税理士に聞く!課税売上高1000万円超の課税事業者の消費税対策

8%に引き上げられる消費税について、スモールビジネス事業者が行うべき対策を3回にわたって東京・渋谷のアトラス総合事務所 代表パートナーの井上 修氏(公認会計士・税理士・行政書士)にアドバイスしていただきました。第3回は、「課税売上高1,000万円超の課税事業者の対策」について解説していただきます。
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目次
課税事業者の場合、簡易課税制度と原則課税のどちらが有利か?
増税後は、総額表示義務の時限的な撤廃(*)を背景に、税抜価格表示にしている店舗が多いので実売価格がわかりにくい印象を受けます。ただし、この機に乗じて便乗値上げすると摘発される可能性もあるので注意してください。
さて、今回は、スモールビジネス事業者が課税売上高1,000万円を超えた時にどのような対策を取ったらよいかをテーマにしました。第1回に述べたように課税売上高が1,000万円を超えた場合は、消費税の納付が義務づけられますが、その中で課税売上高5,000万円以下の場合は次の2つの方式を選ぶことができます。
● 原則課税方式
「売上にかかる消費税」から、仕入や経費など「支払った消費税」を差し引いて納税額を算出する原則的な方式です。不課税取引や非課税売上項目をきちんと把握して会計ソフトに入力する必要があります。
● 簡易課税方式
「売上にかかる消費税」を算出する方法は同じですが、「支払った消費税」の計算は一切行わず、その代わりに「売上にかかる消費税」に一定率(業種ごとのみなし仕入率)を掛けた額を「支払った消費税」とみなして、簡易に納税額を計算する方式です。スモールビジネス事業者の場合、煩雑な経理業務の削減につながるというメリットもあります。
この2つの方式のうち、どちらか有利な方を選べるわけですが、第5種事業であるサービス業などでは、「みなし仕入率」が50%と他業種より低く設定されていても、実際の仕入はほとんどないので簡易課税方式を選んだ方が有利です。それ以外の業種の場合でも、例えば、飲食業でもテイクアウトなのかイートインなのかといった業態によっても異なるので、一度シミュレーションを行ったうえで、今後の事業成長性や売上・経費の見込みを検討し、慎重に判断する必要があります。そこで、どちらを選ぶかは私たちのような税務の専門家に一度ご相談いただければと思います。
資金繰りのことを考えて、「消費税預金」をしておくべき!
課税事業者にとって最も注意が必要なのは、資金繰りの問題です。製品やサービスなどの売上と一緒に受け取る消費税は後々納税する必要があるばかりか、利益が出た時だけ納める所得税や法人税とは異なり、赤字でも納めることになります。ついつい資金繰りのために使い込んでしまうこともあり、消費税は各税金の中で滞納率No.1となっていますが、滞納すると延滞税が容赦なくかかってくるので注意が必要です。
特に消費税率が10%に引き上げられた時は滞納すると大変なことになるかもしれません。そこで、目安として毎月の売上の約1%を「消費税預金」として積立定期貯金などで用意しておくと安心でしょう。
個人の課税事業者の場合、法人化も視野にいれるべき
個人事業主が課税事業者になった場合は、法人化を検討してみてはいかがでしょうか?復興特別法人税もこの4月1日から廃止になりますし、法人税率も今後下がって行く可能性もあるので、法人化した方が有利なことは間違いありません。
その場合でも、株式会社と合同会社のどちらでも税制上扱いは同じですが、設立費用が安いのは合同会社になります。また、法人化した後に役員報酬を高めにして赤字申告を続けている事業者もありますが、個人として所得税を払うことになるので法的には問題はないと思います。
税理士に聞く!消費税8%対策
第1回「意外と知られていない消費税のしくみを再確認」
第2回「課税売上高1,000万円以下の免税事業者の対策」
(*)平成25年10月1日に施行された「消費税転嫁対策特別措置法」により、平成29年3月31日までの時限的な措置ではあるものの、スモールビジネス事業者の値札の張り替えなどの事務負担を軽減するために、「○○円(税抜き)」などの税抜価格表示が認められることになりました。
- 井上 修いのうえ おさむ
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公認会計士、税理士、行政書士。昭和32年東京都生まれ。アーサーヤング公認会計士共同事務所、興亜監査法人、山田公認会計士事務所、岩下敏男税理士事務所を経て平成3年に独立開業し、井上公認会計士事務所を開設。さらに平成17年に公認会計士、税理士、社会保険労務士、司法書士、行政書士登録がひとつになったアトラス総合事務所を東京・渋谷に開設。