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ワイヤーロープの町工場がピクルスメーカーに!事業承継で家業をV字回復させた跡取りが軌跡を語る

NSW株式会社(大阪府泉佐野市)で代表取締役を務める西出喜代彦さんは同社の4代目。高校卒業後に上京し大学へ入学、その後も東京の企業に就職しましたが、2011年に家業で父親が経営する日本スチールワイヤーロープ株式会社(現・NSW株式会社)に入社。その後、ピクルスの加工・販売ブランド「いずみピクルス」を立ち上げました。

経営理念は「新しいアイデアで、みんなの笑顔をつくり、地域社会に貢献する」。1952年創業の “ワイヤーロープの製造加工”の町工場が、なぜピクルスメーカーに転換できたのか。西出喜代彦さんにその裏側を伺いました。

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西出喜代彦(にしで・きよひこ)

NSW株式会社 代表取締役社長
1979年生まれ。泉州の地場産業であるワイヤーロープ製造業を代々営んできた家に育つ。東京大学文学部および同大学大学院を経て、東京のIT企業に勤務。その後、家業の経営がピンチに陥る中、泉州が誇る地場野菜に着目し「いずみピクルス」の企画開発をスタート。テレビなどのメディアに取り上げられて話題となり、同社の新規事業へのチャレンジを成功させた。ピクルスづくりを通して、泉州野菜の深い魅力を全国に発信している。
Webサイト:https://idsumi.com/

ワイヤーロープ工場から生まれた「ピクルス」の新ブランド

――西出さんは大学卒業後、東京のIT企業に就職されています。その後実家に戻り、お父様が経営されていた日本スチールワイヤーロープ株式会社に入社したのは2011年のこと。まず家業に入られるまでの経緯を教えてください。

西出喜代彦さん(以下、西出):

もともと「小説家になりたい」という夢がありました。大学では留年もしていて、27歳まではニートみたいな生活でした。会社に就職したのも「さすがにこのままだと人生やばいかな」という気持ちから。しかし3年間ほど社会人経験を積んだタイミングで、父から「このままずっと東京おるんか」との連絡があったんです。私のほうも「地元で家業を手伝いながら、もう一度小説家にチャレンジできれば」なんて思惑があり、30歳のとき実家へ戻ることを決断しました。

――2011年のタイミングでは跡取りになるプランはなかったということですか?

西出:

父と私双方とも事業を継ぐプランはまったくなく、私は息子として父の会社の仕事を手伝う毎日でした。会社は、私たち家族と職人2人くらいで切り盛りする小さな町工場だったのですが、当時は業績も比較的堅調でした。

しかし、私が実家に戻ってすぐに父に肺がんが見つかりました。さらに同じくらいのタイミングで得意先工場から吸収合併のような話がありました。先方の工場で生産を行い、うちの工場は操業を停止するようなプランです。経営的に考えればそれほど悪い条件ではありませんでしたが、父自身は自分の病気のことも気になるし、独立してここまでやってきた思いもある。その話は父の一存で断ってしまいます。

結果として売上が下がり、会社を継続するための道を模索しました。もともと父には農園への憧れがあり「“工場”つながりで植物工場を始めてみては?」なんて新規事業の話が持ち上がったのもそのときです。大学の研究室に相談に行くなどして事業プランも練りました。その最中で知ったのが、大阪産業振興機構の「おおさか地域創造ファンド」です。

おおさか地域創造ファンド
大阪府内で「創業を行う者・事業所等を有する中小企業者」などを助成対象とした事業創出のファンド。市町村・商工会等の意見を取り入れた地域活性化プランを策定、採択されれば受けられる。

西出:

そのとき提出した事業プランが同ファンドの地域支援事業として採択され、3年間の資金調達を得ました。こうして2012年に生まれたのが、泉州野菜を中心としたピクルスブランド「いずみピクルス」でした。

NSW株式会社が加工・販売する「いずみピクルス」

新規事業として始めてわかったピクルスの優位性

――その際に提出した事業プランが「ピクルスの加工販売」。これまでのワイヤーロープ製造事業から考えると全く方向が違いますが、なぜピクルスだったのでしょうか。

西出:

府の支援制度を知ったときというのは父から言われていた農業のことで頭がいっぱいで、その延長線上で考えてみたんです。すると、大阪泉州には「水なす」という特産品がある。加工品として水なすの漬物も当地から販売されていて、私も上京時代、お世話になった方へお中元を贈ったことがありました。

しかし、よくよく調べてみると水なすのぬか漬けはうまく行ってても、「ぬか漬け」全体の売れ行きがよくなく、浅漬けやぬか漬けは「ニオイが苦手」「塩分が多い」「手間がかかる」などを理由に敬遠する若者も多いと知りました。そこでアイデアとして思いついたのが、大阪泉州の水なすをピクルスとして加工・販売するプランだったんです。

――ピクルスにはどのような優位性があるのでしょうか。

西出:

まずは賞味期限ですね。ビニール包装などで売られている水なすのぬか漬けは1週間くらいしか日持ちしませんが、ピクルスは、お酢なので日持ちが良いです。今うちで販売しているピクルスは冷蔵タイプでも製造から90日、常温タイプなら1年食べられます。

それにピクルスは普通の漬物より塩分は少ないですし、瓶詰めなのでご家庭での利便性も高い。ぬか漬けのような独特のニオイも少なく、ピクルスの瓶詰めは見た目も可愛いため、女性のお客様でも買いやすい。事業プランを練ってみるとピクルスは非常にポテンシャルが高いことに気づきました。泉州名物・水なすのピクルスから始まった当事業ですが、現在は長いもピクルス、たまねぎピクルス、フルーツピクルスなど、商品ラインナップは約100種類に及びます。

いずみピクルスは贈答用としても売れているという。「可愛い見た目などデザインにもこだわりました」と西出さん。

――ピクルスの加工・販売を始めてからも、ワイヤーロープの事業は行われていた?

西出:

はい。しばらくはワイヤーロープ事業を父が行い、私、母、姉、叔母ら西出家の家族・親戚チームがピクルスの商品開発・製造を行っていました。当初は10坪くらいの物置をリノベーションした調理場で生産を行っていましたが、徐々に評判を呼んだことから増産のための設備・体制を整備。その後、父が他界したことをきっかけにワイヤーロープ事業は操業を停止することとなり、現在は「いずみピクルス」1本で事業を展開しています。

補助金・助成金への申請が「私自身を鍛えてくれた」

――これまで経験のなかった加工食品事業を0から立ち上げて推進するのはとても大変なことに思われるのですが、特に大変だったエピソードはありますか。

西出:

やはり直営店をオープンしたときでしょうか。当時は人員が少なかったので、自分が1週間まるまる店に出ながら本社での開発・製造の指示等もしなければいけなかった。店舗運営の経験もなかったので死にそうでした(笑)。

あと印象深いといえば、肉フェスに誘われて出店したとき。「5,000パックくらい売れる!」と言われたものの、さすがにそこまで売れるか不安だったので3,000パック用意したら、1,000パックも売れなかった(笑)。在庫品の山を抱えてしまったので別のところで販売したりドレッシングにしたり……。あのときも大変でしたね。

――商品の認知拡大のためには、どのような取り組みを行ったのですか。

西出:

催事とかには積極的に出るように心がけました。あとは2014年、当時あったJR大阪三越伊勢丹(現在はLUCUA 1100)に初の直営店をオープン。そうした場所で商品をお召し上がりいただきながら地道に認知を獲得しました。特に百貨店の直営営業は、都会的な客層が商品にもマッチしていたように思います。その後はテレビなどにも取り上げていただけるようになり、5年目くらいには手応えを感じました。

――新規事業への転換を図るうえで、意識されたことはありますか。

西出:

国・府の支援制度を利活用することは最初から意識していましたね。新規事業を始めたそもそものきっかけが先述した府のファンドでしたし、私が4代目社長に就任したタイミングでは第二創業促進補助金(事業承継後の新事業・新分野への展開プランを応援する補助金)から補助金をいただきました。実はまだ事業を継ぐには早いと父も私も思っていたのですが、事業承継で補助金が出るのならと継ぐことにしました。

今はそうした支援制度専門のポータルサイトも充実していますが、当時はそうしたサイトもなかったので積極的にリサーチしました。我々のような第二創業を目指す者、新規事業を始めようとする者を応援してくれる補助金・助成金の仕組みは本当にいろいろなところにあります。そうした機会を見失わなかったことが、今の成功につながっていると思います。

――そうした支援制度では資金を調達できるメリットの他に、どのようなメリットがありましたか。

西出:

商談会・展示会・物産展の情報を案内してくれるなど、販路開拓のアドバイスもくれますし、専門家のサポートも手厚いと思います。そのたびイベントに出展してみると来場者・バイヤーさんからの評判もよく、その反応を見ながら商品開発を行えました。

あとこれは自分の性分に合っている部分だったのですが、信頼性のある機関からの“審査”を受けられる意義は大きいと思います。多くの補助金・助成金の申請には、事業計画書や財務書類を提出しなければいけません。私は東京で勤めていた会社で企画・新規事業の仕事を担当していたので、最初の「おおさか地域創造ファンド」での新規事業プランの策定を含め、アイデアをアウトプットすることは比較的得意でした。

しかしその後に申請した他の支援制度では、事業のこれからのこと、資金繰りのことなど、経営的な部分をイチから勉強しなければいけませんでした。申請のたび私自身が経営者として鍛えられたような気がします。

自身もピクルスづくりに携わっている西出さん。最初は家族・親戚の手も借りながら少しずつ事業を伸ばし、その後設備投資によって増産体制を構築した。

これから目指す会社の展望、そして個人の夢

――ピクルスの新規事業を始めてもうすぐ10年。改めてこれまでを振り返ってみていかがですか。

西出:

もちろん楽なことばかりではありませんでした。ものづくりの大変さ、特に食品をつくることの大変さは常々感じています。商品開発には失敗がつきもので、100種類ほどの商品ラインナップに充実されるまで、たくさんの試行錯誤を繰り返し、そのたび失敗を経験しました。

しかし、そうしたミスの積み重ねの上に、新たなアイデアは生まれる。たくさんの失敗はしておくべきだと思います。

――ピクルスの加工販売という非常にニッチな領域へのチャレンジでした。

西出:

そうですね。父のワイヤーロープ事業は最も堅調な時期で1億円の売上がありました。当時の水なすのぬか漬けがだいたい10億円規模の市場でしたから、その1割くらいを狙えば、1億円で少なくとも父の事業に追いつけると考えていました。おかげさまで今はその目標を達成できています。お客様からの反応も上々で、関西では「ピクルスといえば、いずみピクルス」と言われるような知名度も得られました。

――今後の展望は?

西出:

今は垂直統合型(開発・生産・販売すべてのプロセスを1つの会社で統合するビジネスモデル)を目指しています。2021年は農業を始めましたし、2022年からは飲食業も始めます。また、ピクルス加工の際に生まれるカット野菜を有効利用したドレッシングの生産も始め、食品ブランドとして「廃棄ゼロ」も目指したいと考えています。

もう1つ考えているのは、ご家庭でできる自家製ピクルスのサービス提供です。ネットで「ピクルス」で検索してみるとおわかりいただけると思うのですが、検索結果にはピクルスのレシピがたくさん出てきます。

当社はこれまでギフト用に瓶詰め商品、パック詰め商品を販売してきましたが、近年は自家製のニーズが高いと感じています。ご家庭で余る食材のナンバー1も野菜です。当社のピクルスは野菜などの種類だけではなく、漬けるピクルス液のバリエーションも豊富です。自宅でおいしいピクルスを作れる、さまざまな味を作れる「ピクルスの素」を当社が販売し、後は各々のご家庭で余った野菜で自家製ピクルスを味わっていただく。そんな体験をサブスクリプションのサービスとして提供したいと考えています。

――NSWのように全く新しい事業を始める第二創業者に向け、メッセージをお願いします。

西出:

私の場合、一度は会社勤めになったとはいえ、小さいときから父の背中を見て育ってきましたから会社員にはなれなかったと思います。とはいえ、父がそれまでに育ててきた会社という容れ物がなければ、新規事業を始めてみようなんてことも考えもしなかった。いろいろなタイミングが重なり、たまたま事業承継をしたという感覚です。

もちろん跡取りになりたくないという明確な意思があれば話は別ですが、実際に自分がやってみて感じたのは、国や行政のサポートが充実しているということ。私のような第二創業、あるいはベンチャー型事業承継は国をあげて支援してくれますから、チャンスも充実していると思います。しんどいことも多いですが、成長の機会もたくさん得られますし、それほど大きなリスクもなく始められる。もしも「新しいことをやってみたい、でも跡取りになるのは……」などと悩んでいるのならば、新しいチャレンジに踏み出していただきたいです。

――最後にもう1問。小説はいずれ書かれるおつもりですか?

西出:

「書きたい!」という気持ちは今も持っていますね。6歳と4歳の男の子に恵まれ、彼らを寝かせつけるときに創作のお話をしてあげるのですが、いつかそんな話を作品としてまとめてみたい気持ちもありますし、このまま経営者として成長していけば、また新たな創作意欲が湧き出てくるのかもしれない。いつかはそんな夢もかなえばうれしいです。

画像提供:NSW株式会社様

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