【個人事業主の税金】免除や減額、猶予の制度まとめ
監修者 : 齋藤一生(税理士)

会社員に比べて収入が安定しないことも多い個人事業主やフリーランス。ときには税金の支払いが難しくなることもあるかもしれません。
税金が免除されるケースはあるのでしょうか?免除や猶予の可能性があるかないかを知っているだけでも、対応が変わります。
この記事では、個人事業主やフリーランスが知っておきたい税金の免除や減額、猶予の制度、相談先などについて説明します。
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2022年(令和4年)分の所得税の確定申告の申告期間は、2023年(令和5年)2月16日(木)~3月15日(水)です。最新版の確定申告の変更点は「2023年(2022年分)確定申告の変更点! 個人事業主と副業で注目すべきポイントとは?」を参考にしてみてください!
目次
- 税により免除、減免、猶予の条件は大きく異なるため確認が必要
- 住民税、国民健康保険税、個人事業税、固定資産税といった地方自治団体に支払う税金については、地方自治団体に相談
- 支払いが難しいと感じた時点で対策を講じることが重要。納税期限を過ぎてしまうと、延滞税が発生するため注意
個人事業主やフリーランスが納める主な税金5種類の免除・猶予・減免制度の有無
個人事業主が支払う主な税金は「所得税」「住民税」「国民健康保険料(税)」「個人事業税」「消費税」の5種類です。それぞれどんな税金か免除や減免(減額)、猶予の制度はあるのかを確認しましょう。
【個人事業主・フリーランスが支払う主な税金一覧】
税金の名前 | 税の区分 | なににかかる税金か | 免除 | 減免 | 猶予 |
所得税 | 国税 | 所得にかかる税金 | あり (災害が原因によるもの) |
あり | あり (国税通則法46条①~③。 他、換価の猶予申請により分割納付等) |
住民税 | 地方税 | 所得にかかる税金。市区町村民税+都道府県民税 | 地方自治体による | あり(地方自治体により条件は異なる) | あり(地方自治体により条件は異なる) |
国民健康保険料(税) | 地方税 | 所得にかかる税金 | あり(地方自治体による) | あり(地方自治体により条件は異なる) | あり(地方自治体により条件は異なる) |
個人事業税 | 地方税 | 法定業種の事業者が支払う税金。利益から290万円控除後に税率を乗じる | あり(地方自治体による) | あり(地方自治体により条件は異なる) | あり(地方自治体により条件は異なる) |
消費税 | 国税 | 原則的に課税売上が1,000万円超の翌々年に支払い義務が生じる | なし | なし | あり |
個人事業主・フリーランスが支払う税金①:所得税
「所得税」は、課税所得に対して課せられる国税です。
そもそも「所得」とは、受け取る報酬そのままの金額(=収入)ではなく、収入から経費などを差し引いた金額のことです。そこからさらに所得控除を差し引いた金額を「課税所得」と言います。所得税はこの課税所得金額に対して課税されます。
課税所得が発生しない場合や、赤字の場合には、所得税は発生しません。
- 【参考】
- 国税庁「所得税のしくみ」

所得税は災害時に免除される場合あり
災害時は「災害減免法」により免除・減免される可能性があります。所得金額が500万円以下の人は全額が免除、所得金額が500万円を超え750万円以下の人は2分の1が軽減、所得金額が750万円を超え1,000万円以下の人は所得税額の4分の1が軽減されます。
なお、災害による損失に関して雑損控除という所得控除を利用した場合には、「災害減免法」による免除・減免は適用できませんのでご注意ください。
納税の猶予
災害等により財産に相当の損失を受けたときは、所轄税務署長に申請をすることで所得税などの国税は納税の猶予を受けることができます。
1.損失を受けた日に納期限が到来していない国税
猶予となる国税 | 猶予期間 |
イ〉損失を受けた日以後1年以内に納付すべき国税 | 納期限から1年以内 |
〈ロ〉所得税及び復興特別所得税の予定納税や法人税・地方法人税・消費税の中間申告分 | 確定申告書の提出期限まで |
注:〈イ〉、〈ロ〉とも災害のやんだ日から2か月以内に申請する必要があります。
2.既に納期限の到来している国税
猶予となる国税 | 猶予期間 |
一時に納付することができないと認められる国税 | 原則として1年以内 |
引用元:国税庁「災害にあったとき」
- 【参考】
- 国税庁「災害を受けたときの所得税の取扱い」
個人事業主・フリーランスが支払う税金②:住民税
「住民税」は、都道府県と市区町村それぞれに納める税金です。
住民税は免除・減免・猶予の可能性あり(地方自治団体により異なる)
災害、所得減などにより納税が難しい場合、免除・減免・猶予(分納)のいずれかとなる可能性があります。条件については地方自治団体により異なるため、各自治体のホームページなどで確認したり、直接相談や問い合わせしたりする必要があります。
- 【参考】
- 東京都主税局「個人住民税」
個人事業主・フリーランスが支払う税金③:国民健康保険料(税)
「国民健康保険税」とは、国民健康保険の掛金です。つまり「国民健康保険料」のことですが、所得に応じて徴収されるものであり、実質税金であるため、「国民健康保険税」とも呼ばれます。
国民健康保険料(税)は免除・減免・猶予の可能性あり(地方自治団体により異なる)
災害、所得減などにより納税が難しい場合、申請・相談により免除・減免・猶予(分納)のいずれかとなる可能性があります。条件については地方自治団体により異なります。地方自治団体ホームページ等で市税の制度をご確認ください。
- 【参考】
- 神奈川県川崎市 よくある質問(FAQ)「国民年金保険料の免除の手続方法について知りたい。」
個人事業主・フリーランスが支払う税金④:個人事業税
「個人事業税」は、事業を行っている人の所得に課せられる税金です。この税金は利益から290万円控除後に税率を乗じます。事業の種類によってはかからない場合もあります。
個人事業税免除・減免・猶予の可能性あり(地方自治団体により異なる)
相談により免除・猶予・減免される可能性があります。災害が起きた場合や高額な医療費の支出があった場合など、地方自治団体により条件は大きく異なります。
- 【参考】
- 大阪府「府税あらかると」
個人事業主・フリーランスが支払う税金⑤:消費税
「消費税」は、物やサービスに課せられる国税です。原則的に基準期間(2年前)の課税売上が1,000万円超の場合に支払いの義務が発生します。
消費税は免除されないが、災害・病気による支払い猶予は可能
免除・減免はありませんが、災害時などに一定の条件を満たすものに支払いの猶予が認められます。また、病気の場合には国税通則法第46条第2項により納税が猶予される可能性もあります。
なお、消費税は所得税と同じ「国税」であり、所得税のご説明で案内した「納税の猶予」の表と同じ条件が適用されます。
個人事業主・フリーランスが支払う税金⑥:その他
上記の税金以外に、不動産を所有している人について、不動産の評価額から算出された固定資産税・都市計画税を支払う必要があります。
固定資産税・都市計画税は免除・減免・猶予の可能性あり(地方自治団体により異なる)
条件により減免・猶予される可能性があります。災害が起きた場合や高額な医療費の支出があった場合など、地方自治団体により条件は大きく異なります。
所得税の免除・減免・猶予に必要な手続き

納税予定の所得税が免除されるのは、「災害により住宅や家財などに損害を受けた場合」に限られます。手続きは確定申告に含まれます。詳しくは国税庁HPをご確認ください。
なお、住民税と併せて納税する「復興特別所得税」についても、同様の扱いとなります。住民税自体は地方税であるため、地方自治団体へ相談してください。
- 【参考】
- 国税庁「Ⅰ‐1 所得税及び復興特別所得税の軽減又は免除」
税務署に申請すると、納税や換価の猶予が認められる場合も
税を納めることができなかった場合、財産の換価(売却)や差押えなどの行政処分を受けることになります。しかし、税務署に申請することで、「納税の猶予」が与えられたり、差し押さえなどの行政処分までの猶予(=「申請による換価の猶予」)が認められたりする場合があります。
税金を収めるのが難しい場合、「申請による換価の猶予」を行って分割納税をする事例は多くあります。申請が認められればその期間中に発生する延滞税の全部、あるいは一部が免除されます。
なお、換価の猶予については「納税の期限が延期される」といったことではなく、あくまでも「行政処分を待ってもらえる」という段階のものですので、注意が必要です。
納税の猶予の要件
納税の猶予は、下記4項目の「すべて」に該当しなければなりません。
納税猶予の条件 | 詳細 |
1) 次のAからFまでのいずれかに該当する事実があること | A 財産について、災害を受けたり盗難にあったこと B 納税者や家族が病気にかかったり負傷したこと C 事業を廃業したり休業したこと D 事業について著しい損失を受けたこと E 上記のAからDに類する事実があったこと F 本来の期限から1年以上経過した後に、修正申告などにより納付すべき税額が確定したこと |
2) 猶予該当事実に基づき、納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること | |
3) 申請書が提出されていること (上記「1-F」に当てはまるは納期限までの提出) | |
4)原則として、担保の提供があること |
申請による換価の猶予の要件
申請による換価の猶予の要件は次の通りです。こちらについても、次に掲げる要件の「すべて」に該当する必要があります。
イ 納付すべき国税を一時に納付することにより、その事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがあると認められること。
ロ 滞納者が納税について誠実な意思を有すると認められること。
ハ 滞納者から納付すべき国税の納期限から6月以内に換価の猶予の申請書が提出されていること。
ニ 納付すべき国税について納税の猶予の適用を受けている場合でないこと。
ホ 原則として、換価の猶予の申請に係る国税以外の国税の滞納がないこと。
ヘ 原則として、換価の猶予の申請に係る国税の額に相当する担保の提供があること。
- 【参考】
- 国税庁「No.9206 国税を期限内に納付できないとき」
住民税・国民健康保険税(保険料)・個人事業税の免除・減免・猶予に必要な手続き
住民税・国民健康保険税(保険料)・個人事業税は、所得税・消費税と税の区分が異なるため、払えない場合の対応策も異なります。
地方自治団体の税担当窓口に相談する
所得税や消費税は「国税」ですが、住民税・国民健康保険税(保険料)・個人事業税といった税金は「地方税」であり、自分が住んでいる地方自治団体が管理しているものです。もし期日までに地方税が支払えない場合には、役所に相談すると猶予される場合があります。
担当部署の名前は自治体により異なりますが、必ずそれぞれの問い合わせ窓口が存在しますので、電話をするか直接足を運んでみるかしてください。
国税局猶予相談センターに相談する
国税庁は、新型コロナウイルス感染症の影響により国税の納付が難しくなった人に対する相談窓口を設置しています。地域によりセンターのある国税局は異なりますので、事前にご確認の上、電話で問い合わせをしてください。
- 【参考】
- 国税庁「国税局猶予相談センターのご案内」
納税期限を過ぎてからではなく、「税金の支払いが難しい」と思った時点で動くことが重要
所得税や消費税などの国税は免除の条件を満たすのが厳しいものですが、住民税や国民健康保険料(税)といった地方税の場合は、相談により「猶予」が認められることもあります。どうしても支払わなければならない税金については優先的に支払い、猶予の可能性があるものについてはまず相談して支払いのタイミングをずらすなどして、まずは生活資金を手元に残すようにしましょう。
納税期限を越えてしまうと遅延税も発生してしまいますし、滞納すると場合によっては、滞納処分(差押など)が行われてしまいます。「払えないかもしれない」という段階で動くことが大変重要です。
新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減った人に対しては、いままでもさまざまな対応が行われてきました。それぞれ予算があるため、一定期間を経ると受付終了となってしまいますが、今後もまた新たな対策が講じられる可能性もあります。できる限り新しい情報を得て、ご自身にとって有利な情報を逃さないようにしましょう。
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