決算整理と試算表 会計・簿記の実践編−6
前節は、決算の最初に行う残高試算表の作成をみました。最終回である本節では、簿記の目的である「貸借対照表と損益計算書の作成」について説明します。残高試算表の勘定科目のうち決算時点で修正すべき事項(決算整理事項)を、修正した後で2つの財務諸表は作られますが、「残高試算表に決算整理を加え損益計算書と貸借対照表を作成する」までの流れを、スムーズかつ誤りのないように行なうために、「精算表」という表を用います。
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目次
決算整理は一部の科目の修正と追加作業
1年間の「利益の計算」と「財産の状態」を正しく示すためには、どうしても修正しておかなければならない事項が出てきます。たとえば、売上原価の計算(期末商品の棚卸)や、減価償却費を計上することなどです。
売上原価の計算
仕入れた商品のすべてが販売されるとは限りません。
普通は、決算時点で売れ残っている商品があるものです。このような場合、仕入金額のすべてを費用とすべきではありません。
売れ残った商品の金額(これを期末商品棚卸高といいます)を「仕入」から差し引き、「繰越商品」という、資産に属する勘定に移し替える修正が必要となります。
つまり、費用とすべき金額は、仕入のうち売れた分だけです。そうしないと正しい利益の計算ができません。実際に売れた商品の金額のことを「売上原価」といいます。
たとえば、当期の仕入が100,000円あったとして、このうち20,000円売れ残ったならば、80,000円(100,000円-20,000円)が売上原価となります。そして、売れ残った20,000円につき、次のような決算整理仕訳を行ないます。
(借) 繰越商品 20,000 (貸)仕 入 20,000
(資産の増加) (費用の取消)
*仕訳の貸方「仕入」となっていますが、発生の処理をしておいた費用を”取消す”という特殊なケースです。
減価償却費
* 減価償却の計算方法にはいくつかの方法がありますが、ここでは「定額法」という方法を前提に説明します。
減価償却というのは、建物・備品・車両運搬具などの価値の減少分を費用に計上することです。
たとえば、300万円で自動車を購入して、1年もたつと、使用により老朽化して価値が下がります。
当然、中古品として販売すれば、とても購入時の300万円では売れません。価値の減少(減価)が起こっているのです。
減価償却とは、このような価値の減価分を減価償却費という形で費用に計上することなのです。
減価償却費は、資産を購入した時の金額(これを取得原価といいます)を使用予定年数(これを耐用年数といいます)で割って求めます。
たとえば上記、自動車300万円の耐用年数が5年の場合、減価償却費を計算すると、60万円になります。
減価償却費=300万円(取得原価)÷5年(耐用年数)=60万円
そして、次の決算整理仕訳を行います。
(借) 減価償却費 600,000 (貸) 車両運搬具 600,000
(費用の発生) (資産の減少)
精算表は決算の流れを表わす一覧表
精算表を用いて損益計算書と貸借対照表をつくる手順を、下記の〔設例〕を使って説明しましょう。
精算表には、左端にあらかじめ残高試算表を記入しておきます。
〔設例〕
次の2つの決算整理事項をもとに、精算表を完成させなさい。
1.仕入高のうち期末に売れ残った商品(期末商品棚卸高)が¥30,000ある。
2.備品¥200,000(当期首に取得)について、定額法により減価償却を行う。
ただし、耐用年数は5年である。
決算整理事項の仕訳は次のとおりです。
1.売上原価の計算
(借) 繰越商品 30,000 (貸) 仕 入 30,000
期末商品の分だけ仕入を減らし(取消し)、繰越商品(資産)として翌期に持ち越します。
2.備品の減価償却
(借) 減価償却費 40,000 (貸) 備 品 40,000
減価償却費(費用)を計算し、その分だけ備品(資産)を減少させます。
減価償却費=¥200,000(取得原価)÷5年(耐用年数)=¥40,000
決算整理事項の仕訳で新たに登場する、「減価償却費」(費用)などの勘定科目がどのグループに属するか、しっかり押さえることが大切です。精算表を完成させると次のようになります。
作成手順は次のとおりです。
1.決算整理事項の仕訳を精算表の「決算整理」の欄に記入します。
2.残高試算表の科目のうち「資産・負債・純資産」の各金額を貸借対照表欄に、「収益・費用」の各金額を損益計算書欄に書き写します。その際、決算整理の対象となった科目については、その金額を加減します。
① 繰越商品…借方に30,000円計上したので、そのまま貸借対照表欄の借方に記入します。
② 備 品…減価償却を行った分40,000円を減らし、160,000円を貸借対照表の借方に記入します。
貸借対照表の金額=200,000円-40,000円=160,000円
③ 仕 入…期末商品棚卸高30,000円を減らした250,000円(売上原価)を損益計算書欄の借方に記入します。
損益計算書の金額=280,000円-30,000円=250,000円
④ 減価償却費…費用なので、40,000円を損益計算書欄(借方)に記入します。
3.最後に、損益計算書欄と貸借対照表欄それぞれの貸借差額により、当期純利益10,000円を求め表を完成させます。
損益計算書欄: 収益合計420,000円-費用合計410,000円=当期純利益10,0000円
(貸方) (借方)
貸借対照表欄: 資産合計390,000円-負債・資本合計380,000円=当期純利益10,0000円
当期純利益が生じる場合、損益計算書欄では貸方「収益」の方が多くなるので、借方(費用側)に10,000円を記入して貸借合計を420,000円で一致させます。
逆に、貸借対照表欄では借方「資産」の方が多くなるので、貸方(負債・資本側)に10,000円を記入して貸借合計を390,000円で一致させると、覚えてください。
以上、簿記の基本をひと通り学習しましたが、仕訳による”貸借の区分け”が財務諸表の作成までつながっていることを解っていただけたと思います。現代のパソコン経理では、仕訳ができれば、経理部でも一応は務まるといえるくらいです。各グループの勘定科目と仕訳のルールを再確認して、仕訳がスピーディーかつ正確にできるように頑張ってください。
知っておきたい基礎知識|会計・簿記|まとめINDEX
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- ビジネス・パーソンにとって簿記は必須 会計・簿記の基本−2
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- 資産・負債・純資産と貸借対照表 会計・簿記の基本−6
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- 収益と費用の仕訳 会計・簿記の実践編−4
- 決算:試算表の作成方法・作り方 会計・簿記の実践編−5
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