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税制改正2016:課税ベース拡大と法人税税率の引き下げ

2016(平成28)年度の税制改正の大きな目玉の一つとして、国・地方を通じた法人実効税率が20%台となったことが、報道などでも大きく取り上げられました。政府のすすめる「成長志向の法人税改革」の一環としての法人税率引き下げは、「課税ベースの拡大」を伴うものでもあります。法人税率引き下げの概要と、課税ベースの拡大を伴う主な制度改正について解説いたします。

POINT
  • 建物附属設備等の減価償却、定額法に
  • 稼ぐ力を高める「欠損金繰越控除の見直し」
  • 法人実効税率引き下げ、影響は中小企業にも

課税ベース拡大を狙った建物附属設備等の減価償却方法見直し

2016(平成28)年度の税制改正は、法人に対して「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という考え方のもとでさまざまな施策が打ち出されています。

その「課税ベースの拡大」のための施策の一つが「建物附属設備・構築物の償却方法の見直し」です。

この制度は、建物と一体的に整備される「建物附属設備」(たとえば給排水・衛生設備、エレベーターなど)や建物同様に長期安定的に使用される「構築物」(たとえば塀やため池、屋外の広告塔など)について、減価償却方法を原則として「定額法」に一本化する、というものです。

これまでは、定額法に加えて定率法の選択も認められていましたが、定額法に一本化されることによって、特に取得後数年間の減価償却額(=費用化できる金額)が大幅に減ることとなり、結果として所得を押し上げる効果があると考えられています。

【定額法と定率法の減価償却イメージ】

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(図の出典:財務省「参考資料①(成長志向の法人税改革)」より)

なお、この改正は法人・個人事業主を問わず全ての事業者に対して適用されます。

欠損金繰越控除の見直しで企業の「稼ぐ力」を高める

「課税ベースの拡大」のための施策としてもう一つ注目すべきポイントは、大法人を対象とした「欠損金繰越控除の見直し」です。
「欠損金の繰越控除」とは、法人が青色申告書を提出した事業年度に税務上の欠損金が発生した場合に、その欠損金を繰越し、翌期以降の課税所得と相殺できる制度です。個人事業主でいう、純損失の繰り越し控除(赤字を3年繰り越せる)と同様のものになります。
ただし、大法人等(原則として資本金1億円超の法人など)については、繰越欠損金の控除限度額に上限が設けられています。

たとえば、2015(平成27)年4月1日に始まった事業年度の場合、繰越欠損金の控除限度額は原則として繰越欠損金控除前の所得金額の65%までしか控除することができません。数字を使って例を示すと以下のような感じになります。

(例)繰越欠損金150万円、繰越欠損金控除前の所得金額100万円の場合の繰越欠損金控除後の所得金額

●中小法人の場合…原則として繰越欠損金控除前の所得金額の100%を計上できる
100万円-100万円=0円
●大法人等の場合…原則として繰越欠損金控除前の所得金額の65%のみ計上できる
100万円-(100万円×65%)=35万円

この繰越欠損金控除の限度額については、2015(平成27)年度の税制改正でも見直しが行われましたが、2016(平成28)年度の税制改正で「控除限度額を段階的に引き下げる」という更なる見直しが加えられました。

【欠損金繰越控除の控除限度額】
H.28.4.1~
H.29.3.31に開始する事業年度
H.29.4.1~
H.30.3.31に開始する事業年度
H.30.4.1
以降に開始する
事業年度
2016(平成28)年度改正
(更なる見直し)
60% 55% 50%
2015(平成27)年度改正 65% 50% 50%

欠損金の繰越控除の上限額が減っていくことによって、あえて欠損金を出すメリットが薄れ、結果として企業の「稼ぐ力」を高めるインセンティブになると考えられています。

法人実効税率、20%台に―影響は中小企業にも波及?!

税制改正において、法人税率は2016(平成28)年度に23.4%、更に2018(平成30) 年度に23.2%に引き下げられます(2015(平成27)年度は23.9%)。
また、地方法人課税においても税率が変更され、この結果、国・地方を通じた法人実効税率は2016(平成28) 年度に29.97%、2018(平成30)年度に29.74%となります。

【法人実効税率】
2015
(平成27)年度
(27年度改正)
2016
(平成28)年度
(28年度改正)
2018
(平成30)年度
(28年度改正)
法人税率 23.9% 23.4% 23.2%
大法人向け
法人事業税所得割(注)

※年800万円超分の標準税率
6.0% 3.6% 3.6%
国・地方の法人実効税率 32.11% 29.97% 29.74%

(注)2016(平成28)年度までは、地方法人特別税を含みます。

ちなみに中小企業の法人税率は所得800万円以下の部分については税率19%(現在は時限的に税率15%)の軽減税率が、引き続き適用されます。
そのため「法人実効税率が引き下げられても中小企業には関係ない」と思われがちですが、今回の大法人向けの税制改正は中小企業にも大きな変化をもたらす可能性を秘めています

「法人実効税率を20%台に」というのは、経済界からの要望でもありました。政府はこれを実現させたうえで企業に対して「改革の趣旨を踏まえ、経済の『好循環』の定着に向けて一層貢献するよう、強く求める」という姿勢を示しています。
つまり、法人実効税率20%台になったということは「政府は約束を果たしたから今度は経済界が政府に協力しなさい」という局面になった、ということなのです。

政府は、経済の好循環を生み出すために、大企業が内部留保(手元資金)を活用して、設備等への前向きな投資拡大や賃上げ、取引先企業への支払単価の改善などに積極的に取り組むよう、経営者のマインド自体を変えることも求めています。さらに、大企業の稼ぐ力を引き出すような施策も打ち出しており、あとは企業がどう動くかが焦点になります。
もし政府の思惑通りに動けば?! 中小企業にも好景気の波が来ることが想定されますね。

photo:Thinkstock / Getty Images

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