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「事業承継はハートが大事」。経営難の銭湯を次々と立て直す湊三次郎さんの取り組み

こんにちは。ライターの斎藤充博です。

僕は誰かに雇われているわけではない、独立している個人事業主です。会社員をしている人からは「好きな仕事で独立なんてすごいですね!」なんて言われることもあります。

ただ、当然のことですが、独立するのって簡単なことではありません。初期設備にはお金がかかるし、お客さんだって時間をかけないと増えません。

でも、すでに誰かがしていた事業を自分が引き継ぐことができたらどうでしょう。「初期設備」や「お客さん」がそろった状態で事業を始めることができます。これを「事業承継」と言います。代々続く家業の後を継ぐなどもあるでしょう。

今回話を聞くのは、ゆとなみ社を経営する湊(みなと)三次郎さん。湊さんは全国各地にある廃業した(あるいは廃業を検討している)銭湯の経営を引き継ぐ仕事をしています。家業ではない事業を引き継ぐ。これも「事業承継」です。

なんとなく、自分で事業を起こすよりはラクそうに感じる「事業承継」。実際のところはどうなんでしょうか。

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*取材はリモートで行われました
湊三次郎(みなと・さんじろう)

ゆとなみ社代表・銭湯活動家
1990年、静岡県浜松市生まれ。学生時代から全国数百件の銭湯を巡り、銭湯サークルも立ち上げる。卒業後アパレルメーカーに勤務したのち、もともとアルバイトをしていた「サウナの梅湯」を第三者による事業承継によって受け継ぐと、経営難にあったサウナの梅湯を見事立て直した。「銭湯を日本から消さない」という信念のもと、現在では全国で計5軒の銭湯を経営する銭湯活動家。
サウナの梅湯Twitter

「自分ならイケるんじゃないか」無根拠に飛び込んだ銭湯経営

斎藤充博さん(以下、斎藤):

湊さんは「サウナの梅湯」の経営を引き継いだことをきっかけに、たくさんの銭湯の経営をするようになっていますよね。なぜ銭湯の経営をするようになったのでしょうか。

湊三次郎さん(以下、湊):

もともと僕は銭湯マニアです。学生時代には全国にある数百軒ほどの銭湯を回っていました。後に経営を引き継ぐサウナの梅湯でバイトをしていたこともあります。

大学卒業後は、普通に企業に就職をしました。ところが会社があわなくて辞めようと思っていたんです。ちょうどその頃に、サウナの梅湯が経営難で廃業しようとしているという話を聞きました。僕も仕事やめるから、経営の仕事を引き継げないかと交渉したんです。実際に引き継いだのが2015年の5月ですね。

斎藤:

「銭湯が大好き」とは言っても、仕事として銭湯を引き継ぐは、相当な決意があったと思うのですが……。例えば、お寿司を食べるのが好きだからといって、「寿司職人になろう」なんて普通は思わないじゃないですか。

湊:

銭湯って日本からどんどんなくなっているんです。業界やファンから「どうにかならないか」という声はあがるのですが、継続のために具体的なアクションをしている人はほとんどいません。その状況が好きじゃなかったというのがありますね。

お寿司の例で言うと、「日本から寿司がなくなってしまう」くらいの危機感があったんです。それなら自分で握ってもおかしくないですよね?

斎藤:

なるほど……。

湊:

ただ、バイトをしていたことはありましたが、経営に関する知識はゼロで、具体的な経営ノウハウもありません。周りの人からは「そんな大変なことをやめておけ、苦労するぞ」って言われていました。

斎藤:

そこまで言われていて、なぜ銭湯の経営を始めたんですか?

湊:

大変とみんなは言いますが、自分ならイケるんじゃないか、という思いがあったんです。

斎藤:

根拠はないけど、なんとかなるんじゃないかと……。

湊:

まさにそうですね。無根拠にそう思っていましたから。それに素人がサウナの梅湯の経営を引き継いで成功すれば、世の中のいろいろな銭湯を引き継げるようになるんじゃないかと。そういう希望というか、思い込みがあったんです。

斎藤:

友達がそんなこと言っていたら、僕は止めようとしちゃうかも。ただ、湊さんはその後に数々の銭湯の経営に成功するわけですから、この直感は合っているわけですね……。

生活費削減でロビーに寝泊まり…やってみて分かった山積みの問題

斎藤:

経営が未経験なら、大変だったと思います。ただサウナの梅湯の場合は「設備」も「既存のお客さん」もある状態ですよね。そこから始めたのだからある程度のアドバンテージはあったのでは?

湊:

確かに、銭湯の設備もあるし、常連のお客さんもいました。ゼロから銭湯の設備を作ろうとすると小さいものでも2億円くらいかかると聞きます。それを用意するのはかなり厳しいですからね。

ただ、そもそもサウナの梅湯が廃業しようとしていたのは、経営難だからです。もしも経営がうまくいっていたとしたら、僕のような他人に承継させないでしょう。

斎藤:

ああ! そうか。すると、事業承継だからラクというわけにはいかないんですね……。存続がきびしいから、廃業を考えていた状況ですからね。

湊:

サウナの梅湯に問題が山積みになっていることは引き継いですぐにわかりましたね。ここで周りの人が言っていた「そんな大変なことやめておけ」というのがやっと実感できました。

斎藤:

どんなことが大変でしたか?

湊:

梅湯は明治創業なのでそもそも設備は老朽化していて、どんどん壊れていく。常連さんはいるんですが、そこまで多くなくて売上はぜんぜん足りていない。スタッフを雇える状態ではないので、日常業務もすべて一人で回さなくてはいけない。忙しすぎてサウナの梅湯のロビーに寝泊まりしていましたよ。朝起きたらすぐに仕事場です。プライベートもすべてサウナの梅湯に捧げました。

斎藤:

銭湯だからお風呂はあるのかもしれませんが……。ロビーに寝泊まりはいくらなんでもキツい!

湊:

正直なところ、僕もいつ逃げだそうかと思っていました。あのときは完全に気持ちが折れてましたね。

京都・五条楽園にある「サウナの梅湯」

サウナの梅湯立て直しのために、売上面と経費面でやったこと

斎藤:

現在はサウナの梅湯は超人気の銭湯ですよね。どうやって経営を立て直していったんですか?

湊:

もう本当にいろいろなことを行っていて、時間が経つにつれ少しずつ経営が上向いていったというイメージです。

斎藤:

なるほど……。それでは「売上の増加」と「経費の削減」に分けてお伺いできたらと思います。

売上を伸ばすために、お金をかけないでできることはすべてやった

斎藤:

まず、売上の増加についてはどんなことをされましたか?

湊:

お金をかけないでできることは、とりあえず全部やってみようというのはありました。SNSのアカウントを作る。近所のお宅にポスティングをする。あとこれはちょっとお金がかかりますが、パンフレットを作って店先で配る。そして、なによりもうまくいったのは「メディアの取材を積極的に受ける」という方針です。

斎藤:

あっ。なるほど。いまこの瞬間もメディアの取材だ!

湊:

そうですよね。僕はメディアの取材を基本的に断りません。メディアの取材を受けると、それを見たメディアがまた取材をしてくれるので、どんどん知名度が上がっていくんです。

斎藤:

でも、メディアの取材って、受けようとしても受けられるものではないと思うんですが……?

湊:

2015年頃、「まちづくり」や「ローカル」のようなキーワードが非常に熱い時期でした。この流れの中で「京都の銭湯を若者が復活させた」ということになると、メディアも取材したくなるだろうと思っていました。

斎藤:

確かに当時そういう空気感ありましたね! 覚えてます。

湊:

もしも取材がぜんぜん来なかったら自分からメディアに売り込みに行こうと思っていましたね。実際は何もしなくても取材はしてもらえたのですが。

斎藤:

それはブランディングや広報みたいなこともしているってことですよね。メディアに取り上げられると、やっぱりお客さんは増えますか?

湊:

飲食店とかだとメディアに取り上げられると一気に売上が伸びると聞きますが、銭湯の場合はすぐには増えないですね。ジワジワと認知が高まって、結果的に増えるようなイメージです。

斎藤:

言われてみると、テレビで見たからといって、すぐに銭湯には行かないかもしれない……。安心できるくらい集客ができるようになったのはいつくらいでしょうか。

湊:

サウナの梅湯の場合だと、1日に最低80人くらいは入れないと厳しいんです。でも1年目の2015年はずっと70人くらいでした。これはダメかもと思っていたんですが、2年目から徐々に集客できるようになりましたね。このときに朝風呂を始めたのも大きかったかもしれない。3年目で100人いくようになりました。新型コロナウイルスの流行以前には1日平均262人くらいはありました。1日だけの記録だったら550人の日もあります。

斎藤:

相当すごくないですか。このくらいまでいくと、かなり商売としておいしいような……。

湊:

120人くらい入ると、スタッフを雇って営業日の半分くらい任せられるようになりますね。200人以上はいると、すごく「手堅い商売」という感じです。さっき銭湯は「すぐに集客は増えない」と言いましたが、逆に一度増えたらすぐに集客が減るということもないんです。

斎藤:

銭湯って料金の上限が都道府県ごとに決まっていますよね。正直、事業をする側からするとかなり単価が安いと思うんです。客単価を上げる工夫はしていましたか。

湊:

はい、共同浴場は自治体で金額が決まっています。京都府の銭湯料金は、大人450円です。(2021年9月現在)当然その価格は変えられません。なので、サウナの梅湯ではタオルやTシャツなどのグッズ販売も積極的にやっています。タオルは1本480円なんですが、昨年だけで2,000本売れています。意外と軽視できない収入です。

とはいっても、やっぱりお客さんがたくさん来てくれないと、物販も成り立たない。結局、いかに集客をするかという話にはなりますね。

燃料には薪を、修繕は自らの手で…現場を見て泥臭くコストカット

斎藤:

なるほど……。それでは経費の削減についてはいかがでしょうか。そもそも、銭湯の経営で経費として重たいのは何になるんでしょう。

湊:

重たいのは人件費と燃料費です。あと土地代も重たいけど、これは工夫のしようがないですね……。まず人件費の削減に関しては、さっきも言いましたが、最初は人を雇わずに自分でなんでもやっていました。僕の給料は月に5万くらいだったと思います。

斎藤:

5万??? いくらなんでも、生活できなくないですか?

湊:

1日中ずっとサウナの梅湯の中で働いていて、寝泊まりもロビーだったんで、お金を使わなかったんですよ。食費くらいです。

斎藤:

サラッと言いますが、だいぶハードな状況ですよね……。

湊:

燃料に関しては、油ではなくて薪を使っています。薪を使うと肉体的には大変なんですが、油に比べて月に20万円くらいは燃料費を削減できるんですよ。仮に人を雇ってお願いしたとしても、十分に引き合いのとれる金額です。

あとは設備の修繕に関しても、できるだけ自分で工事をして業者に頼む部分を少なくしています。例えば、受付を番台からカウンターにしたんですが、解体の部分は自分でやりましたね。

斎藤:

なんかもう力技って感じで経費を下げてますね。執念を感じる……。

湊:

経営者って、豪華なイスに座って「数字を見ながら判断」みたいな感じだと僕は思っていました。でもやってみたら違いますね。「現場を見て判断する」ことが重要。泥臭いですけれども、いまになっては、それがよかったんじゃないかなと思います。

当たり前のことが意外とできていない。第三者はそこに気づける

斎藤:

いまでは「サウナの梅湯」だけではなくて、複数の銭湯を経営されていますよね。サウナの梅湯で得た経営ノウハウは他の銭湯にも活かせるものなんでしょうか。

湊:

確かにそれは不安だったんです。サウナの梅湯は取材をたくさん受けた結果、京都という立地も功を奏して観光地のようになってしまいましたから。これが他の県の小さい銭湯でもうまくいくのかと。

ただ、サウナの梅湯でもやっていた、SNSをやるとか、接客をきちんとやるとか、パンフレットを作るとか……。それに、毎日の来客数きちんと記録したり、会計ソフトを使って帳簿をつけたりすることは他の銭湯の経営でも活かせていますね。

そういうことって、斬新でも何でもないし、誰にでも思いつくことなんですが、意外と既存の銭湯ってできていないものなんです。地道にやっていくと、2~3年くらいで結果になって返ってきますね。

斎藤:

既存の銭湯ではなぜそういった地道な取り組みができていないんでしょうか?

湊:

銭湯って基本的には家族経営でやっているんです。銭湯が実家だと思い切ったことはできません。それになかなか後を継ぐ人はいないので、高齢化しがちです。

斎藤:

なるほど……。それに加えて、そういった場所で新しいことをすると、既存のファンから嫌がられたりする可能性もありそうですね。

湊:

これは本当に難しい問題で。サウナの梅湯の場合は少しずつ新しいことをして、徐々に変わっていったんですが、1年目にいきなりガラッと変えたら本当にお客さんは誰も来なくなっていたと思います。

斎藤:

ただ、そういうちょっと閉ざされたようなところに第三者である湊さんが「事業承継」で入っていくのは、すごく意味があることですよね。決して「既存の設備とファンを使ってラクに商売を始められる」という安易な話ではなくて。

湊:

僕も相当な覚悟でやっていますが、最終的にダメになったら「何か別の仕事をすればいいや」という逃げ道は心の中に持っています。実家でもないし、家業でもないから、そういう割り切りはつく。だから思い切ったこともできるというのはありますね。

斎藤:

それってまさに既存の事業を第三者が承継することの意味になりそうです。ちなみに湊さんは銭湯の他に経営してみたい業種ってありますか?

湊:

喫茶店ですね。古い喫茶店は承継しやすそうな気がしています。レシピをそのまま継げるのが強いです。そこに新しいメニューを入れたり、見せ方を変えたり、SNSを使ったりするだけで大分変わってくると思います。

斎藤:

ああ……。それはすごくよさそう。レトロだけど新しい工夫がしてあるお店が人気出るのって、目に浮かびますね。

湊:

流行りのものを作るよりも、地域で脈々と継がれたものを見せる方が好きですね。なにか面白みを感じる気がするんです。

斎藤:

それってまさに湊さんが銭湯の承継で行ってきたことそのものですね。

事業承継で大事なことは「ハート」

斎藤:

最後に、事業承継をしようとする際、これは絶対にやっておいた方が良い!みたいなことって湊さんはなんだと思いますか?

湊:

やっぱり、その業種についてどれだけ興味持ってるかっていう、ハートの部分が一番大事だと思うんです。だから事業承継の前にできるだけその事業についての肌感覚を持っていると良いと思いますね。僕はもともと銭湯マニアで、経営的な部分は無知でしたが、オタクとしてすごい銭湯が好きで。全国の銭湯を巡って行脚して、かなりの数の銭湯に入りました。

斎藤:

まずハートが大事で、その上でたくさん行動すると。

湊:

例えば喫茶店をやりたいと思ったら、少なくとも100件回るとか。とにかくたくさん自分の目で見て、話を聞いて。その中で想像を膨らましていく。……でも実際の経営に落とし込んでみると、全然うまくいかないものなんですけれども。ただ、そういう経験があるかどうかで違ってくると思うんですよ。

斎藤:

経営のノウハウや、理論みたいなもの身につける必要はないですか?

湊:

経営の本は1年目のときに読もうとしたんですが、難しくて読むのやめちゃいました。でも散々体を動かした後の3年目くらいに再び読んだら、自然と理解できるようになりましたからね。その経験から言うと、頭でっかちになるよりも、一回身体を動かした方が近道です。

斎藤:

なるほど……。

湊:

ただ、体動かすのって、すごくしんどいですけどね。ある意味、経営者らしくない経営者ですが、僕の場合はそれがよかったんじゃないかなと思っていますね。

古くからある事業に新しい視点を加える事業承継のあり方

湊さんに話を伺って、第三者による事業承継は決して簡単なものではないことがとてもよくわかりました。しかし、事業承継をすると、古くからある事業に新しい視点を加えて、後世に残していくことができます。これは単に自分一人で新規事業を始めた場合には得られない意義なのではないでしょうか。

もしも、自分の大好きなものが街から消えていきそうだったら……? そのときには思い切って飛び込んでみるのもアリかもしれません。

画像提供:湊三次郎様

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