キャッシュ・フロー計算書からわかることは?作成のポイントも紹介
監修者 : 齋藤一生(税理士)

事業や会社を経営する上で、資金の流れを把握するのはとても重要なことです。資金がうまく流れていないと、最悪の場合、倒産します。損益計算書や帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、運転資金や手元の現金が足りず事業が存続できなくなることもあります。これを倒産と言います。
事業の資金の流れを把握するために使用するのが、キャッシュ・フロー計算書です。ここでは、キャッシュ・フロー計算書からわかることのほか、読み方・作り方のポイントを解説します。
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目次
キャッシュ・フロー計算書とは?
キャッシュ・フロー計算書とは、その名前のとおりキャッシュ(資金)のフロー(流れ)を表した会計書類です。会計期間中に、どのような理由でいくらのお金が入ってきて、どのような理由でいくらのお金が出ていったのかを表します。
キャッシュ・フロー計算書は、貸借対照表、損益計算書などと同様に、会社・団体の一会計年度の経営成績や財務状態を表した書類「財務諸表」のひとつです。財務諸表の中でも、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書の3つは特に重要なものとして、「財務三表」と呼ばれています。
財務三表の役割
貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書は、いずれも会社の経営実績や財務状態を表したものです。
財務三表のうち、貸借対照表と損益計算書は、会社法人だけでなく、最大65万円もしくは最大55万円の青色申告特別控除を適用する個人事業主は、、確定申告で提出しなくてはいけないので、必ず作成する必要があります。一方、キャッシュ・フロー計算書は、大規模法人を除けば、作成・提出の義務はありません。
しかし、キャッシュ・フロー計算書は、自社や他社の経営状況を客観的に判断する上で非常に有効なツールですし、あれば金融機関に融資を申し込む際にも役立ちます。そのため、中小企業の経営者や個人事業主も読み方・作り方を知っておくことをおすすめします。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は、会計年度の終了日時点で会社が保有する資産、負債、純資産の状況を表したものです。バランスシート(Balance Sheet)と呼ばれ「B/S」と表記されることもあります。貸借対照表を読み解くことで、会社がどのような方法で資金を調達し、どのような財産のため資金を使ったのかがわかります。
損益計算書(P/L)
損益計算書は、会社が会計年度内にどれだけの収益を上げ、費用をいくら使い、どれだけの利益があったのかを表したものです。英語のProfit and Loss Statementを略して、「P/L」とも表記されます。
損益計算書には収益、費用、利益の3つの要素が記載されます。特に利益については、売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期利益、当期純利益の5つに分けて記載されています。これらを読み解くことで、核となる事業でどれくらいの利益を上げたのか、本業以外の利益はどれぐらいだったのかといったこともわかります。
キャッシュ・フロー計算書(C/F)
キャッシュ・フロー計算書は、会計年度中に、どのような理由でどれだけのお金が入ってきたのか、そして、出ていったのかを表したものです。英語のCash Flow Statementを略して「C/F」と表記されることもあります。キャッシュ・フロー計算書を読み解くことで、現金の流れが把握できます。
キャッシュ・フロー計算書の意義
会計期間中に会社がどれほど儲けたかは、損益計算書から読み取れます。それでもキャッシュ・フロー計算書が重要なのは、損益計算書上では利益が出ていても、実際にキャッシュが増加しているとは限らないからです。
例えば、損益計算書では、在庫分は売上原価として計算されません。10万円の商品を100個仕入れ、そのうち50個を15万円で売ったとすれば、売上高は50個×15万円=750万円、売上原価は500万円です。損益計算書では250万円の利益として計上されます。
しかし、実際には仕入れに10万円×100個=1,000万円支払っているので、キャッシュは250万円のマイナスです。このまま在庫分が売れなければ、事業存続のために資金調達が必要になります。資金が調達できなければ最悪、黒字倒産の可能性もあります。
キャッシュ・フロー計算書を読み解くことで、損益計算書・貸借対照表だけの場合より、より詳細に経営実績や財政状況を把握できるのです。
キャッシュ・フロー計算書の読み方
キャッシュ・フロー計算書では、営業活動、投資活動、財務活動によるキャッシュ・フローを、それぞれ区別して表示します。その上で、「現金及び現金同等物等の増加額」「現金及び現金同等物等期首残高」「現金及び現金同等物等期末残高」の3項目を表記します。

なお、キャッシュ・フロー計算書の書き方には、間接法と直接法の2つの形式があります。
企業の営業、投資、財務の3つの活動のうち、投資と財務については直接法で表すと決まっていますが、営業については、各社が好きな表記形式を選択できます。
キャッシュ・フロー計算書作成における直接法とは、実際の現金の流れを主要な項目ごとに集計して表す方法です。間接法は、税引前当期純利益をスタートラインとして、項目ごとに現金の増減を表していく方法で、損益計算書をもとに作成します。どちらを選んでも、最終的な営業活動によるキャッシュ・フローの額は同じになります。
日本国内の企業の多くは間接法を選んでいますので、ここでは間接法での表記方法をご紹介します。
Ⅰ.営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フローは、本業である事業でどれだけのキャッシュが生み出されているかを表します。ここのプラスが大きいほど、本業でしっかり稼げていることを意味します。マイナスであれば、利益が出ない商品・サービスを売っている、売上は立っているのに現金の回収ができていないといったことが考えられます。
Ⅱ.投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動によるキャッシュ・フローは、投資活動におけるキャッシュの動きを表します。投資を行うとマイナスに、所有する資産を売却するとプラスになります。会社が成長するには設備投資が必須なので、マイナスが悪いわけではありません。むしろ、積極的に投資を行っているといえます。
Ⅲ.財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動によるキャッシュ・フローは、資金調達や返済などの財務活動によるキャッシュの動きを表します。借入金を返済するとマイナスに、資金調達をするとプラスになります。最終的にプラスなら、借入や投資家からの出資額が返済額を上回っている状態です。
Ⅳ.キャッシュの増加・減少額(Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ)
キャッシュの増加・減少額は、営業、投資、財務活動によるキャッシュ・フローの合計値です。プラスなら1年間のキャッシュ・フローがプラスであったことを、マイナスならマイナスであったことを表します。
Ⅴ.キャッシュの期首残高
キャッシュの期首残高には、期首時点でのキャッシュ・フロー残高を記載します。前期の貸借対照表の現金・預金額と一致します。
Ⅵ.キャッシュの期末残高(Ⅳ+Ⅴ)
キャッシュの期末残高は、期末時点で現金がいくら残っているかを表します。今期の貸借対照表の現金・預金額と一致します。
キャッシュ・フロー計算書の作り方
キャッシュ・フロー計算書を作成するには、貸借対照表と損益計算書が必要です。
前期および当期の貸借対照表、当期の損益計算書を用意し、固定資産・有価証券の取得や譲渡、新株発行の取引があった場合は、それらの取引に関する資料も準備します。
その上で、それらの書類から営業、投資、財務それぞれの活動に関係する項目をピックアップし、金額を当てはめていきます。
【営業活動によるキャッシュ・フロー】
- 税引前当期純利益(損益計算書から転記)
- 減価償却費
- 売上債権の増加
- 棚卸資産の増加
- 法人税等支払い など
【投資活動によるキャッシュ・フロー】
- 有価証券の取得
- 有価証券の売却
- 固定資産の取得
- 固定資産の売却 など
【財務活動によるキャッシュ・フロー】
- 資金の借入
- 借入金の返済
- 新株発行 など
キャッシュ・フロー計算書と貸借対照表、損益計算書との関係
キャッシュ・フロー計算書と貸借対照表、損益計算書は、お互いに密接に関係しています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、損益計算書の税引前当期純利益を出発点として、減価償却費や売上債権の増加など、キャッシュの動きに関係ない項目を除いたものです。損益計算書で利益が出ているのに、営業キャッシュ・フローがマイナスなら、在庫が溜まっている、売掛金が回収できていないといった事態が考えられますので、早急な原因究明と対処が必要です。
また、貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書を見比べることで、貸借対照表上に表れた一会計年度での会社資産の増減は、会社がどのようにキャッシュを得たり、使ったりした結果なのかがわかります。
営業活動が好調でプラスになっているならいいですが、営業活動がマイナスで投資、財務活動がプラスであるようなら会社の稼ぎ出す力に問題があると言えるので、早急な対策が必要になります。
会計ソフトを活用してキャッシュ・フロー計算書を作成しよう
キャッシュ・フロー計算書を作るには、損益計算書と貸借対照表から関連項目をピックアップし、金額を当てはめていく作業が必要ですが、自分で作ろうとすると手間がかかります。できる限り手間をかけずに作りたい方は、会計ソフトを利用するのがおすすめです。

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キャッシュ・フロー計算書の作成は義務ではありませんが、自社の経営状況を客観的に把握するための優れたツールであり、お金の流れを可視化してくれるものです。会計ソフトを活用して、ぜひ作成してみてください。
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