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「責任の定義から変えた」。組織の熱量をも取り戻した4代目社長に聞く、事業承継の成功ポイント

大阪府八尾市に本社を置く、大正年間創業の老舗企業・木村石鹸工業株式会社。現社長・木村祥一郎氏は大学時代、仲間とともにITベンチャーを立ち上げました。そんな最中、同社代表だった父・木村幸夫氏が2度の事業承継に失敗。それを機に木村氏は家業である木村石鹸工業株式会社へ入社し、2016年には4代目社長に就任しました。

同社への入社以降、会社のブランディング方針を一新し、新規事業を立ち上げ、数々の変革を成し遂げています。事業承継の前後に起こった組織上の課題、そしてそれらの課題に対してどのような施策を講じたのか。オンラインでたっぷりとお話を伺いました。

木村祥一郎(きむら・しょういちろう) 木村石鹸工業株式会社 代表取締役社長

1972年、大阪府八尾市生まれ。1995年、大学時代の仲間数名と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 イー・エージェンシー)を立ち上げる。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月に取締役を退任し、家業である木村石鹸工業株式会社に入社。2016年9月、4代目社長に就任すると、OEM中心だった事業モデルを変革し、ハウスケア&ボディケアブランド「SOMALI(ソマリ)」などの自社ブランドをリリース。

木村石鹸工業株式会社コーポレートサイト:https://www.kimurasoap.co.jp/
木村氏のnote:https://note.com/yudemen
木村氏のTwitter:https://twitter.com/yudemen

老舗企業の長男に生まれるも「跡取りになるつもりはなかった」

——木村さんは1972年、木村石鹸工業株式会社(以降、木村石鹸工業)の長男として生まれました。当初はお祖父様やお父様が営まれていた家業を継ぐ意思がなく、大学時代にITベンチャーを立ち上げたそうですね。

木村祥一郎さん(以下、木村):

はい。1995年の大学4年のとき、大学の先輩と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 イー・エージェンシー)というIT企業を立ち上げました。18年間、副社長として商品開発・マーケティングなどを担当しています。

時代はWindows95が出たばかりのインターネット黎明期。今流行りのスタートアップのようなイケイケな感じではなく、価値観の合う仲間と一緒に仕事をするための起業でした。居場所づくりという色合いも強かったと思います。

——本当に家業を継がれる気はなかったのですか?

木村:

長男だったので、自分が物心つく頃には父から「後を継ぐのはお前だ!」と幾度となく言われてはいました。「学校なんか行かなくていいから早く継げ!」くらいの勢いでしたね。でも、同じ境遇なら誰しもそうだと思うのですが、自我が目覚めてくると「人生が決められていること」に抵抗したくなるじゃないですか。

私が子どもの頃は身内だけでやっているような小さな会社だったので、家業がとても狭い世界のようにも思っていました。中学生くらいのときには「継がない」との意思を固め、その後はカルチャーに傾倒。クリエイティブな世界へ憧れを抱き、大学に進学しました。

——「継がない」ことを告げたときお父様の反応はどうでしたか?会社を作ったときにも反対はなかったのですか?

木村:

はじめは「反抗期だろう」くらいに思っていたと思います。しかし大学に進学し、仲間と作った会社の事業が軌道に乗るにつれ、徐々に諦めていったようです。起業に関してもまったく反対はなかったですね。むしろ「家業を継いでほしい」という思いとは別の軸で、起業そのものは「どんどんやれ」という感じで歓迎してくれました。もしかしたら「どうせ失敗するだろ」くらいに思っていたかもしれませんが(笑)。

でも今思うと、父は継がせることを完全に諦めていたわけではなかったかもしれません。というのも父が、持っていた株を少しずつ私に譲渡したりしていて。いつか帰ってくるときの準備を裏では行っていたので、密かに期待をしていたのかもしれませんね。

木村石鹸工業では現在もなお、職人の方々が手作業で「釜焚き」による石鹸の製造を行っている。(画像提供:木村石鹸工業株式会社様)

二度の事業承継失敗。息子として放置するわけにはいかなかった

——木村さんがITベンチャーで活動されていた頃、お父様は何度か事業承継に挑まれたそうですね。

木村:

長男である自分が跡取りになってくれることを諦めたうえ、体調的な理由から退任を余儀なくされた父は、当時の工場長に最初の事業承継をしました。実際その方は7年間、当社代表として活動していただいています。

それまでは業務用商品がメインだったのですが、その方の代から家庭生活用に進出。一時期は業績も伸びたようです。しかし父との方向性の違いから徐々に決別し、一度目の事業承継はうまくいきませんでした。

その後、父から相談を持ちかけられた私は、父と同世代で、ある化粧品業界での実績と役員経験のある方を父に紹介します。その方は執行役員として会社の制度づくり・組織としての地盤固めなどに注力していただきました。

しかし、いわゆる町工場的な“家業”から現代的な“企業”への急転換で、これまでの父の方針と折り合いがつかないこともしばしば。こちらも結局うまくはいきませんでした。

——二度の失敗をきっかけに、木村さんが戻られることになった?

木村:

二度目は自分が紹介した人物でしたし、何より息子として、さすがにこのまま放置するわけにはいかないと思いました。ただ当初の思惑は、京都にあるベンチャーの事務所の面倒を見ながら、大阪にある木村石鹸もお手伝いすること。腰を据えるつもりはなく、家業の経営を立て直したらまたベンチャーに戻ってこようと思っていたんです。

しかしその話をベンチャーの社長(現在のイー・エージェンシー代表取締役・甲斐真樹氏)にしたら「そんな片手間で社員がついてくるわけがない」「何年かでも集中しなければうまくいくはずがない」と怒られてしまった。たしかにそうだな、と思いました。ベンチャーのほうは軌道に乗り、私が離れてもなんとかなりそうでしたし、取締役を退任して木村石鹸工業に入りました。

それでも「いつかITに戻れたら」なんて思いも消えていなかったんですよ。自分ではない別の後継者にきちんと事業承継できれば、自分がまた家業を離れることも可能なはず。でも2013年6月に入社してから16年9月に代表に就くまでの3年間が非常に面白くて。次第にITへの未練はなくなっていきました。

ポジティブな会社コミュニティのつくりかた

——木村さんが戻ってきた当時、社内はどのような状況だったのでしょうか。

木村:

まず驚いたのは、目標や予算、計画などが全くなく、社員のほとんどが売上以外の数値を把握していなかったことです。数字もどんぶり勘定であることが多く、「経営」がなされていないと思いました。

また、業務の非効率さも感じました。例えば、当社の業務用商品をご購入されているお客様には、毎月2人の営業マンが1週間くらいをかけ、自分の足で周りながら集金していました。

彼らの言い分は「会いに行くことが営業になる」「これが木村石鹸の良き文化だ」。でも普通に考えてこれってムダですよね。口座振込にしてもらえば集金にかけている1週間を丸々別の仕事に使えます。

実際、口座振込に変えてもお客様からのクレームはほとんどなくスムーズに移行できました。

——そうした「古い文化」「古い意識」を変えていった?

木村:

それに尽きると思います。特に父が2回目の事業承継をしようとしていた期間中は会社の空気も良くなかったようで、「暗黒時代」とも揶揄されて……。そのころに根付いた「責任を取りたくない文化」が社内に蔓延していましたね。

当時は20数名の小さな会社なのに、細かなこともいちいち私のもとに稟議書が回ってくる。そこには役職を持つ社員のハンコがずらりと並んでいました。「責任を取りたくない」文化の表れですよね。

その後、稟議書は廃止しましたが、一事が万事こんな具合。なので私が特に注力したのは「責任のあり方」の再定義でした。

すなわち、皆さんがやるべきは“果たす責任”である、ということ。“取る責任”のほうは私たち経営陣がやるから失敗してもいい、最後までやりきれ――。そんなことを伝えながら、会社の環境を整えていきました。

社内の反発も大きかった自社ブランドが、名だたる企業の注目を集める存在に

——木村さんが入社して2年後の2015年には「SOMALI(ソマリ)」という家庭用液体石鹸のハウスケア&ボディケアブランドを立ち上げています。

木村:

当時の木村石鹸工業の主力はOEMを中心とした業務用商品。自社ブランド立ち上げには社内からの反発もあったんです。ブランドのお披露目の際「こんなの誰が買うんだ!」と言われたのを覚えています。

木村石鹸工業が2015年に立ち上げた家庭用液体石鹸のハウスケア&ボディケアブランド「SOMALI(ソマリ)」(画像提供:木村石鹸工業株式会社様)

——なぜそんな反発が?

木村:

最たる理由は「価格帯」と「既存市場」のミスマッチですね。

SOMALIのラインナップは台所洗剤から始めたのですが、小さなボトルでも1,200円くらいするハイブランドな商品です。もちろん天然由来で高品質だからこその高価格帯なのですが、OEM製品や業務用製品の市場を相手にしてきた社員たちからすれば「売れるはずがない」と思うわけです。だから「取り扱いたくない」「営業の仕方がわからない」と。

——風向きが変わったきっかけは何だったのですか?

木村:

インテリアデザインの展示会に出展したことです。もともと僕らの家庭用洗剤領域は、出るとすれば生活雑貨の展示会が多かった。なので、最初は社内から「なぜインテリアデザインの展示会なんかに」と言われました。それでも営業マン全員を展示会に連れて行ったわけですから、「こんな商品誰が興味持つんだ」と出展当日になってもみんな渋っていたんです(笑)。

しかし結果は、初日から大盛況。おしゃれな椅子とか照明が並ぶ展示会に、見たこともないような「台所洗剤」があるのですから、バイヤーにとってインパクトは大きかったと思います。

展示会では名だたる販売店にもお声がけいただきました。興味を持ったバイヤーさんに自社のことを紹介すれば「そんな会社があったのか!」「すごい技術を持っている!」なんて驚かれます。これは社員にとってこれまでに得がたい反応・体験だったはずです。

その日から確実に風向きが変わりました。

——会社の文化、制度、そして新規事業。徐々に仲間を増やしながら木村石鹸工業を変革していった印象です。

木村:

きっと何事もそうだと思うのですが、今までの常識からすればあり得ないチャレンジを行うとき、それをポジティブに受け取る人が100人のうち10人いるとしたら、ネガティブに受け取る人も10人います。しかし、このネガティブ層を排除しても意味がありません。また次のネガティブ層が出現するだけでしょう。

ただ、その中間に「どちらでもない」「反応を見ている」そんな日和見的な人が80人いる。もしも彼らがネガティブ層の意見に引きずられると、コミュニティはうまく機能しないでしょう。だから中間層に対して「なんか面白そう」と思ってもらい、ポジティブな方向を向いてもらえればうまくいくと思いました。

経営陣も一般社員も分け隔てなく対面でのコミュニケーションができる環境を整備し、1人ひとりとの対話が行える環境をつくることが大事だと思います。

「本気で髪を良くしたい」という思いから生まれた、傷んだ髪やくせ毛の悩みを持つ人のためのシャンプー「12/JU-NI(ジューニ)」。開発者主導でアイデアと熱量に富んだ商品が次々と生まれているという。(画像提供:木村石鹸工業株式会社様)

事業承継は変革のチャンスである

——木村石鹸工業のような事業承継は、近年「ベンチャー型事業承継」と呼ばれています。そう言われていることについて、木村さんはどのように感じていますか。

ベンチャー型事業承継
家業がもともと保有していた経営資源を用いながら、若手の後継者が、新規事業、業態転換、新市場参入など新たな領域に挑戦し、新たなビジネスを展開すること。

木村:

私が子どもの頃にその言葉があったら、跡取りになるのを嫌がっていなかったのかもしれないです(笑)。「跡継ぎ」とか「跡取り」という言葉にはなんか“親の七光り”的な「道が決められたもの」みたいなイメージがつきまといますが、「ベンチャー型事業承継」からは主体性を感じるのですごくいい言葉だと思います。

事業承継とベンチャーは本来まったく異なります。誤解を恐れずにいえば、「0→1」をやらなければいけないベンチャーに比べると事業承継は”楽”です。もともとそこには基盤・資産・リソースがある。新規事業・業態転換・新市場参入をするにしても、まったくのゼロベースから始めることは少ない。

当社でも新規事業・業態転換・新市場参入の施策として自社ブランドを立ち上げましたが、私は売り方や見せ方を変えたに過ぎません。元来から商品を「作ること」はできたはずなんです。ゼロからメーカーを立ち上げるとしたら、こんな簡単にはいかなかったでしょう。

——変化はちょっとしたきっかけから始められる、ということですね。反対に変えてはいけない部分はありますか。

木村:

木村石鹸の場合は、祖父や父から感じてきた“思い”の部分ですかね。当社には「家族を愛し仲間を愛し豊かな心を創ろう。」「質素で謙虚 報恩の心で品性を創ろう。」などの社訓があるのですが、こうした価値観のようなものは決して変えてはいけないと思います。

また、今後の会社の行く末に明確なビジョンみたいなものがあるわけではないのですが、“文化祭の前”みたいな状態はずっと続けていきたい。みんながぶつくさ文句を言っていたとしても熱量が途絶えない、そんな組織文化を維持したいと考えています。

——一度は「跡取りにならない」と決断しながらも事業承継をしたお立場から、最後に“跡取り”の皆さんにメッセージをお願いします。

木村:

私から申し上げられることがあるとすれば「事業承継はチャンスである」ということです。歴史ある会社であればあるほど、新しいことにチャレンジすることへの抵抗感があるとは思うのですが、時代に応じて事業のかたちを変えていかなければ成り立ちません。その変えていくきっかけとして事業承継はベストなタイミングだと思います。

もし迷っている方がいれば、事業承継というチャンスに飛び込んでみても良いのではないでしょうか。

画像提供:木村石鹸工業株式会社様

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