電子取引とは?すべての事業者が対象になる電子帳簿保存法改正の影響も解説
監修者 : 齋藤一生(税理士)

電子取引とは、電子メールで送信した請求書、クラウドサービスで発行した契約書、WebサイトからダウンロードしたPDFの領収書など、紙ではなく、電子データで取引情報をやりとりしたものを指します。その電子取引での書類の保管方法の規定が、2022年1月1日施行の電子帳簿保存法の改正により大幅に変更されることになりました。
ここでは、電子取引とは何か?そして、電子帳簿保存法改正の中でも、特に事業者の方々に影響が大きいと予想される電子取引の改正内容について解説します。
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※2022年(令和4年)度の雇用保険は、2段階更新です。詳細は、「【2022年度の雇用保険は2段階更新!】労働保険とは?制度と年度更新について解説」を参照ください。
目次
そもそも電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法とは、国税関係(法人税法や所得税法)の帳簿や書類を電磁的記録(電子データ)で保存することを認める法律です。事業を行う上では、見積書や発注書、請求書、領収書など、さまざまな書類が発生します。また、仕訳帳や総勘定元帳といった帳簿類や、貸借対照表、損益計算書などの決算関係書類も、税法上の保管義務があるものです。
これらをすべて紙で保管するには、多大なスペースが必要ですし、管理に手間もかかります。そこで、一定の要件を満たす場合に、これらの書類を電子データで保存できるよう1998年に電子データによる保存を認める法律が成立しました。これが、電子帳簿保存法です。
電子帳簿保存法は、施行から何度も改正をしながら、徐々に要件緩和が繰り返されてきました。そして、コロナ禍でのテレワークの急激な普及と「紙での業務の非効率」が注目されることにもなり、令和3年度の改正(2022年1月施行)では、より一層ペーパーレス化が進めやすくなるさまざまな要件の緩和が盛り込まれたのです。
電子帳簿保存法の改正
電子帳簿保存法は、令和3年度の税制改正によって大きく改正され、2022年1月1日から施行されています。ポイントは下記の3点です。
- 税務署長の事前承認制度が廃止
- 電子取引における電子データ保存の義務化(2年の猶予期間あり)
- 最低限の要件を満たす電子帳簿が、電磁的記録による保存等が可能
その中でも、今回取り上げる「電子取引における電子データ保存の義務化」は、準備や対応が必要であり、多くの事業者に影響があることから2年の猶予期間が設けられました。
どのような内容かというと、電子取引のデータはこれまでも原則、電子データ保存が必要でしたが、印刷して紙で保存することもできました。しかし、改正により、2022年1月1日以降に行われる電子取引では、元々電子データで作成されたものを紙に印刷して保管することはできなくなったのです。
しかし、2021年(令和3年)12月27日に財務省令が改正され、2022年(令和4年)1月1日から2年間の電子取引情報については、所轄の税務署長が認める、やむをえない事情があって対応ができない場合は、2023年12月31日までの間、引き続き印刷した紙などの書面保存が認められることになりました。
ただし、2022年1月1日から2023年12月31日の2年間はあくまでも猶予期間です。「2024年から対応すれば良い」というわけではありません。早めに対応できるよう、体制を整えておきましょう。
なお、猶予を受ける場合、税務署などに届出を行ったり、承認を得たりする必要はありません。
電子帳簿保存法の対象となる書類と区分
電子帳簿保存法は、内容によって「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに区分されます。
電子帳簿等保存
電子帳簿保存法の対象となる書類のうち、仕訳帳や総勘定元帳、決算書類、みずからが作成した請求書や領収書の控えなど、電子データとして作成した書類については、電子帳簿等保存に該当します。
スキャナ保存
スキャナ保存は、紙で受け取った請求書や見積書等をスキャンして、電子データとして保存する場合の規定です。
電子取引
電子データとして取引先に交付した書類や、取引先から受け取った書類については電子取引になります。PDFで発行された請求書や領収書などが該当します。

電子帳簿保存法における電子取引とは?
電子帳簿保存法に定められている電子取引とは、電磁的な方法で行う取引のことです。電磁的な方法とは、インターネットを介した電子データのやりとりを指します。

電子取引に該当する取引
下記のような取引は、すべて電子取引に該当します。
- 電子メールで送信した請求書
- クラウド上のサービスを使って発行した契約書
- ペーパーレスFAXで受け取った見積書
- WebサイトなどからダウンロードしたPDFの領収書
- DVDなどの記録媒体に保存した状態で受け取った発注書

紙ではなくデータで取引書類を発行した場合や、先方からデータで取引書類を受け取った場合は、すべて電子取引だといえるでしょう。
電子取引によって授受した書類は、電子データのまま保存が必要
電子帳簿保存法改正によって、電子取引を行った際の書類の保存方法が大きく変わることになりました。
これまでは、電子取引によって受け取った請求書や領収書といった書類も、印刷して紙で保存することができました。しかし、電子帳簿保存法改正によって、電子取引で授受した書類は電子データのまま保存しなくてはなりません。それらの書類は、真実性と可視性を確保できる形で保存する必要があります。
真実性の確保に必要な要件
書類の改変が行われていないことを担保するために、下記のいずれかを満たす必要があります。
真実性の確保 | ・タイムスタンプを付した後で授受する |
・授受後、すみやかにタイムスタンプを付する | |
・訂正や削除を確認できるシステムの導入 | |
・訂正削除防止規定を備え付ける |
個人事業主の場合は、訂正削除防止規定の備え付けが最も手軽で実行しやすいはずです。国税庁のWebサイトで公開されている「参考資料(各種規程等のサンプル)」を参考にしましょう。
可視性の確保に必要な要件
保存した書類は、いつでも必要なときに確認できるようにしておかなければいけません。そのため、下記の要件をすべて満たす必要があります。
可視性の確保 | 保存場所に、電子計算機(パソコンなど)、プログラム、ディスプレイ、プリンタおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書式に整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと | |
電子計算機処理システムの概要書を備え付けること | ||
検索機能を確保すること | ①取引年月日その他日付、取引金額、取引先について検索できること | |
②日付または金額の範囲指定により検索できること | ||
③2つ以上の任意の取引項目を組み合わせた条件により検索できること |
ただし、最後の検索機能の確保の要件の①~③は、判定期間に係る基準期間の売上高が1,000万円以下の場合、税務職員の求めに応じてすぐに提出できるように保存してある場合、満たさなくても良いとされています。
判定期間は、個人事業主の場合、電子取引が行われた日の属する年の前々年の1月1日から12月31日までの期間の売上高で判断。法人の場合、電子取引が行われた日の属する事業年度の前々事業年度の売上高が1,000万円を超えるかどうかで判断します。判定期間に係る基準期間がない新規開業者、新設法人の初年(度)、翌年(度)の課税期間は、検索機能の確保の要件が不要となります。
請求書作成システムを使用していて、検索・表示要件を満たしている場合、発行した取引情報(の控え)の保存はなんなく対応できるでしょう。しかし、取引先から受領する取引情報(請求書や領収書など)の検索は、検討して準備と対応が必要です。
なお、電子取引に関する書類の保存に関して隠蔽などがあった際は、そのことに起因して起こった申告漏れなどに対してかかる重加算税が、10%加重されます。
電子データを受け取った際の保存場所
取引先から受け取った電子データを保存する場所に、特別な決まりはありません。下記のような、利用しやすい場所を選びましょう。
- パソコンのハードディスク
- クラウド上のストレージサービス
- コンパクトディスク
- DVD
- 磁気テープ
ただし、電子データがあちこちに分散されていると、必要なときにすぐに見つけられないといった問題が起こります。必要に応じて表示できるよう、同じ場所にまとめて保存するとともに、適宜フォルダ分けなどを行って、どこに何があるのかがすぐにわかるようにしておかなければいけません。
また、電子データは破損したり消えてしまったりすることもあります。義務化はされていませんが、ハードディスクに保存してクラウドにバックアップを取るなど、万一に備えた運用をおすすめします。
電子データは具体的にどうやって保存する?
取引先から電子データを受け取った場合、具体的にどのように保存をすればよいのでしょうか。領収書が印刷されて品物と一緒に送られてきた場合は、届いた領収書を保管しておけば問題ありませんが、インターネットを介してPDFデータとして受け取った領収書は、電子データのまま保存する必要があります。
通信販売で事業に必要な物品を購入した際、「領収書はPDFデータをダウンロードするように」という指示があった場合を例に見ていきましょう。
1.領収書のデータをダウンロードする
まずは、領収書のデータをダウンロードしましょう。領収書はメールなどに添付されていたり、メールの本文に領収書が保存されているURLが記載されていたりします。URLが記載されている場合は、そのURLをクリックして領収書をダウンロードします。
2.ファイル名を検索しやすいものに変更する
ダウンロードした領収書は、ファイル名を内容がわかるものに変更しておくと便利です。
例えば、「日付」「取引先」「金額」などをファイル名にすれば、それぞれの内容で検索することができます。この例であれば、「20220401_aaaaショップ_5000」といった名称で保存しましょう。
3.所定の場所にデータを保存する
ダウンロードした領収書を保存します。保存場所は、クラウドでも自分のパソコンのハードディスクの中でも問題ありません。ただし、領収書のフォルダや取引先別のフォルダなど、内容がわかりやすいフォルダを作ってその中に保存します。
以上で保存は完了ですが、この他に、訂正や削除を防ぐための措置を講じる必要があります。個人事業主であれば、正当な理由なく訂正・削除することを防止する事務処理規定を定めて備え付ける方法が実行しやすいでしょう。
なお、前述したように判定期間になる基準期間における売上高が 1,000 万円以下の事業者については全ての検索機能の確保の要件が不要です。しかし、内容がわかった方が便利ですから、特別な理由がないのであれば、上記のような名称で保存するのがおすすめです。
電子帳簿保存法のその他の改正内容
電子帳簿保存法の改正では、電子取引の他にも、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」の2つの書類保存方法についても変更がありました。それぞれの変更点について説明します。
電子帳簿等保存
電子帳簿等保存に該当するのは、パソコンなどで作成した帳簿書類です。総勘定元帳や仕訳帳、貸借対照表、損益計算書といった帳簿書類をパソコンソフトやクラウドサービスなどで作成している場合は、電子帳簿等保存の対象になります。
電子帳簿等保存に関する改正は下記の3点です。
事前承認制度の廃止
これまでは、パソコンなどで作られた帳簿を電子データとして保存したい場合は、事前に税務署長の承認を受ける必要がありました。しかし、改正後は承認を受けなくても電子データでの保存が可能になります。
電子帳簿保存の要件の緩和
電子帳簿保存を行うためには、訂正・削除の履歴が残るシステムの利用といった複数の要件がありました。
しかし、改正後はこの要件が大幅に緩和され、システム関係書類の備え付けと、パソコンやディスプレイなどを備え付けてすみやかに出力できるようにしておくことの2点のみとなりました。ただし、この方法で保存できるのは、正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で作成された帳簿のみです。
なお、65万円の青色申告特別控除を受けるために電子帳簿保存をする場合は、従来とほぼ同等の要件を満たす「優良」な電子帳簿保存が必要です(検索要件については一部緩和)。「優良」な電子帳簿保存に該当しなくても、e-Taxで電子申告をしている場合には65万円控除の対処となります。
優良な電子帳簿の要件を満たして帳簿を保存する場合の過少申告加算税軽減
優良な電子帳簿の要件を満たし、電子データで帳簿を保存する場合は、申告漏れがあった場合の過少申告加算税が5%に軽減されます。ただし、故意に隠蔽した場合などは対象外です。
「電子帳簿保存法」については以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
- 【関連記事】
- 電子帳簿保存法とは?2022年1月からの変更点と対処法
スキャナ保存
スキャナ保存とは、紙で受け取った領収書などをスキャンして保存することです。スキャナ保存については、下記の4つの改正が行われています。
事前承認制度の廃止
スキャナ保存も、税務署長の事前承認を受けなくても行えるようになりました。
スキャナ保存のための要件の緩和
タイムスタンプ要件や検索要件などが緩和され、スキャナ保存が利用しやすくなりました。
事務処理の簡略化
スキャナ保存をする際、データ入力時の別人による原本との照合や、定期検査などが不要になりました。
不備や不正があった場合の重加算税の加重措置
スキャナ保存された国税関係の書類について隠蔽等があった場合は、そのことに起因して起こった申告漏れなどに対してかかる重加算税が10%加重されます。
すべての事業者が対象になる電子取引に関する書面の保存
電子取引を行っている事業者は、猶予期間中に電子帳簿保存法改正に対応できるよう、準備を進める必要があります。まずは、電子データとして受け取った書類の保存場所の検討や、保存名を検索できる形に統一するところから始めてみてはいかがでしょうか。
先延ばしにして将来慌てることがないように、電子データの保存に関する準備を進めていきましょう。
photo:PIXTA