創業融資は受けなきゃ損!お金も心も余裕をもって事業展開する資金調達のコツ

“借金”というイメージが先行するせいか、「融資」という言葉には少し怖いイメージってありませんか? 特にコロナ禍で資金繰りに苦慮する個人事業主でも実際のところ、資金繰りの選択肢としてアリなのでしょうか。個人事業主でも借りられるのでしょうか?
毎年、確定申告期に『ミュージシャンのためのお金セミナー』を主催し、2020年12月に初の著作『ミュージシャンのためのお金のセミナー』(リットーミュージック)を発表された、生粋のミュージシャンであり行政書士としても活躍する武田信幸氏に、「どこで借りればよいのか」「いくらくらい借りればよいのか」「どんな手順なのか」などなど、融資に関する初歩的な質問をぶつけてみました。
(※この取材はオンライン会議ツールを使用し、リモートでインタビューしたものです)
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2022年(令和4年)分の所得税の確定申告の申告期間は、2023年(令和5年)2月16日(木)~3月15日(水)です。最新版の確定申告の変更点は「2023年(2022年分)確定申告の変更点! 個人事業主と副業で注目すべきポイントとは?」を参考にしてみてください!
目次

1981年生まれ。スタートアップ期の資金調達を専門分野とする。年間にして2億円超の融資を支援し、その融資成功率は90%を確立。バンド「LITE」のギタリストとしても国内外で活動し、海外公演では補助金を活用するなど行政書士と音楽業界を行き来する「ミュージシャン×行政書士」のパラレルワーカー。
・行政書士法人/株式会社INQ
・行政書士法人GOAL HP
・LITE
開業時に借り入れるほうが「断然有利」な理由
——2020年末、書籍『ミュージシャンのためのお金のセミナー』を発表されました。どんな思いから出版されたのですか。

日頃からミュージシャンのかたわら、行政書士として「お金のセミナー」を開催するなど補助金・助成金制度の普及・啓発に努めてきました。そうしたなかで2020年コロナ禍に見舞われました。この約1年間、政府はさまざまな補助金制度を創設し、その数は一昨年と比較にならないほど。種類が豊富になったのを1つの契機に、個人事業主、とりわけ “ミュージシャンのため”にお金の問題を体系化したいと考え、本書をまとめました。
——本書は3章立てで、それぞれ「複業」「補助金・助成金」「融資」について丁寧に解説されています。本取材はそのなかでも3章「融資」をテーマにお伺いできればと考えています。というのも、私のような個人事業主にとって融資はどこか「無縁のもの・怖いもの」というイメージがあります。つまりは「借金」ですからできればやりたくないと思いがちなのですが……。

もちろん「借金」ですから返済の義務は生じますが、何も怖いばかりではありません。本書の3章冒頭にも書いたのですが、融資は「事業を拡大するためにも活用しますが、事業を継続することを助ける救済機能もある」のです。今日はそのあたりを詳しく解説します。
——ではいきなり超基本的な質問ですが、そもそも「融資」とは何ですか。

簡潔に申し上げれば、金融機関等から事業に必要なお金を借りることです。金融機関と言ってもかなり幅広く、皆さんもよくご存じの「メガバンク」から、地域に密着した「地方銀行」や「信用金庫・信用組合」、さらには「政府系金融機関」までさまざまです。
——ほかの資金調達方法に「補助金・助成金」がありますが、これらとの違いは?

比較で言うと下表のような違いがあります。補助金・助成金として入ってきたお金は「売上」であるのに対し、融資で借りたお金は「負債」になる点が大きなポイントです。さらに補助金が後払いなのに対して融資は先払いなので、「何かをやるため先にまとまったお金がほしい」ときに活用されやすい。特に開業時が該当しますね。

——開業時に融資を受けず、開業後しばらくしてから資金が必要になった場合、融資を受けられるものですか。

受けられないわけではありませんが、「開業時のほうが断然有利」と言えます。「まだ実績がないのに有利なの?」と不思議に思われるかもしれませんが、見方を変えれば開業時に受ける融資には「不利な要素がない」んです。
他方、開業後に融資を受ければ数ヵ月間・数年間の実績が否応なく存在してしまいます。実績が出ていて「さらなる新事業のため融資を受けたい」なら話は別ですが、融資が必要というくらいですから、おそらく思うような実績が出ていないケースがほとんどでしょう。業績が出ない、お金も借りられない……といった悪循環を生みかねません。
資金面で余裕をもった開業が事業継続に安心感をもたらす
—— つまり何かしら事業を始めるなら、融資は受けたほうがよいのですね?

そうですね。私が個人事業として開業したときの経験をもとにお話すると、開業当時、私の自己資金は決して潤沢なわけではありませんでした。これはどんな事業も同じだと思います。そこで私は、事務所のWebサイト作成や宣伝用の「攻めのお金」に充てるため、日本政策金融公庫から100万円の融資を受けたのです。
しかし、しっかりとした実績を出す前に使い切ってしまい攻め手を欠いた状態に。いま振り返れば、もっと借りておけばよかったなと思います。攻めの手段や機会を得るため、開業時から余剰となるお金を持っておくことがいかに大切か、身にしみてわかりました。
——特にどんな場合、融資を受けたほうがよいですか。

事業を始めるにあたってある程度の初期投資が見込まれる場合、つまり初期投資を行わないとその先に進めない場合は、絶対に融資を受けたほうがよいです。仮に自己資金から捻出すると、その先で必要になる広告宣伝・運転資金に余裕がなくなります。融資を受けるだけでリスクを抑えたスタートを切れるわけです。
——改めて、融資を受ける場合のメリットとは?

まずはやりたい事業を加速させられる点です。また自己資金を温存できるためキャッシュフローも安定するでしょう。あと意外なところでは、金融機関との実績が生まれ、後々の事業継続における心強い味方になります。1年間ないしは数年間返済をし続けると、金融機関に「この事業者は信頼できる」との印象を与えますから、後に再度まとまったお金が必要なときに協力してもらいやすくなるわけです。
——メリットが多いですね。

さらに、個人事業主という事業形態に焦点を当てて申し上げると、精神衛生上の安心感がありますね。企業活動と違い、個人事業の資金が減っていくことは恐怖です。なにしろ生活に直結しますから。資金面に余裕があることで、気持ちが安定していれば攻めるべきときに攻め、守るべきときに守る、そんな経営ができると思います。
——反対にデメリットは?

金利などはあるものの、融資によって損をすることはほとんどありません。ただ、やはり「個人名義で借金する」点はある程度自覚・配慮しておいたほうがよいですね。例えば私生活で住宅ローンを借り入れしているときなどは、それが借入先の懸念材料になる場合があります。事業のためとはいえ金融機関から見れば「個人の負債」でしかありません。住宅ローンの借り入れがある状態で、さらに事業用の借り入れをするということは、複数の債務が発生するので、審査でチェックされる点になりえるということです。

おすすめは「日本政策金融公庫」の融資制度
——融資を受ける際には、どのような手順を踏むのですか。

種別として、日本政策金融公庫と民間金融機関それぞれのケースをお話しましょう。
まずは日本政策金融公庫。
- 最初に公庫の相談窓口に電話をします。
- そこで必要書類(申込書・事業計画書・確定申告書・住民票等)の案内を受けます。
- それらの書類を準備し、郵送もしくは持ち込みをします。
- すると1週間くらいで「面談」の日程が案内されます。
- 後日、1時間くらいの面談を行い、その後いよいよ正式な審査がスタート。
- 2週間から1カ月ほどで審査結果が伝えられます。通過していれば契約書が送られてきて、それらのやりとりの後、借入金が振り込まれます。
一方、民間の金融機関の場合は、メガバンクであれ地銀・信金であれ、あいだに信用保証協会という機関が入るのが通例です。おおよその流れは日本政策金融公庫と同じで、窓口・面談は銀行や信金の担当者が相手となりますが、保証協会での審査・判断が入る分、トータルの審査期間が少し長くなることは留意しておいたほうがよいでしょう。
——具体的におすすめの融資・金融機関はありますか?

個人事業主が視野に入れられる融資制度は、日本政策金融公庫「新創業融資制度(国民生活事業)」や、民間金融機関による「保証協会付融資制度」がまず挙げられます。東京都在住の方であれば東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」も良いでしょう。意外なところではきらぼし銀行の「創業サポートローン」もあります。
そのなかでも、起業したての事業主や起業を考える人に特におすすめしたいのは、日本政策金融公庫「新創業融資制度」ですね。
——なぜですか?

いま日本では「創業率を増やそう」とする政府の方針があります。民間金融機関は利益を追求しなければいけない諸事情を背景に、貸し渋る場合がありますが、日本政策金融公庫なら国・政府の方針を受け、前向きに開業を後押ししてくれるでしょう。
また、日本政策金融公庫は融資審査のノウハウがしっかりしているため、公庫で融資を受けている実績が信頼につながったりもします。日本政策金融公庫の融資をすでに受けていて、もうそれ以上借りられない場合などは、創業支援に前向きな地元の信用金庫・信用組合がおすすめです。
——メガバンクはハードルが高い?

もちろん例外もありますが、基本的に個人事業主にとってはかなりハードルが高いでしょうね。仮に借りられたとしても、いきなり大きなところで借入すると、次に借りにくいというデメリットもある。規模の小さなところから徐々に拡大していくのが基本だと思います。

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面談を成功に導く秘訣とは?
——融資の面談ではどんなことが聞かれるのですか?

借入先が知りたいポイント・判断しているポイントは以下の3点に大別されます。
見込み……ビジネスモデル、事業の成長見込み、これまでの実績 等
自己資金……融資金額の根拠、返済能力の有無 等
イメージとしては、それぞれ100点評価でトータル300点満点。ただ、このうちどれか1つが50点だったとしても、他が150点とれたりすることもあります。合計点で8割くらいは満たしたいところですね。
——面談を成功に導くポイントは?

説得材料を準備しておくことです。事業にかける思いを熱弁しても、具体的に論拠を示せる書類などがない青写真の状態で面談に臨んではダメです。
相手が聞きたいのは事業成功の根拠やこれまでの実績、そして数字への理解です。「この事業は決して青写真のレベルではない」「すでに仕事が入ってきている」「これならば成功しそうだ」——そんなことを相手に思ってもらえる面談を心がけましょう。
また、口頭ベースでは相手も審査しにくいので事業にまつわる資料はもちろん、これから売りだそうとする商品のサンプル、すでに決まっている取引先との契約書などがあると、かなり有利に働くと思います。
——個人事業の場合、どれくらいの金額を目安に借りればいいのでしょうか?

融資の目安としては「①融資限度額(例:日本政策金融公庫「新創業融資制度」なら上限1,000万円程度)」「②月初売上見込みの3〜6カ月程度」「③自己資金の3~4倍」など、いくつか考え方の枠組みがあり、①〜③の折り合いをつけながら検討するのがよいと思います。とはいえ「今必要なお金」で考えると少なく見積もってしまう傾向があるので、半年後・1年後も考えて少し多めに借りておきたいときは、①の上限額いっぱいまで借りておくのもよいかもしれません。
融資は“死なない”状態を手に入れる魔法の裏技
——もし公共料金・家賃の支払い遅延、納税の遅延によりブラックリストに載ってしまっている場合はやはり融資は難しいのでしょうか?

答えとしては、おおむね「Yes」ですね。正確には、信用情報機関で管理・登録される返済状況に「異動」と記載されている状態が、通称・ブラックリストと呼ばれるものです。
ただ、異動に登録されていても融資を受けられる可能性がゼロというわけではありませんし、個人信用情報は5〜7年で消えるとされています。大切なのは「あのとき延滞・遅延があったな」など自分自身で把握し、もしも聞かれたときに答えられるようにしておくこと。信用情報機関から個人信用情報の履歴を取得できるため、不安がある方はこちらも準備しておいたほうがよいですね。
——万が一、借入金を返せなくなったときはどうすればよいのでしょうか?

最大のポイントは、返せなくなってから「返せません!」では遅いということです。返せなくなりそうなら事前にその旨を借入先に申告・相談しましょう。金融機関の側もある程度そうしたことは想定済みで「リスケジュール」(返済条件変更)にも柔軟に対応してくれます。
結局のところ最悪なのは、連絡が取れなくなったりするなどの不義理を働くことであり、そんなことをしたら他の金融機関でも融資を受けられなくなります。絶対にやってはいけません。
——お話を聞いて、融資のイメージが変わりました! 最後に総括として、融資に足踏みをしている事業者・起業検討者の読者にメッセージをお願いします。

いきなりちょっと俗な話になってしまうのですが、融資ってファミコンのシューティングゲーム『グラディウス』の有名な裏技・コナミコマンドみたいなものだと思うんですよ。
——タイトル画面中にコントローラーで「上・上・下・下……」と裏技コマンドを入れると、機体がフル装備にパワーアップされるアレですよね。

通常操作なら面を1つひとつ進めながら徐々に機体をパワーアップしていくのですが、コナミコマンドを入力すれば、最初から最強の状態でいられます。これって融資に似ていると思うんです。最強装備なら簡単に敵を倒してポイントも稼げるし、何より敵に倒される心配がほとんどありません。“死ぬ”ことなく長時間ゲームをできるのです。
——なるほど。開業時に余剰資金を持っておく状態は「最強のフル装備」にも近いということですね。

「借金」という言葉の印象から融資制度を少し重く捉えがちなお気持ちはよくわかります。でも「借金」にも良い借金・悪い借金があるんです。ただただ借りる一方で散財していくような悪い借金は生産性がなく決して何も生み出しません。しかし、いい借金は借りたものから何かが生み出されます。では、何が生み出せるのか——それは、選択の自由と時間です。
フル装備の状態から事業を始めることは、きっと継続的な事業の手助けになると思いますので、ぜひ検討してみてください。