インボイス制度でレシートはどうなる?発行側・受取る側が知っておくべきことを解説
監修者 : 齋藤一生(税理士)

2023年10月からインボイス制度がはじまると、「インボイス(適格請求書)」がないと課税事業者は、仕入税額控除を受けることができません。条件を満たしたレシートは適格簡易請求書として扱われ、仕入税額控除の対象になります。
この記事では、レシートを発行する側、受け取る側に分けて、レシートを適格請求書として発行する条件や記載項目、インボイス制度がはじまった後に経費精算で気を付けるべきポイントなどを解説します。
インボイス制度がはじまってからの注意点のほか、「そもそもインボイス制度って何?」という方でもわかるように図を使って一から説明していますので、じっくり読み進めてください。
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2022年(令和4年)分の所得税の確定申告の申告期間は、2023年(令和5年)2月16日(木)~3月15日(水)です。最新版の確定申告の変更点は「2023年(2022年分)確定申告の変更点! 個人事業主と副業で注目すべきポイントとは?」を参考にしてみてください!
目次
- 条件を満たしたレシートは適格簡易請求書にあたり仕入税額控除の対象
- インボイス制度に対応するには現状のレシートに「登録番号」と「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」を追加
- レシートを受け取る側はインボイス制度開始後にスムーズに対応できるように準備を
インボイス制度でのレシートの扱いは?
インボイス制度において、条件を満たしたレシートは適格簡易請求書(簡易インボイス)として扱います。条件を満たしたレシートであれば、仕入税額控除が認められることになります。
この章では主に次の3点について解説します。
- インボイス制度についてのおさらい
- 適格請求書と適格簡易請求書の違い
- インボイス制度におけるレシートと領収書の違い
「インボイス制度ってそもそも何?」という方にもわかりやすく説明していきますので、ゆっくり読んでみてください。
そもそもインボイス制度とは?
インボイス制度におけるレシートについて説明する前に、「そもそもインボイス制度って何?」という点について簡単におさらいします。インボイス制度を理解するためには、仕入税額控除という消費税を納税する仕組みを知る必要があります。
例えば、B社が10,000円の商品を販売した売上で受け取った消費税は1,000円。A社から本体価格8,000円の商品を仕入れた時に支払った消費税が800円だった場合、納税する消費税の額は1,000円-800円=200円です。

このように、消費税がかかる売上で受け取った消費税額から、仕入れなどの時に支払った消費税額を差し引くことを「仕入税額控除」と言います。
2023年10月にインボイス制度がはじまると、この仕入税額控除をするためには仕入先が発行したインボイス(適格請求書)が必要になります。インボイスを発行するには、税務署に「適格請求書発行事業者になります」と登録する必要があります。
仮に、仕入先が適格請求書発行事業者ではなかった場合、そこから仕入れた取引は、仕入税額控除ができず納税する消費税の額が増えてしまいます。
先ほどの例で言うと、A社が適格請求書発行事業者ではない場合、B社は仕入税額控除ができず納税する消費税の額は1,000円になってしまい大幅な負担増になります。

仮にA社がレシートを発行する小売店だとすると、「仕入税額控除ができないから違う小売店で買おう」と思われてしまい、適格請求書発行事業者に登録しなければ売上が減ってしまう、といった事態が予想されます。フリーランス向けのインボイス制度について、詳しい解説は以下の記事をご覧ください。
レシートは適格簡易請求書(簡易インボイス)
原則として適格請求書発行事業者は、適格請求書(インボイス)の発行義務があります。しかし、「不特定多数の者に販売等を行う取引」については、レシートなどの適格簡易請求書(簡易インボイス)の発行が認められます。
【適格簡易請求書を発行できる事業者】
- 小売業
- 飲食店業
- 写真業
- 旅行業
- タクシー業
- 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります。)
- その他これらの事業に準ずる事業
- 【参考】
- 国税庁:消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A
適格簡易請求書は仕入税額控除が可能です。適格請求書と適格簡易請求書の違いは、記載が必要な項目にあります。

- 【参考:画像引用元】
- 国税庁:適格請求書等保存法式の概要
特に大きな違いは、適格簡易請求書には「書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称」が不要であることです。つまり、レシートなどの適格簡易請求書には、受け取る人の名前や会社名が不要です。
スーパーやコンビニ、タクシーなど不特定多数が来店したり、使用する業種の場合、いちいちレシートに買い物をした人や乗車した人の名前を書くことは現実的ではありませんよね。レジが混んでしまったり、発車できなかったり、それこそ、営業に支障が出てしまうケースもあるかもしれません。
そのため、特定の業主では、レシートなど適格簡易請求書が認められます。レシートを受け取る側も、適格請求書をわざわざ発行してもらわなくても、適格簡易請求書の要件を満たしたレシートを保存しておけばいいのです。
インボイス制度におけるレシートと領収書の違いは?どっちの方がいい?
事業においては、レシートや領収書は経費精算に用いられることがほとんどでしょう。レシートでも領収書でも、適格請求書発行事業者が発行したものであれば、仕入税額控除の対象になりますし、経費精算のための会計上の証憑書類としてもどちらでも構いません。
ただし、税務上は領収書よりもレシートの方が、信頼性が高いと考えられます。領収書は手書きであることから、金額や日付など書き間違いや不正のリスクが生じます。
一方、レシートは機械的に発行され、合計額だけではなく明細も記載されていることが多いです。高額の領収書は税務調査で発行者に事実確認が入ったり、筆跡鑑定が行われる可能性もあります。
したがって、経費の証憑としては、レシートでも領収書でも構いませんが、税務上の観点からみると、レシートの方が発行する側・受け取る側どちらにとっても不正を疑われにくく望ましいと言えます。
レシートを発行する側が知っておくべきこと
この章では、レシートを発行する事業者向けに知っておきたい以下の3つについてまとめています。
【インボイス制度においてレシートを発行する側が知っておきたいこと】
- レシートを適格簡易請求書として発行するための条件
- インボイス制度に対応したレシートの項目
- インボイス制度がはじまるまでに準備すべきこと
レシートを適格簡易請求書として発行するための条件
【レシートを適格簡易請求書として発行するための条件】
- 不特定多数の者に対して販売等を行う事業者であること
- 適格請求書発行事業者の登録を行うこと
- 必要事項を満たしたレシートを発行すること
レシートを適格簡易請求書として発行するには、上記の三つの条件を満たす必要があります。「不特定多数の者に対して販売等を行う事業者」とは、冒頭にも述べた通り、以下に当てはまる事業者です。
【適格簡易請求書を発行できる事業者】
- 小売業
- 飲食店業
- 写真業
- 旅行業
- タクシー業
- 駐車場業(不特定かつ多数の者に対するものに限ります。)
- その他これらの事業に準ずる事業
適格請求書発行事業者に登録申請してから、適格簡易請求書の発行に必要な「登録番号」が税務署から通知されるまでには時間がかかります。インボイス制度が始まる2023年(令和5年)10月1日から適格簡易請求書を発行するには、原則として2023年(令和5年)3月31日までに申請する必要があるので早めに対応しましょう。
登録申請は国税庁の下記のページから行います。
※国税庁:申請手続き
適格請求書発行事業者に登録すると、以下の場合を除いて適格請求書・適格簡易請求書の発行が義務になります。
【適格請求書・適格簡易請求書の発行の義務が免除される場合】
- 公共交通機関である船舶、バス又は鉄道による旅客の運送(3万円未満のものに限ります)
- 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の譲渡(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限ります)
- 漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の譲渡、生産者が農業協同組合(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります)
- 自動サービス機により行われる課税資産の譲渡等・自動販売機(3万円未満のものに限ります)
- 郵便切手を対価とする郵便サービス
- 【参考】
- 国税庁:適格請求書等保存方式の概要
上記に当てはまらない事業者は、必要な項目を全て記載したレシートが発行できるように、対応が必要です。インボイス制度に対応したレシートの項目は次の章で紹介します。
インボイス制度に対応したレシートの項目

- 【参考および画像引用元】
- 国税庁:適格請求書等保存法式の概要
【インボイス制度に対応したレシートの項目】
- 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜き又は税込み)
- 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率
現状のレシートに、税務署から通知された「登録番号」と「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」を追加すればOKです。
「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」というのがわかりにくいですが、以下のパターンが考えられます。
【税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率の記載方法】
- 税率ごとに区分した消費税額等のみを記載
- 適用税率のみ記載
- 消費税額と適用税率の両方を記載
1.税率ごとに区分した消費税額等のみを記載

2.適用税率のみ記載

3.消費税額と適用税率の両方を記載

上記の記載方法であればどれでもOKです。
また、消費税の計算方法については注意点があります。

- 【参考および画像引用元】
- 国税庁:適格請求書等保存法式の概要
適格請求書・適格簡易請求書は1つの請求書につき税率ごとに端数処理を行います。
端数処理は切り上げ、切り捨て、四捨五入など任意の方法でOK。したがって、個々の商品ごとに消費税を端数処理し、合計している場合には端数処理の方法を変更する必要があります。
この章で紹介したインボイス制度の対応したレシートの項目のポイントをまとめます。
【インボイス制度の対応したレシートの項目のポイント】
- 現状のレシートに追加する項目は「登録番号」と「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」
- 税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率の記載方法は3パターンでどれでもOK
- 消費税の端数処理は税率ごと。端数処理の方法の変更が必要な場合がある
インボイス制度がはじまるまでに準備すべきこと
インボイス制度がはじまるまでに、レシートを発行する事業者がやるべきことは次の4つです。
【インボイス制度がはじまるまでに準備すべきこと】
- 適格請求書発行事業者に登録するかどうかの検討
- 適格請求書発行事業者への登録
- 適格簡易請求書の項目を満たしたレシートを発行できるように準備
- 簡易課税制度が利用できる場合は検討を
課税売上が1,000万円以下の免税事業者の場合、適格請求書発行事業者に登録するかどうかを慎重に判断しましょう。
課税売上が1,000万円以下の事業者は、消費税の納税義務のない免税事業者です。適格請求書発行事業者になると課税売上の金額にかかわらず、課税事業者として消費税の納税義務が発生します。事業での取引先が一般消費者や免税事業者の場合は、相手先が仕入税額控除を行う必要がないので、適格請求書発行事業者になる必要は、少ないでしょう。
しかし、取引先が事業者であり、多くが課税事業者の場合、適格請求書発行事業者からの仕入れではないと仕入税額控除が行えないため、取引自体を見直され、取引から排除されてしまう可能性があります。
そのため、取引を継続するために課税事業者になる場合、今まで納付が不要であった消費税の納付が必要になります。そのため、消費税の納税分だけ手取りが減ってしまうこと、消費税の申告の事務処理の手間が発生することも考えて、適格請求書発行事業者になるかどうかを判断してください。
「2.適格請求書発行事業者への登録」「3.適格簡易請求書の項目を満たしたレシートを発行できるように準備」については先ほど述べた通りですから割愛します。
なお、小規模な事業者は、消費税の簡易課税制度を選択できます。簡易課税制度は、納税する消費税の金額を簡易的な方法で計算できるため、消費税の申告業務の手間を大幅に減らすことができます。
簡易課税制度を適用できる条件は以下の通りです。
【簡易課税制度を適用するための条件】
- フリーランスなどの個人事業主は前々年、法人は前々事業年度の課税売上が5,000万円以下
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に事前に届け出る
簡易課税制度を選択したい場合は、適格請求書発行事業者の登録と一緒に行うと良いでしょう。
レシートを受取る側が知っておくべきこと
この章ではレシートを受け取る側が、インボイス制度に関して知っておきたいことをまとめます。なお、この章はレシートを受け取る側が、課税事業者(=消費税の納税義務のある事業者)であることを前提としています。
インボイス制度に対応したレシートは仕入税額控除ができる
インボイス制度上、必要な項目が記載されたレシートはこれまで通り、仕入税額控除の対象となります。言い換えると、必要な項目が記載されていないレシートは仕入税額控除ができない、ということでもあります。
例えば、AさんとBさんが、仕事で個人タクシーに乗車し、タクシー代を払った場合を考えてみましょう。
Aさんが受け取ったレシート(領収書)は、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)が発行したもの、Bさんが受け取ったレシートは適格請求書発行事業者ではない事業者が発行したものでした。
この場合、Aさんが受け取ったレシートは仕入税額控除の対象、Bさんが受け取ったレシートは仕入税額控除の対象外となります。
この例が示す通り、インボイス制度が始まったら、レシートを発行したのは適格請求書発行事業者であるかどうかを区別して経費精算の伝票を起票する必要があるのです。
レシートを発行したのが適格請求書発行事業者に登録されている事業者かどうかは、レシートに記載の登録番号と国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」を照合することで確認ができます。
また、現状では3万円未満の少額な課税仕入れについては、領収書やレシートの保存をしていなくても、帳簿への記載があれば仕入税額控除ができますが、インボイス制度が始まるとこの特例は廃止されます。
以下の場合を除いて3万円未満でも原則、適格請求書・適格簡易請求書の保存が必要になりますから注意してください。
【例外的に帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる場合】
- 公共交通機関である船舶、バス又は鉄道による旅客の運送(3万円未満のものに限ります)
- 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の譲渡(出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限ります)
- 漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の譲渡、生産者が農業協同組合(無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せずに行うものに限ります)
- 自動サービス機により行われる課税資産の譲渡等・自動販売機(3万円未満のものに限ります)
- 郵便切手を対価とする郵便サービス
経費の立替をするときには少額であっても領収書やレシートを受け取り、保存しておきましょう。
インボイス制度と電子帳簿保存法【レシート・領収書の保存】
電子帳簿保存法に基づいた方法でレシートや領収書のスキャンや写真データを保存すれば、レシート・領収書の原本は保存が不要です。
また、クレジットカード明細やキャッシュレス決済などのデータを改変できない状態で帳簿に自動転記する会計システムであれば、レシートや領収書の代わりにそれらのデータを保存することも認められています。
インボイス制度がはじまっても、この点は変わりません。電子帳簿保存法についてくわしくは以下の記事にまとめています。
- 【関連記事】
- 電子帳簿保存法とは?2022年1月からの変更点と対処法
継続した取引のある相手先であれば、適格請求書発行事業者に登録しているか否かは事前に確認ができますが、レシートを受け取る場面では事前の確認ができることはあまりないでしょう。
したがって、経費精算の手間は以下の3点が増えることになると予想できます。
【インボイス制度がはじまった後の経費精算】
- 受け取ったレシートに登録番号があるか否かを確認
- 適格請求書発行事業者に登録されているかどうかを国税庁のサイトと照合する
- 伝票に仕入税額控除の対象・非対象のフラグを追加
適格請求書発行事業者に登録されているか否かを国税庁のサイトと照合するにはかなり手間がかかるので、どこまで厳密に行うかは経理担当者間で事前にルールを決めておく必要があるでしょう。
大量のレシートを扱う場合には、電子帳簿保存法に対応した経費精算システムなどを導入し、自動的に登録番号が取得できる体制を整えておくことで事務負担を減らせます。
また、電子帳簿保存法に対応している企業の場合、レシートや領収書の原本がなく、自動的に取り込まれたクレジットカードの明細やキャッシュレス決済のデータから仕入税額控除の対象になるか否かを判断しなくてはならないことも考えられます。
会社ごとの経費精算のフローを見直し、インボイス制度が始まってからもスムーズに業務が進むように今のうちから準備をしておくことが望ましいです。
インボイス制度とレシート|まとめ
この記事で解説したインボイス制度とレシートに関してまとめます。
【インボイス制度とレシートのポイント】
- 条件を満たしたレシートは適格簡易請求書にあたり仕入税額控除の対象
- インボイス制度に対応するには現状のレシートに「登録番号」と「税率ごとに区分した消費税額等又は適用税率」を追加
- レシートを受け取る側はインボイス制度開始後にスムーズに対応できるように準備を
レシートを発行する側、受け取る側のどちらにとってもインボイス制度への対応は重要です。システム改修など時間がかかることも予想されるため、早めに準備をしておくことが望ましいでしょう。
photo:PIXTA