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損益通算の概要とやり方、注意点を税理士がわかりやすく解説【計算例付き】

所得税の確定申告の際、赤字があるときには「損益通算」という言葉が出てきます。文字通り読めば、損失と利益を通算することですが、損益通算の足し引きは単純ではありません。

その計算方法は複雑で、やり方を間違えるとまったく違う結果となってしまい、場合によっては修正申告をしなければならなくなる可能性もあります。

今回は損益通算のやり方について税理士の宮原裕一先生が解説します。

  • 損益通算とは、赤字の所得と黒字の所得を相殺する計算方法のこと
  • 所得の種類によって、赤字を損益通算できる所得とできない所得がある
  • 赤字の損益通算には一定の順序がある

知らないと損する!損益通算とは?

「損益通算」は、赤字の所得を他の所得の黒字と相殺する計算方法のことです。

所得(儲け)の計算は、その年1年間の収入金額から必要経費を差し引いて計算します。計算結果がプラスであれば黒字(利益)、マイナスであれば赤字(損失)ですよね。単純に考えれば黒字が税金の対象になるのですが、所得税の場合は少し話が複雑になるのです。

というのも、所得税の計算では所得を事業所得、給与所得など10種類に区別して計算するからです。そのため、給与所得は黒字だけど事業所得は赤字だった、ということもあり得ます。このような場合に、損益通算で黒字の給与所得と赤字の事業所得を相殺し、税金の計算をするのです。

損益通算できる所得

損益通算は、どの所得の赤字でも相殺できるわけではありません。また、相殺の対象が限定されるものもあるので注意が必要です。

赤字を他の所得と損益通算できるのは、次の所得に限られます。

所得の種類 内容
不動産所得 土地や建物の貸付などによる所得
事業所得 各種事業を営むことによる所得
譲渡所得 土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得
ただし、不動産や株式等には制限がある
山林所得 山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得

ただし、上記の中でも一定の赤字については、損益通算できない場合もあります。

損益通算できない所得

損益通算できないものについて見ていきましょう。

不動産所得の赤字で損益通算できない場合

不動産所得は、土地や建物の貸付などによる所得です。ただし、不動産所得で生じた赤字のうち、次のものは損益通算できません。

  1. 別荘等、主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産の貸付けに係るもの
  2. 不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額
    ※この金額については、青色申告決算書・収支内訳書のそれぞれ1ページ目に記載する欄があります。 

譲渡所得の赤字で損益通算できない場合

譲渡所得は、土地、建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得です。ただし、譲渡所得のうち、次の(1)生活に通常必要でない資産、(2)申告分離課税の株式等、 (3) 土地建物等は他の種類の所得と損益通算できません。それぞれ詳しく見てきましょう。

(1)生活に通常必要でない資産の譲渡
生活に通常必要でない資産とは、次のものをいいます。

  • 競走馬、その他射こう的行為(一般的にはパチンコ、競馬、競輪、競艇や宝くじの購入)の手段となる動産
  • 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産
    別荘など
  • 主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する不動産以外の資産
    ゴルフ会員権など
  • 生活の用に供する動産で、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨とう等

(2)申告分離課税の株式等の譲渡
申告分離課税の株式等の譲渡で赤字が出た場合でも、原則として株式等の譲渡以外の所得と損益通算することはできません。さらに、株式等の中でも、上場株式等と一般株式等の間では原則として損益通算することはできません。

なお、申告分離課税とは確定申告で所得税を計算する際に、一定の所得については他の所得と別計算で税額を計算する方式のことをいいます。(一方で、事業所得や給与所得など、各所得を合計して所得税を計算する方式を総合課税といいます。)

ただし、上場株式等に係る赤字については、申告分離課税を選択した上場株式等の配当等に係る配当所得と利子所得との損益通算をすることができます。また、上場株式等の赤字は3年間の繰越控除を受けることができます。

(3)土地建物等の譲渡
土地建物等の譲渡で赤字が出た場合でも、原則として土地建物等の譲渡以外の所得と損益通算することはできません。

ただし、マイホームの譲渡で一定の場合には損益通算できる特例があります。また、他の所得の赤字を土地建物等の譲渡による黒字と損益通算することもできません。

山林所得の赤字で損益通算できない場合

山林所得は、山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得をいいます。ただし、山林を取得してから5年以内に伐採又は譲渡した場合は、山林所得ではなく事業所得か雑所得になりますので、事業所得の場合は赤字を損益通算でき、雑所得の場合はできないということになります。また、山林を山ごと譲渡する場合の土地の部分は、土地等の譲渡所得になりますので、赤字は損益通算できません。

上記で挙げた不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得以外のもので、利子所得、配当所得、給与所得、雑所得、一時所得、退職所得については、赤字になったとしても、他の種類の所得と損益通算することはできません。

なお、同じ種類の所得内での損益通算は可能ですが、一定のものについては相殺の対象が限定されます。申告分離課税の先物取引に係る雑所得等(FX取引など)の赤字は、先物取引に係る雑所得等以外の所得と損益通算することはできません。ただし、赤字について3年間の繰越控除を受けることができます。

損益通算できる所得 損益通算できない所得
不動産所得の損失
事業所得の損失
山林所得の損失
譲渡所得の損失
上記のうちでも右のような制限あり
利子所得(赤字にならない)
配当所得の損失
給与所得の損失
退職所得(赤字にならない)
一時所得の損失
雑所得の損失
非課税所得の損失
生活に通常必要でない資産の所得の計算上生じた損失
土地建物等の譲渡所得の損失(マイホーム等については特例あり)
株式等の譲渡所得の損失
先物取引の雑所得の損失
……など

これで完璧!損益通算の計算方法

ここまで損益通算できる所得、できない所得の説明をしてきました。確定申告で損益通算をする際は、自由に通算できるわけではなく、次の①~④の順序に従って計算する必要があります。

経常所得のAグループ、譲渡・一時所得のBグループ、山林所得、退職所得など、同じ種類の所得の中で、黒字と赤字を通算します。例えば、複数の事業を営んでいる場合に、一方の事業が黒字でもう一方が赤字の場合は、黒字から赤字を差し引きます。

具体的な手順を説明していきます。

手順①:Aグループ(経常所得)の通算

まず、経常所得のAグループの、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得の6種類それぞれの黒字と赤字を通算します。なお、先に説明したとおり、この6種類のうち赤字を通算できるのは事業所得と不動産所得の2つだけです。その他の赤字は通算せずにゼロとして計算します。

手順②:Bグループ(譲渡・一時所得)の通算

次に、総合課税の譲渡所得(土地建物等や一定の株式等以外の譲渡)、分離課税の土地建物等の譲渡所得、一時所得を通算します。譲渡所得の総合課税と分離課税は次のように分類されます。

譲渡資産の種類 譲渡所得の課税方法
土地(土地の上に存する権利を含む)及び建物等 分離課税
株式等 短期所有土地の譲渡とみなされるもの 分離課税(土地建物等として)
ゴルフ会員券の譲渡 総合課税
上記以外の株式等の譲渡 分離課税
その他の資産   総合課税

そして、譲渡所得は、その所有期間によって短期・長期に区分されます。

譲渡所得の課税方法
譲渡所得(不動産、株式等)の分離課税 短期譲渡所得 不動産(譲渡があった年の1月1日において所有期間が5年以内)
長期譲渡所得 不動産(譲渡があった年の1月1日において所有期間が5年を超)
株式等(短期・長期の区分なし)
譲渡所得の総合課税(その他の資産) 短期譲渡所得 その他の資産(所有期間5年以下)
長期譲渡所得 その他の資産(所有期間5年超)

まず、分離課税の短期譲渡同士、長期譲渡同士で損益通算をし、赤字が残った場合には短期と長期とで通算します。それでも短期の赤字が残った場合は切り捨てられ、長期の赤字が残った場合は一定の特例対象の赤字を除いて切り捨てられます。

次に、総合課税の短期譲渡同士、長期譲渡同士で損益通算をし、赤字が残った場合には短期と長期とで通算します。さらに赤字が残った場合で、一時所得が黒字のときは、一時所得と通算します。

なお、一時所得が赤字の場合は、通算はせずにゼロとして計算します。

手順③:A・B間の通算

AグループとBグループとで損益通算する際、どちらが赤字かで順序が変わってきますので、注意しましょう。

・Aグループが赤字の場合
Aグループの赤字を、短期総合譲渡所得、長期分離譲渡所得、長期総合譲渡所得、一時所得の順に通算していきます。

・Bグループが赤字の場合
Bグループの赤字を、Aグループの黒字と通算します。

手順④:山林所得との通算

A・Bグループと山林所得とで損益通算しますが、どちらが赤字かで順序が変わってきます。

・A・Bグループが赤字の場合
A・Bグループの赤字を、山林所得と通算します

・山林所得が赤字の場合
山林所得の赤字を、経常所得、短期総合譲渡所得、長期分離譲渡所得、長期総合譲渡所得、一時所得の順に通算していきます。

手順⑤:退職所得との通算

A・Bグループ、退職所得までの損益通算で赤字が残っている場合は、退職所得の黒字と通算します。

以上の流れで、損益通算の計算を行います。

損益通算の具体例

では、ここまで説明してきた損益通算の計算方法につき、具体的にいくつかのパターンを紹介します。

事業所得の赤字と給与所得の黒字

例:会社員を辞めて個人事業主として開業した。本年の事業所得は100万円の赤字だったが、会社を辞めるまでの給与所得が300万円あった。

給与所得300万円-事業所得100万円=200万円

事業所得の赤字は他の種類の所得と損益通算可能なものですので、給与所得300万円と通算します。この場合、損益通算により、所得は200万円になります。

事業所得の赤字と土地建物等の譲渡所得の黒字

例:本年の事業所得は100万円の赤字だった。このほか、別荘を売却し、譲渡所得が500万円あった。

この場合、事業所得の赤字は他の種類の所得と損益通算可能ですが、土地建物等の譲渡所得の黒字に対しては通算できません。この場合、事業所得の赤字は本年の税金の対象外になり、別荘の譲渡所得500万円は分離課税として税金の対象になります。

なお、青色申告をしている場合には、事業所得の赤字100万円につき、翌年以降3年間赤字を繰り越して、以降の黒字と相殺できる「純損失の繰越控除」制度の適用を受けることができます。

雑所得の赤字と給与所得の黒字

例:会社員の傍ら副業を行っている。本年の給与所得は400万円だが、雑所得となる副業は経費の方がかさみ20万円の赤字となった。

この場合、雑所得の赤字は他の種類の所得と損益通算できません。この場合、雑所得の赤字20万円はゼロとして計算するため、所得は給与所得のみの400万円となります。なお、給与所得の方については雑所得等の給与所得以外の所得が20万円以下の場合、確定申告不要です。

譲渡所得の赤字と事業所得の黒字

例:個人事業主が事業用の車両を売却した。車両の売却損は30万円で、本年の事業所得は500万円だった。

事業所得500万円-譲渡所得30万円=470万円

事業用車両の売却は総合課税の譲渡所得になります。譲渡所得の赤字は、他の種類の所得と損益通算可能ですから、事業所得500万円と通算します。そして、損益通算により、所得は470万円になります。

上場株式等の譲渡所得の赤字と配当所得の黒字

例:上場株式等の売買を行っていたが、本年は100万円の赤字となった。このほか、上場株式等の配当所得が5万円と事業所得500万円があった。

この場合、株式等の譲渡所得の赤字は、原則として他の種類の所得と損益通算できません。

ただし、申告分離課税を選択した配当所得については通算することができます。

配当所得と譲渡所得の損益通算
配当所得5万円から譲渡所得の赤字100万円を差し引きます。上場株式等の譲渡所得で95万円の赤字が残ります。

配当所得5万円-譲渡所得100万円=-95万円

事業所得
上場株式等の譲渡所得の赤字は、上記特例を除いて他の種類の所得と損益通算できません。譲渡所得95万円の赤字はゼロとして計算しますので、本年の所得は事業所得のみの500万円になります。

なお、上場株式等の譲渡所得の赤字については、確定申告により翌年以後3年間の「譲渡損失の繰越控除」制度の適用を受けることができます。

損益通算の注意点

損益通算は、黒字の所得と赤字の所得がある場合の計算方法の話です。基本的にはルールに従った計算なので、メリット・デメリットはありません。

しかし、納税者が選択することができる特例については、あらためてメリット・デメリットを検討する必要があります。

上場株式等の損益通算

上場株式等の譲渡所得については、特定口座で源泉徴収ありを選択することで、確定申告不要とすることができます。

ここで、複数の特定口座があり、且つ、赤字の口座と黒字の口座があるときは、確定申告をすることで通算することができます。また、上場株式等の配当所得について源泉分離課税を選択すれば、こちらも通算の対象となります。

上場株式等の損益通算をすることのメリット

この場合、赤字をぶつけた分だけ、譲渡所得が減りますから、源泉徴収された税額が還付されることになります。

また、赤字の方が大きいため、通算して赤字が残った場合には、譲渡損失の繰越控除制度の適用も受けられます。

上場株式等の損益通算をすることのデメリット

上場株式等の譲渡所得を損益通算して黒字が残った場合、以下の点に注意する必要があります。

特定口座で確定申告不要としている場合には、上場株式等の譲渡所得の黒字は国民健康保険の計算に反映されません。ところが、確定申告で譲渡所得を申告した場合には、その計算の対象に入ってきます。

その結果、損益通算をすることで還付される税金よりも、保険料の方が上がってしまう可能性があります。また、高齢者の場合は窓口負担の割合が上がってしまう可能性があります。

また、配偶者控除や扶養控除など、所得の金額で判定する控除については、この黒字を加算した金額で判定します。譲渡をした人がこれらの控除対象の場合には、控除が受けられなくなる可能性があります。

確定申告時の注意点

確定申告をする場合には、計算の順序、作成する様式などいくつかの注意点があります。

所得控除の順序

所得控除とは、基礎控除や扶養控除、社会保険料控除など、納税者それぞれの状況に応じ、所得から一定額を差し引くことができる制度です。

所得税の計算では、事業所得や給与所得など複数の所得を合計して税率が決まる総合課税と、土地建物等、株式等の譲渡所得や山林所得、退職所得など、所得の種類ごとに個別に税額が決まる分離課税の2種類の計算を行います。

所得控除は、総合課税の所得金額から差し引き、引ききれなかったら短期譲渡所得、長期譲渡所得、一般株式等の譲渡所得、上場株式等の譲渡、上場株式等の配当等に係る配当所得、先物取引に係る雑所得、山林所得、退職所得で順次差し引いていきます。

分離課税や損失申告での様式

分離課税の所得がある場合には、通常の確定申告書第一表、第二表のほか、分離課税の計算をする第三表の作成が必要になります。

また、損益通算によって赤字となり、純損失の繰越控除制度などを適用する場合には、損失申告として通常の確定申告書第一表、第二表のほか、繰越控除の計算をする第四表(一)、(二)の作成が必要になります。

損益通算の計算は複雑。心配なら専門家へ相談を


損益通算は、赤字と黒字がある場合の計算方法です。単純に赤字と黒字を相殺するだけなら単純ですが、所得の種類によって赤字が切り捨てられるもの、本来は相殺できないが特例でできる場合があるもの、など計算が複雑です。不安な場合は、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

順序を間違えると数字が違ってくる可能性がありますから、赤字がある場合の所得税の確定申告は注意して行いましょう。

※記事内の各書式は、2021年9月現在、国税庁・税務署などで配布されているものです。変更される可能性があります。

photo:Getty Images

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