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日本人ドイツ人夫婦の陶芸作家ユニット「studio wani」が、日本の伝統工芸でビジネスに挑み続ける理由

数ある起業分野の中でも、もの作り、それも伝統工芸でとなるとなかなか難しそうなイメージがあります。作品作りを生業とする職人や工芸作家が起業して、事業を継続していくには何をするべきか、どんな心構えが必要なのでしょうか?

今回は、長崎県波佐見町の伝統的な焼き物「波佐見焼(はさみやき)」の陶芸作家ユニットで「studio wani(スタジオワニ)」を運営する綿島健一郎さん・ミリアムさんご夫妻にお話を伺いました。

綿島ミリアム

「studio wani 」代表。1983年ドイツに生まれる。高校生の頃から陶芸の魅力にとりつかれ、陶芸家になるために焼き物と日本語の勉強に打ち込んできた。
HP: studio wani
Twitter:studiowani
Instagram:studiowani

綿島健一郎

1982年熊本県に生まれる。化学が得意で薬科大学に進学するも中退、料理を勉強する。最終的に焼き物が性に合うと気づき、陶芸の道へ。

経済的にも、子育ても。ゆとりある暮らしを目指して独立を決意

――ミリアムさんはドイツから留学生として来日されたそうですが、日本へ来た理由は何だったのでしょうか?

綿島ミリアムさん(以下・ミリアム):

焼き物の勉強をしたくて来日しました。陶芸自体は、ドイツにいた頃に本を見て興味を持って、そこから始めました。当時教わっていたアメリカ人の先生が益子で修業した方で、「日本に行ってみたほうがいい」とアドバイスをもらったのがきっかけで、九州の学校に留学しました。

――健一郎さんのほうは、もともと料理の仕事をされていたとか?

綿島健一郎さん(以下・健一郎):

はい。料理が好きで、大学中退後に飲食店で料理のアルバイトをしていたのですが、仕事が大変で身体を壊しかけてしまったんです。退職後に別のバイトも経験しましたが、最終的に両親の勧めもあって陶芸の専門学校に入りました。正直、強い熱意を持って入ったわけではありませんでした。ですが、もともと手先が器用で合っていたみたいで、やってみたら面白さに目覚めていきましたね。

――お二人は結婚した後に独立されたそうですが、独立を決意するまでの過程をぜひ教えてください。

ミリアム:

当時、私は大きな壁に直面していました。陶芸作家になりたくて、日本に来て勉強してきたけれど、外国人なので、国内で働くには正社員になって就労ビザを取得するか、高額な出資金を用意して起業するかしかない。バイトをしながら作家を続けるというのは難しく、「一人で作家の道は開けない、どうしよう……」と迷っていたところで彼と出会って結婚しました。

健一郎:

あ、そうだったの?

ミリアム:

いや、結婚するときにちょうどそういう悩みがあったってこと。それだけで結婚したわけじゃないから(笑)。

健一郎:

確かに、ドイツに帰ろうかって悩んでたもんね。

ミリアム:

それも考えましたね。でも、彼と結婚したおかげで配偶者ビザが取得できたので、ギリギリなんとかなりました。

健一郎:

結婚前はそれぞれ別の会社で働いていて、当時ミリアムの勤め先で後継者を探していたので手を挙げ、結婚後はその仕事をしていくつもりでした。けれど、その話が結局進まなかったんですね。それもあって、結婚する頃には二人で独立しようと決めていました。

ミリアム:

決めたのは経済的な理由もありましたね。陶芸職人の給与は決して高くなくて、二人で会社に勤めても、子どもができたときに大学まで行かせてあげられるかというと、正直厳しい。それならば、独立したほうが最初は貧乏でも、将来的に生活に余裕が出てくる可能性があるし、家事や子育ても二人でできるので、チャンレンジしてみようと。

波佐見町で起業 営業やSNSの反響で徐々に軌道に

――独立後に波佐見町で工房を開いたわけですが、ここを拠点に選んだ理由は?

健一郎:

もともと波佐見で働いていたのもありますが、このあたりは有田、武雄、嬉野と窯業が盛んな地域です。波佐見も焼き物をやりたくて移住してくる人が多いんです。それだけに移住者にウェルカムな雰囲気があって、ここならいいかなと思いました。

ミリアム:

波佐見町は窯元が廃業して空になっている工房が多くて、それを移住者に貸し出す「空き工房バンク」という仕組みがあるんです。そこに申し込んで工房を借りることができました。

――お二人が作っている波佐見焼(はさみやき)は、どんな器ですか?

健一郎:

波佐見焼は、400年以上の歴史があって、実は長年有田焼の一つとして売られてきた焼き物なんです。ですが、2000年代に産地表示を明確にするようになって、波佐見で作る器が波佐見焼と呼ばれるようになりました。

ミリアム:

有田焼が伝統と格式が高い器なのに対して、波佐見焼は日常で使う器が中心です。そのせいか、あまり厳しいルールがありませんでした。自由に作れるのが魅力ですね。機械で大量生産されている器もありますが、私たちは手作業を大事にしたいというこだわりがあって、すべて手作りです。

――ミリアムさんが描いた恐竜の食器、すごくかわいいですよね。

ミリアム:

もともと動物を描くのが好きだったのと、昔の人が想像で描いた龍や虎の絵がかわいいなと思って。「私も想像で恐竜を描いてみよう」と考えてやってみたんです。実際描いてみたら軽妙な感じに仕上がり、老若男女問わずいろいろな方に好評でした。

――波佐見で起業した後、ビジネスを軌道に乗せるまでの過程を教えてください。

ミリアム:

独立した当初からインスタグラムで器に料理を盛りつけた写真をアップして宣伝。オンラインショップを始めたのも早かったですね。あと、当時よく覚えているのは、大阪に陶芸のイベントで行ったときに市内の陶芸店を回って「置かせてくれませんか?」と飛び込み営業をしたこと。何軒も回った中で、注文してくれるお店が一軒だけあったのですが、そこで器が売り切れになったと聞いたときは、すごくうれしかったですね。

健一郎:

そのお店から、「他の器もありますか?」「インスタに投稿していた器も扱えますか?」と続けて注文が入ったのも大きかったよね。あとはSNSの反響にも助けられました。恐竜の器を買ってくれたお客さんが写真をツイッターにあげたら「いいね!」が5万5000件、リツイートが1万件くらいに。その後、注文が殺到したんです。

ミリアム:

ツイッターはすごいですよ。びっくりしました。

ふるさと納税やオンラインショップで効率のよい売上を実現

――陶芸のような伝統工芸の世界は、作品作りだけに専念して販売は委託…という作家さんもまだ多いと思います。ですが、お二人は起業当初から工房やオンラインショップで自ら販売をされていますよね。

健一郎:

僕は料理をしていたこともあって、作るだけでなくお客さんに使ってもらうまでがゴールという意識があったんです。「作るのは楽しいけれど、それだけじゃ生き残れない」と最初から考えていました。

ミリアム:

当時、私たちの周りでも直接お客さんに販売する人はあまりいなくて、器を地元の問屋さんに卸してデパートなどで販売してもらうのが普通でした。でも、それだと結局こちらの利益は全体の何分の一かになってしまう。その点、自分たちで販売すれば、売れた利益を100%得られます。そのほうがビジネスとしてなんとかなるんじゃないかというのもありましたね。

――オンラインショップを始めるときはどのような感じだったんでしょうか?

健一郎:

始める前は「器は実際手にとってもらわないと、わかってもらえないのでは」という不安もありました。なので、自社販売の前に、ふるさと納税の返礼品にチャレンジしてみたんです。

ミリアム:

そう、梱包の仕方や写真の撮り方もよくわからなかったので、ふるさと納税でちょっと練習してみようかと。

健一郎:

それで、ふるさと納税をやってみたら、その売上とイベント出店の1日の売上がだいたい同じくらいで、「ふるさと納税のほうが全然いいよね」ってなったんです。イベント出店は準備に1ヶ月はかかるし、出店期間とその前後はほとんど作品作りができなくなってしまう。一方、ふるさと納税やオンラインショップの販売なら器作りと並行して手が空いたときに梱包ができるので、売上を作っていく上で効率がいいなと。

ミリアム:

2020年は、コロナ禍で陶器市の中止が相次いで不安になりました。しかし、オンラインショップやオンライン陶器市のおかげで、思っていたほど苦労しなくて済みましたね。

ビジネスの秘訣は「ファンを作っていくこと」

――お二人のように起業した場合、作品作りだけでなく、会計や確定申告などの事務作業も当然仕事になります。これらはどうされていますか?

健一郎:

うちは、事務関係は全部僕がやっています。最初は商工会にお願いしていたのですが、ちゃんと自分で内容を把握しないといけないと思って。今はクラウド会計ソフトを使っていて、おかげで作業がだいぶ楽になりました。

――事務的な面などで、今後の課題などはありますか?

健一郎:

二人でやっていけることにも限界があって、アシスタントさんをお願いしています。今後も新しいスタッフが増えるので、情報共有が課題だと感じています。夫婦で営んでいたときは、お互いのスケジュールを把握していればよかったのですが、今後は仕事する人たちとコミュニケーションが大切になります。きちんと伝えられるよう共有ツールの導入を始めていますね。

――伝統工芸の分野でビジネスに挑戦してみて、やりがいだと思うのはどんなところですか?

健一郎:

器を作って、売るところまで全部やれることですね。

ミリアム:

そうですね。会社に勤めた場合、担当する部門の職人になるので、器作りの工程の一部しか担うことができません。しかし、独立すると土から器を作ってお客さんに販売するところまで担当できるほか、お客さんの声も聞ける。全部が自分の責任になるので辛い部分もありますが、やりがいも大きいです。

――仕事の面で今後の展望などはありますか?

ミリアム:

実は今、工房の建設を予定しています。それで、会社の規模は小さくとも、環境への責任はちゃんと担っていきたいので、いずれガス窯から電気の窯にしたいという夢がありますね。そして、子どもがいるので、伝統技術を守りつつ次世代のためのサスティナビリティ(持続可能性)を考えた仕事をしていきたいです。

――最後にお聞きしますが、伝統工芸や物作りの分野でビジネスをスタートして、継続していくために必要なのはどんなことだと思いますか?

ミリアム:

SNSとオンラインショップは取り組んだ方がいいですね。自分でできないなら、できる人にお願いして週一でもインスタにアップしてもらうとか。得意じゃないところを人にサポートしてもらうのも大事です。

健一郎:

陶芸作家はバイトしながら続ける道もありますけれど、ビジネスとして成立させたいなら、早めにバイトは辞めてリスクを背負って起業したほうがいいと思います。そして、作品を多くの人に見てもらう方法を自分で考えていくこと。たくさんの人に見てもらえば、ハマる人が必ずいるはずです。

ミリアム:

万人に愛されるものよりも、何人かが本当に大好きになるものを作ったほうがいいですね。うちの恐竜の食器も本当に好きな人がいたおかげで人気商品になりました。そうやってファンを作っていくことが大事だと思います。

写真提供:studio wani

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