはどんな決まりがあるのかご存知ですか? 今日は残業手当のいろは、つまり基本部分をご説明いたします。
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目次
- POINT
-
- 法定労働時間と所定労働時間の違いを正しく理解する
- 割増賃金とは、法定労働時間を超えた労働に対して支払わなくてはならない賃金のこと
- 支払わなかったらどうなる? 即「ブラック企業」の仲間入り
法定労働時間と所定労働時間
残業手当の話に入る前の第一歩としておさえておきたいのは「法定労働時間」と「所定労働時間」という言葉です。労働基準法で定められている労働時間の上限が「法定労働時間」です。原則として1日8時間、1週間40時間とされています。一方、職場で定められている労働時間のことを「所定労働時間」と言います。これは法定労働時間以内でしたら何時間でもOKです。
二つの会社を例に挙げてみましょう。
A社:始業9時 終業18時 休憩12時~13時の1時間 ⇒ 所定労働時間8時間
B社:始業9時 終業17時 休憩12時~13時の1時間 ⇒ 所定労働時間7時間
私たちが一般的に「残業」と呼んでいるのは所定労働時間を超えて働く部分のことになります。つまり上記のA社では18時以降働くことを残業と呼び、B社では17時以降を指すでしょう。
割増賃金とは
労働基準法では、法定労働時間を超えた労働に対して支払う賃金の割増率が定められています。割増率は以下の通りです。
時間外 | 25%以上 |
---|---|
深夜(22時~朝5時) | 25%以上 |
時間外+深夜 | 50%以上 |
休日 | 35%以上 |
休日+深夜 | 60%以上 |
「以上」ということですから、その割増率と同じかそれ以上でも良いということになります。
例えば時給1,000円だとすると25%増が1,250円、50%増が1,500円になります。
では先ほどのA社とB社の残業手当の額はどうなるでしょうか。図をご覧ください。
上記のB社の場合、17時~18時(黄色の部分)は所定労働時間を超えていますが、法定労働時間内となります。ですから法的には割増す必要はありません。ただし社内の規程によってはこの部分も割増す場合があります。
時間外労働が月60時間を超えたら
過重労働をさせないようにという意味を込めて、国が大企業に対して月60時間超の時間外労働の割増率を50%以上と義務付けています。深夜に及ぶと、なんと75%にもなります。中小企業については今のところ猶予されていますが、将来的には義務化されるという動きがあります(※)。過剰な残業時間の抑制に国も本腰を入れているのです。
(※)働き方改革の一環として、2023年4月1日から、中小企業における月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)の猶予措置は廃止され、すべての企業において対象になります。
(2019年4月24日 執筆者:宮田享子(社会保険労務士)先生確認の上、スモビバ!編集部追記)
単なる口約束ではNG
先ほど社内の規程という話が出てきました。さて、残業手当の規程は必要なのでしょうか。答えは「YES」です。
就業規則のなかにはさまざまな定めがありますが、賃金や残業手当について必ず記載しておかなくてはなりません。就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場は作成し、所轄労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。さらに就業規則は、企業単位ではなく事業場単位(※)で作成が必要です。
また、従業員数が常時9人以下で、就業規則が無い事業所や事業場であっても人を雇う時には必ず労働条件通知書を渡すことが義務付けられていますから、その中で明記します。つまり、残業手当に関することは単なる口約束ではいけないとても重要な約束事なのです。
(※)複数の営業所や店舗などがある場合、企業全体の労働者数の合計ではなく、それぞれの営業所、店舗等をひとつの「事業場」としてとらえ、常時使用する労働者が10人以上の事業場に、就業規則を作成する義務が生じます。
残業手当を支払わなかったらどうなる?
残業手当を支払わなかったらどうなるでしょうか。これは労働基準法第37条違反となり、即「ブラック企業」の仲間入りです。労働基準監督署から「是正勧告」という行政指導を受けることになります。それでも放置したり、あまりに悪質なものと判断された場合には、書類送検され、のちに罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が課される可能性もあります。また、民事訴訟を起こされる可能性もあり企業にとってはかなりのリスクです。なお、残業手当の支払い以前に「サブロク協定(時間外・休日労働に関する協定届)」を労働基準監督署へ届け出ておくことが必要です。
【参考】
東京労働局:時間外・休日労働に関する協定届
まとめ
残業をしてもらえば残業手当の支払い義務が発生します。働いてもらった時間が法律の範囲を超えたら、賃金を割増すということです。「サービス残業」とならないよう、正しい知識を持って運用することが大切です。
photo:Getty Images