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「有給休暇取得の義務化」5つのNG事例 違法行為となる前に確認すべきこと

2020.09.03

著者:弥報編集部

監修者:篠田 恭子

2019年4月より「有給休暇取得の義務化」が始まりました。すべての企業は、対象となる労働者に年5日の有給休暇を取得させなければならないというものです。

しかし中には、違法な行為で有給休暇を取得させるケースも散見されます。そこで、実際にあった5つのNG事例を参考に、社会保険労務士の篠田恭子先生にお話をうかがいました。

スムーズな有給休暇取得の進め方や注意点についても解説しますので、あなたの会社では法に則った対応を行いましょう!

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アルバイトやパートも対象!有給休暇の基礎知識を知っておこう

有給休暇の義務化について触れる前に、まずは有給休暇の基本的なルールを確認しましょう。有給休暇は労働基準法39条に定められた労働者の権利であり、いかなる理由でも取得することができます。付与される条件は「雇い入れの日から6か月継続して雇われていること」かつ「全労働日のうち8割以上の出勤があること」で、正社員に限らずアルバイト・パートの人も対象です。

付与される日数は原則10日となり、そこから勤続年数に応じて徐々に増えていきます。ただし所定労働日数が少ない労働者にはこの原則は適用されません。付与日数は週の所定労働日数や1年間の所定労働日数によって決まり、これを「比例付与」といいます。

それでは日ごとや週ごとに労働時間が変動する労働者の場合、付与日数はどのように算出するのでしょうか。

篠田:「有給休暇は雇用契約書に記載された週の所定労働日数や1年間の所定労働日数に基づいて付与されます。『契約時は週2勤務だったのに現在は週5勤務になっている』といったケースでは、雇用契約書を実態に合わせ修正すべきでしょう」

週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
継続勤務年数(年)
0.51.52.53.54.55.56.5
以上




(日)
4日169日~216日78910121315
3日121日~168日566891011
2日73日~120日3445667
1日48日~72日1222333
「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」|厚生労働省

また、従業員に有給休暇を取得させる際は、取得の理由によって自由な利用を妨げてはいけないなどの基本的なルールがあります。

篠田:「経営者の方に知っておいてほしいのは、なんといってもアルバイト・パートにも有給休暇を付与しなければならないという点です。実際にアルバイト・パートの有給休暇にまつわるトラブルは非常に多く、現在新型コロナウイルスの影響で、そのような問い合わせもたくさん受けています。

そして従業員が希望しているのに取らせないのはもってのほかですし、退職時など限られたケースを除き、有給休暇は買い上げができないということにも注意が必要です」

会社が従業員に有給休暇を取らせないのは違法行為にあたり、従業員である労働者には労働基準監督署に通報する権利があります。

篠田:「違法行為が発覚すると、その会社には労働基準監督署より調査が入る可能性があります。実際にはこの段階で是正されることがほとんどだと思いますが、罰則があることも知っておいてください」

労働者に有給休暇を取らせないと、労働者1名につき30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科されるおそれがあります。罰則が適用されたり、同一の違反による是正勧告を複数回受ければ、ハローワークでの新卒求人を一定期間受け付けてもらえません。

篠田:「逆に有給休暇の取得率が高い会社は、採用が有利になると思います。特に中小企業は取得率が高いところはまだ少ないので、求人の際に取得率の高さをアピールすることで良い人材を確保できるのではないでしょうか。

同じような賃金・労働時間の会社があったとしたら、有給休暇の取得率が高い方が実質の労働時間は短くなるわけですし、働きやすいという評価にもつながります。そういうところを、求職者は見ていると思いますよ」

すべての企業がやらねばならない「有給休暇取得の義務化」とは

一般的にいわれる「有給休暇取得の義務化」とは、労働基準法の改正に基づきすべての企業が対象者に年5日の有給休暇を取得させなければならなくなったことを指します。有給休暇を年5日取得していない従業員がいる場合、会社は本人の希望を聞いた上で取得時季を指定しないといけません。もちろん、自主的に年5日取得している従業員への指定は不要です。

この法改正は「働き方改革」の一環として行われ、2019年4月1日に施行されました。背景には、日本の有給休暇取得率が諸外国と比べ著しく低いという現状があります。

義務化されるのは「有給休暇の付与日数が10日以上の労働者」で、すべての労働者が対象となるわけではありません。

篠田:「経営者・従業員双方とも『従業員全員が対象』『最低5日付与』と勘違いしてしまうケースがよくあります」

つまり、もともと有給休暇の付与日数が9日以下の従業員なら、取得させる義務も生じないということになります。また「付与」と「取得」の混同にも注意してください。

なお年5日の「年」とは有給休暇が付与された日(基準日)から1年間を指し、従業員の入社日によって時期が異なります。中途入社が多い会社では管理が複雑になるため、全従業員を統一的に管理したい場合は、年始や年度始めを基準日とするとよいでしょう。

篠田:「ちなみに基準日方式は、有給休暇を付与する基準日を統一して一斉に付与する方法で、法定より前倒しで付与する必要がありますので、制度設計が結構大変です。厚生労働省が公表している『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説 p11』を参考にしたり、社会保険労務士に相談することをおすすめします」

会社が従業員に有給休暇を取得させるための2つの方法

会社が時季指定を行い、従業員に有給休暇を取得させるためには、おもに「個別指定方式」「計画年休制度」という2つの方法があります。いずれの場合も対象となる労働者の範囲や時季指定の方法について、就業規則に記載しなれけばなりません。計画年休制度では、労使協定の締結も必須となります。

個別指定方式

個別指定方式は、有給休暇の取得を従業員の自由に任せたうえで、年5日の取得が済んでいない人に対して個別に取得日を指定する方法です。もともと有給休暇の取得率が高い会社であれば、個別指定方式が向いています。

企業には有給休暇の年5日取得義務化とともに「年次有給休暇管理簿」の作成も義務付けられました。会社はこの管理簿に基づいて期限内に5日取得できなさそうな従業員をピックアップし、いつ有給休暇を取得するかの相談を行います。話し合いにおいては、あくまでも従業員の意見を尊重するよう心がけてください。

篠田:「私も顧問先向けに年次有給休暇管理簿のフォーマットを作成していますが、このようなフォーマットは厚生労働省や労働局のホームページからも入手できます。

できるだけ自主的に有給休暇を取得してもらうには、従業員に取得日数や残日数を意識させることが重要です。そのための方法として、給与明細に有給休暇の取得日数や残日数を記載しておくことをおすすめします」

計画年休制度

計画年休制度は、従業員代表との労使協定により、会社があらかじめ有給休暇の取得日を決めておくという方法です。例えば年末年始や夏季、ゴールデンウィークの休暇を全社一斉に増やしたり、部署ごとに休みを作ったり、本人や家族の誕生日・記念日を休みにしたりするやり方があります。

篠田:「計画年休制度は、有給休暇の管理に伴う手間が省けるのがメリットです。やはり、年末年始や夏季の休みを増やす会社が多いですね。有給休暇を今までの休みに付け足すパターンです」

では年5日に関わらず、従業員が有給休暇を取得しやすい環境を作るにはどのような施策をとればよいのでしょうか。

篠田:「半休制度を設けると、通院や役所・銀行などの立ち寄りで気軽に使えると思います。年5日を上限に1時間単位で有給休暇を取得できる時間単位年休制度もありますが、こちらは管理にそれなりの手間がかかり、労使協定の締結も必要であることを理解しておいたほうがよいでしょう」

NG事例①「有給休暇を特別休暇に充てる」

有給休暇取得が義務化されて以降、年5日取得のために残念ながら違法な対応を行っている会社も散見されます。その実例をご紹介していきましょう。

篠田:「まず、計画年休制度において年末年始や夏季などの休暇に有給休暇を付け足すことは問題ないのですが、本来の休みを有給休暇に置き換えてはいけません。

例えば毎年5日間だった年末年始の休暇が3日間となり、2日分を有給休暇として取得させるようなケースです。年末年始や夏季休暇のほか、会社の設立記念日や慶弔休暇に充当する事例も見受けられます」

NG事例②「休日が出勤日扱いとなってしまう」

篠田:「こちらも本来の休みを有給休暇に置き換えてしまうパターンで、もともとの休日を出勤日・平日扱いとして有給休暇を消費させるケースです。土日休みの週休2日だったのに、土曜のうち何日かが平日扱いとなり、有給休暇を取得させられるような事例が挙げられます」

NG事例③「計画年休が会社の意向に寄り過ぎている」

篠田:「計画年休制度を実施するには労使協定の締結が必要ですが、話し合いの過程で会社にばかり都合のよい条件を押し付けるのも問題です。『この月は忙しいからダメ』『閑散期に取らせたい』などと一方的に誘導しないようにしてください。また、最低5日は従業員が自由に使えるよう残しておかねばならない点にも注意しましょう」

NG事例④「仕事を持ち帰らせたり、給与を下げる」

従業員が有給休暇を取得した日に合わせ意図的に業務を割り振って、仕事を持ち帰らせたり、結果的に出社させたりすると「有給休暇を取らせなかった」「有給休暇の取得を理由とする不利益な取り扱い」とみなされ、労働基準法違反に問われる可能性があります。

篠田:「会社が不当に利益を得ようとする事例では、有給休暇取得の義務化以降に基本給や賞与が減らされたというケースもありました」

NG事例⑤「雇用契約を短期更新にして有給休暇を付与しない」

有給休暇の付与条件が「雇用した日から6か月間継続勤務」となっていることから、パート・アルバイトの人や契約社員の雇用契約を毎月や2~3か月更新に変更することで、有給休暇を付与しないというケースです。

しかし法的には勤務実態が優先されるため、頻繁に契約更新が行われていても、6か月間継続して勤務すればその時点で有給休暇が発生します。

就業規則の「不利益変更」は慎重に

労働者にとって条件が悪くなる就業規則の変更を「不利益変更」といい、年末年始や土曜など本来の休みを有給休暇に置き換えるケースは、不利益変更を行えば認められる可能性もあります。

ただし会社にとってはリスクも大きく、安易に実行するべきではありません。

篠田:「就業規則の不利益変更を行う際は十分な説明をしてから労働者の合意を得て、変更した就業規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。

従業員にとっては損になるわけですから、当然印象はよくないですし、反発を招く可能性があるでしょう。人材が離脱するリスクも大きいといえます。

経営者の中には『法律が変わったんだから仕方ない』という方もいますが、やはり不利益変更は簡単に行うべきことではないと認識してほしいです」

さまざまな労働問題が噴出する前に、専門家に相談を

有給休暇取得の義務化の違反には罰則があり、年5日の有給休暇を取得させないと労働者1名につき30万円以下の罰金に処せられます。つまり、もし複数の従業員について違反が発覚すると、高額の罰金を科される可能性があるということです。

篠田:「有給休暇取得の義務化や働き方改革などの報道を目にする機会も増え、労働問題への意識が高まりつつあります。むしろ経営者より従業員のほうがよく知っていて、『自分の会社はおかしいのでは』と行動に移すケースもめずらしくありません。

有給休暇取得の義務化をきっかけに雇用契約書・雇用保険・社会保険などの不備が見つかることもあり、その場合は過去に遡って賃金や保険料を支払わなければならない事態に陥ります。そうなる前に、労務に関することはきちんと整備しておくべきです」

労務関係のルールを整備する際は、社会保険労務士や弁護士に相談するとスムーズです。

篠田:「社会保険労務士を探す場合は、全国社会保険労務士会連合会のホームページで検索できます。ホームページを持っている社会保険労務士もたくさんいるので、『社会保険労務士+地域名』で検索するのもおすすめです。

税理士が入っている会社の場合、税理士に聞いてみると社会保険労務士を紹介してくれることもありますよ。無料相談を行っているところも多いですから、まずは一度話をしてみて、合いそうな人に決めるのが良いでしょう。

地域の社会保険労務士に依頼するケースがほとんどだと思いますが、今はZoomなどWeb会議アプリの普及により、社会保険労務士事務所に足を運んだり、逆に来てもらわなくても相談ができるようになってきています。私も最近、遠方の顧問先が増えました」

有給休暇取得の義務化は、会社にとって負担となる面もありますが、従業員の心身をリフレッシュさせることでモチベーションや生産性の向上につながります。労働基準法に則ってきちんと取得を進め、よりよい労働環境作りに努めましょう。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

篠田 恭子(社会保険労務士)

1977年埼玉県川越市生まれ。システムエンジニアとして約10年勤務。仕事・子育てをしながら、2011年社会保険労務士試験に合格。2013年1月社会保険労務士事務所を開業。2014年4月特定社会保険労務士付記。 2018年5月移転を機に事務所名を「おひさま社会保険労務士事務所」に変更。 働くすべての人が「楽しい」と思える職場づくりを応援します!を経営理念に掲げ、地域の企業を元気にするために、日々活動している。(所属)全国社会保険労務士会連合会、埼玉県社会保険労務士会、埼玉県社会保険労務士会 川越支部

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