社員が定年退職する場合、会社がやるべき手続きとスケジュール

2024/03/01更新

この記事の執筆者矢郷真裕子

この記事の監修者宮田 享子(社会保険労務士)

社員が定年退職する際、事業者側には多くの手続きや気をつけなくてはならないことがあります。
退職後に書類提出や物品の返却を求めるといった手間を避けるためにも、あらかじめ、スケジュールや手続き内容を知っておくとスムーズでしょう。
定年退職者が安心して退職日を迎えられるように、また事業者側も気持ちよく送り出せるように、定年退職の基本的な手続きの内容を解説します。

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会社がやるべき定年退職の手続きとスケジュール

健康保険、厚生年金保険の資格喪失手続き

定年退職者の健康保険と厚生年金保険の手続きについては、事業者側で「健康保険・厚生年金 保険被保険者資格喪失届」を作成し、管轄の年金事務所または健康保険組合に資格喪失日(退職日の翌日)から5日以内に届出を行います。

  • 1.
    健康保険が協会けんぽの場合……届出先は年金事務所のみ
  • 2.
    健康保険が健康保険組合の場合……届出先は、以下のどちらか(健康保険組合に要確認)
    • 年金事務所と健康保険組合
    • 年金事務所のみ

その際、定年退職者から健康保険被保険者証(扶養者がいる場合はその分も)を必ず回収し、資格喪失届に添付して返却します。

また、高齢受給者証、健康保険特定疾病療養受給者証、健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証、遠隔地被保険者証が発行されている場合は、これらも回収し、添付して返却します。

「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」の記載例は次の図です。

なお、定年退職者から「健康保険証を紛失したため返せない」と連絡があった場合は「健康保険被保険者証減失届」を、定年退職者に何度督促をしても提出がない場合は「健康保険被保険者証回収不能届」を一緒に届出することになります。

手続きが完了すると、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書」が会社に送付されてきます。この書類は会社の控えとして保管しておきましょう。

定年退職者が、在職中の健康保険の任意継続をする場合は、「健康保険任意継続被保険者資格取得届」を退職者に渡します。

任意継続被保険者となるための要件は以下です。

  • 1.
    資格喪失日の前日までに「継続して2ヵ月以上の被保険者期間」があること。
  • 2.
    資格喪失日から「20日以内」に申請すること(20日目が営業日でない場合は翌営業日まで)。

任意継続以外に、「定年退職者が在住する市区町村の国民健康保険に加入する」「家族の扶養となり、家族が加入する健康保険の被扶養者になる」「新たな勤務先で健康保険に加入する」などのケースもあります。

参考
日本年金機構:従業員が退職・死亡したときの手続き新規タブで開く

雇用保険の資格喪失手続き

定年退職者の雇用保険の手続きについては、事業者側で「雇用保険被保険者資格喪失届」を、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ、被保険者でなくなった事実のあった日の翌日(退職日の翌日)から10日以内に届出を行います。この届出には、雇用保険の取得手続きをしたときに発行される被保険者ごとの様式を利用します。

「雇用保険被保険者資格喪失届」の記載例は次の図です。

ただし、紛失等により発行された様式がない場合は、どの被保険者であっても利用できる様式(移行処理用)での手続きも可能です。

また、59歳以上の場合は、本人の希望の有無にかかわらず、「雇用保険被保険者離職証明書(離職票)」も必ず発行手続きをしなければなりません。

「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」の記載例は次の図です。

手続きが完了すると、ハローワークから①雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(事業主通知用)、②雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)、③雇用保険被保険者離職証明書(事業主控)、④雇用保険被保険者離職票-1(本人用)、⑤雇用保険被保険者離職票-2が発行されます。①と③は会社で保管しておきましょう。②と④と⑤は定年退職者へ渡します。

参考
厚生労働省:雇用保険事務手続きの手引きより新規タブで開く

住民税の手続き

定年退職時に住民税を何月分まで徴収しているのか、未徴収残額はいくらあるのか、残額の納付はどのように行うのかを記載して、「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職日の翌月10日までに市区町村に提出します。

住民税の未徴収残額がある場合は、次のふたつのパターンがあります。

  • 1.
    普通徴収…未徴収税額を個人(従業員本人)で納付する場合
  • 2.
    一括徴収…未徴収税額を給与や退職金から一括して徴収する場合

ただし、退職日が1月1日から4月30日までの場合は、退職時の一括徴収が義務付けられています。

記入例は下記のリンクを参考にしてみてください。

参考
杉並区公式ホームページ新規タブで開く

保険の手続き以外でやっておくべき定年退職に関する業務

社員の定年退職時には、社内システム関連の処理も必要です。会計や勤怠など、社内で活用しているシステムがあり、定年退職者がアクセス権を持っている場合、アクセス権の停止を行いましょう。

また、PC・メールアカウントの停止や削除などを忘れずに行いましょう。メールの内容を残しておく必要があったり、取引先から連絡が来る可能性があったりする場合は、一定期間アカウントを残しておくなど、運用方法を確認しましょう。

定年退職者に渡さなければいけないもの

定年退職後には、基本的にはその社員はもう会社におらず、必要なものを渡すのに手間取るケースもあり得ます。最終出勤日を確認し、早めの手続きを心がけてください。ただし、資格喪失の届出は離職後でないとできません。

定年退職者に渡すもののチェックリスト

  • 雇用保険被保険者離職証明書(離職票)
  • 源泉徴収票
  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)
  • 雇用保険被保険者離職票-1(本人用)
  • 雇用保険被保険者離職票-2
  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書(※定年退職者から求められた場合)
  • 退職証明書、在籍期間証明書(※定年退職者から求められた場合)

離職票は3枚の複写の様式になっているので、3枚目を定年退職者に渡します。1枚目は事業者、2枚目はハローワークで保管することになります。
定年退職者には、離職票に記載した退職理由等を確認してもらい、最終出勤日までに記名押印または署名をしてもらいます。

やむを得ない理由により、本人から記名押印または署名がもらえない場合は、その理由を記載し、事業者の押印または署名をしてください。

定年退職する社員に返してもらうもの

社員の定年退職時には、数多くの回収物があります。総務担当者だけでなく、定年退職者にも一緒に確認してほしいものなので、いつまでになにを返却する必要があるのか、双方で確認できる形にしておくと便利でしょう。

定年退職者に返してもらうもののチェックリスト

  • 健康保険被保険者証(扶養者がいる場合はその分も)
  • 社員証、社章など
  • 本人、取引先の名刺
  • 社外秘の資料や取引先の資料など
  • 制服、作業着
  • 会社携帯、PC、USB、CDなど
  • カードキー
  • 机、ロッカーの鍵
  • 社員割引証
  • 前払いの交通費や通勤定期券など
  • 顧客名簿
  • その他、会社の経費で買ったもの、会社所有のもので個人的に貸し出していたもの

保管期間別 定年退職者の個人情報管理

個人情報にまつわる文書(書類)の多くは、法律によって保管期間が定められています。以下の文書については、それぞれの起算日から期間が満了するまでしっかりと事業者側で保管し、トラブルを防ぎましょう。また、マイナンバーが記載された文書は、それぞれの法定保管期間を過ぎたら、できるだけ速やかに廃棄しなければなりません。

2年保管

  • 健康保険・厚生年金保険に関する書類

3年保管

  • 賃金台帳
  • 労働者名簿
  • 雇用に関する書類(履歴書、職務経歴書、雇用契約書など)
  • 退職に関する書類(退職届、退職証明書など)
  • 解雇に関する書類(解雇通知書など)
  • 災害補償に関する書類
  • 勤怠記録(出勤簿、タイムカードなど)
  • 郵便物の発送、受信及び郵便料金に関する書類(書留、金券等に関する文書を含む)
  • 令和2年4月1日施行の労働基準法の改正により、「賃金台帳などの記録の保存期間の延長」が行われています。賃金台帳などの記録の保存期間を5年に延長しつつ、当分の間は、これまで と同様にその期間は「3年」とされます。(2020年6月12日 追記)
参考
厚生労働省:未払賃金が請求できる期間などが延長されます新規タブで開く

4年保管

  • 雇用保険の被保険者に関する書類

5年保管

  • 健康診断個人票
  • 身元保証書、誓約書

7年保管

  • 請求書、領収書、振込通知書
  • 源泉徴収簿
  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書
  • 給与所得者の配偶者控除等申告書
  • 住宅借入金等特別控除申告書
  • じん肺健康診断に関する記録、エックス線写真

まとめ

いかがでしたでしょうか。書類の不備や返却漏れなどがないよう、定年退職者が出た場合にスムーズに手続きが進むように必要事項をまとめておきましょう。

photo:Getty Images

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この記事の執筆者矢郷真裕子

編集者・ライター。出版社勤務を経てフリーランスに。手がけてきた分野はエンターテインメント(お笑い・音楽)、グルメ、衣料(ファッション)、児童、占い、街ブラ、ライトノベルなど。

この記事の監修者宮田 享子(社会保険労務士)

宮田享子(みやたきょうこ)
社会保険労務士。産業カウンセラー。
社労士事務所・社労士法人等で実務経験を積んだ後、2010年(平成22年)独立開業。労務相談の他、講師業やメンタルヘルス対策に力を入れている。趣味はオーボエ演奏とランニング。

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