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フリーランスの父親が3か月の「育休」をとってみた

こんにちは。フリーランスでライターをしている斎藤充博です。

2022年の2月に初めて子どもが生まれました。新生児の世話って本当に大変です。なにしろ、24時間付きっきりになって、世話をしなくちゃいけない。そんな大変な状況に対応するために、子どもが生まれてから3か月間仕事をストップしました。いわゆる「育休」をとってみたわけです。

今回はその経緯と、実際にどうだったかを書いてみます。ただ、フリーランスも状況は様々ですし、赤ちゃんの性格もそれぞれですよね。個人の一例としてなんとなく横目で見つつ、参考にしていただければと思います。

フリーランスが育休をとることにした理由

わが家は首都圏在住の核家族。そしてお互いの両親に育児に参加してもらうのは難しい状況です。

斎藤充博

1982年生まれ。フリーランス。ライターをしたりマンガを描いたりして生計を立てている。フリーランスのために公的な育児休業の制度はない。

1989年生まれ。歯科医院に正社員として勤める歯科衛生士。公的な育児休業制度を利用できる。

昭和の時代だったら、母親が育児をするのが当然だったのかもしれません。しかし、母親ひとりに育児のほとんどを任せる「ワンオペ」は非常につらいと聞いています。産後うつや、産後クライシス(産後に夫婦仲が急激に悪くなること)になってしまうかもしれません。そんなことは絶対に避けたい。

そもそも、夫婦ふたりの子どもなのだから、基本的には夫婦ふたりで育てるのが自然なのではないでしょうか。それなら、僕も仕事を休んで育児をしたい。

……そう思ったのですが、ちょっと悩ましい点もありました。

雇われている人の制度「育児休暇」と「育児休業」

よく「育休をとる」なんて言いますよね。でもその中には「育児休暇」と「育児休業」という2つの制度があります。

育児休業
国が定めた育児のための休業制度。「1歳未満の子ども(場合によっては、1歳6か月や2歳まで)」を育てる従業員は仕事を休むことができる。さらに、職場復帰が前提など休んでいる間の収入を事業者からの申請で雇用保険から一部補填してもらえる(育児休業給付金)。

育児休暇
事業者が子育てをする人のために独自に設けている制度。具体的な内容は事業者によってさまざま。事業者はこうした制度を持つことを国から「努力義務」として課せられている。

※あくまでもざっくりとした説明です。制度の細かい点については厚生労働省のホームページなどを参考にしてください。

これまで、男性は育児休業をとりにくい風潮がありました。しかし、2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日から段階的に施行されていくことになりました。

男性の育児休業がより柔軟に取得できるようになり、法的に義務化されていきます。これからは男性も育児のために会社を休むのが当たり前の世の中になってきそうです。

まず、2022年4月からは、すべての事業者は育児休業制度の周知・意向確認が必要になります。そして、2022年10月に2分割取得ができるようになり、2023年4月には、従業員1000人超の企業は育児休業取得率の公表が義務付けされます。

……しかし、以上の制度は事業者に雇われている人に適用される話。正社員である妻は問題なく使えるのですが、フリーランスである僕は、雇用されていないので育休は使えません!

フリーランスでも会社員でも育児そのものは変わらない

フリーランスが「育児のために仕事を休みたい」と思ったら、自己責任で休むしか方法はありません。報酬は入ってきませんし、仕事に復帰しようと思ったとき、取引先に切られるリスクもありそうです。

しかし、父親がフリーランスだろうが、正社員だろうが、赤ちゃんには関係がないことです。育児の大変さそのものは変わりません。

それに、2022年4月から妊娠出産をする本人や配偶者である従業員に対して、育児休業の意向確認が事業者に義務化されたのも「やっぱり父親も仕事を休んだ方がいいよね」という風にみんなが考えたからではないでしょうか。

……だったら、やはり自分も仕事を休み、育児に参加するべきではないのか。葛藤があったのですが、僕は育休をとることにしました。そして、育休をとることに伴う仕事上のリスクはできるだけ工夫や努力でカバーしていこう、と思ったのです。

フリーランスが育休をとるための準備

妻が妊娠して4か月目くらいから、育休をとるための準備を始めていくことにしました。おおまかにやったことは、以下の3点です。

  • 育休期間の決定
  • 育休の周知
  • 現金を貯める

主要取引先を巻き込んで育休期間を決定する

まず決めなくてはいけないのが育児休暇の期間です。でも、どのくらいの期間が必要なのかさっぱりわかりません。長ければ長いほど育児にはいいのでしょうが、収入のない期間が長くなることでもあります。

ここで思い切って、僕の収入の半分ほどを占める取引先A社に、育休をとろうとしていることを話してみました。

「休むのならどうぞ勝手にしてください、他の人に発注するので」という反応も想定していました。フリーランスってそういうものですからね……。

しかし、A社は親切にも育児経験のある女性マネージャーを紹介してくれました。育休について相談するとマネージャーは「それならば、最低でも3か月は休んだ方がいいですね。それ以上は、斎藤さんの蓄え次第かな。復帰したら、また無理のない範囲で仕事をお願いします」と言ってくれたんです。

悩んでいた育児休暇の期間は「3か月間」にあっさりと決まりました。 この時の僕は知らなかったのですが、生まれたばかりの赤ちゃんは、昼夜問わずに2〜3時間おきに起きてミルクを欲しがります。夜にある程度長く眠るようになってくれるのが、3か月くらいからなんだそうです(個人差が相当あります)。

取引先に育休の周知

そしてA社以外の取引先に育休をとることをメールで伝えました。ここでもまた取引先から切られるリスクを想定していたのですが、そんなことはありませんでした。

それどころか、「父親が育休をとるのは素晴らしいです! いまは育児に専念していただいて、復帰後はまたよろしくお願いします!」なんてメッセージをいただいたり、出産祝いのグッズをいただいたりもしました。

僕が仕事をしているwebコンテンツの業界は、女性のディレクターや編集者が多いです。そのために出産や育児に対する理解があるのかもしれません。あるいは、4月に男性の育児休業が取得されやすくなったように、社会全体で「男性ももっと育児に参加するべきだ」という風潮が高まっているのかもしれません。

ともあれ、僕は少しですが株を上げたような形になりました。まったく想定してなかったことですが。 ……もっとも今後、男性が育休をとることが当たり前になってくれば、こんな反応にはならないでしょう。たまたまですが、タイミングが良かったのかもしれません。

収入が減るので現金を貯めておく

育休の間、僕は無収入になります。妻は正社員なので、「育児休業給付金」が雇用保険からもらえるのですが、それだけでは、ちょっと心許無い。そこで、出産予定日までには仕事を増やしてみることにしました。

まず行ったのは、育休期間中に納品するはずだった連載を可能な限り前倒しして納品すること。そうすることにより、ある程度は育休中の分のお金も稼ぐことができます。

媒体側も連載を止めずに済むというメリットがありました。原稿をチェックする編集者さんは大変だったと思いますが……。

そして、単発の仕事も断らずにできるだけ受けるようにしてみました。これまで僕はあまり根を詰めて仕事をするタイプではなく、ちょっと忙しくなるとすぐに仕事を断ってしまいました。でも今ばかりは、ちょっと頑張ってみるぞ、という感じです。

この2つを行ったことにより、月収が1.7倍ほどになりました(妊娠前の2021年3月に対して、育休の準備をしている2021年12月を比較)。

これはちょっと驚きですね。自分がこんなに仕事をこなせる人間だったなんて。新しい自分の可能性を拓けたのかもしれません。いままでどれだけサボっていたんだよ、という気もしますが……。

さらに、「小規模企業共済」の掛金の払込の停止や、「積み立てNISA」の積み立ての停止の手続きもしました。 このように手持ちの現金を増やすことに注力したところ、妊娠期間中に3か月分の生活費は問題なく貯めることができました。

育休中の生活の実際

育休の準備万端!というところで2022年2月に子どもが生まれました。生まれたばかりの赤ちゃんは24時間体制で見守りが必要です。2人で育児を下記のような交代制にしました。

  • 19時から3時までが僕がひとりで育児(この間に妻は睡眠)
  • 3時から11時まで僕は睡眠(この間に妻がひとりで育児)
  • 11時から19時まではふたりで育児

この方式をとることで、夫婦そろって育児中も毎日8時間の睡眠をそれぞれとることができました。

さらに、赤ちゃんが長く寝るようになると、ひとりの自由な時間をとることもできます。普段はできなかったような「仕事の種まき」にチャレンジしたり、興味のあった本を読んだり、ゲームのやりこみをしたり、と限られた時間ではありますが、本当に気ままに過ごすことができました。正直、こんなに楽しんでいいのか、というくらい楽しかったです。

妻も楽しんでいるようで、ネット通販で買ったフィットネスバイクをこぎながらサブスクで映画を一気見したりしていました。産後の女性は体力が大幅に落ちると聞いていたのですが、ビックリするほど元気でした。

このような状態なので、夫婦そろって赤ちゃんに元気な状態で接することができました。今のところは「産後うつ」や「産後クライシス」にはならなさそう(これから起こる可能性もぜんぜんあるのですが)。 育休中はうまく過ごせたのではないでしょうか。

育休のメリット・デメリット

育休を終えた現在、メリットとデメリットを振り返ってみます。

メリット

まず、夫婦で育児の負担を分担できます。新生児の育児はものすごく大変と聞いていましたが、夫婦がそれぞれ8時間睡眠をとることができたので、想像していたほどではありませんでした。

育休期間が終了した後も育児は続きます。今後は引き続き育児休暇をとっている妻にメインで育児を担当してもらい、僕は仕事に復帰することになります。ただし、妻に育児を完全に丸投げするわけではなく、分担していくことになるでしょう。

3か月間、がっつりと育児に取り組んだことで、一通りの感覚はつかんだつもりです。仕事をしながらも妻と一緒に育児ができると思っています。

育休前に全力で稼働してみたら、「自分が意外と稼げる」ということがわかったのもよかったです。また、自分の仕事を精査したことで、「仕事の棚卸し」ができました。

そして、最大のメリットは生まれたばかりの赤ちゃんの成長をたっぷりと見ることができること。本当に耳にタコができるくらいよく言われることですが、自分の子どもというのは本当にかわいい。深夜の寝かしつけも、終わらない大号泣も、おむつの爆発も、みんな最高です。

デメリット

収入は確実に減りました。ただし、僕は育休中に仕事をたくさんしていたし、妻は育児休業給付金が受け取れるため、生活を圧迫するような事態にはなっていません。

でも、育児って予想外のところでお金がかかってくるんですね。一つ手痛い出費がありました。引越しです。これまで2LDKのマンションに住んでいたのですが、赤ちゃんが生まれてから、どうしても手狭になり、仕事をするスペースの確保が難しくなってしまいました。

そこで、いまの住まいのすぐ近くにある3LDKのマンションに引っ越すことにしました。引越費用もかかりますし、家賃もアップします。今後快適に仕事できるようにするため……と思っての決断なのですが、収入が細くなっている状態だとなかなか精神的にダメージを受けますね!

現在は仕事を再開しているのですが、すぐには収入が戻りません。僕は2022年5月から仕事を開始しました。しかし、妊娠前の2021年3月の月収に対し、仕事再開後の2022年5月の月収は3割程度です。

ただし、これは取引先に切られたということではありません。僕の案件は受注してから納品まで期間が2か月以上になることも多く、その期間が反映されています。案件の相談自体はいただいているので、大丈夫なんじゃないでしょうか。たぶん……。

フリーランスが育児休暇をとるとしたら

結論として、フリーランスであっても自主的に育休をとることはかなりおすすめです。僕は育休をとったことをまったく後悔していませんし、もしも次があるとしたら(そんな予定はないのですが)また同じように育休をとるでしょう。

その上で、育休をとろうと考えているフリーランスが注意しておきたいことがいくつかあります。

取引先への信頼関係を途切れさせない

僕は取引先に対して、3か月間の育休をとることを、出産予定日の4か月ほど前にしっかり告知しました。このために取引先にある程度信頼感を保った形で休むことができたと思います。

そして状況にもよるのですが、在宅で「どうしても切れない仕事」がある場合は、完全に仕事をシャットアウトせずに、続けておくのもアリかもしれません。結果論ではありますが、僕の場合は育児をしながらでも、仕事は多少できたかもしれないな……と思っています。

仕事を再開したときにきちんと仕事をもらえるようにしておく

夫婦が別の時間に眠る「交代制」を採用すると、ある程度は自分の時間がとれることになります。僕はこの時間を使って仕事に関連する情報などを仕入れていました。復帰後に「浦島太郎状態」にはならないようにしておく……という意味があったのですが、育休中は仕事のことを思い出すのも、意外といい気分転換になりました。

また、育休中は取引先や読者に存在を忘れ去られないように、毎日noteに「妊娠日記」を更新していました。これは妻の妊娠期間に用意していたもので、育休中は簡単に編集してアップするだけですみました。ちなみに現在も更新中です。

現金は大事

現金をある程度保有しておくのは正解でした。

すでに書いたように、僕は仕事を増やしたり「小規模企業共済」の払込や「積み立てNISA」の積み立てをストップさせたりしていました。

ちなみに「小規模企業共済」は払込金額の範囲内で貸付をしてくれます。今回の育休にあたって貸付を受けることも考えていたのですが、結果的には受けなくても大丈夫でした。

不安は多いけど、やりたいようにやれる

戸惑いながらもフリーランスの男性が育休をとってみた体験談でした。記事を振り返ってみると、「取引先との関係性」や「現金」など、フリーランスの戦略としては基本的なことですよね。育休といっても、特別なことを考える必要はないのかもしれません。

そして、とりあえず3か月間は問題なく進められたのですが、生後半年くらいからの夜泣きや、2歳前後に起こるイヤイヤ期、「小1の壁」など、子育てが大変なのはむしろこれから、とも聞いています。

大丈夫なんだろうか。正直、不安は多いですが……。子どもがかわいいので、いくらでもがんばれちゃうような気が(今は)しています。そして企画や文章で悩んでいる方、どうぞどうぞお仕事ください!

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