自宅で開業する!おすすめ業種から準備、手続き、注意点を解説

2024/01/16更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

オフィスを借りる必要のない自宅での開業。どのような業種が向いていて、自宅で開業する場合とオフィスを借りる場合とで、どのような違いがあるのでしょうか?

今回は個人事業主のケース中心に、自宅開業において注意すべきポイントなどを説明します。

POINT

  • 自宅開業ありきではなく、自分のやりたいビジネスが自宅開業もできるかどうかという点から判断する
  • 自宅開業は、テナント家賃や移動コストを抑えることができる
  • 自宅開業を会社形態で行う場合は、賃貸契約書で登記が禁止されていないかなど確認する

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自宅開業におすすめの業種5選

まずは、自宅開業におすすめの業種を紹介します。もちろんここに挙げた業種以外にも、仕事ができる環境さえ整えることができれば、自宅開業が可能です。

開業するからには、一人のプロとして仕事を引き受けるわけですから、それなりのスキルが要求されます。自宅開業ありきでビジネスを選ぶわけではなく、まずはどのような仕事がしたいのかということが出発点であることは言うまでもありません。その結果として自宅開業ができるビジネスであれば、選択肢の一つとして自宅開業という形態があることをまずは認識しておきましょう。

とはいえ、オンラインミーティングの浸透など、より一層仕事をする場所を選ばなくてもよい時代になってきています。ここで挙げたビジネスを参考にしつつ、自分がやりたいビジネスが自宅開業できるのかを考えてみましょう。

1人で開業できるおすすめの職種の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

おすすめの業種1.プログラマー

IT技術の進化に伴い、プログラマーの需要は年々高まっています。今では、特定の企業に雇用されずに、各企業のニーズに合わせて、プロジェクト単位で案件に携わる働き方も増えてきています。パソコンさえあれば自宅でも開発業務ができる環境を作ることもできますが、ディスプレイを複数台用意するなど、ある程度のスペースの確保は必要かもしれません。

おすすめの業種2.ライター・デザイナー

ライターやデザイナーも自宅開業しやすい業種です。パソコンや取材資料、あとは仕事をするためのスペースを確保できれば、自宅で開業することもできます。

おすすめの業種3.ECサイトの運営

通販というと大量の在庫を抱えるイメージがありますが、今では大手のECサイトを中心に在庫の保管や発送まで行ってくれるサービスを展開しているところもあります。そのため、販売したい商品などがあれば、在庫保管スペースを気にせずにECサイトで販売することも可能です。

おすすめの業種4.マッサージやネイルサロンなどの美容関係

マッサージやネイルなどのサロンを運営することは自宅でも可能です。ただし、マッサージなどは資格がないとできないサービスもありますので、注意しましょう。

おすすめの業種5.習い事の教室運営

人に教えられるような特技や技術があれば、習い事教室を自宅で開業することもできます。また、今の時代であればZoomなどを使ってオンラインで教室を開くこともできます。

自宅開業のメリット

自宅で開業することで、テナントの賃料などの費用や、通勤にかかる時間などを効率よく削減することができます。詳しく解説します。

メリット1.テナントの賃料などの費用がかからない

自宅で開業すれば、テナントの賃料などがかかりません(持ち家の場合)。毎月の家賃だけでなく、オフィスや店舗を借りる際の初期費用がかからないといったことや、水道光熱費やネット回線などの通信費用も家計と共通化できるので、出費を少なくすることができます。

さらに、毎月の自宅家賃の一部を経費化できるというメリットもあります。事業で使用している床面積の割合などで家賃を按分して、その分を「地代家賃」の科目で必要経費として計上できます。

一方、持ち家の場合はローンを按分して経費化するといったことはできません。この場合は自宅の購入費用の一部を減価償却費の形で必要経費に計上できますが、住宅ローン控除の点で検討事項があります。こちらについては後述します。

メリット2.移動時間を少なくできる

自宅開業であれば、オフィスと自宅の間を行き来する必要がなくなります。そのため、移動時間を節約して、その分仕事の時間に充てることができますし、移動のための交通費も節約できます。

自宅開業のデメリット

自宅開業をするには、メリットと同じように、デメリットがあるのも事実です。自宅開業をすることによるデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか?

デメリット1.プライバシー対策を行わなければならない

自宅をオフィスにするということは、名刺などに自分の住所を載せることになります。それを避けたいといった場合には、別途バーチャルオフィスを契約して、表向きのオフィスはその住所にするといった対策が必要になります。

デメリット2.仕事とプライベートの境目があいまいになる

これはメリットの裏返しでもありますが、自宅をオフィスにするということは、仕事の時間に自由度が増す反面、いつ仕事を始めて、いつ終わるのかを自分なりにコントロールしていく必要があります。家族がいれば、家族の協力も必要になるでしょう。

デメリット3.人を呼びにくい

取引先やお客様と打ち合わせするとき、自宅開業だと、相手を呼びにくいという点もあります。とはいえ、最近ではオンラインミーティングも浸透しましたので、こうしたデメリットは以前ほど感じないといった人も多いかもしれません。

自宅開業のために必要な準備

自宅開業する際、自宅が賃貸の場合、分譲マンションの場合、戸建ての場合それぞれで気をつけるポイントがあります。

自宅が賃貸物件の場合

まずは賃貸契約書を見直しましょう。多くの場合は居住用となっていると思います。

しかし、居住用だからといって、一切自宅で仕事をしてはいけないというわけではありません。おそらく自宅で開業するといっても、不特定多数の人が出入りするわけでもなく、仕事で使うからといって、特別な工事が必要なわけでもないでしょう。居住用の契約物件を仕事で使ったからといって、即契約違反にはなりません。実際個人事業主であれば、不特定多数の人が出入りするといった事情でもない限りは、特段の確認もなく、仕事で使っているケースが多いでしょう。

しかし、会社を設立して自宅を本店所在地にする場合には、事前に不動産会社を通して貸主に確認しましょう。そもそも賃貸契約書で「会社の登記をしてはいけない」という条項がある場合や、そうでなくても登記という記録に残る以上、念のために事前に問題ないかどうかを確認しておくべきです。

自宅がマンションの場合

自宅がマンションの場合も、個人事業主であれば特別な準備は必要ありませんが、会社を設立する場合には、マンションの管理規約で登記が不可となっていないか確認してみましょう。

自宅が戸建て住宅の場合

戸建てであれば、特に問題もありません。管理規約も賃貸契約書もありませんので、自分のやりたいように使えばよいでしょう。ただし、後述の通りで住宅ローン控除に影響することがあるので注意が必要です。

上記いずれのケースでも、自宅で開業する場合は業務スペースの確保も必要です。家の中でもノマドワーカーのように場所を選ばずに仕事をするといった人もいるかもしれませんが、多くの仕事ではある程度の仕事をするためのスペースの確保が必要になってきます。業務に集中できる環境を作るのも自宅開業をするためには非常に重要です。

自宅開業のために必要な手続き

自宅開業のために必要な手続きについてみていきましょう。

個人事業主として開業するための詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

手続き1.「個人事業の開業・廃業等届出書」の提出

自宅開業に限らずですが、個人事業主として開業すれば「個人事業の開業・廃業等届出書」(以下「開業届」)の提出が必要です。

開業届は開業したことを税務署に知らせる手続きです。提出が義務付けられている書類のため、開業したら必ず提出しましょう。

会計ソフトを使うなどしてしっかりと経理業務を行い、青色申告を望むのであれば「所得税の青色申告承認申請書」も開業届と合わせて提出しましょう。詳しくは「青色申告承認申請書とは?書き方や提出期限、提出方法について解説」をご覧ください。

青色申告の承認を受け、きちんと青色申告をすることで、最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。ほかにも3年間にわたって赤字の繰り越しができる純損失の繰越控除など、所得税の計算上さまざまな特典を受けることができます。

ちなみに、今までの説明は個人事業主が前提でしたが、自宅開業で会社を設立する場合には、登記が必要となります。

手続き2.事業用口座の準備

開業したら、事業用口座の準備も行いましょう。個人事業主であれば、すでに開設済みでそれほど使用していない口座があれば、その口座を事業用に転用してもよいでしょうし、「せっかく開業したからには屋号付きの口座を開設したい!」というのであれば、新たに屋号付きの口座の開設を申し込むのもよいでしょう。

ただし、屋号付きの口座を開設するためには、開業していることの証明用に開業届の控えのコピーが必要になる場合があります。あらかじめ、金融機関で必要となる書類を確認しましょう。

自宅開業する際の注意点

自宅開業をするにはいくつかの注意点があります。前述の準備のところで書いたように、賃貸の場合の貸主への確認も必要です。そのほかの注意点などをまとめました。

注意点1.自宅が住宅ローン控除を受けている場合

持ち家で自宅開業する場合には、事業用割合に注意する必要があります。住宅ローン控除を受けるための要件の一つに「床面積の2分の1以上の部分が居住の用であること」というものがあります。自宅の床面積の50%以上を事業のために使うとなると、1階を店舗に改装するような本格的なものになるでしょうから、この要件はさほど気にする必要はないでしょう。

ただし、居住用部分が50%以上だったとしても、事業用で使用している部分があれば、居住用部分に応じた割合のみ住宅ローン控除の対象となります。90%以上居住用であれば、すべて居住用として扱ってよいという特例があるので、居住用割合に応じて住宅ローン控除の対象となるのは、居住用部分が50%以上90%未満の場合になります。

ただし、ここで注意しておきたいのが、個人事業主の場合、自分の持ち家の家賃は経費計上できないということです。そのため、店舗用に改装しているなど、事業用であることが明らかでなければ、厳密に事業用の使用割合を算出して自宅の家賃を計上するということもなく、すべて住宅用として住宅ローン控除を受けて差し支えないでしょう。

注意点2.契約条件を確認する

すでに説明した通り、賃貸物件では、賃貸契約書で契約条件を確認しましょう。もちろん居住用で借りていたとしても、一切家で仕事をしてはいけないわけではありません。会社員も家に仕事を持ち帰ることがあるように、個人事業主であれば、家の一角で仕事をすること自体は何ら問題ないでしょう。

ただし、賃貸物件を改装して、例えばプライベートサロンやパーソナルトレーニングジムにするようなケースは、もはや居住用の範疇を超えているので、居住用で借りている場合は契約違反となるでしょう。このような不特定多数が出入りするようなビジネスを行う場合には、必ずその用途で借りるようにしましょう。

自宅開業する場合は住居の契約条件の確認や開業届の提出を忘れずに

オンラインミーティングの浸透など、年々自宅で業務をしやすい環境が整ってきています。自宅開業する場合には、賃貸・持ち家などの形態に応じて賃貸契約書や住宅ローン控除など、自宅開業ならではの検討すべきポイントがあるので、事前にしっかりと確認しておきましょう。

自宅開業までのおおまかな流れは次のようになります。

①事業内容を決める 自宅開業でどのような仕事がしたいのか明確にし、事業計画を立てる
②住居の契約やローンの確認 賃貸契約書や住宅ローンを見直し、自宅で開業する場合に問題がないか確認する
③事業を始める準備 備品を揃え、必要な場合は許認可を取得する
④必要書類の提出 税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」や「所得税の青色申告承認申請書」を提出する
⑤事業用口座の準備 事業用の口座を作る

また、確定申告の際には、自宅が賃貸の場合の家賃や、光熱費などを事業で使用している割合に応じて経費に計上できます。確定申告の際には、こうした自宅開業特有の経費も漏れなく計上して、確定申告で損をしないようにすることも重要です。

photo:Getty Images

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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