起業は失敗しても大丈夫「Forbes 30 Under 30」選出の起業家が語る、苦悩と挑戦の3年間

2023/12/04更新

この記事の執筆者弥富 文次

AIを中心としたDX人材の育成から実運用まで一気通貫で支援する株式会社アイデミーの代表・石川聡彦(いしかわ あきひこ)さん。創業は2014年6月ですが、現在のサービスに至るまで、「弁当のデリバリー」「ポイントカードアプリ」「キュレーションメディア」の3サービスを立ち上げ、そのどれもがうまくいかなかった過去があります。

周りの起業家が次々と大きな成功を手にするなか、「自分にはビジネスセンスがないのだろうか……」と悩んだ時期もあったという石川さん。しかし、幾度もの失敗を糧に、現在の人材育成サービスを成功させました。

2021年にはアジア各国で活躍する30歳未満の先駆者のひとりとして「Forbes 30 Under 30 Asia 2021」にも選出。現在は経営者として世界的にも注目されていますが、自らの体験から「起業に失敗しても大丈夫」と語る石川さんのこれまでを取材しました。

石川聡彦 株式会社アイデミー 代表取締役執行役員社長CEO

東京大学工学部卒、同大学院中退。在学中、研究・実務でデータ解析に従事した経験を活かし、AIを中心としたDX人材育成サービス「Aidemy」や機械学習モデルの実運用支援サービス「Modeloy」を開発・提供している。近著に『投資対効果を最大化する

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勢いで起業も3度事業をクローズ……石川さんの挑戦の3年間

石川さんはブログ新規タブで開くで、現在の事業にいたるまで「弁当のデリバリー」「ポイントカードアプリ」「キュレーションメディア」の3サービスを立ち上げたものの、すべてうまくいかなかったと語られています。まず、それぞれの概要をお聞かせください。

石川聡彦さん(以下、石川):学生時代の起業当初に立ち上げたサービスは、漫画やガジェットの魅力をわかりやすく伝える「モノに特化したキュレーションメディア」でした。それらの情報を、グノシーやスマートニュースのようなパーソナルレコメンド機能を持ったスマホアプリで提供する事業です。

次の「弁当のデリバリー事業」は、かっこよく言えばUberEatsの走りのようなビジネスですね。

そして3つ目のポイントカードアプリのビジネスでは、来店したらポイントが自動的に貯まるアプリを開発しました。「飲食店のポイントカードが財布の中でかさ張って邪魔だ」という課題に目をつけたんです。

どれも魅力的なビジネスに思えるのですが……。なぜ失敗したのでしょうか?

石川:最初のキュレーションメディアに関しては、単純に自分が天狗だったんでしょうね。起業した当時は大学3年生で、キュレーションメディアやパーソナライズのアプリが伸びていくと聞いて、考えるより先に足が動いたのが起業のきっかけです。

しかし、キュレーションメディアには正攻法があって、そのメディア運営のノウハウを当時の自分は知らなかった。だから結局ユーザーがつかず、1年ほどで事業を閉じることになってしまったのです。

最初の事業の失敗から、自分のアイデアをメインに練ってもあまり良いサービスにはならないと学びました。そこで次の「弁当のデリバリーサービス」では、既に海外で流行していたビジネスモデルを参考にしました。

ただ、これも今考えると浅い考えでしたね……。このビジネスは成功のために大きな先行投資が必要なこともあり学生起業家には難しいテーマで、サービスは1年ほどで終了しました。

3つ目のポイントカードアプリは、その前のデリバリー事業を経て飲食店とのつながりから飲食店の経営課題を聞くことができたので、それを解決してみようと始めました。しかし、このサービスも1年足らずでクローズしてしまいました。

いま考えると、ポイント発行元の店舗のニーズが非常に薄く、成功には厳しい営業が必要です。これも学生起業では難しいテーマだったと思いますね。

なるほど……。ただ、大学3年生時に起業する際は、失敗しないための準備も行っていたんですよね?

石川:そうですね。まず起業前の半年間ほど、いくつかのビジネスコンテンストに出場していました。その過程でメンターの方に指導していただき、起業に必要なものの考え方を学びました。また、同じビジネスコンテストに出場して起業した先輩の方にアポを取って、どういう本を読んだか、どういうことに気をつけたかなどを聞いていましたね。そのおかげで起業に対する解像度を上げることができたと思います。

起業資金の調達については、再現性のない手法なのですが、ビジコン優勝をきっかけに2,000万円ほど融資をしていただいたのです。それを会社の手持ち資金にしました。

ビジコンでの優勝もあり、自分は成功できるはずだという自信もありましたね。

ということは、起業当初はあまり失敗する可能性を想定されていなかったのですか……?

石川:いえいえ、そんなことはありません。当然、失敗は怖かったですよ。特に融資を受けるときは非常に悩みましたね……。

社債として投資していただいたので、法律的には個人が債務を負うことはありませんでした。でも、もし僕が返済できなかったら投資家の方が100%負債を負ってしまいます。学生起業の支援をしている方だったからこその仕組みでしたが、投資してもらう以上、やり通さなければいけないという道義的な責任があります。甘えられないという気持ちが強かったですね。

だから売上が立たない初期の3ビジネスをやっている間は苦しかったです。ただ、「それでも頑張ってくれればいいよ」と投資家の方に言っていただけたのは、次のチャレンジをする上で大きかったですね。

支えになるお言葉ですね。では、万が一起業に失敗したときのリスクヘッジはなにか行っていましたか?

石川:新卒採用のサマーインターンには参加していました。万が一立ち上げた会社がにっちもさっちも行かなくなったら、ひとつの選択肢として就職することもあり得ましたね。今考えれば弱気な態度だとも思わなくもありませんが、完全に退路を断つのも怖かったんです。だから、できるだけ複数の選択肢を持ちながら起業しました。

リリース後3ヶ月でユーザーは数名に……。すぐ事業転換すべきだった

それぞれのサービスを実際に始めてみたとき、立ち上げた後でわかったことにはどんなものがありましたか?

石川:そうですね……。一番は、サービスの規模拡大の可能性にギャップがあったと思います。3サービスとも、サービス開始をしてから3ヶ月後には1日に数名しか使ってもらえない状態になっていて。どれも1日の利用者が1,000名とか10,000名とかで成り立つサービスなのに、桁が2個も3個も足りなかったのです。

その原因は何だったと思いますか?

石川:思いあたる原因はいろいろありますが、過去の3サービスは学生起業としてやるには微妙なテーマだったなというのが一番ですかね。

学生起業は基本的に、口コミで広がるサービスでないとうまくいきません。なぜなら学生は通常、認知を広げる方法を知らないからです。ノウハウもなければ、ノウハウのある方を連れてくる財力もない。だから過去の3サービスはうまく行かなかったし、いち早くクローズしてよかったなと思いますね。

今となって思うのは、学生起業の強みを活かすには事業の方向転換を高速で繰り返すことが一番のやり方だということです。学生起業では、数年かけて作り込んだサービスであっても、ユーザーに使ってもらえないリスクが大いにあります。

だからこそ、2、3ヶ月ほどでサービスを開発してリリースし、ユーザーの反応が悪ければすぐに事業の方向転換をするのが重要です。僕は年1回のペースで事業転換をしましたが、それでも今考えると遅かったと思いますね。

アイデミーのオフィス風景

自分にはビジネスセンスがないかも、と悩んだ過去

事業をクローズしたあとはやはり大変でしたか? たとえば、借金を抱えたり、人間関係が悪くなったり……といったことはあったのでしょうか。

石川:僕は基本的に悪い話を忘れるので、正直なところもうあまり覚えていないですね……(笑)。ただ、クローズのタイミングで苦しかったのは事実です。ビジネスアイデアを提案したのは僕でしたし、せっかく開発したアプリが無用の長物になってしまったことで、開発メンバーや営業メンバーの努力を無に帰してしまう申し訳なさがありました。

ただ、廃業ではなく事業の転換を繰り返していたことで、会社の借金額に影響がなかった点は恵まれていました。それに会社の正式なメンバーは僕ひとり、あとは学生インターンで業務を回していたため、月々に減っていく金額は数十万円程度。加えて当時は受託開発も多少行っており、売上もいくらかはあったんですね。当時僕自身の給料はほぼなしです。それで資金的には3〜4年やっていけるだけの体力があり、負債を気にする段階ではなかったのも大きいです。

それよりも、僕自身の精神的ダメージが一番大きかったですね。自分にビジネスセンスがあるかどうかが見えなくて。センスがないのに事業家を続けるのは辛いですし……。最初の3年間はそこが一番苦しかったです。

自信を失って、それでも続けられた理由は何だったのでしょうか?

石川:一番大きな理由は、身近な僕の友人が成功していたからですね。当時はオフィスにあまりコストをかけたくなかったのもあり、シェアオフィスに入居していました。その同じオフィスにいた学生起業家の仲間たちが、ビジネスに成功して売上が立っていたり、すごい金額で会社を売却していたりしたんです。

でも、仕事のやり方や雰囲気を横目で見ていても、自分と比べてそんなに変わらないと思えました。自分に才能がないと決定づけるくらい、明確な差は見えなかったんです。自信がなくなるときはよくありましたが、「あいつができるんだから自分もできるだろ!」という負けず嫌い心があったからこそ、チャレンジし続けられたんだと思います。

なるほど……!

石川:あとは、既に成功されている起業家の先輩から、数年間で事業転換を繰り返した上で現在のサービスが生まれたというお話をよく聞いていました。だからひとつのサービスをクローズしたとしても、あまり気にしなくて良いと思えたのが大きかったですね。

「起業に退路を断つ必要はない」――今だからこそ確信を持って言えるアドバイス

現在の「Aidemy」を始められたときは、今までと違う感触や手応えのようなものを感じられましたか?

石川:ぜんぜん違いましたね。2017年の12月20日に現在のWebサービスをローンチしたのですが、その後一切プロモーションをしなくても、3ヶ月後にはユーザー数が約10,000名まで伸びたのです。これが1つ目の違いです。

2つ目は、ローンチの3ヶ月前に既に「AIプログラミングのオンライン家庭教師サービス」という試作版をリリースしていて、ニーズがあることを把握できていた点です。この試作版は、AIを勉強するためのおすすめ本やコンテンツを紹介し、1ヶ月10万円で学習のサポートを行うサービス。プレスリリースのみでプロモーションは行いませんでしたが、それでも5〜10名の方にお申し込みいただき、数百万円の売上が立ちました。それで、この分野にニーズがあることを早々に検証できていたんです。

ビジネスアイデアを形作る際にも、過去の3サービスと違った点はありましたか?

石川:はい、アイデアを投資家に選んでもらいました。最初の3つは自分で考えて始めましたが、4つ目はしっかりプロに見てもらおうと思って。

僕は大学時代にAIを研究していましたが、当時はAIがビジネスの種として良いという確信はありませんでした。しかし投資家の方から「AIはこれから伸びる分野で、可能性がある」とアドバイスをいただきました。だから事業選定にも自信を持って始められましたね。

ときに自信を失いながらも幾度もの事業転換を繰り返し、ビジネスを拡大させた今、かつてを振り返ってみてどのような考えをお持ちですか?

石川:トライアンドエラーを短い期間で繰り返すことができたのは良かったと思います。エジソンが何万回と実験に失敗してようやく新発明に成功したように、僕も失敗を恐れない「科学者マインド」を常に大事にしてきました。

僕の場合はビジネスにおいてどうしてもやりたいテーマがなく、それもあってたくさん事業転換してきました。一方で、絶対にこの課題を解決するんだという意志を持つ起業家の方もいます。そういう方と比べると、「自分の落ち着かない感じって恥ずかしいな……」と自己嫌悪に陥ったときもありました。

でも今振り返ると、そんなことはぜんぜん考えなくて良かったと思います。こだわりがないことも起業家の強みのひとつです。当時の自分にアドバイスしてあげたいですね。

あと、何かあっても必要以上に凹まないことは大事ですよね。現代は様々な経験がインターネットに溢れすぎていて、歴史や経験から学ぶのはとても難しいです。だから、自分の経験の回数を増やし、いかに速く改善できるかが、大切だと思います。

だからある種の経験や失敗は、それ自体が問題なのではなく、そこから教訓を学べるかどうかが大事だと思います。その上で、いやなことはスパッと忘れるというのがいいんじゃないでしょうか。

学生時代に起業されたことはご自身のキャリアとして良かったですか?

石川:YesかNoかというところでは、両方の回答があります。また、現在まだ28歳で、答えを出せる歳ではないという思いもあります。ただ、学生起業は基本的におすすめです。学生はトライアンドエラーが許容される時期。ノウハウやネットワークのなさは弱みですが、学生起業を支援する動きは多々あり、いくらでもリカバリーできます。最悪の場合、うまくいかなかったら就職するという選択肢も残されています。

一方でNoと思う側面もあります。その理由は、少なくとも2021年現在、Webで完結できるテーマが狩りつくされているからです。医療×AIや製造業×AIなど、特定の業界と組み合わせるビジネスが求められており、これらは会社のなかで経験を積むことでマネタイズのポイントが見えるテーマです。ゼロイチで起業できるテーマが僕の起業当時と比べて少なくなっているのが現状でしょう。

最後に、これから起業を考えている方にアドバイスをお願いします。

石川:検証の回数を増やすのがおすすめです。僕がもし今サラリーマンであれば、退路を断たずに自分のやりたいビジネスを検証する方法を考えます。半年や1年というスパンではなく、2,3ヶ月で開発できるミニマムなプロダクトを作って、ローンチしてみる。そして50万でも100万でも売上が立てば、完全に事業化を行う、というかたちです。

起業するのに退路を断つのは必須ではないと思います。そういうことを言うと、もしかしたら、「全身全霊をかけて起業するから成功する」という考えの先輩方から「心意気を感じない!」と怒られてしまうかもしれません(笑)。でも、自分だったらそうします。僕の場合もそういう起業でした。実体験のひとつとして、僕ならそんなアドバイスができるかなと思いますね。

この記事の執筆者弥富 文次

93年生まれの編集ライター。大卒でWebメディア系企業に勤務し、その後フリーランスに。
手がけた領域はビジネス(市場調査やマーケティング、データ分析)やエンタメ(ゲーム)、読書など。

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