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青色申告で現金主義が認められる要件とは?特例条件などについて解説

2024/01/30更新

この記事の監修田中卓也(田中卓也税理士事務所)

青色申告では、特定の要件を満たした場合、現金主義による所得計算の特例で帳簿の作成を行うことができます。現金が動いたタイミングで記帳を行う現金主義は、取引が発生した時点で記帳を行う発生主義に比べて、帳簿付けの作業を軽減できるメリットがありますが、帳簿上で把握できないお金の流れがあるなどのデメリットもあります。

この記事では、現金主義で行う帳簿付けや発生主義との違い、現金主義で帳簿付けを行う際の注意点などを解説します。ぜひ青色申告における記帳方法の参考にしてください。

現金主義は現金の受け渡しの時点で帳簿付けをする方法

現金主義とは、売上や経費について、預金や小切手などを含む現金を実際にやり取りしたタイミングで記帳する方法です。

また、現金主義のほかに発生主義や実現主義という考え方があります。個人事業主の帳簿付けは発生主義で行うことが一般的です。しかし、一定の条件を満たした青色申告事業者は、現金主義での帳簿付けができます。

これらの具体的な違いや、記帳の方法を見ていきましょう。

現金主義と発生主義との違い

現金主義と発生主義の違いは、現金を受け渡す時点で記帳するか、権利や義務の発生に基づいて記帳するか、という考え方の違いです。例えば、商品の引き渡しやサービスの提供を行い、売上代金を受け取ったり、仕入代金を支払ったりした時点で記帳をするのが現金主義です。

一方、商品の引き渡しやサービスの提供を行った時点で、実際に金銭のやり取りはなくても、売上代金を受け取る権利や仕入代金を支払う義務が発生した場合に記帳をするのが発生主義となります。

具体的な例で見ていきましょう。

現金主義の場合

代金を翌月払いとし、10万円分の仕入を行った場合の仕訳を行います。この場合、現金主義で記帳をすると下記のようになります。

商品を仕入れた時点

仕訳なし

代金10万円を支払った時点
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入高 100,000 現金 100,000

現金主義は上記のとおり、実際に現金をやり取りしたときのみ記帳を行うため、現金の動きがわかりやすく、記帳も簡易的です。

一方で、代金の支払いが済むまで費用が計上されないため、買掛金、つまり商品代金の未払の金額がどれくらいあるのか把握することができません。また、支払いが年度をまたいでしまうと当期分の正しい費用が計上されず、正確な期間損益計算を行うことができません。

発生主義の場合

次に、現金主義と同様に、代金を翌月払いで10万円分の仕入を行った場合の仕訳を発生主義で行います。

商品を仕入れた時点
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
仕入高 100,000 買掛金 100,000
代金10万円を支払った時点
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
買掛金 100,000 現金 100,000

上記のとおり、発生主義では、仕入を行った時点で「仕入高」という費用を計上し、支払時には買掛金を消す仕訳を行います。費用が発生したタイミングと実際に現金が動いたタイミング、両方で帳簿に記録するため、商品代金の未払の金額などお金の動きを把握できる記帳方法となっています。

現金主義と実現主義との違い

もう1つの記帳の方法として、実現主義という考え方があり、現金主義との違いは「収益や費用が実際に確定した時点で計上をする」という点です。

例えば実現主義の場合、レストランで店側が客に食事を提供して、客が代金を支払った際、サービスの提供と対価の支払いで取引が成立しているので、店はこの時点で収益を計上することになります。

もし、客がクレジットカードで支払いをして、現金が手元にすぐ入らなかった場合でも同様に計上をするので、ここが現金主義との違いとなります。

現金主義による帳簿付けが認められる条件

日本の会計ルールでは、費用については発生主義、売上・収益については実現主義で計上するのが原則です。

ただし、下記の条件をすべて満たした個人事業主にのみ、現金主義による所得計算が特例として認められ、現金主義の考え方で帳簿付けをすることが可能になります。

ここからは、現金主義での帳簿付けが認められる条件について解説していきます。

青色申告者であること

現金主義での帳簿付けが認められる条件の1つは、青色申告の事業者であることです。青色申告とは、確定申告の種類の1つで、一定の水準で帳簿に日々の取引を記帳することで、正しい所得と税額を申告し、納税を行う制度です。

青色申告を行う場合、申告を行う年の3月15日までに、所轄の税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出しなければいけません。1月16日以降に新規に開業した場合は、提出の期限は開業の日から2か月以内となります。

所得税の青色申告承認申請書

なお、青色申告の承認を受けていた被相続人の事業を相続により承継した場合は、相続開始を知った日(死亡の日)の時期に応じて、それぞれ次の期間内に申請書を提出することになります。

相続による事業承継の際の申請書提出期限

  • 死亡の日がその年の1月1日から8月31日までの場合:死亡の日から4か月以内
  • 死亡の日がその年の9月1日から10月31日までの場合:その年の12月31日まで
  • 死亡の日がその年の11月1日から12月31日までの場合:その年の翌年の2月15日まで

小規模事業者であること

小規模事業者であることも、現金主義による帳簿付けを行える条件の1つです。小規模事業者の定義は、「その年の前々年分の事業所得の金額および不動産所得の金額(青色事業専従者給与の額を必要経費に算入しないで計算した額)の合計額が300万円以下であること」となっているため、この内容に当てはまる場合のみ認められます。

「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出していること

初めて現金主義による所得計算の特例を受ける場合は、「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出する必要があります。

現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書

一方で、過去に特例の適用を受けたことのある青色申告者が、再び特例を受けようとする場合には、「再び現金主義による所得計算の特例の適用を受けることの承認申請書」を提出することになります。書式の名前が似ているため間違いのないようにしてください。

再び現金主義による所得計算の特例の適用を受けることの承認申請書

なお、青色申告の承認を同時に申請したい場合には「所得税の青色申告承認申請書(兼)現金主義の所得計算による旨の届出書新規タブで開く」という書式もありますので、各自の状況によって必要な手続きを期限までに行いましょう。

適用を受ける年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内)に提出をします。一度提出すれば、特例の適用を継続する場合は毎年の提出などは不要です。

事業所得、不動産所得があること

現金主義によって計算することができるのは、不動産所得および事業所得がある場合です。青色申告の承認申請ができるのは、事業所得、不動産所得または山林所得がある場合ですが、現金主義の場合は山林所得のみ外れることに注意が必要です。

現金主義で青色申告を行う場合のメリット

青色申告を行う小規模事業者だけに認められる現金主義での帳簿付けは、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは現金主義で帳簿付けを行うメリットを2つ解説します。

金銭の動きを理解しやすい

現金主義では、金銭の受け渡しを基準として記帳を行うため、そのしくみを理解しやすいことがメリットです。発生主義で記帳を行う場合は、どの時点で取引が発生し実現したのかなど、会計に特有の考え方を学ぶ必要があるため、経理の知識がない人には負担が大きくなるでしょう。

その点、現金主義は現金が動いた時点で記帳を行えば良いので、タイミングを判断しやすい方法です。経理の知識があまりない人でも、記帳を行うことが可能です。

帳簿の内容を管理しやすい

現金主義では、金銭のやりとりと連動して記帳を行うため、帳簿の内容を管理しやすいことがメリットです。手元にある現金の残高と、帳簿上の数字が連動しているので、記帳に間違いがあっても簡単に誤差を確認することができます。また記帳を行う際は、減価償却以外は銀行の通帳や領収書(レシート)があれば記入できるため、必要な書類もシンプルです。

ただ実際には、「手元にある現金残高を管理する」というより、通帳への入金、振替や振込、クレジットカードなどを活用することによって、「手元にある通帳の残高と、帳簿上の数字が連動」させるような仕組みを作っていくのが現実的でしょう。

現金主義で青色申告を行う場合のデメリット

現金主義による帳簿付けは簡単に仕訳が行える反面、デメリットも存在します。ここからは、現金主義のデメリットを2つ解説します。

掛取引や未払金・未収金が確認できない

現金主義による帳簿付けは、掛取引や未払金・未入金が確認できないことがデメリットです。青色申告の一般的な記帳方法である複式簿記では、売上は実現主義、費用は発生主義により取引を記帳します。例えば複式簿記では、サービスを販売し提供した時点で取引が実現したと考え、売上を計上します。対価が未収であれば、後払いで代金の支払いを受ける「売掛金」の計上となります。

しかし、現金主義での帳簿付けは、売上として現金が入金された時点で記帳を行います。取引の実現時点で、現金が動いていなければ記帳をしません。そのため、売掛金や買掛金、未払金・未入金など、取引が成立していても支払いが実行されていない場合は、現金主義の帳簿では表示されず、「回収されていない売上代金はないか」「支払われていない商品代金はないか」といったような情報を把握しにくい点に注意が必要です。

経営状況を正確に把握できない

現金主義による帳簿付けは、経営状況を正確に把握できないこともデメリットです。現金主義では、現金の動きに基づいて記帳を行うので、取引は既に完了していても、まだ帳簿に記載されていない取引が発生する可能性があります。

例えば、商品を掛売で販売し入金が後日になる場合や、仕入の際に分割払いとした場合などです。取引の時期と、収益や費用の計上の時期がずれると、実際の取引の件数がわからず、正確な経営状況を把握することが難しくなります。

現金主義で帳簿を付けるときの注意点

青色申告の現金主義による記帳は、特例として認められた方法ですが、いくつかの注意点があります。ここからは、現金主義で記帳を行う際の注意点を解説します。

青色申告特別控除では、10万円控除しか受けることができない

青色申告特別控除は、要件を満たすことによって65万円、55万円、10万円いずれかの控除が受けることができます。しかし現金主義で記帳の場合は、10万円の控除のみです。65万円、55万円の控除を受ける場合は、複式簿記での記帳が要件の1つとなっています。現金主義の場合は単式簿記での記帳となり、条件から外れるため注意が必要です。

前受金で一時的な計上を行うことがある

前受金とは、商品やサービスを提供するより前にもらう「手付金」や「内金」などのことで、現金主義での一時的な計上に注意が必要です。

現金主義における帳簿付けでは、取引が完了していなくても、現金が動いた際は記帳を行います。前受金をもらった場合は記帳をしますが、これは一時的な計上で、実際に取引が完了した際には売上に振り替えるため、金銭を受け取った際に売上で処理をしてしまわないよう注意しましょう。

貸倒れという経費は存在しない

売掛金や貸付金などの債権を倒産などの理由で回収できず、損失となることを「貸倒れ」といいますが、現金主義の場合は貸倒れという経費が存在しないため注意が必要です。

現金主義の場合は、債権の回収ができず貸倒れになっても、そこに現金の動きはなく、また掛取引時に売上を計上していないため、帳簿に記入ができません。ただし、貸倒れの取引に関する仕入代金は、支払った時点で経費となっているため、原価に当たる金額は損失計上済みといえます。

現金主義の決算書には棚卸高の欄がない

棚卸しとは、期末に商品や材料などの在庫を確認し、期末棚卸資産の金額を確定する作業ですが、棚卸しをしても、現金主義の決算書には棚卸高の欄はありません。現金主義の記帳では、入金されたときに売上を計上し、支出をしたときに仕入を計上するため、売上と仕入が対応していないからです。そのため、現金主義による記帳は、在庫を持つ事業には適していないとされています。

減価償却費の計算を行う必要がある

現金主義で帳簿付けをしている場合は、減価償却費の計算に注意してください。減価償却資産を購入した時点で金銭の動きがありますが、現金主義でも購入の支出を経費とはせず、通常の減価償却費の計算を行う必要があります。

なお、減価償却資産は、10万円未満で消耗品費などとするものや、10万円以上30万円未満で少額減価償却資産の特例を受けるものを除きます。

青色申告決算書の様式が変わる

現金主義の特例を受けている場合、青色申告の決算書は、現金主義用を使用する点に注意が必要です。現金主義での帳簿付けは、他の方法と比べて勘定科目が変わってきます。そのため一般用ではなく、「所得税青色申告決算書(現金主義用)」の様式で決算書を提出します。現金主義用の決算書は計2枚で、損益計算書の代わりに収支計算書となっており、貸借対照表の提出は必要ありません。

所得税青色申告決算書(現金主義用)

発生主義に対応できるよう確定申告ソフトを導入しよう

現金主義による記帳は、金銭のやりとりがあった時点で売上や費用を計上することから、シンプルでわかりやすい記帳方法といえます。しかし、掛取引や未払金・未入金などを帳簿から読み取ることができないなど、経営状況の把握という点では、デメリットも多い方法です。

そのため、自身の事業を正確に把握するためにも、いずれは一般的な会計ルールに基づく「売上は実現主義、費用は発生主義」で記帳を行うことがおすすめです。帳簿の作成には青色申告ソフトを使うことで、簿記や会計の知識がなくても、自動作成が可能となります。

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この記事の監修田中卓也(田中卓也税理士事務所)

税理士、CFP®
1964年東京都生まれ。中央大学商学部卒。
東京都内の税理士事務所にて13年半の勤務を経て独立・開業。
従来の記帳代行・税務相談・税務申告といった分野のみならず、事業計画の作成・サポートなどの経営相談、よくわかるキャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・次号継承対策など、多岐に渡って経営者や個人事業主のサポートに努める。一生活者の視点にたった講演活動や講師、執筆活動にも携わる。

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