個人事業主が融資を受けるには?最適な資金調達方法や借入時の注意点

2022/12/23

個人事業主とは、組織に属さずに個人で事業を営む人を指します。継続して事業を行うことを前提として、税務署に開業届を提出している個人事業主は多いでしょう。従業員や専従者がいる場合でも、法人化していなければ個人事業主とみなされます。また、開業届を提出していなくても、法人としての登記をせずに事業を行っていれば個人事業主に含まれます。

これら個人事業主の中には、「借金はなるべくしたくない」と考える人が多くいますが、資金の借り入れ自体は決してネガティブなことではありません。融資を受けて事業拡大を図ることで、金利負担を上回る利益が得られる可能性があるのです。一方で、融資を受けていない場合には、緊急事態の際に資金ショートを起こしてしまうリスクもあります。
この記事では、個人事業主のための融資に関する基礎知識や最適な資金調達の方法の他、審査申請時の注意点などについて解説します。

個人事業主が融資を受けるために必要な基礎知識

個人事業主が融資を受けるためには、どのような条件があり、またどんなタイミングが適しているのでしょうか。ここでは、個人事業主の資金借り入れにおける基礎知識を解説します。

個人事業主が融資を受けるための条件

個人事業主が融資を受けるためには、原則として開業届を提出し、確定申告をしている必要があります。とはいえ、開業届を出していない、確定申告もしていないといった場合でも、融資がまったく受けられないわけではありません。例えば、日本政策金融公庫は、前年の業績などを示せば、審査が受けられるよう対応してくれるケースもあります。
しかしながら、やはり確定申告等をしていないと相当ハードルが高くなることを覚悟しなければなりません。

個人事業主が融資を受けるタイミング

個人事業主が融資を必要とするタイミングで、最も多いのは開業時です。開業時は店舗や事務所の準備・設立資金や、電話・電気などの設備費用などが必要な他、開業後、売上が立って入金されるまでの間の家賃や光熱費などの経費をまかなう資金も必要になるからです。
個人事業主が自己資金を投じたり、親族などの資金を頼ったりする方法もあります。しかし、緊急時対応に迫られることもあるので、開業時は融資による資金調達を検討した方がいいでしょう。
なお、弥生の「資金調達ナビ」内でも日本政策金融公庫の創業融資に関する情報が得られます。

新創業融資制度

次に多いのは、事業拡大時です。個人事業主でも新規出店をするなど、事業規模を拡大することは往々にしてあります。その資金も借り入れを検討することをおすすめします。
知っておきたいのが、感染症拡大時や自然災害発生時などの緊急融資。国による緊急貸付などの制度が創設されることがあります。このようなセーフティネットは個人事業主も対象となりますので、チェックしておきましょう。

災害・疾病等、環境変化による緊急時の資金調達(4)

個人事業主は法人より融資が受けにくい?

個人事業主は法人より信用を得にくく、借り入れが難しいといったイメージがあるかもしれません。しかし、しっかりとした事業計画にもとづいていれば、個人事業主でも融資を受けることは十分可能です。

個人事業主なら、一度は「融資を受けるために法人化した方がいい」という話を見聞きしたことがあるでしょう。しかし、大切なのは、特に小規模事業者(スモールビジネス)などにおいては、法人化することよりも、きちんとした事業計画があること、財務状況などをきちんと把握していて、必要な書類を提出できる状態にあることです。
特に、開業時の融資の受けやすさに関しては、個人事業主か法人かの違いはほとんどないといえます。

個人事業主に適した融資制度とは?

個人事業主にとっても利用しやすい融資制度は、いくつか存在します。ここでは、個人事業主に適した融資制度について見ていきましょう。

日本政策金融公庫の融資

政府系金融機関の1つである日本政策金融公庫は、個人事業主が最も利用することが多い公的融資窓口です。開業資金や事業拡大のための資金をはじめ、新型コロナウイルスなどの感染拡大に伴う営業時間短縮や自然災害の罹災など、緊急事態が発生したときの融資も受けられます。

日本政策金融公庫の審査には2~3週間かかります。審査期間については、日本政策金融公庫の状況にもよりますので、事前に確認してみましょう。要件等を満たしていて事業計画書などがしっかりと作成されていれば、審査自体も比較的通りやすいのが特徴です。
融資の種類によっては、返済期間を長期10年とすることも可能です。当然、返済期間が長いほど1回当たりの返済負担は抑えられるメリットがあります。

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制度融資

制度融資とは、自治体と信用保証協会と指定金融機関の三者協調による公的融資制度です。
制度融資に関しては、利子補給や保証料の補助を実施している自治体もあります。内容は自治体によって異なります。利子補給によっては、日本政策金融公庫より低い金利で融資を受けられることもあるので、時間に余裕を持って申し込むなどして、上手に利用したい制度です。

一方で、自治体と保証協会、指定金融機関の三者が関わるため、審査が長くなりがちなのが注意点として挙げられるでしょう。審査には2~3週間、場合によっては1か月程度要することもあります。三者それぞれとの面談が必要など手続きもやや煩雑なのも要注意です。

なお、弥生の「資金調達ナビ」内で検索すると、信用保証や制度融資に関する情報が得られます。

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民間金融機関(銀行・信用金庫・信用組合)からのプロパー融資・信用保証付き融資

銀行や信用金庫、信用組合などの民間金融機関が、直接審査を行うのがプロパー融資です。信用保証協会の保証がなく、民間金融機関がリスクを負うため、その審査は厳格。審査の厳しさから、個人事業主にとって利用のハードルは高いといえます。
一方で、信用保証協会(と民間金融機関)が審査を行う信用保証付き融資は、万が一返済が滞った際に信用保証協会が代わりに立て替えてくれます(代位弁済)。

とはいえ、小規模な個人事業主では融資の希望額が比較的少額なため、日本政策金融公庫や制度融資で対応できるケースがほとんどだと思われます。個人事業主でも制度融資や信用保証付き融資の利用で返済実績を積むことによって民間金融機関の信用力が高まっていけば、さらなる事業拡大時にプロパー融資を受けられる可能性があります。

ノンバンクからの融資

金融会社のローンは、「ノンバンク」と呼ばれています。ノンバンクとは「預金業務を行わずに融資などを行う金融会社」で、銀行などより金利が高いのが特徴です。
ヤミ金(悪徳金融)とはまったく異なるもので、計画的に利用すれば問題はありませんが、個人事業主の借入先としては、できるだけ利用しない方がいいでしょう。

事業者向けカードによる融資

事業者向けカードには、法人だけではなく、個人事業主を対象としたクレジットカードもあります。事業者向けカードはキャッシング機能が付いているものもあり、24時間365日、コンビニのATMなどで利用できます(ノンバンクによって異なります)。ビジネスにおいて急な支払いが必要となったときに役立つでしょう。ただし、金利は高いので注意が必要です。

個人事業主の融資利用における注意点

個人事業主が融資を利用する際には、どのような点に注意すべきなのでしょうか。続いては、融資における注意点をご紹介します。

自己資金を用意しておく

特に開業時に融資を受けるためには、事業に必要な資金の一部でも自己資金を用意できているのが望ましいでしょう。
開業時の場合は少なくとも1割、できれば3割あるのが理想的です。5割あると審査に通る可能性が非常に高くなります。具体例を挙げると、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は、開業資金の10分の1を目安に自己資金として準備することを求めており、「3分の1程度あると審査に通りやすい」としています。

とはいえ、自己資金がないと融資がまったく受けられないわけではありません。自己資金は、あくまで審査項目の1つであり、その他の要素も含めて総合的に判断されるからです。日本政策金融公庫でも、一定の条件をクリアしていれば自己資金がなくても審査を行うとしており、自治体でも同様の対応をしているところがあります。
注意したいのは、家族や親族から借りたお金は、原則として自己資金とはみなされないこと。また、「愛車などの資産を売って自己資金を捻出した」などであれば、事業主の事業に対する熱意が伝わり、自己資金として認められるケースもあります。

特に、開業資金の融資については、事業実績がない分、どれだけ事業に対して情熱を持っているかが問われるのです。情熱とは面談の際に事業に関して“熱く”語るということではなく、「情熱があれば資金を準備するように行動を起こしているはず」というのが金融機関の捉え方の一つです。
この他、しっかりとした事業計画が作られていて、返済計画に無理がないと判断された場合も、自己資金なしで融資が受けられる可能性が高くなるでしょう。

開業後より開業前が借りやすい

開業資金を借りるタイミングとしては、開業後よりも開業前の方が有利です。開業前なら事業計画を示せば審査が受けられますが、開業後の申し込みは「業績が思ったように伸びず、資金が不足してきたから借りたい」といったケースが多いため、やはり資金が借りにくくなります。ですから、開業前に融資を受け、余裕を持って事業を始めるのが得策でしょう。

開業時に必要な資金などについては、こちらで解説していますので、参考にしてください。

起業・開業ナビ 新しいウィンドウで開く

資金がショートしないよう早めの資金調達に着手する

資金調達が得意な顧問税理士がいる法人なら、資金繰りの状況を把握できているため、資金がショートしないよう早めに融資を申し込むといったアクションがとりやすいもの。しかし、個人事業主では、本業が忙しく、財務についての検討や対応が遅れてしまうケースが見受けられます。

融資の申し込みが遅れると、審査に時間を要する制度融資などを利用しにくかったり、融資を受けるまでの間、金利が高いカードローンなどを利用せざるを得なくなったりする事態が起こるでしょう。個人事業主は、先々の資金の状況を早めに把握し、必要があればまえもって行動することが重要です。

個人事業主への融資審査のポイント

個人事業主への融資における審査では、どのような点が重視されるのか、融資審査に関するポイントを優先度順に押さえておきましょう。

1 資金使途

「個人事業主が何の目的で、どれくらいの融資を必要としているか」という資金使途は、融資の審査において最も重要なポイントです。資金使途は大きく分けて設備資金と運転資金の2つですが、いずれもどんな目的なのか、どのような事業計画で進めるのか、その事業計画と資金使途がしっかり結び付いているかなどがチェックされます。

2 事業計画

日本政策金融公庫の融資や制度融資は、企業や個人事業主の育成を目的に行われているもの。そのため、「売上を数年で何十倍にする」といった華やかな事業計画よりも、現実的で実現性のある事業計画が求められます。そして、その事業計画にもとづいた融資希望額を申請することが重要です。

具体例を挙げれば、金融機関は、店舗1坪当たりの売上はどの程度かなど、業種ごとの売上や利益の目安を把握しています。つまり、返済に無理のある事業計画は、すぐにわかってしまうのです。
いい立地の店舗が見つかったので契約し、開業日も決めた後で事業資金の融資相談に来た個人事業主に対して、状況にもよりますが、融資側はその行動力を評価しないようなケースもあります。むしろ、融資が実行されなかったらどうするつもりなのか、経営者としての認識が甘いのではないか?と捉えられてしまうかもしれません。
反対に、しっかりとした事業計画を立て、資金使途も明確であれば、経営者として評価されやすくなるでしょう。

3 自己資金

個人事業主の融資において、自己資金はあった方が審査には有利です。特に、開業資金においては、自己資金が多く準備できていれば、審査も通りやすくなります。
仮に、自己資金が少ない場合でも、事業計画をしっかりと作成し、きちんと計画的に返済できそうなら、融資を受けることは可能です。しかしながら、やはり自己資金が少ないと審査のハードルは高くなります。

4 経営状態

個人事業主の経営状態は、売上や利益が順調に推移し、黒字経営になっていることが融資審査において重要な要素です。そもそも経営状態があまりにも悪ければ、当然、審査の対象にならないことも考えられるので注意してください。

5 融資希望額の妥当性

個人事業主の融資希望額は、事業計画にもとづいて、綿密に積み上げて出した金額かどうかが融資側に厳しくチェックされます。
個人事業主としては余裕を持って、多めに借りたくなるところですが、あまりにも妥当性のない金額を申請するのはおすすめできません。業種特性などによって「運転資金を多めに確保しておきたい」など、理解が得られ、説明ができる範囲で申し込みをしましょう。

6 返済能力の有無

融資における個人事業主の返済能力の有無は、事業計画や売上の見通しが甘くないかなどの計画性を審査側にチェックされます。
返済計画の建て方立て方については、こちらで解説していますので、参考にしてください。
返済額目安の計算については、こちらで可能です。参考にしてください。

返済シミュレーター

7 信用情報(滞納の有無)

個人事業主は、税金などの滞納があると、融資審査に通りにくくなるので注意が必要です。
ただ、一度でも滞納があれば絶対的に融資が受けられないというわけではなく、その他の要素も含めて総合的な判断になります。滞納等がある場合は、顧問税理士や専門家に事前に相談してみましょう。

個人事業主が融資申請時に注意したいポイント

融資申請時に、不安を抱える個人事業主は多いでしょう。税理士などの専門家との接点がないケースも多く、財務状況が把握できていない人もいるからです。このような個人事業主が融資を受けるには、どのような事前準備を行い、どんなポイントに注意すればいいのかを解説します。

融資関連の書類は漏れなく準備する

ほとんどの融資で必要書類として求められるのが、確定申告書や利益・財務の状況などが確認できる試算表です。
また、納税証明書、金融機関指定の借入申込書など、制度・金融機関ごとに決められた資料を提出します。この他に、事業計画書、損益計画書、資金繰り計画書があると、民間金融機関などでは審査しやすくなるようです。
特に、事業計画書は必要書類に指定されている例もあります。事業を展開するうえで、作成して損はありません。

不明点は積極的に相談する

個人事業主では顧問税理士などと契約していないケースが多く、「経営上の数字を把握していない」「資料が用意できない」ということも多々あります。
わからないことがあったら、とにかく調べること、相談することが重要です。まずは融資審査の前に、インターネットや電話相談などで制度内容やどんな書類が必要かも含めて調べましょう。税理士に相談する以外にも、日本政策金融公庫や信用保証協会、自治体の窓口でも相談に乗ってくれます。また、銀行や信用金庫などの民間金融機関や商工会・商工会議所にも相談できるので、ぜひ活用してみてください。
資金の借入については、こちらで解説していますので、参考にしてください。

借入の基本

私的流用は重大な約束違反

個人事業主が事業資金として借りたお金を、生活費など私的に使ってしまうのは、重大な約束違反です。
融資側は、資金使途が妥当と判断して融資したにもかかわらず、その資金を別のことに使っているのであれば、資金使途違反とみなします。最悪の場合、一括返還を求められるので注意してください。

個人事業主も資金繰りに目配りし、早めに行動するのが肝心

しっかりした事業計画にもとづいた資金使途が説明できるのであれば、個人事業主が融資を受けることは十分可能です。融資申し込みの資料準備ができないなど、わからないことがある場合は、すぐに日本政策金融公庫や信用保証協会などの公的機関などに相談するのをおすすめします。
個人事業主の資金調達については、数か月先まで確認しておくことが望まれます。いざ資金が必要になっても、書類を準備し、審査が終わり、融資が実行されるまでは、最低でも数週間を要するからです。資金調達は、早めに融資の必要性を察知し、早めに行動することが重要です。

先手を打つためには、日本政策金融公庫などの公的機関や民間金融機関が行うセミナーなどに参加して、日頃から知識を得るなど、資金調達について学ぶ時間を作るのが望ましいでしょう。それでも判断に迷う場合は、専門家に相談するようにしてください。

資金調達に必要な基礎知識については、こちらで解説していますので、参考にしてください。

資金調達全般の基本

監修者:吉田 学

財務・資金調達コンサルタント。株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して開業者や中小事業者を支援。これまでに1,000社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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