確定申告を代理で提出・作成できる? 妻や夫、親の場合は?

2021/03/31更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

毎年、2月や3月になると話題になる確定申告。個人事業主にとっては一大イベントです。なかには、仕事が忙しく確定申告書の作成に時間を取れなかったり、そもそも確定申告書の作成の方法がわからなかったりという個人事業主の方もいると思います。では、どの程度までなら確定申告書を他者に代理で依頼することができるのでしょうか?

POINT

  • 確定申告書の作成を代理できるのは税理士のみである
  • たとえ親族でも、確定申告書作成を丸投げしてはいけない
  • 確定申告書の作成を税理士に依頼することで、確定申告書の信頼性が上がる

そもそも確定申告書って、納税者本人じゃなくても代理で作成・提出できる?

個人事業主にとって一大イベントである確定申告。
日々の売上の集計から、領収書の整理など、ただでさえ仕事が忙しい個人事業主にとって確定申告書の作成は大きく労力を使います。
そのため、できることならほかの人に確定申告のための処理や、確定申告書の作成を代理でお願いしたいという個人事業主の方も多いのではないでしょうか?

それでは、どのような人であれば確定申告書の作成を代理できるのでしょうか? その答えは税理士法という法律で明らかにされています。以下は税理士法の抜粋です。

税理士法第2条
税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一  税務代理
二  税務書類の作成
三  税務相談
税理士法第52条
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

税理士の主な業務は上記の税理士法第2条の3つに分けられます。税務代理とは、納税者、つまり個人事業主や会社に代わって、税務署に対して各種税金の申告や申請を行うことをいいます。
そして、2つめの税務署類の作成とは、確定申告書や法人税申告書、その他の税務署への届出書を作成することなどをいいます。

3つめの税務相談とは、簡単に言えば税金の計算や申告書など税務署に提出する書類の作成について相談に乗ることです。

そして、税理士法第52条では、税理士や税理士法人でない者は上記3つの税理士業務を行ってはいけないということを定めています。この規定は非常に珍しい規定です。なぜなら「対価の有無」が要件になっていないからです。

多くの専門家の法律では、対価を得て無資格者が業務を行うことを禁止していますが、税理士法では対価の有無にかかわらず、税理士業務を他人が行ってはいけないとなっているのです。

つまり税理士以外が確定申告書を作成することは、お金をもらってやるか、無料でやってあげるかにかかわらず、税理士法違反になってしまうということです。

ここで、ちょっと小難しい話になりますが、代行や代理という言葉を考えてみましょう。
日常では、どちらも同じような意味で使っていることが多いと思いますが、法律の上では、このふたつの言葉は大きく意味が異なります。それは「本人が意思決定するかしないか」ということです。

代行とは、本人が意思決定した後で、代行する人がその意思決定の内容に沿って、行為を本人に代わって行うことです。

確定申告書の作成の場面に当てはめると、例えば、「ここからここまでが売り上げで、経費はこれだけあるから事業所得は〇円になる。所得控除はこれだけ申告する」といったことを申告者本人が決定して、その内容を確定申告書の書類に落とし込んでいくといった感じです。

一方で、代理とは、本人が同意した範囲で、代理人が代理人自身の意思に基づいて決定することができます。
確定申告書の作成の場面に当てはめると、確定申告書の作成を依頼された税理士が自らの判断で、事業所得や各種所得控除の計算などを行って、納税額の計算まで行えます。

税理士法で、税務代理は税理士や税理士法人しか行ってはいけないということが書いてあります。
つまり、配偶者や親といった家族は、本人の代わりに確定申告書の記入をすることができますが、それはあくまで納税者本人が決めた数字を書き写すだけであり、本人の意思が介在しない、いわゆる丸投げで確定申告書の作成が行えるのは、税理士または税理士法人だけということになります。

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確定申告の代行に求められる条件は

とはいっても、ただでさえ忙しい個人事業主が、すべて一から書類を整理して集計しなければいけないのでしょうか?
その答えを出すためには、まずは、所得税の確定申告の流れを整理してみましょう。

個人事業主が確定申告書を作成するためには、まずは年間の領収書や請求書などを整理する必要があります。
売上の集計や、仕入れ・経費といった必要経費の整理です。そして、それらの集計を行って事業についての利益、いわゆる事業所得(不動産賃貸などであれば不動産所得)といった所得を計算します。

ここまでは、確定申告書の作成というよりは、日々の記帳業務の範囲に入ります。そして、ここから配偶者控除や医療費控除などの各種所得控除や、住宅ローン控除といった税金の控除など、確定申告特有の処理を経て確定申告書が完成します。

つまり確定申告書の作成は、確定申告書作成のための事前段階として日々の記帳業務と、所得控除などの確定申告書作成にあたっての処理……この2段階に分かれます。このうち、税理士法で税理士以外が行ってはいけないと規定している部分は、確定申告書の作成の部分です。つまり、日々の記帳業務は誰でも行えるということです。

それでは、確定申告書の作成部分はどうでしょうか?

繰り返しになりますが、確定申告書は、本人もしくは税理士または税理士法人のみが作成することができると税理士法で規定されています。
しかし、この規定は、確定申告書をすべて直筆で書いたり、e-Taxなどを使って自分で入力したりしなければならないということを規定しているわけではありません。

例えば、家族経営のお店などで、事業者の配偶者(妻・夫)や両親といった家族が本人の代わりに毎日の記帳業務を行って、さらにそのまま確定申告書の記入まで行うということは実際にあることです。
このうち、確定申告書の記入部分について、納税者本人ができなければ、税理士に必ず依頼しなければいけないということは、あまり現実的ではありません。

この場合、家族は本人が確定申告書を作成すべきところ、その作成を代行しているという扱いになります。
つまり納税者本人が内容をわかっていて、その内容を申告書という書面に落とし込むということです。

これらを踏まえて、よくある質問に答えてみましょう。

Q1委任状はいる?

委任状とは、ある行為を代理する際の書類です。税務代理は税理士にしかできません。そのため、基本的には確定申告に委任状は必要ない(というかありえない)ということになります(税理士業界では、税務代理権限証書という書類が委任状の役割を果たしますが、一般の人が使用することはまずありません)。

Q2親の代理で確定申告書の作成や提出をしてあげたい

作成は、代筆であれば可能です。
提出については、ただのお使いのようなものなので、誰でも可能です。
税務署窓口では、誰が提出に来たかという書類を書くことになりますが、親族の分を代わりに出しに来たということはよくあることです。
その際に、身分証明書の提示までは求められませんが、住所・氏名は記入する必要があります。

Q3忙しいので配偶者を代理人にすることはできる?

配偶者が税理士でない限り、確定申告書の作成代理はできません。
しかし、例えば家族経営のようなお店で、配偶者である妻が経理役をやっているような場合を想定してみましょう。
この場合、納税がいくら出るかということまでしっかりと話し合って、事業者である夫の分の確定申告書の作成まで行うと思います。

このような場合は、確定申告を記入するのが妻でも、妻が夫の意思に基づいて記入していると考えられます。このように、いつでも意思疎通できるようなケースであれば、ただの確定申告書記入の代行という風にとらえて、配偶者が作成するのも問題ないでしょう。

忙しいので配偶者を代理人にすることはできる?

Q4家族や親族を代理人にする場合は? できない場合もある?

上記の配偶者の例と同じように、自分の意思に基づいて作成をお願いしたということは問題ありません。
たとえ親族といえども、丸投げはできません。たとえば両親が親切心で、領収書などの書類を預かって、確定申告書を作成して、税務署に代わりに提出ということも税務代理ということになり、両親が税理士でない限りはNGです。

Q5友人に代理での作成・提出を依頼してもいい?

友人が税理士でない限り、確定申告書の作成代理はできません。
たとえ友人がやり方を知っていて、かつ無償でやってあげるという場合でもNGです。カネを取らなければいいという問題ではないということです。

先ほどの配偶者の例と違って、友人に任せるケースでは丸投げの場合も多いと思います。
税理士でない人が、確定申告書作成の代理、いわゆる非税理士が税理士行為により逮捕されるということも実際に起こっています。税理士でない人に確定申告書作成を任せるということはやってはいけません。

自分が作成した確定申告書の「提出」は友人でもできるのですが、自分の稼ぎはたとえ友人でも知られたくないものです。
それに、自分が作った確定申告書の提出だけを友人にお願いするということはないでしょう。税務署に他人である友人が提出に行けば、まず非税理士行為による税理士法違反が疑われます。

代理で確定申告をする場合のマイナンバーの扱い

確定申告書には、マイナンバーを記載しなければいけません。

税理士が代理で確定申告を行う場合には、顧客からマイナンバーに関する情報を預かる必要があります。
預かったマイナンバー情報は、もちろん確定申告書に記入するためだけのものであり、その他の用途には使用できません。

また、本人の代わりに、確定申告書を提出する人についても、一時的に他人のマイナンバーを預かることになります。
この場合はあくまで本人のお使いのようなものです。中身を必要以上に見てはいけませんし、本人確認書類や確定申告書に記載のマイナンバーを控えたり、コピーを取ったりなどということもやってはいけません。

税理士を代理人にして確定申告の作成・提出するメリットとデメリット

税理士に依頼する場合は費用がかかりますが、計算が合っているのかなどの不安から解放されますし、例えば銀行融資を受ける場合などに証明書類として金融機関に確定申告書を提出する際にも、確定申告書の信頼度がアップするなどのメリットがあります。

毎月決まった金額が入ってきて、経費もほとんどないといった仕事、いわゆる業務委託などであれば、確定申告書の作成もそれほど手間にならず、本人が確定申告書の作成までできてしまうかもしれません。
しかし、飲食店や雑貨屋などの小売業は、日々の売上げや仕入れがあり、計算が複雑にで書類もかさばるような業種の事業者は、安心のためにもやはり税理士に依頼することをオススメします。

デメリットは、費用が掛かることでしょうか?(専門家にお願いする以上、デメリットというより当たり前のことだと思いますが……)

税理士さんの費用、どのくらいかかる?

確定申告書の作成を税理士に依頼する場合、インターネットなどでも、多くの場合〇円~という形になっています。

これは、ひと口に確定申告といっても、例えば事業所得なのか不動産所得なのかということで確定申告書の作成の方法も大きく変わってきますし、消費税の申告があるかないかということでも、手間が大きく変わってきます。
さらにふるさと納税や医療費控除、住宅ローン控除など、確定申告をする人によって、各種控除の種類もさまざまです。

また、本人がある程度会計ソフトへの記帳を行っているのか、それともまったく一から丸投げなのかということでも重要なポイントです。

確定申告をする人の個々の内容によって、確定申告書の作成を代理する税理士の手間も大きく変わってくるのです。このため、多くの税理士は、まずは本人に内容を細かくヒアリングしてから確定申告書作成のための費用を提示するようにしているのです。

あくまで参考ですが、日々の記帳業務は自ら行って、その数字をもとに確定申告書の部分だけを代行するなら3万円ほどで行う税理士もいますし、領収書の処理や記帳業務など確定申告書を作成するベースとなる数字づくりから行う場合は、分量によりけりですが、15万円くらいは最低でもかかるかもしれません。

確定申告者が海外に住んでいる場合、代理での作成・提出はどうする?

確定申告をする納税者本人が海外に住んでいる場合、例えば海外勤務で得た給料は、いくら日本国籍であったとしても、現地で税金が課税され、日本での所得税は課税されません。
海外に住んでいる人は基本的に、日本国内で所有している不動産の賃料など、国内に起因する稼ぎのみ課税されます。こうした海外在住者の確定申告では、納税管理人という者を指定する必要があります。

納税管理人というとなんだか大変そうな響きがありますが、基本的には、税務署からの書類の受領や確定申告書の提出などを本人に代わって行います。

納税管理人には、税理士以外の人、例えば親族などが就くこともできます。
ただし、原則どおり、海外居住者の確定申告書の代理作成についても税理士のみが可能です。
納税管理人が本人の代わりに税理士とやり取りして確定申告書を作成してもらうなど、もし海外に住んでいても、確定申告書の作成代理についても特別なことはないということです。

photo:Getty Images

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この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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