個人事業主の退職金「小規模企業共済」とは?加入のメリットをお金の専門家に聞いた

個人事業主やフリーランスは、会社員と違って退職金とは無縁と思っている方も多いのではないでしょうか。ところが「小規模企業共済」なら老後の蓄えができて、しかも節税メリットもあるのだとか……!?
今回は、ミレニアル世代(2000年以降に成人になる世代)のお金の専門家/経済評論家である横川楓さんに、小規模企業共済の制度概要やメリット・デメリット、加入資格などを解説していただきました!
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1990年生まれの「やさしいお金の専門家/経済評論家」として活動。明治大学法学部卒、その後同大学院へ進学。24歳で経営学修士(MBA)ファイナンシャルプランナー(AFP)を取得。
若い世代やお金のことをあまり知らない世代を中心に、「お金のことを誰よりも等身大の目線でわかりやすく」をモットーに日々啓蒙活動を行う。
従来通りの金融メディアだけでなく、幼稚園児向けの雑誌での金融教育の連載や、20代向けの若い層をターゲットにしたファッション系のメディア、キャラを生かしたオタク向けの記事、経済と恋愛を絡めた記事までバラエティに富んだ方向で、多方面で活躍中。
著書に『ミレニアル世代のお金のリアル』(フォレスト出版)。
・Twitter:横川楓@お金の専門家
小規模企業共済に加入すると、個人事業主・フリーランスでも退職金がもらえる!?
――個人事業主やフリーランスには退職金がありません。年齢を重ねて廃業した後の生活や老後の備えで不安になることもあるのですが、なにか対策や制度はありますでしょうか?

それなら「小規模企業共済」がおすすめです。小規模企業共済は、個人事業主の廃業や小規模企業の役員の方が退職をした際に、退職金として受け取ることができる「共済金」を積み立てていく制度です。会社員が受け取る退職金制度の個人事業主・フリーランスバージョンというイメージですね。
――横川さん的に、個人事業主やフリーランスは小規模企業共済に入っておくほうがいいですか?

私は加入しておくほうがいいと思います。
20~30代の働き盛りだと、廃業後の生活よりも今の仕事のことを優先して考える方が多いと思うので、仕事を辞めたときの備えについて考えるのを後回しにしがちです。しかし、退職金制度がある会社員と違って、個人事業主やフリーランスには退職金はありません。事業を廃止したときのために備えが欲しい、少しでも不安を感じるという方にはオススメの制度ですね。
人によっては年金のように60歳まで待つことなく、もっと早めの年齢で共済金を受け取れるという流動性もありますし。
――確かに若手のフリーランスだと、「老後のためにお金を貯めましょう」と言われるよりは「廃業や退職時の生活資金などのためにお金を貯めましょう」と言われるほうが、必要性を感じやすいかもしれません。小規模企業共済は誰でも入れるのでしょうか?制限はありますか?

基本的には個人事業主や小規模企業の役員の方限定となっています。所得の制限などはありませんが、加入資格の細かい区分は業種によって異なります。業種によって、従業員数が一定数以上を超えると小規模企業ではないと見なされてしまうケースもあるんです。
――では、企業の役員の場合は、事業規模もあると思いますが、個人事業主でも業種によっては、入れない人がいるんですね。

はい。自分の業種の加入条件については、中小企業基盤整備機構のホームページなどで確認していただくのが確実ですね。
――業種は、まず確認ですね。では、例えば会社員の副業など、所得の区分が雑所得にあたるような人でも、加入資格に当てはまる場合は小規模企業共済には加入できますか?

所得の種類で加入を判断するというケースはホームページや資料などには書かれていません。ですが、個別に状況を判断される可能性はあるので、一旦中小機構の判断を仰ぐほうがいいかもしれませんね。
例えば、会社員の副業としてフリーランスで仕事をしていて雑所得があるけれど、会社に退職金制度がある人などは、小規模企業共済の対象とする人とは違ってきてしまうので。
小規模企業共済に加入するか迷ったら……メリット・デメリットを比べよう
――個人事業主にとっての退職金になる以外の、小規模企業共済のメリットは何でしょうか?掛金や受け取り方など、いろいろな観点があるようですが。

まず掛金が安い点がメリットのひとつで、月々1,000円から始められます。1,000円から7万円までの範囲内であれば、500円単位で掛金を自由に増やしたり減らしたりもできるので、かなり気軽に入れる印象です。
廃業や退職時の共済金の受け取り方法は「一括受取り」「分割受取り」「一括受取りと分割受取りの併用」の3種類から選べます。一括だと税法上では退職金扱いで、分割だと雑所得扱いになるそうです。それによって受け取り時の税負担も変わってきますが、いずれの場合も事業所得などに比べると税負担が軽くなります。
さらに、所得税の確定申告の際に毎月の掛金が、全額所得控除にできるので、所得税・住民税を軽減できるというメリットもありますね。
――掛金が全額控除はいいですね!ほかに特徴的なものはありますか?資金的な面では、貸付制度があると聞いたのですが……?

はい。掛金の範囲内で、事業資金の貸付制度を利用することができます。即日で貸付してもらえるもの、経営の安定を図るためのもの、病気になったときのもの、事業承継したときのもの……などと、たくさんの種類があるので、その中から自分に合った内容のものを貸付してもらえる可能性が高いでしょう。
――お話を聞いていると、小規模企業共済にはメリットがいろいろあるなぁという印象ですが、逆に注意点やデメリットはどういったものが考えられるでしょうか?

まず、掛金の支払い開始から6ヵ月未満で廃業や退職をした場合には、共済金を受け取ることができません。
さらに、加入期間が20年未満だと、受け取れる共済金が元本割れしてしまうリスクがあるので、その期間内に事業や会社を辞めてしまうとメリットが得られなくなってしまいます。早いうちに解約しても共済金はもらえるのですが、事業を長く続けるかどうかわからない方にとっては、デメリットになるかもしれないですね。
あと、共済金が非課税になるわけではないので、どうしても受け取るときに課税はされてしまいます。
――20年以上加入しないと元本割れしてしまうということは、「ずっと個人事業主でやっていくぞ!」と決めた人が入るほうがいいんですかね?

ずっと個人事業主を続けようという方だけでなく、いずれは自分の個人事業を軌道に乗せて法人化しようと考えている方でも大丈夫だと思います。加入資格に該当するなら、共済契約の引き継ぎができるはずですから。
ただし、いずれ事業を廃業するかもしれないと悩んでいる方は、ご自身のキャリアプランを考えてから小規模企業共済について検討するほうがいいかもしれません。
小規模企業共済の加入申し込みはどこでできる?手続きには何が必要?

――加入資格以外に、小規模企業共済の加入時のポイントや注意点はありますか?

加入時に所定の書類を提出する必要があります。個人事業主の場合は所得税の確定申告書の控えが必要なので、確定申告をしているということが加入資格の大前提になりますね。白色申告でも大丈夫です。
――そうなると、「開業1年目でまだ確定申告したことがないです」という人は加入できないのでしょうか?

加入手続きのページに「事業を始めたばかりで『確定申告書』がない場合は、『開業届』の控えを提示してください」という記載があるので、開業したばかりの方でも加入できると思いますよ。
――それなら個人事業主になりたての人も安心ですね!では、加入したいと思った場合はどこへ相談すればいいですか?申請の方法などがあれば、併せて教えてください。

小規模企業共済への加入手続きは、中小機構が契約を結んでいる団体または金融機関の窓口で行います。基本的には、商工会や商工会議所が該当すると思いますが、中小機構のサイトでチェックしてみてください。
大手の都市銀行だけでなく、地方銀行や土地に根付いた信用金庫や信用組合などの金融機関でも小規模企業共済を取り扱っています。手続きの方法は窓口によって異なるので、事前に確認しておくことをオススメします。
なお、ゆうちょ銀行や外資系銀行、インターネット専業銀行などでは、小規模企業共済を取り扱いされていないので、取引のある金融機関に確認をしてみてください。
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撮影:沼田学