コルク佐渡島氏「成功事例を生みだせれば、日本のコンテンツビジネスは劇的に変わっていく」

佐渡島庸平さんは、2012年、作家のエージェント組織・株式会社コルクを設立した。大学卒業からコルク設立までの10年間で講談社に勤め、漫画雑誌 週刊「モーニング」の編集部に在籍。数々の漫画編集を担当する傍ら、漫画編集者の枠を超えた企画を推進してきた。
そして今、自ら設立したコルクでもあらゆる活動を通し、出版を含んだクリエイティブ業界全般のビジネスモデルの変革に取り組んでいる。佐渡島氏の目指すクリエイターの理想郷はどんなものなのか、話をうかがった。
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クリエイターの”パブリッシュ”をお手伝いしたい
週刊「モーニング」編集部では、配属されてまもなく『バガボンド』『さくらん』などの担当編集を務め、三田紀房氏の新連載『ドラゴン桜』では、自身の東大受験の経験を活かし創作活動をサポートした。その後、小山宙哉氏の編集担当となり、人気漫画『宇宙兄弟』を作家とともに立ち上げている。
そうした純粋な”漫画編集”の仕事のほかに、週刊「モーニング」誌上で伊坂幸太郎氏の小説『モダンタイムス』を連載したり、ムック本・書籍、さらにはイベントを企画したりするなど、”漫画編集”の枠を超えた活動を行った。多岐にわたった当時の仕事について、次のように振り返る。
「僕のなかでは、人間に課せられた倫理的なルールをきちんと守っていれば、それ以外は自分たちの力で変えていけるものだと思っています。みんながなんとなく思い込んでいる「○○すべき」ということのうち、本当に守らなければならないルールは一部なはずです。僕自身、やりたいことを実現するために、固定概念にとらわれずに様々な工夫をしながら取り組んできました。例えば、僕には漫画と小説に『文学』としての境目がなく、漫画家がノーベル文学賞を受賞してもいいと思っていて、そうしたことを本当に実現するにはどうすればいいか考えた末、より自分のやりたい事を具現化できる環境に身を置きたいと想いが募り、結果的にコルクを立ち上げることになりました」
佐渡島さんがコルクでやろうとしていることを一口にいえば、クリエイターの創作活動だけでなく、”パブリッシュ”するところまでを手伝うということだ。”パブリッシュ(publish)”とは、「出版する」「公表する」といった意味を持つ。「これまでは本でやるのが一般的でしたが、ある種の理念に基づいてモノを世間に届けるのならば、それはどれもパブリッシュな行為です。その定義で考えれば、僕らがサポートしていくクリエイターは漫画家に限らないんです」と佐渡島さん。
「僕の感覚的には、自分の家計をコントロールするなかで、漫画、映画、小説、音楽にかけるお金はほぼ同じ財布から出ていて、同ジャンルにあるものでした。業界で分かれているものではないし、分かれているほうがおかしいと思っていました」
事実、コルクの契約作家には、安野モヨコ氏、小山宙哉氏、三田紀房氏といった漫画家のほか、阿部和重氏や伊坂幸太郎氏といった小説家の名前、さらには、ARクリエイターの川田十夢氏の名前が並んでいる。川田氏が所属する開発ユニット「AR三兄弟」のマネジメントも行っている。
新人作家の発掘にも注力しており、『ケシゴムライフ』でデビューした羽賀翔一氏には投資ファンドをつくり、デビュー前から羽賀氏の”ファンクラブ”を育成した。投資家から資金を集め、売れた分は投資家に還元するという試みに132人の投資家が集まったという。
海外での日本漫画は「浅草サンバカーニバル」と同じ!?
コルクがサポートするクリエイターの作品の一つに、2013年6月から週刊「モーニング」誌上で連載が始まった『インベスターZ』(三田紀房)がある。入学した中学校の「投資部」に所属した少年の物語で、大きな話題を呼んでいる。同作品は、Yahoo! JAPANの電子書籍サイトでも連載され、紙媒体と電子書籍での同時連載は当時、画期的なことだった。
佐渡島さんは、作家が自由に作品を配信・販売できる電子書籍の配信プラットフォームとして「Magnet」というサービスをクックパッドとの合弁会社からリリースすべく開発を進めている。また、数多く出版されるマンガの中から、埋もれている良著をすくいあげ、世に広く紹介することを目的とするキュレーションメディアとして、Webサイト「マンガHONZ」を開設した。このように、作品の創作・配信・認知のサイクルをインターネット上で行える土壌作りに力を入れている。
作品の流通でいえば、海外展開も視野に入れている。一般的には、日本の漫画が海外でも認知されていると思われがちだが、佐渡島さん曰く「浅草サンバカーニバルが盛り上がっているからって、日本のみんなが”サンバ”を踊っているわけではなく、日本の漫画もそんなふうに海外で局所的に受け入れられている状態」と実状を話す。コルクでは、契約作家の作品が世界中の人の目に触れるように翻訳したものを海外へ展開。出版の決まっている作品もあり、「過去の作品を含め、作家の作品が眠ることがないよう、多言語化に努めたい」という。