「週末起業」はリスクゼロで誰でもできる!? “起業の種”の見つけ方

2023/12/04更新

この記事の執筆者阿部桃子

会社に勤めながら、休日や終業前後の時間を活用して自分のビジネスを立ち上げ、軌道に乗ったら独立するという起業スタイル「週末起業」。人生100年時代、副業解禁、withコロナ……と、社会の状況が目まぐるしく変化する今、働き方について考える方は少なくないのでは? 週末起業にはどんなメリットがあるのでしょうか? リスクゼロで起業ができるのか、また誰でも簡単に始められるものなのでしょうか?

週末起業の提唱者にして、2万人を超えるビジネスパーソンに指導し、多くの起業家を生み出してきた中小企業診断士で経営コンサルタントの藤井孝一さんにお話をうかがいました。

  • この取材はオンライン会議ツールを使用し、リモートでインタビューしたものです

藤井孝一(ふじい・こういち)

経営コンサルタント(中小企業診断士)/株式会社アンテレクト取締役会長
大手金融系の会社勤務の後、経営コンサルタントとして独立。ビジネスパーソンに起業を指導してきた。特に在職中から起業する「週末起業」の普及のために活動。週末起業実践会を創設し、2万人超のビジネスパーソンが学び、独立・開業を果たしてきた。著書はベストセラー『週末起業』ほか60冊以上。近著には『大人の週末起業』がある。1966年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。
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ダメもとで週末だけでも起業してみる

「週末起業」を2003年から提唱されているそうですが、思いつかれたきっかけについて教えてください。

藤井孝一(以下:藤井):私自身、もともと金融系の会社でサラリーマンをやっていました。でも「いずれは独立したい、起業したい」という思いや、職場や仕事などに対する不満もあったため、2年程勉強して、中小企業診断士の資格を取得しました。

当初は資格を取ったら独立、と考えていました。しかし、ほとんどの中小企業診断士の資格取得者は企業に勤めながら中小企業診断士の業務を行う「企業内診断士」だと取得してから知りました。中小企業診断士の先輩に聞くと、会社勤めをして在籍している会社から給料をもらいながら、週末などにほかの中小企業のお手伝いをしている人もいるとのこと。つまり、中小企業診断士の仕事だけでは食っていけないという現実に直面したのです。

そこで私が考えたのが、会社を辞めずに、週末や終業前後の時間を利用して、中小企業診断士の資格を生かしたもう一つのビジネス始めるということでした。実際やってみると、自分と同じく会社にいながらビジネスをやっている人にたくさん出会いました。そして「週末起業」というスタイルへとたどり着きました。

ご自身で実際にやってみて、本業とともに続けていけそうだと思われたんですね。どの辺りがポイントになったのでしょうか。週末起業のメリットなどを教えてください。

藤井:週末起業のメリットは、

  • お金のことを心配しないで始められる
  • ダメ元で気軽に挑戦できる

という点ですね。現在、サラリーマンをしていて「趣味や好きなことで生活したい」「本当はこういうことしたかった」と考えている人は、いると思います。

先行き不透明なこの時代に会社を辞めて、ゼロから挑戦するというのはリスキーですよね。ましてや家族やまだ小さいお子さんがいたら一歩立ち止まって考えてしまうはずです。でも、会社勤めをしながら起業するのであれば、収入が途絶える心配はないですから。

ローリスク、しかも夢がありますね。どんな方におすすめしたいですか?

藤井:今、私の周りの同級生を見渡しても、40~50代の人が全然元気がないんです。ほとんどの人が50代になると役職定年(定年間近になり、部長や課長などの役職から外されること)のようになって、会社勤めのモチベーションが落ちるんですね。かといって、今さら転職ができるとは思えないし、会社を早期退職して起業するのは不安。家族もいるし、まだまだ働かなきゃならない……という溜息ばかりが聞こえてきます。

会社にいてもやりがいが感じられない、辞めることもできないという訳ですね。

藤井:ただ、せっかく今まで長年勤めあげた会社です。定年目前に退職してしまうのはもったいないですよね。なので、本業として、会社には定年まで勤めながら、定年前から週末起業というかたちでもうひとつのビジネスを始めておけば、いろいろ「いいとこどり」ができるというわけです。

中には「いずれ定年退職したら起業するよ」という人もいますが、年を取れば取るほど気力も体力も低下して、新しいことに挑戦するのは何倍も大変になってきます。そういう方には、起業の準備は早ければ早いほど後がラクだとお伝えしています。

本業のスキルを活かすor趣味を活かす? “起業の種”を見つけよう

どんな方がどんなスキルを活かして、週末起業されているのでしょうか?

藤井:本業の経験を活かすパターンと、趣味を活かすパターンに分かれると思います。

本業の経験を活かす

  • 本業はパソコン講師の方が、ビジネスマナー研修で講師
  • IT系企業に勤めている方が、企業のネット環境整備を含め、オフィスのレイアウト提案をビジネスに
  • 不動産営業の方。本業は法人営業ですが、週末は個人の富裕層向けに法人では扱わない小規模な物件の投資をアドバイス

趣味を活かす

  • 日本酒が好きな方が利き酒師の資格を取って、日本酒を楽しむ会を開催
  • ビールが好きな方がクラフトビール職人として活躍
  • ボディビルが趣味の方が、高齢者向けにけがをしない筋トレのパーソナルトレーナーとして活躍
  • ダイビングが趣味で、ワインが好きな方が、海とワインを組み合わせた起業を考え、ワインを海に沈めて程よい振動で熟成させ、ネットで販売
  • 出版社の方が、週末だけお店を借りてバーの1日店長。人脈を広げる交流会を開催
  • 自分のダイエットに成功した方が、プライベートダイエットコーチとして活躍
  • ラジコン操縦が趣味の方がドローン操縦士の資格を取得し、企業の依頼で建物の屋上などを撮影

すごく楽しそうですね! でも、こういった”起業の種”って簡単に思いつくものなのでしょうか?

藤井:いえいえ、相談者さんから一番多い質問は、「私は何をしたらいいですか」ということ。自分がどんなことに適正があるのかわからないという相談は多いですね。

ただ、「自分はサラリーマン一辺倒で何の取り柄もありません」と言う方が多いのですが、よくよく聞いてみると、何度も事業所を立ち上げた経験があるとか、営業マンを30人くらい取りまとめた経験があるとか、企業の人事で研修を担当していて、長年人材育成の仕事をやっていたとか、みなさん”起業の種”を本当にたくさん持っていますからね。

私はセミナーなどではいつも、「自分年表シート」、「自分棚卸しシート」を書いて、自分で自分の”起業の種”を見つけ出すように勧めています。

自分年表シート

自分年表シート:学校や仕事の経歴、個人的なライフイベント、家族のこと、感想を記入します

自分棚卸しシート

自分棚卸しシート:自分の経歴を書き出し、強みや特技、好きなことやセールスポイントを見つけ出します

週末起業する・しないを抜きにして、自分の経歴を棚卸することで、自分を再発見できるほか、まだ先が長いとか短いなど、人生を俯瞰することもできます。

目的が「お金のため」ならやめたほうがいい?

適正の相談のほかによくされる質問はありますか?

藤井:「何をやったら稼げますか?」「何なら当たりますか?」と聞かれることもあります。そういう方のなかには、住宅ローンが払えないとか、子どもの教育費をもっと稼がなければと悩んでいる方も。でも、ただお金のためだけなら、アルバイトや不動産投資、株式投資などを検討した方がいいと思います。なぜなら、週末起業で確実に稼げる保証はないからです。

「やりたいことがある」「好きなことがある」「これを仕事にしたい」という発想でやるのが「週末起業」。何をすれば稼げるかより、自分のやりたいことでどうやったら稼げるのかを考えてみてください。

好きな仕事で稼ぐって、結構難しい気がするのですが……。

藤井:そうですね。特に趣味をビジネスにしたいという場合、ネックになるのは「マネタイズ=どうやってお金にするのか?」ということです。

例えば、日本酒の会を作り、勉強会などを開いて会員制のビジネスにしようと考えた場合。最初は多くの友達が集まってくれて、日本酒をわいわい楽しく飲んだとします。

でも「ビジネスにする=お金を取る」なら、そこから一歩踏み込んで、お客さんとして来てくれる人を集めないといけないんです。実際そこが大きなハードルになってきます。

それを解決するにはどうしたらいいのでしょう?

藤井:まず、自分がやっていることを多くの人に広く知ってもらうこと。そのためには、HPやブログ、Facebook、Twitter、YouTube、Instagramなどをフル活用した情報発信力が強く求められます。

日本酒の会の楽しそうな様子を掲載して、新規のお客様にも「私も参加したい!」と思ってもらう、そこがポイントですね。

リモートをいかに活用できるかが成功のカギ

コロナ禍での環境の変化が週末起業に与える影響はありますか?

藤井:外出自粛から飲食店がテイクアウトに力を入たことで「Uber Eats」が、またテレワーク(在宅勤務)が増えたことで、リモート会議アプリ「Zoom」「Microsoft Teams 」などが、急速に広がりました。

ただ、こういう勝機のある世界には本業でやっている人が参入してきます。週末起業は、時間やお金や労力が圧倒的に限られています。そのため本業の人たちとガチンコでぶつかるようなことをしても、敵わないですよね。

例えば今、Zoomを使った教育ビジネスが流行っています。なので、これを真似て今まで対面形式だった講座をZoomでやってみてはいかがでしょうか。そうすれば、これまで東京など一部のエリア対象だったものが、北海道から沖縄、海外の人にも届けられ、ビジネスチャンスが広がります。

このように、世の中の変化をビジネスの道具として活かせば、ビジネスを飛躍させられると思います。

時間と場所の制約のある週末起業家にとって、コロナ禍は追い風かもしれませんね。

藤井:はい。リモートが進み、通勤時間や移動時間、交通費も節約できるようになりました。時間もお金もかけずにビジネスができますね。

稼ぎが出たら、投資をしなければビジネスは育たない

では、週末起業をする上で成功のポイントは?

藤井:先ほど情報発信は大事と申し上げましたが、ブログ、Facebook、Twitter、YouTube、Instagramなどのツールを使いこなすことは成功のポイントの一つになると思います。

世の中はめまぐるしく変化しています。その動きについていき、情報発信などのツールを活用しましょう。得意ではないという方は、勉強会などに参加してノウハウを学ぶ努力が必要です。新しいことを取り入れていかないと、すぐジリ貧になってしまいます。

成功のポイント以前のことですが、挑戦してみたい、という気持ちになったら、小さなことでも行動してみることです。

  • 起業セミナーに参加してみる
  • 本から知識を得る
  • 自分で作ったHPをプロにリニューアルしてもらう
  • 集客のためにGoogleAdSenseなどを活用して有料広告を出す
  • パソコンも最新のOSのものに買い替えて行く

行動できるということも適性の一つだし、自己投資は自分にも起業にも重要です。

お金をかけるところにはかけろ、ということですね。

藤井:はい。もし月に20万円稼げるようになったら、そのうちの1割でも未来のために投資すること。

会社勤めの方のなかには、先にお金が出て行くのを嫌う方もいるのですが、ビジネスは植物と一緒で水と養分を与えないと枯れてしまうんです。また新しいことを学んで、そこで人脈を作って、ビジネスを育てて行くというそれ自体が醍醐味でもあります。週末起業ではこの過程も楽しめるのではないでしょうか。

週末起業で失敗しないためには

経営コンサルタント 藤井孝一氏

趣味を仕事にした場合、お金にならなくても、楽しいならいいという人もいると思います。それはそれでアリなのでしょうか?

藤井:はい。ただ、いつかは独立したい、稼ぎたいという思いがあるなら、自分でタイミングと目標を決めて、どこまで続けるのか、やめるのか、決断したほうがいいでしょう。

例えば、5カ年計画を立てるとします。

  • 1年目は仲間うちからクチコミを広げる
  • 2年目はお金を稼ぐためのアクションを起こす
  • 3年目は本業の半分くらい稼げるようにする

など、計画的に考えて進めるのがいいと思います。

定年を待たず、週末起業を本業にする方も多いのでしょうか? 本業を辞めても大丈夫というタイミングの目安はありますか?

藤井:私は本業を辞めるタイミングを、週末起業で本業と同じ位稼げるようになったら、と提案しています。

よく、週末起業で少しずつお金が稼げるようになったタイミングで、「今、辞めたらもっと軌道に乗るのではないか」と相談に来られる方がいるのですが、その時点では時期尚早だったり、実際途中で息切れしてしまうケースもあります。

実際、中小企業庁の統計では、起業独立後の手取り月額が20万円以下の人が約40%、起業してから3年後の企業の生存率は約半分と言われています。ただし、これを週末起業を経て事業を軌道に乗せた上で独立した人に限って調査すれば、成功確率はもっと高くなると思います。リスクを減らしたいのであれば、独立は慎重に考えるべきだと思います。

週末起業は、やりたいことが見つかれば比較的気軽に始められそうですが、注意点はありますか?

藤井:会社からの給料は、給与所得として、会社で年末調整をしてもらえますが、自分のビジネスに関しては、自分で所得税の確定申告をやらなければなりません。週末起業で所得が年間20万円を超えたら、必ず確定申告が必要です。

「会社にばれたくないから確定申告をしない」という方もいるのですが、税金を納めず、税務署の税務調査が入ったら、それこそ会社にばれる可能性が高くなってしまいます。

所得税の確定申告書には、住民税の徴収方法を選ぶ欄があります。そこで「自分で納付」に丸を付ければ、本業以外の報酬分は自分で直接納税することになり、会社には通知されません。

令和2年分 所得税の確定申告書第二表のサンプルより

※画像 令和2年分 所得税の確定申告書第二表のサンプルより

これから週末起業をしようと考える読者のみなさんに、メッセージをお願いします。

藤井:私はバブル崩壊時に社会に出て、リーマンショック、東日本大震災も経験してきました。そのたびに失業者が増えていましたが、失業してから「どうしよう?」と考えても遅いんですね。

今も暗いニュースはありますが、まだ何とか持ちこたえている状態ですので、先手先手で次の行動を考えたほうがいいのではないでしょうか。幸い今、在宅ワークで時間に余裕ができた方も多いと思います。その時間を使って「人生って?」「仕事って?」と、自分の状況を冷静に見つめてもらいたいですね。

国も企業も副業解禁、働き方改革としきりに言っている今。この時をチャンスと考えて新しいことに挑戦したらいいと思います。人生にはさまざまな道がありますが、週末起業を選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか?

執筆:阿部桃子

この記事の執筆者阿部桃子

早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。

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