売上の計上基準、いつにすればよいのか?

事業をしていくうえで得てして悩みがちなのが「売上計上基準」に関することです。帳簿に売上として計上するタイミングは、受注した日なのか、納品をした日なのか、請求書を発行した日なのか、はたまた報酬が入金された日なのか? 今回は、間違えやすい売上計上基準について解説します。
[おすすめ]法人の会計業務をかんたんに!無料で使える「弥生会計 オンライン」
目次
- POINT
-
- 事業の売上計上は「実現主義」が原則
- 請負業では「商品のすべてが完成し、相手方に引き渡された日」が基準となる
- 計上基準は税務調査でも確認される重要な事項
実現主義と現金主義の違い
フリーランスとして活動するイラストレーターのAさんは、11月20日に取引先からイラスト製作の仕事を受注(①)しました。Aさんは、イラストのデータを12月5日に納品しましたが、イラストの手直し作業が発生。Aさんは修正したイラストを再び12月15日に納品し、すべての仕事が完了(②)しました。その後、12月25日に請求書を発行(③)し、翌年1月31日に入金(④)がありました。
さてこの場合、Aさんが売上を計上すべきタイミングはいつだと思いますか?
結論から言うと、売上計上タイミングは基本的に②の「すべての仕事が完了した日」(手直ししたイラストを納品した日)となります。
なぜなら大前提として、法人でも個人事業主でも、売上の計上基準は「商品を相手先に引き渡した日」でなければいけません。これを「実現主義」と呼びます。入金日を計上基準にすることは基本的にありません。入金された時点を計上基準にすることを「現金主義」と呼びます。
ただし、現金主義はあくまで「特例」であり、小規模事業者(※)が「現金主義の所得計算による旨の届出手続(青色申告者あるいは同時に青色申告承認申請をする場合に限る)」を行わないとこの方法をとることはできません。
(※)小規模事業者
その年の前々年分の事業所得の金額及び不動産所得の金額(事業専従者給与〈控除〉の額を必要経費に算入しないで計算した金額)の合計額が300万円以下である方のこと
請負業の売上計上基準
Aさんの場合も「実現主義」に基づいて売上計上を行います。
イラストレーターのような仕事は、相手先と仕事の完成を約束し、その仕事の完成に対して報酬が得られる「請負業」にあたります。この場合、「商品のすべてが完成し、相手方に引き渡された日」が計上基準として適用されます。「所得税基本通達」にある「事業所得の総収入金額の収入すべき時期(36-8)」にも次のように明記されています。
(4) 請負による収入金額については、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供を完了した日。
ただし、Aさんの例で、仮に受注したイラスト10点のうち、手直しにかかったイラストが4点のみだったとしましょう。この場合、契約上、イラスト1点ごとの単価が決まっている場合など、修正なしの6点と手直しをして再納品をした4点の代金が区分できる場合はそれぞれのイラストの納品が完了した日の各々で売上計上と請求をすることもあり得ます。しかし、何をもって仕事の完了とするのか(10点のすべてをもって完了とするのか/単品ベースで完了とできるのか等)、取引先と事前に意思疎通を図らなければいけません。
棚卸資産の販売は? 役務提供は?
棚卸資産を販売する事業者でも「相手方に商品が引き渡された日」が計上基準として適切です。ただしこの場合の考え方には、出荷日を基準とする「出荷基準」、相手先への納品日を基準とする「納品基準」、相手先での検収作業を終えた日を基準とする「検収基準」などがあります。これら3つのうちどの基準にするかは事業内容に応じ、事業者自身で決めることができますが、特に支障がなければ「出荷基準」が一番管理しやすいでしょう。
一方で、例えばコンサルタント業のような、明確な納品物のない役務提供の仕事の場合、「人的役務の提供が完了した日」が計上基準です。この場合「いつからいつまでをもって人的役務の提供が完了するのか」を明確にした契約を交わしておいたほうが安心。また、建設業で長期にわたる工事を請け負う場合、完成した部分の引き渡しの都度、工事代金を受領する旨の特約や慣習がある時は、完成した部分について相手方に引き渡した日をもって売上を計上します。
売上の計上基準は、税務調査でも確認される事項です。継続して同じ基準で計上することが原則ですので、ご自身の事業に適した計上基準を決める際は、事業の実態に照らして一番ふさわしい方法で、負担なく継続できる方法に決定するようにしましょう。
photo:Getty Images